第2話 患者
「え?」
その名前に見覚えがあった。
「天宮 天(あめみや てん)」
持病の不整脈が悪化して入院となっている。この調子なら様子を見て医師のOKが出たらすぐに退院できるだろう。しかし問題なのはそこではない。この子は、もしかしたら僕の推しメンかもしれない。
悪いと思いながらも生年月日を確認する。
1999年 8月8日…
生誕祭と称してライブがあったばかりだ。だがまだ信じられない。住所を盗み見るようなセコいマネはしなくないため、せめてもと思い経過をみる。
身体を激しく動かすダンスを日頃行うことが多い。普段は薬を飲んだり休息を取ったりしてコントロールしていたが、日頃のストレスが蓄積したか_________。
これは、もしかするとコンサートのことではないのか?
悩んでいても埒が明かない。僕はササッと病状を読み取り、朝の申し送りを受け、患者の所へ向かうことにした。
「今日担当になります。看護師の西木です。よろしくお願いします。」
ダメだ、これはダメだ。
「あ、、よろしくお願いします。」
そこには紛れもなく推しがいた。朝日の光なのか彼女の神々しさなのか分からないほど、病室は眩しかった。
挨拶だけして僕は興奮を隠すように静かに扉を閉める。緊急入院の次の日だったから、彼女の部屋は個室だった。一瞬の間だけでも、僕と彼女が2人きりになった瞬間があるなんて考えられない。
田口さんに事情を話して担当を変えてもらおうかと思ったが、何せ僕がアイドルが好きなことがバレても困るし、男性看護師を快く承諾してくれた彼女に悪い気しかしない。退院するまでの間だ、知らぬ顔をして看護師の業務を全うしよう。僕は決意した。
「天宮 天」が所属しているアイドルグループ「ふぁみふぁみ」は昨年武道館ライブを成功させたばかりのかけだしアイドルグループで、一般知名度はそこまででもない。アイドル好きの間では有名程度だ。芸能人ならプライバシー保護の為にこんな一般的な病院にかからないだろうと思ったが、経過をよくみると幼少期から通っている。かかりつけ医がいる病院で治療を受けた方が安心なんだろう。
午前中は患者のバイタルサインチェックがあるため、バタバタするのが当たり前だった。他の患者の体温や血圧を測りながら、集中しないといけないと分かっていながらも彼女のことが頭から離れなかった。
ついに彼女のバイタルサインチェック。一呼吸置いて病室をノックする。
「失礼します。」
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