勇者の終わった話

Wkumo

 悪ではなかった魔王が死んだから、俺は復讐をした。

 それは非常に簡潔で、■■年燻っていたにしてはあっけない終わり方だった。

 どちらにせよ、勇者であった俺が王に対してできる復讐などたかが知れている。大したことのない、ささやかなもの。


 魔王は死んだ。その死を知る者は誰もいない、いなかった。

 俺は物語を作った、魔王についての物語を。

 もちろんそれは真実ではない、ただのおとぎ話。

 勇者が■を殺した話。■を殺した勇者が駄目になった話。

 それだけ。

 誰の責任を問うでもなく、俺はそっとその話を流した。


 結果、何が変わったでもない。ただなんとなく、周囲の「勇者」を見る目が変わっただけ。

 王は……わからない。ひょっとすると支持率ぐらいは下がっているかもしれない。

 だとすると、俺は国を傾けた大罪人になるのか。

 いつか王都に呼び出される日が来るのかもしれない。

 だがまあ、支持率が下がるくらいは大したことじゃない。王都は遠いし、今や俺は別の国にいるのだし。


 遠くに行った者は戻らないが、その死を悼むことぐらいはできる。

 だから俺は魔王の死を悼んで、祈った。

 生まれる前に死んだ魔王は今ごろきっと、別の場所にいるのだろう。

 俺のことも世界のことも忘れて。

 それならよかった。

 討伐を命じて俺を追放した王は今ごろきっと、疑問符を頭に浮かべているのだろう。

 ■■年経った今さらなぜ、と。

 それなら■■。


 何にせよ、これで俺は忘れた。

 ようやく前に進めるのなら、それはきっと祝福だろう。

 神からの祝福なんかよりずっとまともな、己からの祝福。

 そして、死んでしまった魔王からの祝福。

 それが呪われたものであってもよかった。

 ようやく全てが終わったのだから。


 そうして俺は筆を置いた。


 そんな話。

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