第二話 僕達私達の日常です(真)~漆黒の求道者~

「はぁ……忘れものなんて、久しぶりにしたな」


 現在、直江は夕方の校舎を一人歩いていた。

 明日使う体操服を、部室に置き忘れてしまったのだ。


(警備員さんにも悪いことしたな。もう帰ろうとしてたし)


 なんにせよ、早く取るもの取って帰らなければ。

 直江はそんな事を考えながら、部室の前へと足を進める。

 と、その時。


「あれ、おかしいな部室の電気がついてる?」


 最後に部室を出たのは直江だ。

 そして、部室の電気は確実に消した。

 

(部室に誰かいる? こんな時間なのに……?)


 どう考えてもおかしい。

 警備員さんを呼んだ方がいい。

 直江は咄嗟にそう判断するが――。


(ドアが少し開いてる……念のために中を少し確認してみるか)


 と、直江はそれを実行に移してみる。

 こうして、彼は見てしまった。

 見てはいけないものを……すなわち。


「溢れだす混沌……世界を沈める深淵よ、この我に力を与えよ……我は世界の破壊者にして救済者――全ての魔を統べ、全ての悪を行う者なり!」


 魔王が居た。

 ファンタジックな衣装に身を包み、杖を振りかざす魔王が居た。

 周囲に置いたライトで、自らを照らしている魔王が居た。


 いったい何がおきてるのか。

 いつからここは異世界になったのか。

 直江がそんなことを考えている間にも、魔王の詠唱は続く。

 そして――。


「くらえ勇者! 我が至高にして究極の一撃を見せやる! 極大魔法――ブラックシャドークリムゾンレッドフレ――」


 魔王様と目が合った。

 こういう場合、することは決まっている。


「さて、体操服体操服……体操服はどこかな」


「や、やめてくださいよ! そういうのが一番辛いんですよ!」


 と、魔王様ことクロ。

 彼女は杖を床に投げつけるのだった。

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