こんな僕は推しに相応しくない
@mogumoguoic
第1話 病院
今日も暑い。
季節は8月。病院までの道のりにはケヤキが生い茂っていて、日陰になる分には有難いのだが、どうも蝉が五月蝿くて結局真夏特有の暑さには勝てない。
新人の頃は、勤務先が病院なんて毎回来る度に自分の具合も悪くなるんじゃないかと思っていたが、5年も経つと慣れるものだ。看護師という職業は女性が多く、はっきり言って風当たりも強いが、そんなことで悩んでいたら5年も続けていない。もとの性格のおかげと言うべきか、嫌味を嫌味と捉えずに愚直に勤務をこなしている。無愛想だが、そこがいいと言ってくれる患者も増えた、気がする。
趣味はアイドル鑑賞という、見つかったら絶対女性看護師にネタにされる趣味を持っているため、ひた隠しにしている。共通の話題がないのと数少ない男性看護師というのとで、仕事以外のコミュニケーションはなかなかとる機会がないが、僕にとっては心地よい環境だ。
僕は新人の頃から循環器科に配属しており、そろそろ病院を替えようと思っていた。看護師の5年は長い方だと思う。そろそろ新しい勉強をしたい。そんなことを考えながら勤務先に向かった。
「おはよう、西木君。」
先輩の田口さんに声をかけられ、情報収集していたパソコンから目を離す。看護師は患者の容態を把握しなければならず、少し早めに病院にむかう。前残業というものだ。
「おはようございます。夜勤どんな感じでした?」
「もうバッタバタ。緊入来るわ5号室の前田さん亡くなるわ…。まあもうやること終わったし、後は日勤に引き継ぎして帰るだけだけどね。」
急性期病院なので緊急入院は珍しくない。患者が亡くなることだってよくあることだ。看護師になって死を身近に感じるようになった。
「お疲れ様です。ゆっくり休んでください。」
「ありがとう、あ、昨日の緊急入院の人、西木君につけちゃった。容態は特に悪化してないから安心して。結構かわいい女性だったよ。明日は私じゃない看護師で男の人が担当だけど全然いいって言ってたし。」
担当看護師が男性だと嫌がる女性患者も多いが、その女性は承諾してくれたらしい。そもそも酷い人手不足でそうせざるを得ない雰囲気をこちら側が出していそうだが。始業の時間も迫ってきているため、さっそくその女性患者のカルテを開く。
「え?」
僕はその名前に見覚えがあった。
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