女の子に「あたし、おまえのことが大好きだ!」とか言われるだけの学園ラブコメです~と思っていたら、ヒロインにやばいのが混じっていた~

アカバコウヨウ

第一話 僕達私達の日常です(偽)

「直江『なおえ』、ゲームをしましょう」


 と、言ってくるのは金髪ロングに、巨乳がトレードマークの少女。

 暇人部部長にして、直江の先輩――綾瀬『あやせ』だ。

 直江はそんな彼女へと言う。


「別にいいですけど、なんのゲームをするんですか?」


「そうね……あんたはどんなゲームがしたいの?」


「僕ですか? っていうか、やりたいゲームないのに誘ったんですか?」


「あら、心外ね。わたしはあんたと、一緒にゲームができれば、なんでもいいの」


 と、反応に困ることを言ってくる綾瀬。

 しかし、直江にはわかっている。


(またこういうこと言って、僕の反応を楽しんでる……)


 実際、直江と話している時の綾瀬は、どうにも楽しそうなのだ。

 嗜虐的というなんというか……普段のクールさとはかけ離れている。

 と、直江がそんな事を考えていたその時。


「お、ゲームやるのか? あたしもいれてくれよ!」


 と、てこてこ近づいて来る茶髪ポニーテール、適度に大きなおっぱいがトレードマークな少女。

 彼女の名前は柚木『ゆずき』――直江の幼馴染にして、同級生だ。

 そんな彼女は直江へと続けてくる。


「ところで、なんのゲームやるんだ?」


「まだ決まってない……っていうか、くっつかないでよ柚木!」


「え~なんだよ~! あたしとおまえの仲だろ? 小さい頃は一緒に寝たりもしたのに」


「今は今、小さい頃は小さい頃なの。それに――」


「それに?」


 と、首をかしげる柚木。

 直江はそんな彼女を無視し、コントローラーを手に取る。


(胸が背中にあたって、ほどよく潰れてるとか……言えるわけない)


 その後、しばらくたっても柚木は「なぁなぁ~、なんか言えよ~!」などと言っていた。

 だが、直江がゲームを選び終えると、ようやく静かになった。

 彼女は自分のコントローラーの状態確認をするのに必死なのだ。


「レースゲーム……ですか?」


 と、聞こえてくるのは、また別の少女の声。

 黒髪ミディアムロング、低身長、貧乳。

 彼女の名はクロ――直江の後輩にして、暇人部のマスコット的存在だ。


「はぁ……」


 と、うなだれるクロ。

 彼女はつまらなそうな表情を浮かべ、直江へと言ってくる。


「高校生になってまでゲーム……暇人とはまさにこのこと、哀れですね」


「いや、クロも暇人だよね」


 直江はバッチリ目撃している。

 昼休み――彼女が一人、メジャーで意味もなく廊下の長さを図っていたのを。


「失敬な……私は暇人ではありません。暇であることを楽しんでいるんです」


 と、言ってくるクロ。


 直江はそんな彼女へと言う。


「だったら僕も、ゲームを楽しんで――」


「そんな哀れな先輩には、私が救済を与えてあげましょう」


「…………」


 なんだか壮大な話になってきた。

 そんなことを考えている間にも、クロは続けて言ってくる。


「どうせレースゲームをプレイするなら……賭けをしませんか?」


「賭け?」


「はい……ビリになった人は、一位になった人にマッサージをする」


「別にいいけど――っていうか、自分で言うのもなんだけど、僕レースゲーム結構得意だから、そのルールだとみんなが少し不利じゃ――」


「そのゲーム、のったわ」


「あたしもあたしも!」


 と、順に言ってくるのは綾瀬と柚木だ。

 まぁ、みんなが賛成ならば、直江としても異議はない。


(レースゲームを選んだのは僕だし、結構得意だしね……それに、賭け勝負だと盛り上がるのもたしかだ)


 と、直江はそんなことを考えながら、レースゲームを準備していく。


 …………。

 ………………。

 ……………………。


 そうしてしばらく。

 全ての準備は整った。


「じゃあ、始めますよ?」


「いいわ。わたしの準備はいつでもできてる……この勝負、絶対に!」


「同じく……私もこのゲームの必勝法を編み出し済みです」


「えっと、こっちのボタンがアクセルで、こっちのボタンが~えっと、なんだっけ?」


 と、直江に続く声。

 それぞれ綾瀬、クロ、柚木のものだ。

 若干一名を除いて、準備完了に違いない。


 3――みんなが画面に集中する。


 2――レースゲームはこの瞬間が一番緊張すると言ってもいい。


 1――スタートダッシュを決めるべく、みんながボタンを押すのを感じる。


 0――レース開始。ここから先は、本気と本気のぶつかり合い。


 だがしかし。

 直江はその瞬間、信じられないものを見た。


「!?」


 直江以外の三人。

 綾瀬、クロ、柚木が操るマシーンが、猛スピードでバックし始めたのだ。


「な、なにやってんですか!?」


「この勝負の勝ちとは、ゲームにおける勝ちじゃないわ」


「っ……まさか、綾瀬先輩が私と同じ必勝法に思い至っていた!?」


「な、直江~! なんか車がバックしてる! これどうすればいいんだ!?」


 と、順に聞こえてくるは綾瀬、クロ、柚木の声。

 直江は頑張った。


 頑張って自らのマシーンを操作した。

 綾瀬とクロに、その真意をたしかめるため、必死に語りかけた。

 そして、柚木に何度も操作法を教え続けた。


 結果。

 直江は三周してゴールインした――ぶっちぎりの一位だ。


 なお。

 他三人はバックでコースを逆走。

 そのまま、直江がゴールするまでにマイナス五周した――凄まじい才能だ。


「勝負はついた様ね……わたしの負け、直江の勝ちよ」


「一人で負けられなかったのは、不本意ですが……まぁよしとしましょう」


「負けたから、罰ゲームで直江にマッサージか~。なんか照れるな!」


 などと言ってくる綾瀬、クロ、柚木。

 この後、直江は三人にめちゃくちゃマッサージされた。



 今日も平和に楽しく終わり。

 この時、直江はそう信じていたのだった。

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