【2】後篇

久遠の提案とは……あのリディアとかいう女を俺の奴隷にしてほしいという話だった。俺は正直……そのことについては乗り気ではなかったのだが……まあ、とりあえず久遠がどんな理由でリディアに対してあんなことを言ってきたのかを、久遠に尋ねてみた。だが……リレアと二人で行動すると聞いて、俺の気持ちは変わっていたのだ。リデアは久遠のことをとても嫌っていたはずなのだ。リリアもリディアの事は良く思ってはいなかったと思う。なのにリリアは……リディアと一緒にリレミーの街まで行くことを決めた。それはきっと、俺がリディアのことを気に入ったのではないかと考えていた。俺はリディアのことを気に入っていたが、久遠のことはまだ信頼していなかったこともあり、久遠と行動を共にしたくはなかった。だけど、俺がリリアを救えるのは俺だけだとも思っていたから久遠のお願いを聞いてあげようと思って……久遠の頼みを引き受けることにした。だが久遠の願いはそれだけでは終わらなかったのだ。


リディアのことで俺は……一つだけ気になっていたことがあり……久遠に尋ねる。


「おい、リディアってさ……何歳ぐらいの容姿をしているんだ?見た目的には俺と同い年っぽいけど、実際はどのくらいの年齢なんだ?そもそも……本当に人間なのか?この世界で見たことのない種族だから……俺は少し疑問を感じていたんだけど……。」


俺は……そう尋ねてみる。俺には、その質問が……何か意味があるのか?というような感じに聞こえたが、それでも……そのことだけは聞きたかったのだ。そして……俺が尋ねてみると、意外な答えが返ってくることになる……。リディアの年齢は…………だったのだ……。そして……それを聞いた俺の反応は、リリアの言った通りの反応になってしまったのだった……。俺はリディアに俺の事を好きにさせるとはいったが……まさかここまで好かれるようになるなんて予想すらしてなかった。


それから、リリアは俺がレイリアのことを好きになっているのが分かっていて……リディアを仲間に入れようと画策をしていたのだとリリアは俺達に告げる。そして……リデアやリディアの事を信用していないリリアが何故リディアのことをすぐに信用することができたのか……。その理由についてはリリアは、レイナ達と行動をともにする前、リディアのことを調べ上げていたのだ。だが、リディアの過去を知った時に……俺達のところに戻ってきた方がいいと判断したようだ。だが、あの時の俺はリディアと会う前にレイナと出会い……レイナが俺をこの世界に召喚したことで俺はここに戻ってくることができたのだ。


俺の本当の目的のためには、あの時にレイリアと出会っていなかった方がよかったと思えるほどに……レイナのおかげで俺は助かったのだ。だがリディアが俺の事を好きな理由をレイリアも聞いていたはずだ。それなのにリリアと行動を共にすると決めたレイナは何を考えているのか俺にはよくわからなかった。リリアの話を聞いた限りは、リディアはレイナに懐いているようには思えた。俺に対しては……好意を持っているのだろうが……俺の事をまだあまりよくわかっていないせいもあるかもしれないが、今のところ俺を異性として好きだという風には思えなかった。でも俺がレイアの事をどう思っているかについては……レイナにも伝えていないので……分からないが、多分まだレイナの事を完全には信じられていないというところだろうか。


それから俺がこの世界に来てからのことをリディアにも簡単に説明をしてからリディアのステータスを確認する。それから俺がリディアに、リディアが俺の仲間になったことを告げる。するとリディアは笑顔で俺にお礼を言いながら抱きついてきた。俺もリディナのその姿を見て微笑ましい気持ちになった。その後に、俺はこれからの行動を考える。リリアの言う通りならレイナは、あの人の遺してくれた剣とあの人が持っていた杖を使って時間遡行をすればこの世界を救えるだろうと思っているのだが……。リディアのステータスを確認しているときにリディアの魔力を確認したときに俺は、このリディアという少女もレイナと同じなのかもしれないと感じてしまったのだ。そして……レイディアの年齢を見た瞬間、俺は驚いたがリディアに年齢を聞くのが怖くなってしまった。この世界を救う為には……俺のこの命を使うしかないだろうと思った……。俺が死んだとしてもリリアが俺の意思を引き継いでくれるだろう。俺は、そう思ったんだ。それに俺は死ぬわけじゃないんだ。俺はこの世界で生きている人たちを救うために、あの人に託されたこの剣を持って、もう一度この世界に来るんだ……。この世界を必ず……この俺が……俺の手で救い出して見せる。俺は……俺がやれることをやるしか道はない。そう自分に言い聞かせて……。それから、この世界はあの人達が生きていた時代から1000年近く経過していて、今はその当時の時代よりもずっと前の時代に飛ばされたのだと考えた俺は……。俺はまずこの世界の現状をリディアに教えてもらおうとしたのだが、俺はそこで……俺がこの世界に戻ってこれたのは、レイナが俺を元の時代に戻そうとしてくれたおかげであると知り……感謝をする。そして俺は……この世界に戻ることが出来た経緯を話してリリアから聞いた内容と……リシアから見せてもらった映像を……この世界の危機についてを話そうと思う……。


「そうですか……。この世界に起きている異変についてですが……。実は……私も詳しく知らないのです……。」


「そっか……。じゃあ……この世界に起きてる異常の原因を知っている人はいない……ということかな……。そうなると……この世界に起こっている異変と俺の世界に起きていた異変は同じもので、その原因を突き止めるのが一番早い解決方法なんじゃないかな……。」


「そうですね……。私もその可能性が高いと思っていました……。そして、私がこの世界に来たときと……あなたが現れた時の違いも……恐らく同じものだと思います……。この世界にいる人々が……あの人がいた世界にいた人の子孫なのは……おそらく間違いないと思われます。それと、私の知り合いの方で……この世界の歴史について詳しい方がいます。もし、その方に会うことが出来れば何かわかるかも知れません。ただ、あの人の子孫でしたらその方はかなり高齢なので、生きてるか分かりませんが……。あの人は、この世界にいるはずなんです。」


「なるほど……。俺とこの世界の人間が同一人物だとすると、確かに俺が転移してくる前から、すでにいたからな。そうすると……あの人が……この世界にいない可能性があるからか……。あの人が生きていればあの人からこの世界の事を聞いたりするのが一番早く問題を解決できる可能性もあるのか。ただ……リリアとリディアと、それからこの世界に生きる人々を救うためにも、まずはリディアの故郷があると言われている国に向かおう。」


「そうね。私はリディアと一緒に行くのはいいけど……他の人たちは一緒には行けないかしら?リディアは私達が助けに行こうとしている人物にかなり興味を示しているし、私達がこれから向かおうとする場所には危険な魔物も多くいるわ。私達のように戦う術を持つ者と一緒に行ったほうがいいでしょうし。」


リリアのその提案に対して俺は、少しだけ考えてから、答えを出した。


「そうだな。俺とリデアは別行動で、リデアとこの国の王を頼んだリリアとアイさんで先に行ってくれ。」


俺がそう言うとリデアは納得できないようで俺に対して不満を口にしていたのだが……俺は、俺の考えを二人に説明する。リデアはそれで渋々だが了承してくれた。リディアはというと、なぜか俺が一緒に行くことに喜んでいたのだが、そんなに俺と一緒にいられるのが嬉しいのかと思いながらも、リディアに一応確認を取ることにした。


俺がリディアと行動を共にしても問題はないかどうかを聞いてみた。すると、特に何もなければ俺の傍から離れるつもりがないと言い出してきた。それからリディアとリレアはお互いに睨み合っている状況になってしまったのである。俺は二人のことが心配だったが……これ以上、俺が口を出すのもどうかと思うし、リディアに関してはもうしばらく時間が経って、落ち着くまで待った方がいいと判断したのだ。


そして……とりあえずリディアの事は一旦おいておくことにした。そして俺はこの世界の状況に詳しいと思われるリディアの知人に会うためにリディアと一緒に、その知人がいる場所へと向かうのであった。…………そして俺とリディアとリリアの3人はリディアの住んでいたとされる村に向かって歩き出した。だが、リディアは俺が歩くペースより遅い速度でしか歩けないらしい……。そのため俺はリディアの足取りに合わせて移動している。リディアが俺の事を気にしてくれていることが伝わってきて、少し申し訳なさを感じる。


それからリディアに案内され、森の中へと進んでいくと……突然森が途切れた。そこには大きな湖があったのだ。そして……リディアが指差す先を見てみると……。リディアが暮らしていたという村はそこから見えたのだ。だが、リディアの話によれば、その村は俺達の住む大陸からは離れている島にあるらしく、歩いて移動するとなると……相当な距離があるために時間がかかると言われた。しかもこの辺りの島は、このリディアの故郷である世界の中では魔境と言われるくらいに強力な魔物が多く生息する地域だという話を聞かしてもらうことになる。だからなのか?この世界の人々はこの大陸で暮らしていて、この島の周辺にはほとんど人が住んでいないようなんだという話も聞くことになる。その理由として考えられるのは、まずこの世界の人々の住んでいる大陸は広大な陸地が広がっているが、島や大陸の周りを囲む海には強い魔物が数多く存在しているために船で渡ることが出来ないとされているからだと言う。そしてもう一つ理由があり、この島の周辺は海流が激しく複雑に入り組んでいるため船が座礁して沈没することが多くて島に辿り着ける可能性がほとんどないため、そもそも人が寄りつかないようになっているのだという話を聞かされることになる……。


俺はそれを聞きながら改めてこの世界を救いたいと本気で思ったのだった。リディアの生まれ故郷である島に到着すると……このリディアの生まれ育った村は本当に寂れた小さな集落のような場所で、とても栄えているようには見えないが……この村の村長らしき人物がリディアを見つけるとその人物はリディアに抱きついてきたのである。


「よく無事に戻った……。この日が来ることをどれだけ願っていたか……。この世界では神と崇められし御方が消えてからというもの……世界は急速に荒廃の一途を辿っていった……。そして……あのお方が復活なされた時は世界は救世の女神によって救われるであろうと誰もが思っていた……。」


その男性は涙を流しながらリディアを抱き寄せたまま離そうとしなかった。そしてリディアも懐かしそうな顔をしながら嬉しさを堪えるような表情をしていたのである。どうやらこの男性がリディアの知人で、リディアもこの男性のことは信頼を寄せていたようである。それからしばらくしてから男性はようやくリディアから離れた後で……リディアの頭を撫でてあげていた。そして、その後で俺のことをリディアの友人だと思っていたのであろう、男性はこの村に立ち寄った目的を訪ねてくると、その目的を聞いたリディアは一瞬驚いた後にすぐに悲しげな顔をしたのだ。それはまるで自分がこの場にいない方が良いのではないのかと考えているかのような感じに俺は見えて……その気持ちは分からなくはなかった。そして俺がリディアがなぜその男性から距離を取っているのかわからず戸惑っていると、リディアはその理由について語り始めた。リディアが言うには……その男はリディアのことを愛しており、そしてその男もまたその男が愛する女性を妻に迎えているという……。つまり、リディアは一夫多妻のハーレム状態で暮らしているのだと……。そしてその男の妻は三人いて、そのうち二人は俺達と年齢も近く、もう一人は見た目も性格も幼い子供だということを教えてもらう。そして……その子供たちに懐かれてしまったという事も……その話から俺はなんとなくではあるが……その家族関係を理解したのである。どうやらその子供達の親代わりになっているみたいで……その子達はリディアのことが大好きなようだと……話を聞いているだけでも分かった。


俺の予想は間違っていなかったようであり、俺は苦笑いを浮かべていた……。だが、そんな複雑な家庭事情が有るにもかかわらず、なぜその男性にそこまで心を許すのかが分からない……。それにしてもリリアもそうだし……そのリディアを慕う者達に共通してあるのはこの世界特有の能力があるという事だろう……。


「リレア、少しだけリディアから離れていてくれないか?」


「どうしてかしら?それに、どうしてリディアはあんなに警戒されているのかしら……。」


リリアがそう口にするが……リディアは、リリアの言葉を聞いて慌てている様子だった。俺は、その理由を説明すると、リディアは自分の身に起きたことを話し始める。その内容は俺にとっては信じられないものばかりだった。なぜなら……そのリディアはリリアと同じく……リリアの創造主でもあり神である創造神の生まれ変わりなのだと言ったのである。俺の驚きを察したかのように、俺の疑問を解消させる説明を始めてくれたのだ。


それによると……元々この世界にいたリリアは、リディアの世界で創られた存在で、その魂にリディアの力の一部が込められており、その力を使ってリリアはリディアと同じように世界を管理する役目を与えられ、そして自分の分体ともいえる存在を作り出し、この世界に転生させて、この世界の住人達に加護を与え、そして俺がリリアと初めて会った時のように、あの黒い結晶体にこの世界の人を取り込ませないように封印を施したのだそうだ。


「そうか……。じゃあ……この世界の人間はリディアに助けてもらわなかったら今頃、あの竜人に全てを奪われて……この世界の生き物が死に絶える寸前だったということなのか……。」


俺はそのことを聞いて怒りを覚えていた……。だが、そんなことを思っても……この世界にもともといたリリアを助けることはできなかったわけだから、今の俺にできることは……今生きている人たちを守るしかないという結論に達したのだった。そしてリディアの話を聞いていた俺以外の面々も同じようなことを考えたようで……俺と同様にこの世界の人々を救いたいと考えてくれているようなのである。


俺達が話し合っている最中に……俺の目の前に光が集まり……その光が消えた時には、先程までの俺と同じ服を着ていた人物が現れたのであった。その姿を見て……俺はすぐにその人物がリディアだと気づいたのである。


俺達が村に戻ると……リディアの姿が消えてしまい……そのことで村長は慌てたが、俺達がすぐに説明すると納得してくれた。俺達がこの村の人達に迷惑をかけたことと、それからこれからしばらく世話になることを伝えた。この世界の現状や、リディアのことを知っているなら教えてほしいことも頼む。


すると村長はすぐにリディアの事を説明してくれる。なんでも……このリディアはリディアを慕い、そして愛している人間達の間では女神リディアと呼ばれるくらいに信仰されている存在であるらしく、その力は絶大なもので、この村にいる村人全員の命を1年維持し続けることが可能だと言われたのである。


「そうか……。リディアはこの村にとって命の神のような存在でもあるのか……。」


俺がそう言うと、この村に暮らす人達も同意する。それから俺がリディアに力を貸してほしいと頼み込むと……リディアは笑顔で俺達のお願いを受け入れ、俺と仲間になると言ってくれたのだ。俺の仲間になってくれることに皆が喜んでいたのだが……そこでふと気になったことがあり、リディアの能力について質問することにしたのであった。すると、俺の考えを読み取ったリディアが俺の知りたい情報を簡単に答えてくれた。リディアによると、俺の考えていようにリディアが扱える能力には限りがあり、その範囲外で使える能力は、この村やこの村に住む人々を守るために必要とされているものだということをリディアは俺に伝えたのだ。俺はそれを聞き、改めてリディアに感謝をしたのであった。そしてこの世界の状況を詳しく聞くことにする。だが俺がそのことを聞いてみたのだが、残念ながらその情報はあまりなかったのだ。ただ一つ言えることがあるとすれば、やはりこの世界には【邪】が蔓延っており、その影響により人々は魔物に変化したり、精神異常に陥っている者がいたりして、正常な生活ができなくなっている状況だという事がわかっただけだった。それから俺とリディアはこの村の人々と交流することになった。俺達が交流している中で、リデアは村長の孫娘や村長の娘に人気のようである。そして……なぜか俺の周りには常に子供達がいて、まるで幼稚園の園児達に囲まれている先生のような気分になっていた。それから俺がリディアと交流を深めると同時にリディアからこの世界に存在する神の存在を聞くことになる。


「この世界において……一番力を持つと言われている存在が、この大陸の東にある大陸を治める神様です。名前は確か……『リリス』と言いましたね。そのリリス様は世界を救うために自ら犠牲になり、そして神格化され崇められるようになりました。このリディアの世界においては神と呼べるものは全部で三柱います。まず、このリディア。そして、私の世界を治める神が一柱。この方の名は……」


「そのリリシアの事はリディアの話を聞いていたから知っていたけど……その名前をまだ知らなかったんだ。」


「リリシアス。この世界の創造主である神が一人よ。そして……私はそのリリシアスの魂の一部をこの世界に持ち込んだから……私の中にはその人の力が僅かに残ってるわ。この世界の人々にはその力は使えないけれど……それでも……神の力の恩恵は凄いわ。この村の村長やリディアを慕う人々の病気が回復して、今ではもうこの世界の人々は、ほぼ健康な状態で生活しているもの……。まぁ……でも、私がいなくなった後に……その人々の心は……また荒廃の一途を辿ると思うのよね……。それはそれで仕方がないとは思うんだけど……できれば……その荒廃する前に戻ってきて……この世界に希望を与えたかったな……。」


そう言いながらも……そのリディアの顔はとても悲しそうであり……そのことが俺も悲しい気持ちになってしまったのである。だが、俺も……ミレネーに約束をしているのでその約束を叶えるために帰る必要がある……。だから俺はそのリリシアの魂の一部を譲り受ける事にした。リディアが言うにそのリリシアスは、その力を使えば……世界を滅ぼすこともできるらしい。確かに俺もリディアの話を聞いていて思ったが、この世界では神を崇め、崇拝するような文化があまり根付いていないみたいで、リディアに対してそこまでの態度では無いという。むしろ、崇めるべき神として認識していない節もあると言っていたのだ。そのことから、この世界では、リディアが思っていたような世界を救うということは難しいのではないかと考える。それは、俺もこの世界の実情を知り……この世界で生きる人々を見て感じたからである。そのことはリディアにも説明した。


だが、そんな俺の言葉を聞いたリディアは首を左右に振りながらこう口にした。


「いいえ、違うのよ……。この世界の人達の心は荒んでいるの。その原因は【邪神王サタン】という存在がいるのが原因だと思うの……。そいつの狙いはこの世界を崩壊させることが目的みたいで、自分の欲望のために世界中を壊し回っているみたいなの……。だから……この世界の人達は【邪】に支配されてしまっている……。それを何とかしないと……世界は救えないわ……。この世界の人々がその力を手に入れるのは難しい……。だけど……その方法さえ見つかれば……この世界を救うのは簡単だと思うの。」


「そうなのかもしれないな……。俺も、その方法はいくつか思いついているし……。とりあえず、この世界の現状についてはある程度理解できた。後は、俺がこれからどうやってその方法を見つけ出せば良いかを考えるべきだな……。リディア……ありがとう……。色々と教えてくれて……。俺がこの世界に召喚された本当の意味が少し分かった気がする……。俺は俺にしかできない方法で皆を守りたいと……心の底からそう思えるようになったよ……。」


俺はそう言うと、リディアに向かって微笑みかけながら握手を求めたのである。


そして、その後すぐに……リディアはこの世界と、この世界の神々や精霊達を守る使命を果たすために元いた場所へと戻って行ったのであった。


リディアがいなくなる前に俺達はこの世界にいるという他の神について説明を受ける。リリアの話では……リリスの他にこの大陸の南を支配する神である【ラスティリア=リディアス】。それから、東を支配しているとされる神である【レイリア・セインティアス(通称レイナリア)】の2名が存在するということだった。ちなみに俺が知っている知識だとリリス、リリア、リディアは三大神とされていて、それぞれこの世界に平和をもたらす存在だとされているが、実際はどうなのかは不明だとリリアは話してくれた。そのことに関しては俺は、これから自分が調べていくことで知る必要性を感じた。なぜならば、リディアがこの世界にいた時にはすでに、リディアの信仰する者はほとんどおらず、信仰していた者はそのほとんどがこの国に移住しているということだったからだ。そのためリディアは自分の力をフルに使うことができない状態になっており、リリアと、リディアを慕うリディアの使徒と呼ばれる存在がこの村に住んでいる人々をこの世界から守る結界を維持し続けてくれていることを聞かされたのだった。そして、このリリアの話を聞く限り、おそらくは俺の考えていた通り、リディアの力は、この世界に存在する全ての人を救えるほどの力を持つのだろう。そのことについてリディアに聞いてみたが、答えは曖昧だったが……俺が考えている通りの答えだったのは確かである。


俺はそんな話をリディアとしながらも、リレアとの話し合いを真剣に聞いていたのである。だが、そこで俺はある疑問を抱いた。リディアにその質問をしてみたのだが、リディアも詳しい理由は知らないと答える。その事については後ほど考えることにした。そこで今度はこの世界の情勢をリレアに聞いた。リデアが言った通りならこの世界には邪神が暗躍しているという話になる。だが……このリデアの話で……その真偽を確かめることができなかった……。なぜならば、リディアからリデアの言っていた話が事実である可能性は低いと告げられたのである。というのもリディアが言うには、俺達がいた世界とこちらの世界の次元が違うらしく、同じ空間に存在しているわけでもないそうだ。さらに、時間軸もずれており、今現在この世界で生きている俺達が元の世界で死ねば……リデア達もこの世界での時間は巻き戻る仕組みになっていると言うのだ。つまり、このリディアの世界では、リデアが俺達がこの世界に来てから、ずっとリデアがリディアと会っていないという事を意味しているらしい。


俺とリディアがそんな話をしてからしばらくして……俺達がこの世界に来た時に、この村の人達がお世話になった家に泊めてもらうことにした。俺達はこの家に住んでいた人達にはお礼ができていないため、村の人々全員が集まってくれた場所で改めて、村を助けていただいたことに感謝を伝えたのだ。その言葉に村長は涙を流し、村人全員が嬉し涙を流すという嬉しい光景があった。だがそこでふと思ったことがあったので村長に声をかけた。


「あの、村長さん……。この家のご主人の方ですが、まだ……目覚めないんですか?」


「えぇ……実は……リシア様とリリシアス様のおかげで命は助かりました。ただ……まだ意識が戻らず、昏睡状態なのです……。」


「そうですか……。」


俺達が村長と話している中で……リディアとリデアは何かを話し込んでいるようだ。その内容は気になったが、この場で聞くのも変だと思い……村長や村の人との会話を続けることを優先した。そして、それからしばらくして俺とリディアはこの村を後にすることになったのだ。村長から俺達に是非とも自分達の村に滞在してほしいと頼んでもらったが……俺としては、リデアが俺と一緒に行動すると言っているため断るしかなかった。すると村長はとても悲しげな表情を俺達に向けていたので心苦しかったが……俺達はリデアや村長の申し出を受けることはしなかった。そして村長に別れの挨拶をしたのちに、俺達も村から旅立とうとした時である。一人の男性が話しかけてきたのである。それは俺がこの村に入る前に村人達と遊んでいた男の子だった。


「おじさん達……。本当に行っちゃうの……?」


「うん……。おじさん達はこの世界を救いに行こうと思ってるんだ。」


「この世界を?なんで……そんな事をしようとするの……?それにどうして僕達の村を助けたりなんかしたの……?」


「えっ……それは……その……」


「その件についてなんだけど……その事で……君に頼みがあるんだ。」


俺は、少年が口にしたことが心に突き刺さったのか……口籠ってしまう。しかし、そこに助け舟を出してくれたリディアが俺の代わりにこの子に向かって説明を始めた。そして俺がこの世界を救うことを誓った時のことも説明したのであった。


そして俺達は少年を残して……村の門に向かって歩き始めた。その時……少年は泣き出してしまったのだ。その事にリディアは困ってしまったような顔をする。だが俺にとってはリディアの気持ちがよくわかった。なぜならば、リディアもきっと、その少年と同じ心境だったのだろうと察することができたからである。俺はこの少年が……俺に懐いてくれて一緒に遊びたいと言ってくれた気持ちを嬉しく思った。だからこそ、俺がこの世界を平和にする姿を見せようと心の中で強く思ったのだった。だが俺はここで一つの違和感を覚えた。俺は今まで……自分の心の中に……リシアがいるということしかわかっていなかったが、この世界にリシアが降り立つ前にあった記憶があることを思い出したのである。


俺がそのことに思い至ることができたきっかけは、ミレネーの言葉に他ならない。ミレネーが俺が召喚されてすぐ、俺のことをリシアだと勘違いして俺にキスしようとしたことが俺の記憶に蘇ってきたのだ。俺のその様子から、その事を悟ったリディアはすぐにミレネーを俺から引き離した。その後……俺の目の前でミレネーはリディアに怒られていたが……あれは間違いなく俺がリシアだということがバレていたからに違いない……。


だがなぜそのことがわかったのかがわからない……。だが、俺とリディアが初めて出会った時には、既に俺が召喚される以前の記憶を取り戻している状態だった。そしてそのことは、このリディアという少女も知っている……。ならば、この世界で、最初に俺に会ったリディアにも俺の素性を知っている可能性がある。だがそれを直接聞く事はできなかった。なぜなら……リディアと俺との関係は今のところそこまで深い間柄というわけではない……。そのため俺がそれを質問するのは憚れたのだ。


だから、俺はリディアの方をちらっと見てから……俺の考えを伝えてみることにした。すると俺の考えに賛同するかのような言葉をリディアは発してくれてから……二人で村の外へと向かい、俺達は新たな旅立ちをするのだった。


**


***


リリア視点


「お姉ちゃん……そろそろ帰ろうよ……。私もう……眠くなっちゃったよ……。」


私は……妹を宥めながら……あることを考えていた。


(やっぱりおかしい……。こんな事が現実にあるなんてありえない……。でも……実際に私の目で確かめないと何も分からないよね……。)


私が妹の手を引いて、村に帰ってきた頃には……すでに空が暗くなり始めていた。そのことから……今日はここまでにしておこうと考えていたのだ。そして家に帰り着くとその家の扉を開けると……玄関には見覚えのある靴が置かれていて、奥の部屋に誰かがいるという気配を感じることができたのだ。私は警戒をしながら慎重に中へと入ると、そこにはソファーの上で横になっている男性を発見したのである。その男性の容姿があまりにも美しいもので……私の妹であるリリアが、まるで女神を見つめているような視線を向けていることから、彼がリデア様であると確信したのだった。だがその男性は……リディア様の姿を見た時に目を開け、体を起こしたのである。その光景は……私と妹の目からすれば、まさに神の御業と言える奇跡だった。だがその直後である。彼は私たちに微笑みかけてくれたのだが、すぐに倒れてしまったのである。そして私たちは、彼を介抱しようと慌てて近寄ったのだが、リリアだけはなぜか……彼の元に近づいていき、突然……彼に対して怒りを露わにしたのだ。そしてすぐに彼に抱きつき……彼の胸に顔を埋めた。そして涙を流し、嗚咽している。その姿をみて私は驚き戸惑っていた。


私はこの時、彼女の行動の意味を理解したのだ。おそらくリリアはリデア様に恋をしている。それも、ただ単に異性に好意を持っているというようなレベルではなく、心の奥底から惹かれるような強い感情を感じ取っていたのだ。その事から、彼女がどれだけリデア様に惚れ込んでしまっているかが窺えた。そしてそれはおそらくだが……リディアという女性に関係しているように感じた。というのも、リデアという名前を聞いた時に一瞬だけリディアが動揺を見せたのだ。だが、それは本当に僅かな時間でしかなかった。その証拠に……今の彼女はリディアという存在を完全に否定して……リディアとは赤の他人だと明言している。だがそれならなぜ、その女性のことを忘れずに名前を残しているのかが気になった。……しかし、それ以上に問題だったのは、リディアという名が聞こえてきた時にリデアが見せた動揺の仕草がとても引っかかっている。リディアの名を口にしたのはリディア自身だが、その名前を出した時にリデアの様子がおかしくなった。そしてリデアがリディアではないと言った時、リデアは明らかに狼突していたのだ。そしてリデアが……リリアに抱きつかれてから数分後、突然……目が開き……立ち上がったのだ。


その事にリディアとリリアは驚愕したが、それよりもさらに驚くべきことがこの後に起きてしまったのである。なんと……彼がいきなり自分の頭を両手で殴りつけようとしたので……私は思わず止めようと飛び出したのだった。


だがその瞬間に、急に部屋の外から悲鳴が上がり、私もリリアもそちらに向かって走った。その声を聞いて驚いたからだ。


悲鳴が上がった場所に着くとそこには、全身を拘束された状態で床に転がされている若い女性の姿が目に映ったのである。その女性は……この村を救ってくれた英雄の一人である……あの【呪殺】の使い手であるリディア・メイデンという人物だったのだ。


リデアの身に一体何が起きたのかという不安と、この女は何者なのかと……その疑問を同時に抱え込みながら俺は意識を取り戻す。そして目の前にいる少女に気づいた俺は驚くことになる。


その女の子は俺の顔を見るなり涙を流して泣き始め、俺にしがみついてきたのである。俺はその状況に戸惑いながらも少女を慰めるために優しく抱きしめることにする。そうすることで少しは落ち着きを取り戻してくれたようで泣き止んでくれた。そのタイミングで、この場に現れた少女を俺は改めて確認する。


この子も可愛いな……そう思いながらまじまじと観察する。だがその時……この子が泣いている理由を思い出したのだ。この子は確かリディアさんを俺から引き離すのを手伝ってくれていたような……そんな気がしたのである。だがこの子の着ている服はボロボロで汚れていた。そんな姿を見ればこの子に何が起こったのかということが分かる。


「君の名前を教えてくれるかい?」


俺の言葉に涙で濡れた瞳を向けた少女が俺にこう答えたのである。


「はい……ミレネーです……。」


「ミレネーちゃんっていうんだね。俺は……」


「あっ……その件については大丈夫ですよ。」


俺が自己紹介しようとしたところで……目の前の少女が、笑顔になり俺に向かって話しかけてきた。そして俺は、俺がこの世界に来た時の話をした時のリディアの反応が頭に蘇ってくる……。


(俺のこと……本当にリネアだって信じてるのか……?)


俺はその考えが正しいのかどうかを確かめるために……リレミーの時と同様に俺はミレネーに触れることをせず話を進めることにした。


「俺は……君の知ってる人物に似ているんだろうけど……俺は君を助けられなかったから、ごめんな……。それと君に聞きたいことがあるんだけどいいかな?まずはどうして君みたいな子供がこの村にいたのか、教えてくれないかな?それに……なんでそんな怪我をしてるのかも……。それに君が俺に謝らないといけない理由も知りたいな……。もしかして……リシアさんに何かしたのかな……?それで怒られたとか……。あぁ!そうだ。君の名前をもう一度聞いてもいいかい……?」


俺の話を聞いて困惑しながらも、俺のことを見上げていたミレネーちゃんが……俺の言葉を聞くと、また涙を流し始めた。


俺は、この子が泣くようなことはしていないと思うのだけど……俺のことをリシアだと信じ込んでいるせいなのかもしれないな……と思い、俺はミレネーちゃんを落ち着けることに専念するのであった。


*


* * *



***


俺の言葉を聞き、ミレネーちゃんの目からは再び大量の涙がこぼれ落ちたのである。そして俺の事をじっと見つめては首を横に振って違うということを何度も繰り返すのである。そしてミレネーは、俺の胸に顔を押し付けて……嗚咽を始めたのである。


俺が、リディアと同じような境遇の人に出会って……懐かしくて嬉しく思ってしまったということもあるのだろう。だが俺にはその事以上にこの子を助けたいと思ったのである。理由は分からないが、俺にはこの子を……このリレアを絶対に守るべき存在のような気がしていたのだ。だが俺は、俺の予想に反してリリアとリディアの2人が、この村に居続けることになってしまった……。その事が、リディアの俺に抱きついた時に見せてくれた態度からもわかる……。


リディアに……この村に居続けなければならない理由でもあるのだろうか……?だが俺の勘ではあるのだが、おそらくだがリディアはこの村に留まってくれるような気がするのだ。


俺はそんなことを考えながら……俺はリディアとリリアと……それからリシアにどう説明するか悩んでいた。


*


* * *



***


私がリディアさんを介抱して……リディアさんに事情を説明したのは……すでにリリアに説明したあとのことである。リディアさんの話ではリリアの様子がおかしかったようだが、今は落ち着いているようであり、先程のように怒り出すことはない……。だがリディアのことは知らない人だとはっきりと言っている……。そして私はリリアを説得するとリディアに妹がいることを伝え、リデア様がここに来ているという嘘の説明をした。そしてそのあと、リディアを連れてこの村の村長に挨拶をすることにした。


だが……私は、リディアをリリアとリディアの妹に紹介するためについてきて欲しかったが、それを断られたのである。その理由は……リデア様に迷惑をかけてしまうからだと言うのである。だがそれでもリデア様をこのままにしておいても問題ないだろうと、私は判断したためそのままリディアと一緒に村に向かうと、村の前で村人達が私たちに駆け寄ってきたのだ。その人たちを私やリディア、リリアが出迎える形になっていたのである。そこで、私たちは村人たちに質問攻めにあうことになった。


私達を待ち構えているようにしていた人達の中にはリディアを見て怯える人もいたが、リディアに対して好意的な反応を見せる者もいて、特に子供からは大人気の状態であったのだ。リディアが子供達を抱きしめた時には、私とリディアの関係を知らない者達から驚きの声があがりもしたほどなのだ。そしてそのリリアも、リデア様にそっくりというリディアに興味を示していて、この二人を会わせることに何も問題がないように私は思っていたのだ。


だがそんな時に村の中に異変が起きた。リデア様を探していると言っていた男の集団が、リディアに対して襲いかかったのである。私は慌てて、この場から離れるように言うつもりだったが……その時だった。突然空から光が降ってきて男の一人を包み込んだのである。そしてその光は一瞬で消え去った後にその場には誰もおらず、そこにはリデア様に似た女性が現れた。そして女性はリディアの側に歩み寄るなり……リディアを抱きかかえて何処かに走り去ってしまう。


その女性を私は知っていた。【雷電使い】の異名を持つ女性であり、リディアの知り合いだという女性が……リディアを連れ去って行ってしまったのだ。そしてその事に気づき、呆然としてしまった私の元にリディアの無事を確認するためにやってきたと思われる男性陣が集まり始めてきたのである。


その後すぐに……私の所に、リディアとリデアと名乗った女を追いかけると言いながらやってきた一人の男性が現れるのだった。


その男は……私の前に現れるなり、こう言ってくるのである。


「あんたに頼みがある。リデアとリディアの行方を知りたいんだが、この辺りにいるのか?」


「えっ!?あの、その……」


「なんだ?知っているんじゃないのか?リデアがどこにいるのかだけでも教えてくれ。頼む。俺は……あいつと……あいつともう一度会うためにこの世界に来たんだ!」


この男の顔を見た瞬間、この人の顔が……私の好きな人と重なる……そしてこの男が発した言葉で、この人がリディアの彼氏であることに、気づくことになる。


「あなたはリディアの恋人なのですね……。そして……あの女は私の親友の……元彼女です……。彼女は今、リデアと名乗るリリアの母親のリレアと旅をしているはずなのですが……どうして……。あっ……すいません……。ちょっと取り乱してしまいました……。」


私も混乱してしまっている。どうしてこうなっているのか、わからないからこそ……つい気持ちを表に出してしまった。その事で私は恥ずかしさを感じ、目の前の男性から目を逸らしてしまう。そしてリディアとリデアの行方は私にもわからなかった。リディアの居場所を知っている可能性のある人物と会ったのはリディアだけだったからである。だから目の前の男にそのことを話すことができないのだ。


そして、そんな状況でも目の前にいる男性は諦めようとはしなかったのである。


「お願いします!どうか力を貸してください!!どうしてもあいつに会いたいんです!!」


目の前にいる男性の勢いは……私には止められなかった……。


結局私は、彼に協力することになったのである。彼は、この村の村長さんに事情を説明する必要があると言ってくれたが、その言葉を聞いた村人は……リディアを攫うためにきたのだと勘違いされてしまいそうになり、仕方なくその場から逃げ去ることになったのだ。そうしている間にも彼の仲間は増え続け……ついには村の外にまで広がってしまうことになる。だがそんな中、この場を収めようとした一人の女性がいたのであった。それは……村長の娘でもあり……リレアの母親の友達でもあった、リディアのお姉さんでもある……ルレアさんであった。


リディアとリレアは、昔からの付き合いがあったらしくて、この村を頻繁に訪れていたのだという。そんな二人がリディアの消息を絶って……この村は大騒ぎになっているそうだ。だが、この騒ぎを収めるためには……リディアの事をこの人に話した方がいいかもしれないと思い、私から提案すると……みんなが同意してくれて、その事を目の前の人物に伝えた。するとこの人は、リデアさんのことを調べてみることを了承してくれた。その結果が分かり次第リデアのことを教えるということで話がまとまり、なんとか事なきを得たのである。だが、目の前の男性がリディアのことを本当に心配していることは伝わってきたため、私はこの人を信じることに決めたのだ。


「ありがとうございます。リディアの事……よろしくお願いいたします。リデアはきっと、この村にやってくると思います。だってリディアがリデアから逃げれるとは思えないから……多分この村の人に助けられているだろうし……。だからそれまでの間は、この村の中に留まるんじゃないかな?この村の中で暴れられたりしたらいやだけど……もしかしたらこの村の住人の中にリディアのことをよく知ってそうな人がいたりするかもしれません。だから、まずはその人のことを当たってみることにしようかな。それと……リリアの事も気になっちゃうからね。俺、リリアとも仲良しさんだよ。それにリリアのお母さんともよく一緒に出かけてたりするよ。俺、結構気に入られてて、この前なんてリディアの服選びを俺に手伝わせてくれたくらいだよ。リリアのこともリディアの口から聞いたこともある。その関係で俺も何度かあったことあるんだよね。だから……リディアを攫った奴がリディアをどうするつもりなのか知らないけど、絶対にリディアを助けるって俺約束するから……安心して欲しい。リディアの居場所さえわかったら、リディアを必ず連れ戻すから……。俺がこの手でリディアを守りきれなかった責任をとるよ……。それじゃあ……また連絡が来ると思うので待っててください……。」


この男性は……見た目に反して凄くいい人だと思うことができたのである。だがそれと同時に……リデアという女性に恐怖を覚えたのだ。だが、この人がこの先もずっとこの世界に留まっていてくれるのなら、いずれはリディアに会える日が来るような気がしてならなかった。



* * *



* * *


私は、自分の親友であり、大切な人である、リディアとリレアを救い出そうとする男と出会って……少しだけホッとしていた。そのおかげでリディアを救い出すためにこの村を出る決心がついたのだった。その前に村長さんから事情を聞いて……村長さんの知り合いがこの村に滞在する許可を取ってもらうことにしたのだ。その男は、私がリディアを救い出すことに協力してくれたこともあり、すぐに承諾してくれたのである。その男の連れてきた人たちは、この村の人達に歓迎されていて、私はその光景を見てとても心が暖かくなるのを感じたのである。そんな時に私の前にリディアの姉の……リレアさんが突然現れてしまったのだ。そのことで私は……自分が情けなくなってしまい……リディアのためにこの村を去ろうとしていた決意が揺らいでしまったのである。だが、リディアはもうこの世界に戻ってこないということだけは理解していたのである。なぜならばリディアとこの男の間には絆が芽生えており、男も必死になってリディアに想いを伝えていたのである。そのことから、男と一緒ならばリディアが戻ってくるのではないかと考えてしまう。だが……それでも……私は……リディアがいない現実を受け入れなければいけないと強く自分に言い聞かせることにしたのである。


だが……リディアの姉が目の前に現れた時……なぜかリディアの気配を感じることができてしまって……つい泣き出しそうになるのを抑え込んで……その場を離れたのであった。


(どうして……あのリディアから感じた感覚と同じ感覚がリリアから感じられるのだろうか?それに……どうしてあんなに似ていたんだろう?)


ただ、そのことが疑問ではあり、そしてあの男にこのことを相談したくなったが、その男が今現在ここにいない以上仕方がないと思った私は……とりあえず宿を見つけなければと思い村の中を探し始めた。だが、リディアが失踪してからかなりの時間が経過しており……どこを探していいのかわからない状態であったのだ。


そこで私を助けてくれようとしたのが村長さんである。その人のお屋敷に行くことになったのである。村長の屋敷に着くとそこには……この村には似つかわしくないような容姿をしている人達の姿が見えたのである。その事に私は驚いてしまったが……その人たちのおかげで、この村の村長さんと面会することがかない、村長さんの好意で泊まることができる場所を紹介してもらうことに成功する。


だが、私はその人の家に入る直前に……リディアに似たリリアと言う少女に出会ったのだ。その時私は思った。リディアはきっと、どこかにいるのだろうと……。


リディアがいなくなった日から、私達姉妹は変わったのだ。特に、妹の方は……変わりすぎてしまっていました。それは当然といえば当然のことだったのでしょう。何せ妹には愛する人がいて……その人から離れて暮らすのが辛くて仕方がなかったはずです。ですからその反動によってリディアのことが大好きになってしまったのです。そして私も同じ気持ちを抱いていたからこそ……リディアがいなくなってしまったことで落ち込んでいたはずなのに……リディアに似ている女の子と出会っただけでこんなにも舞い上がってしまう程、リディアの事を想っているという事がわかるようになってしまいました。そのせいか、私は……リディアの事を忘れてその子に恋をしてしまいそうになったんです。そして、私はリディアの事を完全に諦めようと決めて……リディアの面影を感じさせるリリアの側にいるようになりました。そして私はその時に……私を庇ってくれたリディアに対して……リディアの気持ちを考えない酷い行為をしてしまったことを悔やみ、罪悪感を抱くことになるんです。だからこそ……私のこの思いは、私の心に残っていて、いつまでも忘れられずにいるのです……。


それからしばらく経ちましたある日のことです……。私の家に突然現れた人がありまして……その人物というのが、私の元彼であった……。私の元彼がなぜ私のところに訪ねて来たのかわかりませんでした。だけど私にはその理由がわからなくても、彼の目的は私だということがわかったので、彼に話があると言って家に招いたのです。


「あなたからお話とはなんですか?」


「実はだな……その前に……リディアのことなんだが……」


「そう……リデアね……。」


「やっぱり……リデアって言った方が分かりやすいんだね……。そのリデアに……君は一体何をしたんだい?どうしてあいつが俺の元を離れて君の所に行ったんだ!俺はリディアと約束したんだよ!だから、俺達は絶対に別れないと!!それなにに、どうして君とあいつが一緒に暮らしているなんて話になるんだよ!!どうしてなんだよ!どうして!俺が君にフラれてからも……あいつは何度も俺の所に来てくれていたじゃないか!!どうして今さらリディアを俺から奪おうとするんだ!!どうしてだよ!!」


そう言ってその彼は私に掴みかかってきたのである。私はそんな彼の言葉を聞いて呆然としていたが、すぐに冷静さを取り戻し、彼を家から追い出そうとすると、その男性は、リディアー!という大きな声で叫ぶと、涙を流しながら家を飛び出していったのである。私は慌ててその後を追うも、彼の姿が見つからず困ってしまった。私はこのままではいけないと思って、村長さんに相談することにしました。だが、彼は、その男性のことを心配しており……もし何かあれば村長の家を訪ねて欲しいと言われてしまったのである。


それで私は、彼に言われた通りにその人を訪ねることにして、村長の家の扉をノックすると中から出てきた人が、その男性が探している相手ではないかと言われたので……恐る恐る声をかけてみることにする。


「リデア……様でございますか?」


「うん、そうだけど……リデアだよ。ってことは……この人がルレアさんのお友達の人かな?」


私はこの人が探しているという相手が、リディアではなくて、別人であったことに安堵してしまう。だがその瞬間……このリデアと名乗った女性がとても美しく見えてしまい、さらにこの女性の顔を見ているうちに……リディアのことも思い出すようになっていた。


私はついつい目の前の女性の顔に見惚れてしまっていることに気がつくと恥ずかしくなり顔が熱くなってしまう。そんな様子を見られていたことに気づいて、私は慌てて平静を取り繕うとしたのだけれど、どうしてもうまくできなくて、その人の前で挙動不審な姿を見せてしまって、それがかえって変な人のように思われないか心配になってしまっていたのである。


だがこの女性はとても優しくていい人だと思えた。私は……リディアの事を知っているのではないかと思うといてもたっても居られなくなり思わず尋ねてしまったのである。だが、彼女は私に、自分はただの通りすがりの冒険者だから力になれないと言っていた。そして私は、そんな彼女にリディアのことを詳しく聞くことにしたのである。そして……この人にならリディアの話をしてもきっと受け入れてくれると思い私は自分のことを打ち明けて、リディアのことを少しでも多く知ってもらおうとしたのである。だが、彼女の答えはあまり良いものではなかった。


なぜならば、私が求めている情報はこの世界のものではなく、この世界では無いところから来たらしいからであった。だけどその女性は私とこの村に来る途中で出会った男の子のことをとても信頼していたらしく、私には悪いけどその男の子を頼ることにした方がいいとまで言ってきたのだ。そしてその男性はどうやら冒険者のようで、しかもかなり腕が立つ人だから助けてくれるはずだからと。それに、私がこの世界から去ってしまえばリディアも悲しんでしまうからと……。


確かにリディアがこの世界にいた頃の事を思い出したら……この世界にリディアがもういないということが寂しくなってしまって仕方がなく……涙が出てきてしまったのだ。でも……私はその人の言うとおり、この世界に残るのは諦めることにすることにした。リディアがこの世界からいなくなった時にも私は……この世界で生きていきたいと思っていたのだ。しかし……リディアのことを考えるとこの世界を立ち去るべきだと思った。だから私はその女性に別れを告げてこの村を出ることにしたのである。


(本当にこれでよかったのかしら?)


私は自分の決断を間違っていたのではないかと悩んでしまっているが……それでもこの村を去ることにしたのである。


私は、この異世界から出る方法を探していた。というのも、あの後、結人と別れた後にこの村を訪れている間にこの村の人たちと交流をしてみたのだが、私がこの世界にいる間は元の世界に戻ることが出来ないのではないかという結論に達したのだ。だからこそ、私はこの村に残りたいと思いながらも、元の世界に戻りたいという二つの感情の間で葛藤していた。そしてその迷いを晴らすためにもこの村を去ろうと思ったのである。


だが、私はまだ迷っていたので、とりあえず村長さんに挨拶だけしようと思って、その村長さんに会いに行くと、そこに先ほどの青年がやって来て村長と話していた。私はそこで、この世界から抜け出す方法があるのではないかと思い、その二人の話の邪魔をするのも良くないと思い少し離れることにした。するとその二人は急に真剣な表情になって話し合っていたのである。「その……大丈夫だったのかい?その、あの子は?ほら……君の大切な人だって聞いたからさ……」


「いえ、もう……俺にはあいつがなんなのかわからないんです。もう……あいつに何が起こっているのかもわからなかったから……。俺は……俺は一体何のためにあいつを待っていたんだろう?こんなことならば……」


そう言って私の目の前にいる男は、涙を流し始めて泣き始めてしまう。私は、そんな彼の様子に驚き戸惑っていたが、彼が突然私を抱きしめて来てしまったのだ。


(あぁ、こんなにも優しい人を泣かせてしまうほどあの子の事を……)


そして私は……私の目からも自然と涙が零れ落ちてしまっていた。


そしてしばらく泣き続けていると……ようやく泣き止むことが出来た私は、私を抱き続けていた男から離れようとしたのだ。だが、彼は私の手を放そうとしなかった。だから私も……この人のことを……信じたいと思うようになっていく……。だがその時私はふと、私の手に握られているものの存在を思い出す……。それは、リディアとリディアのお姉さんの髪飾り……。そのことが私の脳裏に浮かぶと……リディアのことを想わずにはいられず、私はその髪飾りを見つめる……。だがその時私の耳に誰かの声が聞こえた気がしたので、私はそちらを振り向いてみると……そこにはリディアが立っていたのだ……。私はその姿を見ただけで泣いてしまいそうになるがなんとか我慢した。私は……こんなにも辛い思いをしているリディアに会わせるわけにも行かないから……必死に笑顔を浮かべて、彼に別れを告げることにした。そしてリディアが彼について行くように促すと……私は、彼とリディアの二人を見送った。


それからしばらくして……リディアの姿が見えなくなったのを確認してから私は……ある決心をしてから家に帰ったのである。私は……自分が持っている能力を使う事に決めた。私の持つこの力は、相手の気持ちを感じ取ることができる力だ。だがこの力が発動するためには、その相手の名前を知っておかなければならないという欠点が存在する。だが名前を知る機会はあった。なぜなら、リデアは……私の前に現れた時私の名前を聞いていたからだ。だから私の名前は覚えてくれているはずである。だからリデアは私の名前をすでに知っているはずだった。


私は、リディアの事を考えると、その気持ちが気になりだして……結局その気持ちを確かめる為にこの能力を使おうとしていた。


(ごめんね……。あなたの気持ちを利用して……。あなたが……私の事をどう思っているのかはわかるから……。だからあなたを傷つけても、私の心の中にあなたがいないと確かめないと……これから先の私は、前に進めないから……。お願いだから……。せめてあなたを愛させてください。たとえこの先に待つ結末が最悪なものであろうと……私は……。)


そしてリデアが私の名前を口に出した時、彼女の心を覗き込んで、彼女が私の事をどういう風に見ているのかを理解してしまう。だが私はリディアの本当の姿に衝撃を受け、何も言葉を発することができなくなっていたのであった。


「……リデア……様?……嘘……どうして?リデアは……どうして?」


そう、目の前の女性は自分の知っているリディアでは無いと分かっていながら……私はその女性の姿を見ているうちにその女性がリディアだと認めてしまい、私は混乱してしまったのである。


すると目の前の女性……いや、リデア様は私の顔を見て何かに驚いていたようだ。


「その顔にその声……それに、この私に対しての言葉遣い……まさか、そんな……ルレアがここに居るのですか!?」


その言葉を聞いた途端私は目の前の人物が自分のよく知る人物であると確信する。なぜならば、彼女は私の顔を一目見ただけで、私がルレア・リディエルであると判断したからである。そんなリディア様の顔は……なぜかとても苦しそうなものに見えてしまった。


だが私は、自分の身に起こっている事が信じられなくて呆然としていたが、私はすぐにその場から逃げ出すことにしました。そして私は自分の家まで走って戻りました。そして家の中に入るとそのままベッドの中に入りこみ布団をかぶる。そうしないと不安に押しつぶされそうになっていたから。


(これは夢よ!だって……あの子がこの世界に存在しているはずがない!!なのにどうして!?どうして私がリディアと一緒にこの村にいることを知ってるんだろ!おかしいでしょ!それにあの人って誰なの!なんで私の知ってる人ばかりが出てくるの!あの人はリデアって名乗ったけど違うってすぐにわかったし、じゃああれが本当にリデアって言うの!?あんなの絶対にリデアじゃないって私は断言できるのに!リデアが……私を置いていくなんてことあり得ないもの!!!そんなことは絶対にあるはずが……無いのに……でも、もしもそれが本当なら……私は一体……なにを信じればいいの?)


その瞬間、私の目の前に黒いローブを着た女性が姿を現して話しかけてくる。その女性はフードを取るとその美しい顔を見せるが、どこか寂し気な表情をしていたのである。そしてその女性はこう言ってきた。


『この世界のリディアとリディアの姉はお前にとってどんな存在であったか、それを今から私とリディアがお前に伝えよう。だが、それが真実かどうかは私にもわからない』


(そんな事……聞きたくない……。でも、リディアの事はちゃんと知りたいから、教えてほしい……リディアが一体何を考えていたのか、リディアがこの世界に来た理由が……私はそれを知りたくなってきたから……。だから……聞かせて?)


だが私が返事をする間もなく、女性は勝手に話を始めてしまっていた。


その話を聞かずにここから立ち去ることもできる。だが私は……私はこの話をどうしても聞いておきたかった。そしてその理由としてはやはり……自分の目で見た事ではない以上、信じきれないというのが大きな理由であったからだった。だからこそ、私はこの話が嘘であってほしいと思ってしまったのかもしれない。だが、もしこの世界にいる本物のリディアと私が一緒に過ごしていたのだとしたら……この話を私が知らないままなのはおかしいと思ったから……。それに私がリディアを救えなかったという事実に向き合う覚悟を決めるためにも……。だから、例えこの話を聞いたとしても後悔しない為には話をしっかりと聞くべきだと思ったのだ。


「リデアは私の幼馴染だったの……。小さい頃は、二人でずっと一緒だったのに、でもあの日……あの日リディアが突然行方不明になってしまった日から、私はリディアを探し続けながら……そして……ある日突然リディアの両親からリディアが死んだと言われて……。私はリディアが死んでしまったことを認められなくって必死になって探していたんだけど……でもそのリディアが目の前に現われて……」


私はリデアの話を聞き終えると、その話の内容の真偽を確かめる為……自分の能力を発動させてみる。


(……やっぱり……あの話は全部真実なんだ……私にもあの子にも悪いけど、今はあの子を信じることにする。あの子は私の事を親友と言ってくれたから……)


だが、私が能力を使用した途端に私の体はまるで凍り付いていくかのように寒くなっていく感覚に襲われる。そのあまりの辛さに……私は耐えきれず、意識を失ってしまったのである。


(うっ……。ここはどこ?それに体が動かせないし……何があったんだろう……)


そう思った時に、私の目にリディアの髪飾りが見えたので……私は咄嵯にその髪飾りを手に取ろうとする。だがその手には鎖で繋がれており、全く動くことが出来なかった。そして周りには見慣れない器具が多く並べられていて、そこで私はここが手術室であることを理解すると同時にこの場所が私の記憶の中の世界なのだと気づく。するとリディアが私のそばにやってきて私の頭を優しく撫でてくれる。そしてリディアのその行動を見た私は、その懐かしさと共に涙が流れ落ちていった。そしてその涙は止まることなく溢れ出して……私はその涙を流し続ける。


(どうしてだろう……?なんで涙がこんなにも溢れ出てくるの?私は……まだ泣いていい立場じゃないのに……。私は……私はもっとしっかりしないと駄目なのに……なのに私は……またリディアに助けてもらってしまった……。ごめんね……ごめんね……。私が弱かったせいで、私はあなたを見殺しにしちゃったんだよね……。ごめんなさい……。本当に……本当に私はダメだなぁ……。リディアを幸せにするどころか……今度はリディアに心配かけさせてしまうなんて……。)


それから私は泣き止むことが出来ず、しばらくその場で泣いていた。(……そっか……これが……リディアが味わった気持ちなのか……。……リディアも……私のことを……。嬉しい。だけど……私はもう大丈夫だから……リディアを……私の大切な友達を助けることが出来たから……私は、もう大丈夫だよ……。だからお願いだから、あなたが私の代わりに苦しまなくても良いから……。)


「リディア……お願い……。リディアだけは……幸せに生きて……。」


私がリディアの名前を呟いた直後、辺りは光に包まれて……目が覚める。そして私は起き上がるとリディアの姿を探す。だが、私の目の前に立っていた人物の姿はリディアではなかった。それは……私がリディアを救い出せなかったあの日の……私自身であったのだ。そして私の姿を見た私はその人物が、リディアに救われてこの世界で生きることになったもう一人の私だと気づいた。そして彼女は、この世界のリディアを救う為だけに存在していなければいけなかった。だが私達は、この世界でも……この世界を破滅へと追いやる運命を背負っているのだから。だから……私は、この私を止めなくてはならないと理解する。なぜならこの私がこれから行うことが、私がこの世界で体験したことであり、私がこれからリディアにしてあげられることだから。私は目の前の私に対して攻撃を仕掛ける。だが相手もそれに反応してきてくれた。そしてお互いに全力で戦うのだが……。相手の動きが、私がこの世界にきた頃の実力のままだったので私は勝てると思い、このまま押し切るつもりだった。だが……相手の私は私の想像よりも強かったのである。私はこの世界に来る前に私より格上の相手と戦っていたことを思いだし、相手が私と同等の力を持つという事を忘れていたことに気づいたのであった。


(まさか私が負けそうになるとは……だが私は絶対に負けられないんだ!だって私は……あの子の笑顔を守るために、この世界にやってきたのだから!私が……あなたを助けてあげるから!あなたの事を絶対に死なせないから!!)


その思いが通じたのか分からないが、私の攻撃によって目の前の私はその場に倒れ伏した。私はすぐに彼女の元に駆け寄り治療魔法を使用するとすぐに回復することができたのである。すると目の前の私はゆっくりと立ち上がり、私に対してお礼を言い始めた。


「私を助けてくれてありがとうございます……。でも、私には時間が残されていないのです……。私の肉体は限界を迎えています。それにこの体ではもう私は戦えないでしょう……。だから、私はあなたに託す事にします。私が……この世界を平和に導くはずだった、もう一人のリディアへ……私の親友であるルレア・リディエルに託します。そして……どうか……この世界のリディアのこともよろしく頼みましたよ……。ルレア……。そして……ごめ……んなさ……い。私は結局……何も出来なかった……リディエルのことを……最後まで救えなか……った……」そう言って彼女は力尽きてしまいその場から消え去ってしまう。そして私も気がつくと……自分の家に戻っており目を覚ました後、急いで外に出て行き村を歩き回ったのだった。


私は家に帰るなりすぐレイに話を聞く。その途中で私はレイの様子がいつもと違い少しおかしいような気がしたが、それでも気づかれないように気を付けて話を続ける事にしたのであった。


そうして私は……ある事を知る事になる。だがその事実を聞いて私は言葉が出なくなってしまうのであった。その言葉を聞いた途端私は自分の心の中に何か冷たいものが染み渡っていく感覚に襲われる。だが……それと同時にどこか納得してしまっている自分も存在したのであった。ただ一つ……私が疑問に思っているのは、リデアの容姿が変わっているのにも関わらず私がリデアだと断定できた理由である。だが、その答えは意外にも簡単なものだったのである。


(あはは……そんなに私の顔をじっと見ていれば誰だって気づくか……。)「でもなんで私の姿がリディアに似てるってわかったの?」


「なんでって……そんなの……顔とかがリディア姉とそっくりなんだから……わからないはずがないだろ?そんな事もわかんねえのかよ……。って、あ……俺今声に出てたか!?やべえ……。聞かれちまったか!?って、なんだよ……別に普通に話しかけて来やがって……。お前は俺が話しかけると、怯えたりしてたんじゃないのかよ!?何考えてるのか知らねえけど……お前がそんな態度だったらなんかやりにくいじゃねぇか!」


(あれ?これってもしかして……。……もしかするかも……!よし……)「……私とリデアが一緒に暮らしていた事を知っても驚かないの?」


(……驚いたふりをしておこうかな)


「なっ……お前一体何を言おうとしてるんだ?もしかしたらこの世界に来た理由っていうのが関係しているのか?それとも別の理由でここに来てるのかどうか……。それにお前もリデアと同じ様に記憶を一部無くしてんのかもしれねぇ……。だがそれだと辻妻は合う。もしお前の言うことが本当ならリディアが生きていたのはわかる。だが……俺はどうしても信じられねえ……。あいつが死ぬなんてあり得ねぇと思ってしまうからな……。」


(リデアは確かに私の目から見ても美人だった。それにリデアの事は好きだった……。だからこそリデアが生きているのだとしたら会いたい……。でも、本当にそれが正しい選択なのかは、正直迷う。だけど……。もしリデアに会える可能性があるならば……賭けてみるしかないと思う……。それに……あの子が言った通り、私は……あの子と一緒にいるためにこの世界にきているのだから。そして……あの子は私のことを……待っていてくれてるのかもしれないのだから……。私は……あの子のためにこの命を捧げる覚悟はあるんだから!)


レイの問いかけに私はリデアの事をどう説明するべきかを考える。だがリディアが既に死んでしまったという話をしたばかりなので……リデアについて話すのに抵抗があった。だが私はその事を話さなければレイを騙せないと判断し……話し始めることにする。だが、リデアの話を始める前に私はレイにある質問をする。なぜ、この世界の私が元の世界に戻る方法を探していたのかということだ。するとそのことについてレイが説明を始めてくれたのである。


(やっぱりリディアちゃんもそう思ってたんだね……。やっぱりこのリディアちゃんはこの世界にいるリディアとは違うリディアなのか……。だけどリディアにはこのリディアに会った時の記憶があるみたいだし、どういうことなんだろう……。)


「この世界に来た理由はリディアの事が好きだからだよ……。」


「そっか……私に会いに……来てくれたんだね……。そっかぁ……。嬉しいなぁ……。」


(そっか……。やっぱりそうだよね……。でも、私にとってはこの世界に来ることは辛すぎる。私のせいで、あの子はもういない。あの子を救うことすらできなかった私に幸せになってほしいだなんて言われても……私には幸せになる資格なんてない……。なのにどうして?どうして私にそんなこと言うの?)「私はあなたが嫌い。だからあなたを助けたくもない。なのになんであなたは私に優しくするの?どうして助けてくれるの?あなたにとって、私はただ利用するために拾われただけなのに……。どうして私をそこまで気に掛けるの?教えてよ……。あなたは何がしたいの?私をどうして助けてくれるの?私なんて、もうとっくの昔に壊れてしまっているのに……。なのに……なんで……私はまだ生きてるの?」


その言葉を発した時……私の目からは大粒の涙が流れていた。


「……どうして泣くの?」「……分からない。だけど私、リディアの事を大切に想ってくれてる人を見て、その人が私を助けてくれようとしている姿を見ていたら……自然と泣けてきたの。そして、私がこの世界で幸せになってもいいの?私を幸せにしてくれる人はもう居ないのに、私がこの世界で幸せになったら駄目なんじゃないか……って思ったの。」


その言葉を聞き、私は涙を流し続ける彼女の手を取ると私の胸の中に彼女を引き寄せて抱きしめてあげる。その行動に驚きながらも私にされるがままの彼女に対して私は、私の中にある全ての想いを伝えようと言葉を発する。


「私はこの世界にリディアがいない間ずっと一人で泣いてたの。あなたがいたおかげで、あなたの分まで生きるって心に決めて生きて来たの。」


「でも、それは無理だった……。私はあなたのように強くはなれなくて……。だからせめて……あなたに幸せをあげようって、私は私にできる精一杯の方法で、リディアの分も含めてあなたを幸せにしてあげたかった……。あなたと過ごしたあの時間は……私に大切なものをたくさん与えてくれた。それは私にとても幸せな時間を与えてくれたの。」


私の言葉を聞いた彼女は、私の服を掴み、さらに涙を流し始めてしまう。私にはそれがどんな意味を持っているものかを理解することはできなかった。ただ彼女は私の言葉を黙って聞き続けてくれていたのであった。そして……私は泣き疲れて寝てしまった彼女の体を抱き上げ、ベッドへと運ぶ。


その後私は眠りにつくことにしたのだが……。その時私はある夢を見たのである。


それは、どこか見覚えのある場所に私は立って居るのだが、その場所にはなぜか誰もいなく、私は孤独だった。そしてそんな寂しい場所で私の心の中にはある一つの疑問だけが残ってしまうのであった。私はそんな場所にいたのにもかかわらず私はある人の事を思い出せずにいて……それが誰のことなのかを考えようとするが、私の頭の中からはその人物の記憶が一切消えてしまっていたのである。そして私は何も考えることが出来ずに立ち尽くす事しかできなくなってしまったのだ。するとその私の前に突然……一人の少女が現れて私に対して笑いかけてくる。


私はそんな光景を見て私はその少女に対して笑みを浮かべる事が出来たのであった。


(ありがとう……。)私は無意識のうちに彼女にお礼を言いながら……。


(この子を助けられただけでも私はこの世界にきた価値があったというものなのだろうか……。私に出来る事はこれで終わり……。私ができる事は何もなくなった。だからこれでお別れかな……。私もそろそろ……行かないと……。あの子の所へ……戻らないと……ね……。)


私は目を覚ますとすぐに着替えを済ませるとすぐに村を出て、リデアが暮らしていた村に転移魔法を使い向かおうとする。だが、私が村の外へと出ると村が大変なことになっていた事に気がつき私は急いで村の中に入るとリリアの元へ駆け寄る。そこで目にしたのは、村人達とリディア達が戦っているという悲惨な状況だった。私はその村人達を全員斬り殺していく。


(早く村から出ていけ。リデアの仇がお前達の相手などするわけないだろうが。)私は心の中で悪態をつく。そして私の姿を捉えた村人たちは私を攻撃し始める。だが、私が敵と認識した者達を殺せるのならば私は何でも構わなかったのである。私は村人たちを殺していき……そのあと、私は村人達の中に混ざっているリデアの姿を見つける。


(……よかった。間に合ったみたいだね……。ごめんね。私の事……恨んでもいいよ……。)私は剣を握る力を強めるとリデアの心臓を突き刺す。リデアは血を流しながらも必死に私の名前を呼ぼうとしていた……。


(なんで私なんかに……。私は、もうあなたに合わせる顔がないっていうのに……。)私は心の中だけでリディアに声をかけると、自分の体が光り出すのを感じる。


「……あ、やっと来てくれたんですか?待ちわびましたよ……。」


リデアを刺し終えた瞬間、私は目の前に現れた女性に驚く。だがそんな私とは対照的にリデアを刺し殺した人物は、現れた女性が私の方を見ると微笑む。そんな出来事が起きているのに関わらず、私は目の前の女性に見惚れてしまっていた。


「……ああ!私の事は気にしなくてもいいですよ……。少しすれば治しますから……心配しないでください……。それでですね……。一つ提案があるんですよ……。この世界から私達二人で抜け出さないですか?」


(……なんで、私を殺そうとしていた奴が……いきなり、こんなこと言ってるんだ……?こいつは本当に……あの女の仲間じゃない……?でも……もし違うとしたら……こいつを野放しにした時点でリデアの死を冒涜したようなものだ。それにこいつもここで逃せば危険すぎるし……。それにこいつを逃がしたところで、きっとこの世界から逃げることは容易ではないはずだ。だったらこいつだけは絶対にこの世界から出してはいけない。こいつだけは!私が倒さなければいけないんだ……!!こいつを倒すために……私がいるんじゃないのか!?)


私はその事を考えると迷うことはなかった。


(そう……。私にはまだやるべきことがあるんだから……だから……邪魔は……許さない……)「私を殺す気なんだ……?」


(この人もやっぱりリディアとおんなじ……。結局皆、同じことしかしない……。だけど、それでもいい。だってもう私には関係ないことなんだもん。この世界に来て、いろんなことがあった。それは私にとってもいい経験になったと思う。でも……もう私はあの子に会いたい。もうこれ以上私は傷つくつもりはないんだから!あの子を死なせた私にはもう、幸せになる資格も、資格を得る努力をする必要すらも無い。だけど私は今ここにいる!だからもういいんだよ……。)


「あなたに私を裁く権利なんてありません。私達はただ、リデアに会いたいだけなので。ですのでここから先に私が進む道も、あなたの進む道にも何が待っていてもその全てを破壊していきます!」


そして私はこの世界の自分に負けることなく私は彼女と戦うことを決意したのであった。


私の名前はリデア。今は亡き元魔王の配下である最強の四天王の一人である。私の能力はこの世のありとあらゆる物を切り裂くことのできる武器を作り出す事が出来るというものである。だが私は自分が最強であると思い上がっていた。その傲慢さが原因でリデアが殺された後もリディアのことを見下し続けた。その結果私はリディアから逃げ続けた。だけど、私が逃げたところでもうこの世界に私の居場所は無かったのかもしれない。だけど、リデアに私の罪がなくなるわけではないのなら……私はこれからどうしたら良いのかを考えた。


(……私には戦うことくらいしか能が無い……。それしかできないのであれば、それを全力で行うしかない。でも私には、この世界で生きていくために必要な強さもない。それは私自身がよく分かっていることなのだ……。だったらせめて……最後まで戦って……死ぬべきなんだと思う……。でも……怖い。私は……もう戦いたくない……。あんな思いをするのはもう嫌……。誰か助けて……。)


「私に勝てるとでも思ってるの?」「……あなたは……私が殺す……。もう二度と……リデアと同じ失敗をする訳にはいかない……!」


その言葉を聞くと彼女は不適な笑みを浮かべると私に近づいて来ると……私を殺しに来る。それに対して私は自分の作り出した大鎌を構えるのだが……次の瞬間に私が持っていた大鎌を簡単に砕いてしまうと彼女は私に向かって蹴りを入れてきて私の意識を飛ばすことに成功するのであった。


私はその一撃によって完全に意識を失ってしまい……。私はその場に倒れると彼女はそのまま私の事を放置してどこかへと去っていく。そしてそれからしばらくして、私の元に彼女が現れる。


その人物とは、先程私と戦って敗北した人物であり、私は彼女を警戒するように見つめる。そんな私の視線に気がつくと、私の方を見て「あれ?意外にタフなんだね。」と言い放つのである。その言葉を聞いた時、彼女の言っている意味を理解することができなかった。


(どうして……。私は確かにあの娘に負けたはずなのに……。)


私は動揺を隠せない様子でいた。そんな私の様子を気にする事もなく、その少女は自分の名前を告げるのであった。


「初めまして。リディア・クラウンと申します。よろしくお願いしますね……。」


私はその少女に目を奪われることになる。何故ならば、彼女はリディアの外見をしていたからである。その事に私は混乱しているとリリアが私の目の前に現れると、「……どういうつもりなの……。」「えっ……。何を言って……。」「ふざけているのかと聞いているのです。」


そのリディアの一言を聞いて……私が何かしてしまったのかと考えると不安になり……。思わず、私の瞳には涙を浮かべてしまった。するとそんな私の表情を見たリディアは私のことを優しく抱きしめてくれた。私はその時、私はリディアに助けられたのかと思って安心すると……。私の口からは無意識のうちにある名前がこぼれ落ちていた。


それは私の本心だったのであろう。


私の本心から出た言葉を聞いたリディアの反応を見た時に、私は自分が犯していた過ちに気づくことになった。


私が口にした名前というのは……私の大切な妹の名前だったからだ。リディアはその事を知っているはずがないというのに……。そんなことを考えていた私の頭を撫でながらリデアに質問をすると……。その少女を私の代わりにリデアとして育てると言って来たのだ。そんなリデアに対して私はすぐに反対しようとしたが……そんな私の口を抑え込むと私に笑顔を見せて「大丈夫ですよ……。あなたに……私とこの子が育ててきたものを預けようと思います。だから、私とこの子の事を信じてください。」と言ってくるのであった。私はその言葉を言われた瞬間、この人は私の妹の事を……知っているのではないかと考えてしまった。


その可能性にたどり着いた私だったが、リデアが本当にあの子の生まれ変わりならば、この子は私達の本当の子供であり……この子にあの時の記憶はないはず……。私はリディアがなぜあの子の事を覚えていないはずのリデアが……あの子の事を言えるのかという疑問が解けずにいたが、それよりもまずはこの子にリデアを殺されるわけにはいかないと思ったのである。そのため私はその子をリディアに任せる事にした。


(リディアが私を殺せるだけの力を身につけるまで、私がリディアを守らなければ……。リディアが私の元を離れなければならない日が来るまで……。)


私がリデアにリデアを頼むと言った瞬間、私はなぜかとても胸が痛む。だが私はその感情を振り払うかのようにその事に気づかないフリをして、その場から去っていくリデアを見送ったのである。その事でリデアがいなくなった私はこれからリデアの身に起こるであろう運命を考えながら……。


(私のリデアを……守らないと……。リデア……。ごめんなさい……。あなたを助けるために私は……この世界から消え去ることにします……。ごめんね……。こんな私を許してくれるのなら……。あの子だけでも幸せにしてあげて……。)


こうして……私は自らの命と引き換えにしてリデアを守る事に成功し……そして……世界から姿を消すことになる……。だが、この時既に……この世界は狂い始めていた。


俺の名前は久遠。俺は突然、この世界に渡って来てしまい……この世界で暮らしている。そんな中で俺はリリィと仲良くなった後に結人の家で生活をするようになる。そして、その家で生活する事になってしばらくした後でリリアさんがやって来た。リリィはどうやらリアナさんと一緒に出かけており家にいなかったため、リリアさんの事を迎え入れることになったのだが……その際に俺は……目の前にいる女性と話をする事になる。そしてそこで俺はこの人がこの世界で誰なのかということがなんとなくわかったような気がした。その事からリリアにこの世界ではどのような立ち位置で存在しているのだと聞くとリリアはこの世界を救おうとしている人物の一人だということが判明する。


そして……それから数日が経過した頃……。この世界に存在する魔王と呼ばれる存在の配下の者による侵略が始まることになる。それに対抗する為の準備を整える為に、この世界の魔王の力を手に入れるために行動を始めるのであった。


私は、リディアという娘を見つめる。私が見つられている事に気づいたリディアは何があったのかを聞こうとした。


「あの……。私の顔に何かついていますか?」


(やはり……あの時出会った女の子に似ている……。まさか……。でも、私の勘違いかもしれませんし……今は何も言えないでしょう……。)


そう思いつつも……どうしても気になってしまうので私はこの世界に戻ってきた後にあった出来事を話すことにしたのである。


「私はこの世界に来た時、一人の少女と出会うことになりました。その子は私よりも幼かったんですが、それでも、しっかりとした芯のある子だと思い、少しの間、一緒に生活することになりました。その少女はリデアと言う名前なのですが、どうも私はその子のことが好きになってしまったようで……。私は自分の娘のようにリデアの事を大切に思っているのです……。でもリディアは私のことを母親としてしか見ることが出来ない。だから私達は別々の時間を歩むようになり……私は、元の世界に戻ることになるはずだった。だけど私はリデアを手放すことができず……私は、リデアと共にこの世界で暮らし続ける覚悟を決めた。リディアが幸せになるまで私が面倒を見るつもりで……。リディアは私の大切な子供ですから……。ですが……。私とリディアの幸せは、ある日を境に失われることになりました……。」


私が話を終えるとその事を聞いていたリリアとこの場にいたレイとリディアの3人共、私に対して哀れみの表情を浮かべていた。だが……その表情を見た時……私が一体何が可笑しいのですかと言いたくなったが、そんな私にこの世界を救う救世主であるこの三人にそんな無礼な事をいうことはできなかったのである。


私がリデアに抱いている感情の正体が何なのかがわからず私は戸惑っていた。そんな私の気持ちを知らずに私達の間に沈黙が訪れる。その事に対して、私は耐えきることが出来ずに、その静寂を破ったのだった。


「あぁ……。もう、この話はやめましょう……。それより、この世界で今、起きている問題についての話をしましょう……。私はその問題を解決するために協力しなければいけないようですね……。それに……。私はリディアを元いた世界に戻さなければならない……。私としたことが……。リディアと離れることを怖れてばかりいた……。もうこれ以上私の娘を失いたくない……だから……。私はこの世界から去ります……。リディアには……私と暮らしていた記憶はないはず……。私はリディアのことを見守っているから……。」


私がリディアに伝えたのは……自分がもう二度とこの世界に戻ってこれないということを悟ると、私の娘を元の世界に返さないといけないと決意を固めたのであった。私は自分の気持ちを切り替えるためにもこの家をあとにしようと立ち上がり部屋をあとにしようとすると、リデアに呼び止められる。


「待って!ママ……。私は……。私も……。その世界に行く……。そして……そのリディアという人を……。ううん。その人は私じゃないのよね……。じゃあ……その人のこと……守る……。そして、その人も……私と同じように、辛い目にあっているんだと思う……。きっとその人も私のことを家族だと思ってくれているはずだから……。」


私達がその話をしている間にいつの間にか帰ってきたリリアによってその話が中断され……私は結局、リデアの言葉に対して何も言い返すことが出来なかったのである。その事で私はリデアとの距離がさらに離れて行ってしまったのではないかと不安に思ったのだが……その数日後に、再びリデアの方から私の所に来てくれた。


私はその時に私に話しかけてくれたリデアの様子を見て……。やはり、私達の愛娘のリデアはリデアであり、私とリデアと過ごした思い出は確かに存在するのだと思うことが出来たのであった。


私は、リディアを連れてリリアの元まで戻るとリディアと話すことになった。だがその前に私はあることを決めており……この村を出るとリディアに伝えると、その言葉を聞いて驚くリディアはどうしてそんなことを言うのかを聞いてきたのである。私はその言葉を聞いてこの子を危険に晒すわけにはいかないと思い、自分がどうしてこのようなことを言ったのかを説明する事にした。


私がリディアと別れて旅に出ようと決心したのは、私自身がリディアに必要以上の関わり合いを持ち過ぎてしまうことを恐れたためだった。もしも、私のせいであの子に不幸が訪れてしまうのではないかと考えてしまったのだ。


そして、私はあの子のことを思うならば、あの子のそばを離れるべきなのではないかと考えたのである。


私はそんな風に考えていたのであったが……リディアが自分と一緒に行きたいと言っているのでリディアに私と一緒に行こうと言ってくる。


私は、その言葉を聞いた瞬間に嬉しくなってしまい、リディアの手を取り……抱き締めた。私はその時、心の底からリディアと離別するのであればこのまま共に過ごしたいという感情に襲われ、私はこの世界に来る前に出会ったあの子に……リデアにもう一度会いたいと願ってしまうのであった。そんな私の様子を不思議そうな顔をしてみていたリディアに対して私はあの子の事を覚えているかを確認すると、「覚えていませんけど……なんだか心が落ち着く感じで……。ずっと前から知っているように思える。不思議な子で……。」と私に言ってくれる。


私はその時、あの子の事を思い浮かべながらも、私達の娘であるリデアをこの子の事をお願いしますと言って私はリディアをリリアに任せる事にする。私は、あの子の事が心配だったが……私にはこの世界にいる人たちのことも守らないといけない。


そう考えた私は、私は自分の娘に私のことを頼んでその場を去ろうとすると、リディアに呼び止めれたのである。


「あの……。その……。お父様とお母様に迷惑をかけてごめんなさい……。私は……二人の邪魔をしないようにするので……二人だけで……この世界を救えるといいと思います。私にとってこの世界はとても大切で……。私を受け入れてくれる世界だから……。だから……。その世界のために戦ってくれる二人がいて……。私……とっても幸せです……。だから……ありがとう……。私……リデアっていう子に会うことができたらいいなと思ってます……。会えないとしても……。少しでも私を助けてくれるかもしれない人に……。」


そう言った後に泣き始めたリディアは私達の前で泣いてしまいそうになりながら笑顔を作り続けてこう言うのだった。


「本当にありがとうございます。こんなに幸せなことはありません。」


(……そうね。あの時の子はやっぱりリデアではないわね……。だってあんなに強い力を秘めていて優しい性格をしていたもの。でも似ている部分もあるわね……。そして、私が一番恐れていたことをあの子がしてくれるとは思わなかったわね……。この子が私の本当の娘になってくれたら嬉しいんですが、まだ早いでしょう……。)


私がそう思っていると……リデアと瓜二つの少女は私達にお礼を言った後に涙を流す。私はその事を見ながらこの子とはいつか出会える気がすると予感を感じていた。それは私の思い違いかも知れないけれど、何故か確信を持てたので……私も私の娘になるべき人物に出会うことが出来るだろうと思った。そして……この少女は私にとっては娘も同然なのだからこの子を守らなくてはと心に誓った。


こうして私はリディアが私の所に来てから約半年が経過した頃に……私の娘として育てるとリディアの事をリリアに託してこの世界から去ることにした。


私達はリディアと一緒に暮らし始めてから、この世界から消え去った魔王と呼ばれる者を倒すために、魔王が現れると言われるダンジョンを探し回っていたのである。だが、魔王が現れてからこの世界の人々の間で様々な異変が起き始めていたのである。この世界での食料が急激に減り始めてしまい、人々が飢えで苦しむようになる。だがこの世界での食材は私達では手に負えずに私達では全く手がつけられずにいたのであった。


この世界で起きる異変について調べていく内にこの世界の人々の生活にも変化が生じ始める。人々は突然の体調不良を訴え始めるようになったのであった。私達で対処ができないことを悟った私は、元いた世界にこの異変を引き起こしたと思われる者を戻す方法がないのかを考える。


だが、その方法を考えても答えが出なかったので……元いた世界に戻れる方法があるかどうかを探す旅に出ることに決めたのであった。リデアを元の世界に戻したいという思いが私を強くさせ、今まで以上の力を手に入れようと私は努力をすることになる。リリアとリデアに別れを告げた私はリデアを元の世界に戻す手がかりを探して私は再び世界を渡り歩き始めることになるのであった。だが私は、リデアの事を思い出す度に胸が痛くなるのであった。そんな気持ちを押し殺しながらも、私とリデアは出会うことができると信じるしかない。


私と別れた後で、レイも何か思うことがあったようで……レイもまたリデアのいる世界に向かうことを決意したようだった。レイの話を聞かないままに、レイはこの世界の事を私よりも詳しく知っていそうなのでレイに聞くことに決める。そして……私達はレイの話を聞く為に、レイの元に訪れようとしたのであったが……その途中でレイの仲間と出会うことになったのである。そこで私達はレイとその仲間から話を聞き、この世界に起きていた事を知る事になったのだった……。その話の中で私は気になった事があった……。それは魔王と呼ばれている存在の力が増し続けているという事実を知り、私が出会った魔人と言う名の化け物がその魔王の手によって生み出されている事実を知った私は魔王の事を倒さなければならないと強く思ったのである。


「私はこの世界を一度見渡す必要があると思っている。その方が効率がいいからな……。それと私は元いた世界に帰るための方法がないかも確認しておきたい……。だから私は元いた世界に帰るために行動するよ。この世界にはまだ残っている人々がいるからな……。それに……この世界の住人には世話になっている。私もこの世界を守りたいと思う。それに私とリディアには繋がりがあるようだ。その事もあって、私は……この世界に留まろうと決めたんだ。」


私はこの世界の人々の事を思い出しながら、リディアと共に旅をしてきたことを振り返り……この世界を救うことを決めた。私がそう決心していると、私達の話を真剣に聞いてくれていたレイは、しばらく沈黙した後、ゆっくりと立ち上がり私に向けて話しかけてきた。


「僕も同じだ。僕もここに残りたいと考えて……その理由は僕の故郷にこの事態を招いた可能性があるからだ。もしそうだとしたら……その元凶となった奴を見つけ出して……倒すと僕は誓おう。……それが例え……親父や師匠と戦わないといけなくなったとしても……。」


その言葉を言ったレイの瞳を見て……覚悟を決めている事がわかった私はその言葉で納得し……リデアにレイが付いていく事に反対されなければ一緒に連れて行くのもありだと思い、私はレイにリデアがどうしているのか尋ねる事にする。するとその質問に対しての回答はすぐに得られたのであった。


「姉さんは元気だよ。今頃……あの人とどこかでお茶でも飲んでいるんじゃないかな……。今は少し疲れたって言っているんだけど……。でも、最近は……前よりもよく笑うようになっているんだ。姉さんの友達と会えたことが良かったみたい。あの人は、姉さんのことを大切に思っていてね……。本当に姉さんの事が好きでたまらないみたいなんだ……。」


リディアの様子を聞いて安心することができた私だったが、その時にリデアの様子が変わってきているという話を聞いたのである。リデアの様子は……私のよく知っているリデアとはあまりに違っていた。


私はその時にそのリデアがどのような人物なのかがとても知りたかったのだが……その事は誰にも話すつもりはなく……私とレイだけしか知らない事にした。


その後……私はこの世界に来る前に、この世界を滅ぼそうとした者のことを思い出す……。


「あの時現れたあの男はなんなんだ? あの男の魔力は尋常じゃないくらいに強くなっていた……。あれほどの強さを持った男が魔王でないはずが無いだろう……。しかもあの時は、リディアとレイが協力しても勝てるかどうかわからないような状況になっていたはずだ。そんな相手が……どうしてこの世界に現れて暴れている? あの男が現れた場所は確か……。そう……あの時……魔王が現れると言われた場所に近いところだったな……。まさか魔王の正体があの時の男だとは……。」


私は、その時の出来事を振り返ると……どうしても疑問点が生まれてしまう……。それは何故……あそこまで強い者がわざわざ人間を滅ぼす為に魔王という悪役を演じていたということだ。確かに……私も自分の強さを見せつけるような態度をわざとらしく見せつけるようにしていた。だがあの行動には意味があるのではないかと考えてしまう……。


(あの男の実力はおそらく……私達が束になっても……傷すら付けられない程に高いのであろう。そんな相手であれば……私達を殺すことなど容易かったはずである。それなのに……。あの男は……一体何を考えているのだ?)


私には、その謎だけが頭から離れなくなるが、これ以上考えても意味はないと判断した私は、考えるのを止めてこれからの事を考えることにするのであった。


私がそう決意するとリリア達からこの世界には私達ではどうしようもない異変を解決できる者達が存在すると言われ、その人達の手助けをして貰う事になり、この世界にあるダンジョンの場所がわかると、私はリディア達にその場所を教えるとリディア達にこの場所に行って欲しいと言ってお願いをする。


「ダンジョンに行く理由は簡単です。そこに私の知り合いと妹がいて……私の大切な仲間もそこにはいるんです。私の大事な家族達なので、どうか助けて欲しいんです。私の大切な家族のことはリデアと呼んでください。リデアはその人達の所に居ます。だから……」


「……リディアは私達の妹だからな。だからリデアのことは任せておいてくれ。そしてその人族達は必ずリデアを連れて帰ってきてやる。だから安心して待っていてほしい。」


私はリデアを頼んでから……この世界の魔王と呼ばれる者に会わなければならないと考え……私は元いた世界に帰る方法を探すために再びこの世界で旅を続けようと決めたのであった。リディアが私の事をお母様と呼んでいるのを聞き、嬉しく感じながら私はこの世界に転移魔法を使って戻ることにしたのであった。


(……そう言えばあの時も……。あの男が私の前に現れる前にも……こんな感覚を感じた事があったな……。その感覚と先程のリデアを見たときの感覚が似ている気がするが……。これはいったいどういうことだ……。それにあの時の男は私の前に突然現れ……この世界を滅ぼした……。だが……その目的が全くわからなかった。私の目から見るとあの男の目的は最初からリデアを助けるためだけに動いたように見えるが……。)……私の心の中には一つの疑念が生まれてしまっていたが……私の心の奥深くへと封印する事に決め、私は全てを振り払おうとする。そして私は再びリリアと話をすることにしたのである。


私はリディアにリデアのことを託した。そして……私はこの世界に来た際に訪れた場所にもう一度訪れることを決めてリディア達と一緒に元いた世界に戻るのであった。


私が元いた世界に戻り始めた時には既に魔王と呼ばれている者は私達の世界に来てしまっており、私が戻るのは少し遅れることになる。その間に魔王によって世界が危機に晒されようとしているのがわかり……私は再び戦うために魔王と呼ばれる者に会うために動き始めることにした。その事を伝えた後に私はこの世界を離れる。


だが私はその事を伝え終わった後に、あることを考え始めてしまったのである。その思いは、私達と一緒に旅をしていたリデアが、私が元いた世界に戻ると……魔王と呼ばれる者の元にいるのではないかという考えが頭の中に浮かび上がる……。その考えが頭から離れることはなかったが……それでも私は元の世界に急いで帰ることにしたのであった。


私は元の世界に戻ろうとしたが……リデアに魔王の元へ行かないで欲しいと言われている以上……私はこの世界でリデアが無事なのかどうかを調べる必要があると判断をした私は、この世界で情報を集めていくと、この世界にはまだ私とリデアの知人が生きているということがわかってきた。だが、その友人に事情を説明しても信じてもらえなかった上に、私がその世界に戻ろうとするのを引き止められてしまい……。仕方なく私は元の世界に帰れないかもしれないが、せめて元の世界がどうなっているのかを確かめるために、この世界のどこかに存在するらしいダンジョンをまず探すことに決めた。


私がその事を決めるとすぐに、この世界の情報を私にくれた女性を探し出して話を聞く事にしたのである。女性は私に対して警戒をしているが……この世界の事を詳しく知っているようなので私はその女性が私に協力してくれる可能性を感じ取り話しかける事に決めた。そして私とレイと女性はお互いに協力する事に決めると私達は早速ダンジョンを見つける事にする。ダンジョンがある場所について聞き出すことに成功した私達はその女性の住んでいる家に向かう。


私はその家に辿り着くと扉を開き中に足を踏み入れる。私が訪れた家の中に入ると一人の少女の姿があったのである。その髪は白く美しい髪をしており……その姿は、レイが可愛くなってしまったような容姿をしていた。私は目の前にいた少女を見て、この子から何か力のようなものを感じ取ると、もしかしたらリデアと同じ異世界の住人ではないかと私は直感的に感じる事ができた。その事が分かったため、この子が何者で、どこからやって来たのかを確認するため、その女の子のステータスを見る。その結果は……やはりというべきか、その数値を見て驚きの表情を隠す事ができなかった。なぜならその表示されていた名前は、私の想像通りのものとなっており、その名前は……私の娘であるはずのリデア・ハーティスとなっていたからだ。


私は……この子のことが気になってしまい色々と話をしようとしたのだが……どうにもうまくいかなかったため……私はこの子と会話をすることをあきらめてレイと二人で話をしようと考えたが……なぜかレイはこの子と仲良くなって話をしていた。……どうしてそんなことができるんだろうと思ったが、もしかするとこの子は見た目よりも年上の可能性があるのではないかと思いつき、そのことを尋ねてみることにしたのである。その答えは驚くべきものであった。その返答を聞いた私には、目の前の少女が……私よりも年上のように思えてきて……私はこの世界の年齢についてはあまり興味が無かったのだが……目の前に立っているこの子が……何歳なのかがとても知りたくて仕方がなくなったのだった。


(……まさか……。この世界の年齢を気にしなくていいのに……どうして私は……そんなことを聞いてしまったんだ。本当にどうしてだ……。まさかリデアが……。そんなわけないか……。だって……この子にはまだこの世界に来る理由がないだろう……。もし来るとすれば、それは……この子が成長してからの話のはずだ……。まだ……あの子が大きくなるまでには……時間がたくさん残っているはず……。)


それからしばらくすると、ようやく話が一段落したようであった。だがそこで問題が発生する。


その問題を起こした原因は、リデアの妹だという人物が急に現れて私達に挨拶をしてきたのだ。


だが……リディアの妹は……どう見ても十代にしか見えない姿をしていたのである。そして私の方を見ると……何故か私の方を睨んできたので、その視線が私には嫌で、その視線から逃げようとしたがその行動が更に悪手となってしまったのだろう……。そのリディアの妹と思われる人物からはとんでもない一言を聞かされたのである。


「……リディアお姉ちゃんのお父さんってことは……。つまりこの人が私のお母さんになるんですね……。でも、私のママにはなりませんよね……。絶対に、私がお姉ちゃんをこの人から奪ってあげますから……。その時が来るまで、せいぜい待っていてくださいね?」


私はこの言葉を聞いた瞬間……体が固まってしまう。


(……なんだと……。この子は一体何を言った? 私の耳が悪くなったんじゃないよな?……うん……多分大丈夫だよな……。そんなはずない……。そんな事は……。ないはずだ……。そう……そんな事があるはずがない……。)


「あら……。リデアの妹さんは随分立派ですね。流石は私の娘です。あなたのような立派なお嫁さんになれれば……。きっと幸せになれると思いますよ。私にはわかるんですよ。あなたの本当の力が……。」


(……。……もうだめかもしれない……。)


その後、私達の様子を見ていたリデアはリデアで、もう一人の女性と一緒に買い物に出掛けていき私だけが取り残される。そんな状況の中……私にリデアの妹を名乗る謎の女性が近づいてきたのである。


「ねぇ、お父様。私はお母様が大好きなんですよ。」


「そ、そうなのですか……。それはとても嬉しいのですが……。なぜ……そのようにお父様とお呼びするのでしょうか……。私はあなたからすれば父親ではありませんので……。」


私と娘の会話を邪魔しないために離れていてくれたレイは、私のそばに来てくれた後、娘に声をかける。「こんにちわ、リディアの妹君……。私のことはレイと呼んでくれればいいですよ。私達と友達になってくれるとうれしいんだけど、どうだろうか?」


「……。私と友達になりたいのですか……。まぁ……。私は優しいですから。友達くらいにはなれるでしょう。私はお父様にもお母様の事を相談しようと思っているだけですから……。それにしても、やっぱりお母様なのは変わりませんか……。はぁ……。そう言えば……私は名乗った覚えはないんですけど……。どうして私の名前を知っていたのかな?」


私はこの時、リデアの妹の事をじっと見つめるが、何もわからない。私はリデアから名前を聞いていないのだから、この子がいったいどういう人間でどこから来たのかが全くわからなかったのである。


(リデアが言っていた妹……。私の目の前にいるのは……リデアが元いた世界からの転生者ではないようだが……どういう意味なんだろうか。それにしては若すぎる気もするが……。そもそも私は、リデアと会っている時に一度会っているんだよな……。でもあの時は普通の子供にしか見えなかったが……。うーん……全く思い出せない……。でも確かにどこかであったことがある気がする……。だけどこの世界で会えるはずもない……。なのに私達の世界とは違うこの世界で会うのは偶然なのか?)


レイが話しかけると、先程とはまるで違い、明るい声でレイの言葉に答え始めるリディアの妹。私は二人の様子を見ながら考え込む。リデアの妹がこの世界でどのような人生を歩んでいたのかは全く知らないのだから当然なのだが……この世界の事を知ろうとしない限り、この世界でのリディアの事を知ることは不可能だと思った私はレイに頼み込んで二人と一緒に出かけることにし、三人は仲良く手を繋ぎ歩き始める。……だがその途中で……レイは突然私に助けを求めるような顔をしてくる。私は何があったのかと思いそのレイが見ている方向を見てみると……どうやらレイの知り合いらしい少女がレイに話しかけてきたらしいのだ。レイはその相手に困っており私に向かってお願いをしてきていたので……私はそのレイを助けてあげる事にする。


私達がその少女と話している時もレイはこちらに視線を送ってきて、私とレイでレイをかばおうとしていると、その女の子が急に私とリデアの関係を疑ってきたため……私はこの子がリデアが話してくれたことのあるレイの姉だと気づいたのである。私はその事を告げるとその子はとても驚いた様子を見せるが、その後、私と話をした後すぐにレイに抱きつき……その様子を見て、私達二人は少しの間だけその場を離れた。それから私は……この子から色々とこの世界のことを尋ねていく事にしたのである。……だが……私にとってその質問は……あまりにも残酷なものばかりであり、私はすぐに話を切り上げると……この子との会話を諦める事にした。この子と話していく内に……どうしても気になってしまうことがいくつもあったので……まずはこの子の母親と父親の事を聞くことにしたのだった。


私が母親と父親はどこにいるのかと尋ねると、レイの姉の態度が一瞬変わったのを私は見逃さなかった。そしてその表情を見た瞬間、この子から漂う異様な空気の変化を感じた事で、私はある仮説を立ててしまう。そして私がそんな事を考えている間にも会話が続き、どうやらレイとその姉の両親が結婚する事になったという情報を聞き出せたので私が嬉しく思っている時だったのだ。レイの姉が急にレイの腕を掴み、そしてこう言い放ったのだ。…………「お姉ちゃんの事をよろしくお願いしますね。あと……。私があなたの事をパパと呼ぶまでは……死んじゃ駄目だよ? それじゃあね!」と言って消えていったのである……。


その後、しばらくしてから私達は合流する事になったのだがそこで起きたことを久遠に伝えるために久遠の方へと駆け出す。だが、なぜか私は足取りが重くなっていた。その理由は自分でも分からない。でも何故か私の体は……何かから逃げるように走っているのである。……私達は合流してからもしばらく移動を続けたのだが……私達の前に、その何かが立ちふさがり……それは現れた。その何かの正体は……。……私の娘、リデアの妹の姿なのである。その表情はなぜか笑顔で私を見つめていた。その表情を見て……私は背筋が凍りついてしまい動けなくなってしまった。するとリデアの妹と思われる少女が……リディアに向けてこんな言葉を告げたのであった。


「やっと追いついた……。ねぇ、ママ……。私の事を愛してくれているなら、ママの手で私を殺してくれるよね?」


そう言った後、私に対して攻撃を仕掛けてくるリディア。その攻撃を防ぐと、私は目の前の少女に対して声をかけるが……目の前の少女から返事はなくただただ無表情に剣を振ってくるだけであった。その姿が恐ろしかったのと同時に……悲しくなった私はリデアの妹が持っていた魔剣を奪うと、自分の手で娘を殺すという決断をする。


(もう……。私にはこれしか残されていないんだ……。……せめて最後に娘との絆だけは断ち切らないようにしてあげたかった……。でも……。ごめんなさい。私はあなたを助けることができないの。だからどうか私を許さないで欲しい。許さなくても構わないから、この世界に縛られず自由に生きてほしいの……。本当に……。本当に……。私は親として何もしてあげられなかった。あなたには、幸せになってほしかったのに……。でも、そんな私を、恨んでくれてもいい。……あなたを殺したのは、あなたじゃないのだから……。)


リデアの妹は魔剣の力によって私を攻撃してきていて……私はその攻撃をなんとか防ぐことしかできないのだが……。リデアの妹は私を殺そうとしているわけではなく、その目からは涙が流れており……私はその涙を流して苦しむリデアの妹を見て胸を痛めていた。そして、そんな状態がしばらく続いたある時……リデアの妹の様子が一変して、その体からは黒いオーラのような物が出現し始める。


(……まずい。あの力は……。あの子の感情の高ぶりによって引き出された力……。あの力を解放させるわけにはいかない! 私は……。私はリデアの事を救いたいんだから!!)


そして私もリデアの妹と同じ魔剣を出現させると、私はその二つの力で戦いを始めた。だが、私とこの子では持っている魔力の量が違いすぎる……。このまま続けていれば……いずれ私の方が押される……。だから……。私は覚悟を決めた……。


「ごめんね……。でもあなたを救う方法はこれしかないから……。」


「どうして!? お母様が死ぬ必要はないんだよ!?」


「……いいえ、これは必要のあることなの。」


「お母様まで……。みんな……お父様がいなくなったせいで狂ってしまったんだ……。どうして……私だけが残されたんだろう……。……もういいや……。私にはまだこの剣があるから……。もう……私は負けるわけにはいかなくなった……。お母様の事は大好きだし……殺したくはなかったんだけど……お母様が悪いんですよ?」


リデアの妹は私の目の前で黒い霧のようなものを放出し始め……その霧に呑み込まれた私の意識は段々と薄れて行く……。そんな状態の中、私の視界の中に映るリデアの妹は、私を優しく見つめていた。そんな姿を見た後……私の視界は暗闇に包まれていき、その闇の奥底で誰かが泣いていた。それは誰なのだろうか。私ではないことは確かだが……とても大事な人であることは分かる……。でも、それが誰かはわからない。私はそんな誰かのそばに行ってあげようと必死に手を伸ばした。でも私の手は何も掴めず、ただ虚空を切っていて……そのまま私の視界も暗転していき、私と私の愛する娘の二人きりの世界になってしまったのだった……。


リデアのお母さんとの戦いに決着をつけるべく、僕達は再び全力を出し始める。だが僕の頭の中でずっと引っかかっていたことがある……。この世界でリデアの母と初めて会った時の違和感……。僕はそれに今気づいたのだった。だが……そんな事を気にしていたのでは、きっとリデアのお母様と戦う事など不可能になる。だから……今はリデアの事に集中しなければならないと僕は思った。そして……ついにその時が訪れる。リデアの母の体にヒビが入り、そしてその体が壊れ始めると……。その体は粉々になり、砂となり消えて無くなったのである……。それと同時にリデアが持っていたもう一つの魔剣も消滅してしまう。そしてその瞬間に、クレアさんとレイもその場に崩れ落ちる。僕は慌てて倒れそうになる二人の体を支えると、レイは息絶え絶えに言葉を口にした。「リディアを……。救えなかったか……。やはり君達に任せるべきではなかったな……。すまない。後は頼んだよ……。」


レイがそこまで言って気絶すると、クレアさんも同じように地面に倒れ込み、そして目を閉じてしまったのである。


(くそっ……。何が起きてるのか全くわからない……。だけど、とりあえずレイ達を助けないと……。って……この2人……。こんなに軽いのか?)


レイ達の体を抱えながら……僕はレイ達がこの世界に来てからどれくらい経過したのか考えていた。リディアの母と戦っていた時は……すでにこの世界に来て1ヶ月が経過していたが、それでもこの世界で過ごしていた時とほとんど変わっていなかったのに……。なのに、なぜ今回はこの世界での生活時間と全く違っていて、しかもここまでレイ達の体重が軽くなっているのかが全く分からなかったのだ。


「結人くん、大丈夫かい?……リデアの事に関してはすまないが、私にも全く理解できていない。とにかくこの世界の事を知り尽くしている結人が来てくれて良かったよ。……さて、まずはリディアだ。リディアの所に連れて行ってくれないか?」と言うクレアさんの願いを聞くと……僕はレイ達に治癒魔術をかけ始めたのだった。


レイは先程から気になっていた事があったのだが……その事がどうしても気になったレイはレイの父に声をかけてみることにした。


だがレイが声を掛けようとした時にはすでにレイの父に近づこうとしている影があった。それは……この世界に存在するはずのない……魔王である。


「待て! 何者だ!!」レイは突然の出来事に思わず叫んでしまい……だが……そんな叫びなどまるで意味のないものだったらしく、魔王はそのままリデアの父親の元へと向かってしまう。


「お、おい。まさかとは思うが、あいつがこの世界を支配しているのか……。」


そう言いながら……リディアは急いでレイ達のもとを離れようとするが、リディアの腕を何者かが握った事でその行動を止められてしまう。


「ちょっと! どこにいくつもりなの!? 私と勝負するんじゃなかったの?」


その声の主はこの世界に存在しない……リデアの姉であった。その表情には、怒りがこもっているように見えるが……すぐにいつもの顔に戻り……


「お父様、どうなさります? この女を殺すかどうかの決定権は私にあるはずですけど……。」と言った。


(まずいな……。この女が本気で殺しに来たら俺に止める手段はないぞ……。)


「お前達の目的はなんだ!?」


「あなたがリデアちゃんに勝てた時に言うつもりだったのだけど……。あなた達のおかげで目的を果たすことができそうだわ。ありがとう。それじゃ、死んでちょうだい!」と言いながらその少女はリデアに向かって斬りかかってくるが……そんな少女の攻撃をあっさり防ぐ男。


「リディア。ここは下がっていなさい。私が戦おう。だが……。お前は少し勘違いをしているようだな。確かにこの世界に君臨する事が出来たのは私の力ではあるが……私だけでこの世界をどうにかできたわけではない……。この世界は私のものではなく、リデアが守ろうとしたものの形なのだろう……。それをお前は私のためにと言って破壊しようとしている……。リディアが望まなければ私は動かない……。だから私と戦いたいのであれば……。」


そう言うとリディアの父は突然姿を消してしまう……。


(なるほど……。あれが……リディアが恐れていた能力というわけか……。まずい……このままだとリディアの父親は確実にやられるぞ……。だが……。あの強さにあの技。どうやってリディアを倒すつもりなのだ……。そもそも……リディアがリディアの母との戦いであの力を使っていたのに、あの男が使っていないのはなぜか……。それに……)


そんな事を考えている間に……リデアの父はいつの間にかその姿を消したままの状態で、魔王とリデアのお姉さんの攻撃を全て避け続け、反撃の隙を伺っていたのだった。そして……。ついに魔王はその攻撃方法を見つけたのだった。それは……


(この攻撃なら……いける!!)と心の中で呟き……そしてリデアの父は動き出すのだった。だがそんな父の動きを予想していたかのように攻撃を避け続けるリデアのお母さん……。だがそんな状態が続くうちに……徐々にリデアのお父さんは追い込まれていき……そしてとうとうその腕に傷がつく事になる……。


だがその程度の攻撃では、当然のごとくリデアの母はすぐに体制を立て直してしまい……次の攻撃を仕掛けようとしていたが……そこでようやく……今まで黙っていた魔王は動いた。それはあまりにも速すぎて……レイでも目で追うことができないほどのスピードだったが……なんとかレイもその攻撃を見ることが出来たのだった。だが……魔王が次に見せたのは……そんな魔王の攻撃が当たるよりも遥かに速く動くことだった。そして……その瞬間に……全ての音は聞こえなくなり、そしてリデアの母の胸には深々と剣が突き刺さっていて……。リデアの母は口から血を流していた……。


リデアは今起こっている状況を理解したくなかった……。だがそんなリデアの心を砕くかのようにリデアの父親が言葉を吐き出した。


「これで終わりだ……。私の勝ちだよ。……君は私の娘ではないし……。娘には私のような親になって欲しくなかったんだ……。」


その瞬間に……リデアが感じていた恐怖や悲しみ、絶望などの感情全てが混ざり合い、感情が爆発したのだった。その結果、魔剣に纏っていた力は霧散してしまい、それと同時にリデアの姿は元の幼子へと戻ってしまう……。その姿を見た魔王は慌てて駆け寄ると、そのまま自分の胸の中にリデアを包み込んだのだった。その瞬間にリデアの意識は途切れてしまった……。


「あなたがリデアの母親を倒したの?」と僕はクレアさんを抱えて走り回りながら、レイに話しかける。しかし……。


『結人の疑問に答えろ。そしてその女を助けるためにはどうすればいい?』と頭の中から声が響き渡る……。そして僕の頭に響いた声でその事に気がついてくれたのか、その問いにレイは「ああ。私達の目的はリディアだ。そのために私達はこの世界に来るために必要となったものを、全て捨てる事になった……。つまり……リディアを取り戻すことさえできれば……後はどうなっても構わないと思っている。そして……君が私達の目的を知った以上はもう君を生かしておくことはできない。だから私も君も……今から殺し合う。そういうことになるね……。」と答えた。


『それで良い……。我を楽しませよ!!』と僕達を殺そうとしてくる黒い塊を……僕の魔術を使って次々と無に帰す。


「悪いが……今は君を殺させてもらうよ。だが君を殺しても……また君が現れてくることは知っている。だが……そんな事はもはや関係ない。私は君を殺すためだけの存在になったのだからね。結人……。今から私は君の体を乗っ取ることにする。そして……。私のこの体の力を存分に発揮して、私の目の前にいる敵を皆殺しにしてやる……。そしてその後……結人はこの世界に縛られながら生きていくといい……。そして私と一緒に、この世界が崩壊するその時までずっと二人で暮らせばいい。それが一番幸せだから……。私にとってこの世界での君との思い出が一番大切だから……私も君と同じ気持ちなんだよ……。さぁ……始めるよ。この体は完全に支配した……。これからは私の思うままに動かせてもらえる。そして結人も今から一緒に戦う仲間となる……。」とレイが言ったところで、僕はその言葉の意味がわかった……。それはこの世界にきてからずっとレイが言っていた言葉だった。


レイの体にリディアが取り憑いている……。それは、リディアが元々使っていた魔術なのか?……もしくは……。僕達がレイと戦った時のリディアの力を使ったのか……。それともそれ以前から、レイに取り憑くことで使えたのか……それは分からないけど……どちらにせよレイも……僕も死ぬ事は避けられないかもしれない。


「……分かった。だけどその前に……久遠のところに行こう。それから……」と言うが早いか……すでにレイは自分の影の中に入り込んでおり……そのせいもあってか……影が一瞬だけ波打ち揺れるが……すぐに静けさが戻っていき……久遠の元へと急ぐ……。


(なんなんだよ、これは……。なんなんだよ! あの2人が……いや3人か……。どうしてあの力がこんなにも簡単に……。これならまだリデアの方がよっぽど強い……。だけど……。それよりもこの力は一体なんだ……。リディアは……。いや違う……。問題はそんな事じゃない……。)


僕はその事について考えながらも、久遠のもとに辿り着くと……その腕を掴むと強引に引っ張っていく……。すると、突然背後の地面が大きく盛り上がり……そこからレイが出てきて……そのまま襲いかかってくるが……レイの攻撃を避けるとその攻撃をレイに当てるためにわざとリデアの父親から離れるように誘導する。だがそんな事を気にせずに攻撃を当てようとしてくるが……リデアの父親は突然レイの方を見て「……お前が相手か。リデアを返してもらうぞ。お前は私が直々に葬ってあげよう。」と言いながら再び姿を消した状態になると、レイに向かって攻撃をし始める。


(なるほど……。やはりリデアが持っている力と同じような力を持っているんだな……。だとしたら……この力に対抗する方法はあるのか?)と考えつつ、今度は自分を狙ってくる攻撃を必死に逃げ続ける。そしてそんな時だった。


「ちょっと待った!……その力にはもう対処済みなんですよ!」と言い、僕の手を掴みながらリディアが飛び出してきた。その途端に先程まで繰り広げられていた攻防が終わり……お互い距離を取って見つめあう。だが、そんな時に……突如リディアは僕の手を握る力を強めたかと思うと……僕の耳元に口を近づけてきて、小さな声で言うのだった。


「ごめんなさい。本当はもっと早くこうするべきだったのですが……。実はこの世界の魔王さんにお願いをして……。リデアと魔王さんの人格を1つにしたのです……。そうすればこの世界を破壊せずとも……。あなたが死にかければ、魔王さんが私達をこちらに連れてくることができます。ですが、リデアをこちらの世界へ連れて行く場合は……必ずこの世界で魔王を倒していなければなりません。そしてもし仮に倒さずに私達だけが連れていかれた場合、リデアの精神が崩壊してしまいます。ですから、リデアを救う為には魔王を倒すしかないのです……。私達ではリデアを取り返すことができても、魔王には敵わないですし……それならばいっそ魔王を倒してしまうほうが……。ですから魔王さんにこの世界を滅ぼさない事を条件としたのですが……。そのおかげでリデアと私を救い出せました……。」と話すのだった。


その話を聞き終わった後で……レイに近づき「大丈夫だったか? 一応、魔王と戦ってみて勝てるかどうか確かめたかったんだ……。」と聞く。すると……リディアの声で『私が戦えば確実に勝つことができるだろうが……』と魔王に話しかけた瞬間……リディアが僕達の視界から消えた……。


そして次に気がついたときには、リディアは魔王の腕に抱きつくような形で現れており……その事に驚く魔王だったが、そんな事を気にせずにリディアは「私達を救ってくれてありがとうございます。魔王さんのおかげで……リデアと私を取り戻せました……。このお礼は必ずします……。」と話しかける。


その言葉に対して、特に返事をすることもなくリディアを振り払おうとした魔王だったが、その事に気がつき、咄嵯に自分の能力を使いリディアを抱きしめるのだった。


そして、その様子を見た僕は……レイを追い詰めていこうとしたが……そんな時にレイが「まさか君達が来るとは思わなかった。これで私達は本当に二人だけだ。君を殺せば……この世界は私達のものになる……。君を殺してしまえば……。この世界の全ての命を私達が奪えることになる。これで君に勝ったようなものだ。結人とやら、残念だがここまでのようだ。私もリデアを取り戻すことが出来たし、これで私の目的は達成したと言ってもいいくらいだ。君は私の手で殺される事になる……。まぁ……。私の手で君が死ねば……。私は結人に体を乗っ取られる事になるが……。その時は君も私に乗っ取られないように注意することだな……。結人の体が壊れるのと同時に君が死んでしまう可能性もあるからね……。じゃあ……さよならだ……。」と言って姿を消した瞬間……僕はその場に崩れ落ちる……。


その様子を確認したレイが僕の体を無理やり起こし、地面に座り込んだ状態にしてから……リディアを連れて僕のもとを離れていく……。だがその瞬間に……僕は僕の中にあったはずの意識が失われていく事を感じ取った……。そのことに恐怖を覚えたが……もう何もできなかった……。ただ目の前が真っ暗になり……体の感覚も無くなっていき……。そしてそのまま暗闇の中に落ちていったのだった。


「久遠ちゃんの様子が変なのは分かっていますよね?」と久遠の手を引っ張っている俺に問いかけてくるが、俺は「そんなことはどうでも良いんです。とにかく……今は時間がないのです。……とりあえずリデアの家に急いで向かわないと……。そこで少し休んでもらってから……これからのことを考えたいと思っています。それで構いませんね?」と質問すると、「えぇ。」と答えてくれるので、その答えを聞くと同時に走り始める……。すると……後ろからレイの気配が感じ取れるが……今は無視するしかなかった……。


(レイの目的はなんだったんだろうか……。それに……リデアの力を奪っていたとしても……あんな風に簡単に操れるわけがないはず……。何か他に理由があるのかもしれない……。だけど今はまだ……その理由が分かっていない……。だけど……そんな事を考えている余裕もない。一刻も早く、リデアの元に戻らないと……。今の状態でレイが襲ってきたら……まず勝ち目はない……。そうなったらリデアは間違いなく取り返しがつかなくなるはずだ……。だからリデアが連れ去られる前になんとかリデアの元に戻る必要がある……。そのためにも今は急がないといけない……。リデアの家に向かうのも久遠と一緒に行かないと……久遠一人で家に帰らせたりしたら……またあの男達に襲われてしまう可能性が高い……。今なら久遠と一緒にいれば大丈夫だと思える……。だから今は久遠と一緒にいなければ……。)と考えつつ……俺は久遠の手を引いてリデアの家の前まで走る……。


その様子を確認するとレイも諦めてくれたようで、俺達が家に辿り着くまでずっと追いかけてこなかった。


「久遠……。さっきの事は覚えているか……? リデアに体を奪われそうになった時のことを……。そしてその時に俺が言った事も……覚えているよな……? 今から久遠は……この家で俺の帰りを待ってほしい。その間のことは……。久遠と一緒じゃないとダメなんだ。久遠と一緒じゃないと意味が無い。その事は……わかるよな? だから頼むよ。一緒にリデアを助け出してくれ……。お願いだよ……。」「わかりました……。分かりましたよ……。真也さん……。そんな顔をしないでくださいよ……。私だって嫌なんですよ? リデアと2人でいるなんて。……ですけどね、このまま放っておいたら大変なことになりますし……。私だってこんな事をしたくないですよ……。本当は。だけど……それでも……私の気持ちを優先してしまったらきっと取り返しがつかない事になってしまいます……。」と話す久遠の目からは涙が流れ落ちていた。


(……リデアが泣いてるところを見るのは初めてだな……。今までこんな姿を見たことは無かったけど……。こんなにも感情豊かになったリデアの姿を見ることができて良かった……。でもリデアの事が好きな久遠のこの様子から察するに、多分久遠にとって、このリデアが本物だと思えてるんだよな……。久遠に本当の姿を見せないために偽物のリデアを作ってまで隠している訳だし……。だからこそ久遠がこのリデアの事を大切にしてくれるように、リデアを幸せにしてやる事が何よりも優先すべき事だと思うんだけどな……俺。それに……そもそも今のリデアの状況を作った原因って……。やっぱりあの仮面の男か……。それとも魔王の奴が関係してるのか……。どちらにしても、リデアと魔王の関係が良くなった以上、今回の問題はあいつが原因のような気がしてきた……。魔王がこっちに来た時に、あいつが何かをしたからリデアの心が変化してしまって……。それを気にしていた魔王がこの世界を滅ぼすことになって……。……そんなの間違ってる。魔王が悪いとかそういうのはよく分からないけれど……。魔王の事情もわからないでもないから、その気持ちをどうにかしたいとは思ってた。……魔王がリデアのために世界を滅ぼしたくならないようにするには、もうリデアと魔王を仲良くさせてしまえばいいんじゃないか? それが正解かは知らないが……。俺はリデアにその事を聞こうと思い……久遠を置いてリデアの部屋に駆け込む。そこには俺の知っている部屋とほとんど変わりがなく……。違うところと言えば、俺の見ていないところで、久遠が掃除をしておいてくれて綺麗になっていたことと……部屋の片隅で眠っているリデアの姿があった。俺はリデアを揺すり起こし……。「起きろ! そして俺の話を聞いてくれ!」と言いながら何度も体を揺らすと、ようやく目覚めたリデアは寝ぼけ眼で俺を見て、不思議そうにしていると……。「おはようございます。リデア。よく眠れましたか?」と久遠が話しかける。そして、俺の横に久遠がいる事に気がついて驚いていたが……すぐに平静を取り戻してから久遠に「あぁ……。」と答えた後、俺に向かって「おはようございます。真也さん。私に会いにきてくれたのですか?」と話しかけた後……俺に抱きつきキスをするのだった。俺は突然の行動に対して反応出来ずに戸惑う。するとその様子を見かねたのだろう……久遠が俺達を無理やり引き剥がす。


そして「さぁ……。真也さん。説明しますので……私の部屋に来てください……。」と言われ……俺は久遠に連れられてリビングへ向かう。それから……リディアに魔王との関係について聞き出すのだが、「えぇ……。私は魔王のことが好きでした。好きでした。愛しておりました。しかし彼は既に他の女を愛していました。そして私は彼に捨てられました。私は……絶望しました。そんな私に手を差し伸べてきた人が居たので、私は彼についていきました。」と言った後に「これが私の全てなのですが、私はどうしたら良いでしょうか?」と聞いてきた。それに対して……俺は……言葉をかけることができなかった……。だが、そんな事を考える前に行動しなければいけないという事を思い出し、「ありがとうな……。」と言うと……久遠の部屋に向かう。だが……部屋の前にたどり着いた時だった。いきなり扉が開かれ……そこに魔王が現れる。魔王はそのまま無言のままリデアを抱き寄せるとそのまま自分の唇を重ねる。そして魔王の口が開くと……そこから舌が入り込み……激しいキスへと変わる。その行為に俺は言葉を失ってしまうが、なんとか言葉を紡ぎ出して……。「リデアはお前のものなのか……?」と聞く。


すると魔王はリデアの口を塞いだままこちらを向き「いや……。リデアは私のものでもある。そして……。君のものでもある……。だが今は……。私に譲ろう……。私達の関係をこれ以上悪化させないためにもね……。だから今日は君達にリデアを渡すつもりはないんだ。それに私はこの世界を滅ぼすと決めた……。もう君達ではどうしようもない状況になっている……。だから私に任せておくのが得策だ……。まぁ、私としてはリデアを取り返すための道具としてしか君達を見ていなかったが……。君達は私の目的のために役立つ存在となったからな……。これからは君達も守ってあげないとな……。」と言うと魔王が消えていく。俺は慌てて追おうとしたが……もう遅く……目の前にリデアが現れたかと思うと、次の瞬間に俺は気を失いかけるほどの衝撃を受けると、その場に崩れ落ちる……。目が覚めると目の前には俺を心配してくれるレイとリデアがいたが、その瞬間に……俺の中に違和感が生まれる……。その事に疑問を覚えた俺は2人に……「ここはどこだ? リデアの家はどこにある?」と聞いた。すると……レイは驚いた表情を浮かべると……俺に問いかけてくる……。「真也さん……。何で忘れたんですか? ここが自分の家で、あなたは昨日からここで暮らしていて、あなたが暮らしていた国の名前はニホンですけど……。」と話すが、それでもなお……俺の中にある記憶の欠片からリデアの家を見つけ出さなければならない。なぜならリデアの事をレイやレイナと同じくらい大切だと感じられるのに……なぜ、どうして思い出せない? 俺はレイの問いを無視して、必死に頭を抱え、思い出そうと努力を続ける……。すると……何か引っかかるものを感じ取るが……それを言葉にすることはできない……。ただその感覚を信じたままリデアの家を探すためだけに行動する……。


(……なんで真也が急に変わったのかわからない……。なんで……あんなに取り乱してるのかもわからない。でも……。なんで……あんな真也は嫌いになれないのかしらね……。だってあんなのおかしいでしょ……。私の家を探して、見つけるまでは帰るわけにはいかないなんて言ってさ……。私には分かるはずがないのにね……。だけど……そんな風に言われて嬉しくなってる私がいて、それで、その事に少しだけイラつく……。でも、そんな事を考えてる場合じゃないからね……。まずはこの問題を解決してからよ……。だから今は……リデアが心配……。さっきもレイが止めなければ、また無理矢理にリデアを奪っていくところだったでしょうから……。まずはその誤解を解かないと……。)


俺の様子がおかしくなった原因を考えつつ、なんとかリデアと2人きりになり、リデアに質問をするが……何も教えてもらえずにいたのである。その様子から……多分、今の状態で俺と会話してもまともに話が出来ないと思い……。一度この場を離れて……久遠と一緒にもう一度話を聞きに行くことにする。それから久遠に相談するが「うーん。そうなんですねぇ……。私も詳しい事情を聞かれた訳ではないのでわからないですし……私も魔王が関係していると思いますけどね。あの男は……。」と言われてしまい、さらに困ってしまう事になるが……。それでもリデアと話し合ってみる価値はあると思い、すぐに部屋を出て行ってリデアを探し始めるのだが……。見つからない。それどころか、リデアの家に辿り着いた時点で既に俺と久遠以外の皆は集まっている様子であったのだ。俺は仕方なく、とりあえず全員を集めてから考えることにしたのであるが……。


〜・〜 その後しばらくして全員が俺の部屋に集結すると、改めて状況を整理することにしたのだが……、結局リデアは魔王との過去については一切話すことは無かったが……。リデアの話を聞いて分かった事があったのでそれを説明することにした。まず、リデアには好きな男がいたが、その男にはすでに他に好きな女性がいたこと。その時にその好きな女性に振られたことで自暴自棄になったところを魔王につけ込まれて体を乗っ取られてしまった事を話す。その話を聞くと……。「つまり……、俺達が見たリデアの記憶は……。偽物では無かった訳か。なら、本物のリデアがどうなっているのかが問題だよな……。」と光一郎が呟くと、「そうね……。魔王の目的はよく分からないけれど……もし魔王の言った通り、世界が滅ぶのだとしたら早くしないと取り返しのつかないことになってしまうわ。……それはともかく……リデアの体は無事かしら……。やっぱり魔王の体を使っている以上、リデアの心まで侵食されていると考えるのが自然よね……。そして……私達でリデアを助ける事ができるのかしら……。そもそも、魔王の目的が分からないから、どう対処すれば良いかもわからない……。魔王がリデアを助けて、一体何の得があるというの……。」と言う久遠。俺はそんなみんなの様子を見て、「とにかく俺は、リデアのところに行ってくるからさ……。みんなで相談とかしててくれ。……俺は……。リデアを助けたいんだ。このまま放っておくことはできないから……。」と言ってから、俺はリデアの部屋へと向かう。


俺は部屋の前に立つと深呼吸をした後にノックをして中に入る。そしてそこには、久遠とレイがいたのだが、俺は気にせずにリデアに話し掛けようとして……いきなり久遠に抱きしめられてしまう……。


「ダメですよ? 真也さんは1人で何でも解決しようとしないでください。……私にも一緒に悩ませて……。いえ、私も手伝わせてください。……きっと力になれるはずだから……。」と言いながらも、強く抱きしめている久遠に対して俺は……。


「久遠……? 俺は、リデアとちゃんと話をしたいんだ……。久遠はそこで待っていてくれないか? 久遠は……リデアにとって家族のようなものだろ?……久遠と一緒の方が、リデアにとっても嬉しいんじゃないか?」と俺の言葉に久遠は首を横に振ると、「いいえ……。リデアさんが本当に助けを求めているのは……私ではありませんから。私はその気持ちに応える事はできません。だから私と、そしてリデアさんのことは気にせず……。今は、リデアさんの側に居てあげてください……。」と言うので俺は「ありがとう……。……リデアはどこに居る?」と久遠から離れると……リデアがいると思われる部屋に案内してもらう。だが部屋に入るとそこにいたはずのリデアはおらず……。俺と久遠だけがそこに立っていたのだった。俺は……そのまま、久遠に「ありがとう……。後は、俺だけでどうにかするからさ。久遠も久遠の出来ることをしていてくれ。じゃあな。」と話すと、そのままリデアを探して屋敷を出ると辺りを探し始める……。


するとその時、リデアの声が聞こえるのと同時に俺の腕に痛みが生まれる……。


リデアの方を見てみると、リデアが俺に向けて腕を振り上げていたのである。どうやら……今の今まで本気で殴りかかろうとしていたらしく、俺と目を合わせた瞬間に我に返ったのか……。慌てて拳を戻すとそのまま逃げようとするが……俺はリデアを捕まえると……。


「離せ! 離せよ!!」


と暴れるリデアを押さえ込みながら、「……どうしてこんなことするんだよ?」と言うが……、リデアは答える気はないらしい。


俺は……そのまま「答えないとここからは逃がさないぞ?」と伝えるが……。やはり、その態度を変えることはなかったのだ。すると……。


「リデアさん!」と言う久遠の呼びかけが聞こえてくるが……。それにも反応する事なく俺と久遠を無視してどこかに消えてしまうリデア……。そして、俺が呆然と立ち尽くしていると久遠が近づいてきて、「真也くん……。リデアはね。多分だけど魔王に心を支配されてしまっている状態だと思うの……。リデアに心当たりは? 例えば……魔王と話したりしなかった?」と言われると……俺が黙っていると……


「……魔王と会った事があるの?」と聞いてきた。それに対して俺は、静かにうなずくと……「魔王はリデアのことを『道具として見ていた』って言っていたけど……。それって……。どういう事なの?」


俺はその質問に、リデアに聞いた話の全てを伝えようと覚悟を決めてから……。俺は魔王がしたリデアの体の乗っ取りや……リデアの家族について知っている事を久遠に伝える。その事を聞き終えると久遠は俺に近寄ってきて……「ねぇ……真也。お願い……。私もリデアに会いたいの……。……私も連れていってくれない?」と真剣な表情で訴えてきたので……。


「分かった……。」とだけ返事をする。俺達は急いでリデアを探すために屋敷の外へと飛び出していくのだった。


「久遠さん……。どうして……そんな事を? もしかしたら私のせいで……私のわがままのために2人が危険に晒されることになるかもしれないのに……。なんでそんな風に私の為に行動できるの……。なんでそこまでしてくれるのよ……。……ううん。もうわかってる。2人は、真也も……久遠も……お人好しすぎるのよ……。」


そうつぶやくと……走り去って行く2人の後ろ姿をじっと見つめるのであった。


俺は久遠と一緒にリデアを探し回るが……。その足取りは全く掴めない……。そもそも、この世界での知り合いがあまりにも少なすぎた。なので、俺達の探し方では見つけることができなかったのであった。


〜・〜 その頃魔王は自分の城にて自分の作った部下と共に酒を楽しんでいるところであった……。そんな時……。扉を叩く音が聞こえて来て「入れ。」と言うとそこには一人の少女が入ってくる。


魔王はそれを一別してすぐに興味をなくしたが、それでも「何用かな?」とその少女に声をかけたのだ。「はい……。報告があって参りました……。勇者の所在を確認しましたので……。」「ほぉ……。あの愚か者の所在か……。それは喜ばしいな……。して、場所はどこだ? その程度なら転移させれば済むであろう? なぜここに来させた。」と少し不機嫌そうな様子になる魔人に対して、その人物は「それが……あの……。勇者を魔王様にお渡ししてもよろしいのですか……?……あの者はまだ魔王様の力を必要としておりますが……。」と告げると……魔王は不敵に笑い……。「あの者はもう私を必要としないほど強いからな……。私が居なくてもあの者はやっていけよう。」と答えるが、それを聞いた魔王の部下はその言葉を聞いて笑みを浮かべてからすぐに無愛想な態度になり、そのまま退出していったのである。魔王はその後しばらく考え込んでから立ち上がり……そのまま城の外にある湖の方へと歩き出す。魔王の目的はただ一つ……。


リデアの体を自らの体に取り込むことで完全な体を手に入れる事である。


魔王が湖の前に立ってその水を飲んだ後に呪文を唱えると……湖の水が動き出して魔王を取り込むと、水の中に取り込まれた魔王はその中で眠りにつき……。そのまま水の中から出てくることはなかった。それからしばらく後……。俺達が必死に魔王の行方を捜索している間に……魔王は久遠と合流してリデアの元に現れ、久遠を人質に取って俺の目の前に現れたのである。


〜〜〜〜〜〜〜 久遠を人質として取ったリデアは、その腕をねじ上げると……。


「いいか?!よく聞け?!今すぐここで、その女を殺す!……お前にはそれで十分な理由となるだろう?!」と言ってから久遠に刃物を向けると、久遠は顔を青ざめさせて「……やめて……。やめてください……。……なんでもしますから……久遠さんだけは……。久遠さんは、家族みたいな存在なんです……。久遠さんを傷つけるのは許せない……絶対に……。だからお願いです……。リデアさん……やめてください……。久遠さんには……何もしないで下さい。……お願い致します。何でもしますから……。」と言うが……。俺の方を見ながら涙を流す久遠の姿に俺の心が動かされる事は無かった。そして、リデアの方に向き直ると……


「いいのか?……俺はお前の為になることはしない。……約束を破ることになるから……。だからリデア、早くこいつを殺しちまえよ……。」と告げてみるのだが……リデアは何も言う事はなく……。そのまま、リデアの意識は途絶えて久遠の腕を折った後にその場から姿を消したのだった。俺はそのまま立ち尽くすことしかできなかった……。


俺は、リデアに連れ去られてしまった。俺はリデアに久遠を助けるように言ったのだが、リデアは首を横に振ると……「それはできない……。」と言い切るので、俺もその事に納得してしまい……そのまま俺は久遠と別れることになってしまった。……リデアは……何を考えている?久遠が俺と関わりを持っているから?それとも、久遠を仲間にして、レイナを救出するための仲間が欲しいから?……俺が魔王と繋がっていると思っているからなのか……。分からない……。リデアの行動が理解できずにいると……。「おい。そこの男! ついてこい!」と言われてしまう……。リデアについて行きたくないのだが、俺に選択肢などあるはずもない……。仕方なくそのままついて行くことにしたのであった。


〜〜〜


「なあリデア。どこに連れて行くんだ? 俺は、まだレイナを見つけていないんだが……」とリデアに尋ねると、「うるさいなぁ……。そんなに気になるの?……じゃあいいものを見せてあげるわ……。」と言われた瞬間……周りが一瞬で暗くなり、そのまま目の前に現れたのは……巨大な機械で造られた世界……。そしてそこにいたのは……。レイナは……「えっ……。えええぇぇ!?︎ 真也!! どうしてここに?! それに、これは……どういうこと?」と叫んでくるが……。俺に分かることは……ここがレイナの世界であると言うことだけだ。


そしてその光景を見たリデアはニヤッと笑う。その表情を見た俺が「おい。リデア、一体どうなっているんだ……。どうして……。俺の妹が……。」と聞くとリデアはまた笑って……「ふふん。驚いてくれたようで嬉しいわ……。でもね……。この世界に私の望むものはなかった。……だから……あなたの大切なものは全部私のものにしてしまおうと思って……。……さぁ。始めましょう……。あなたには私に協力してもらいたいの。大丈夫……痛くなんて無いから……。ちょっと我慢すれば終わりなんだし……楽なもんでしょ?」と言われる……。そして俺が答えようとする前に、「ちょっと待ちなさいよ。」と言う声が響く……。リデアが「何?あんた。邪魔しないでくれない?」と言うと、その女性は俺のそばに来ると、手を差し出しながら……。「真也、貴方の力を貸して。私はリデアを止めなくちゃいけないの……。……あいつを止めることができるのは多分私達だけなの……。それに……貴女には協力する義理はないと思うけど……?貴女の願いはきっと私の目的にも繋がるはずだから。お願い、協力して。」と頭を下げながら頼んでくる……。リデアはその様子を見た後、「ふん。何を言い出すのかと思ったら……そんな事で、私が真也を離すわけないじゃない。諦めたら?……それとも何かしらの切り札があるっていうの?……無いなら大人しく待っていればいいだけよ?」と冷たくあしらうのだが……。「あら、それって……貴女も同じようなことをしていた気がするんだけど?」とリディアが言い返して2人の喧嘩が始まってしまう。俺は2人の間に入って止めるのだが、全く止まらず2人はどんどんヒートアップしていくが……。急にピタッと止まりお互いに睨み合うがすぐに「ふんっ!」と言ってどこかに行ってしまったのであった。


〜〜〜 しばらくして俺は2人に話を聞いてみることにしたのだが、やはり俺の記憶と違うところがいくつかあり混乱してしまう……。そこでリディアに相談してみるとリデアは「私に任せて」という事だったので任せていたのだが、しばらくした後リディアが俺の元へ戻ってくると……。「真也、少し話がしたいから、場所を変えましょうか……。……2人ともついて来て。」と言われてついていくと……その先には……。「お兄ちゃん……なんで……なんで……なんでここにいるの……。私を置いて行っちゃうなんて酷いよぉ……グスッグスッ。もう、会えないかと思っちゃった……。お兄ちゃんは、やっぱり私が居ないとダメだな〜。」と言いつつ泣き始めたので、慌てて抱き寄せる。俺に甘えるようにして胸に顔を埋めるその仕草を見ていてとても愛らしいなと思い頭を撫でる……。


それから落ち着いたレイナから事情を聞いてみると……


「そっか……。じゃあ俺は……この世界の人間じゃないって事か……。俺がいた所とは色々と状況が違うようだから、その辺りについては気にしないことにするとして……これから、俺達はどこに行く予定になってるんだ?俺も一緒に行った方がいいのか?」と俺が聞くと、レイナは「そうだよ!……もちろん着いてきて貰います!!」と言い切られてしまったのであった……。……それから俺達はリデアと合流することになったのだが……。俺はレイナを連れて行こうと思っていたのだが……。「ねぇ?リデア。この子をこのまま連れて行くつもり? いくら何でもこの子が可哀想だと思わないの?」とリデアに対してリディアは言うと、「そうね……。でも、彼女は私と相性が悪いみたいだし、今回は仕方がないかなと思ってね。」と言ってレイナに視線を送ると、少し怯えた表情になったので俺はレイナを抱き寄せてから落ち着くように言ってあげるのであった。


〜その頃の勇者の魂の中で……竜が目を覚ますとそこには勇者ではなく、リリアが座っていた…… その男は自分が勇者ではないことに気づいた時、動揺する事もなくその事を受け止めて……。自分の体を確かめていたのだが……「リディアさん……。リデアさんはどこに居るのですか? リデアさんに聞きたい事が山ほどあるのですが…… リデアさんに会いに行きますよ……。…………はい、ありがとうございます。それでは……」と言って電話を切って立ち上がり外に出て行く。……しばらく後……男が研究所から出てしばらく歩いているが…… 周りは誰もいないようだ……。男がそのまま歩いていくと、とある研究所が見えてくる……。


〜〜〜 久遠が連れ去られた俺はそのまましばらく歩き続ける……。そして目の前に見えてきたのは大きな建物のようだったが、俺はそのまま入ろうとしたが……扉が開くことなく俺はその場に座り込む……。


「くっ……。俺はこんなところで何をしているんだよ……? 俺は魔王と戦わないといけないんだぞ……。……俺は、レイナともう一度……。でもどうしたら……どうしたらいい?……誰か助けてくれ……。誰でもいいから……。頼む……ここから出して……。」と言う俺の声は誰にも届かない……。


〜〜〜〜〜


「あ、あぁ……。ごめんなさい。……真也さん。今……すぐ……行きま……。あ、あああぁあぁぁ!!!」と言ってリデアに襲いかかるが、「ふん、あんたは黙りなさい!」と言ったリデアが久遠に何かした瞬間、苦しんだ表情を浮かべて床に崩れ落ちた。「さぁ……次はあなたよ。覚悟はいいわよね?……あなたの力は厄介だけど、これで何もかもが私の思い通りになるわ! 真也は、私に協力をしてくれる! 真也はこの世界で生きていけるようになる! 真也はレイナのところに帰れる!!全て私にまかせておきなさい! 真也、私と……結婚しましょ?」と言うリデアを俺はただ見ていることしかできなかった……。……俺は……俺は……何も出来ない……。〜その頃の勇太の魂の中で、天星が笑っていると……。……目の前には1人の少女がいるだけだったのだ。


〜その頃の聖哉の部屋で…… 聖哉はまだ眠っており……。部屋の中には、まだ起き上がったままの美優先生がいるのだが……。その時突然扉が開いたのだった!! そして入ってきた人物は……魔王の幹部の一人で名前は確か……。ミホノだ!!


「あら。……もう起きたんですね?……まだ薬は残っているので寝ていてもらって構わないんですよ?」と言われた聖哉が……。……「ふん。お前のくだらん茶番にいつまでも付き合っている暇はない……。……俺が眠っている間、何か変化があったのなら早く言え……」と、言い放ったのだが、ミホークは、微笑むだけで、返事をしないので……。


「何だ?……俺の言葉が聞こえなかったのか? お前も……俺の敵になるという事なら、相手になるが?」と言うが……。それでもなお無反応なので、「ふん。まあいい……。それより、久遠はどこに行った?!」と質問すると……。「えっ!?︎……久遠ちゃんは……」と驚いたような表情で言いかけるが……。


「いや、言わなくてもわかる。……久遠は、あいつの手の中にある。……俺が欲しいものは、最初から一つだけだ。」


そして再び意識を失ったかのように倒れ込んだ。そして……。……その光景を見つめながら、不気味に笑い出したミホークは……、「あぁ……あの娘が欲しいんでしょう?……良いですよ。好きにしてください。」と言う。しかし、「ほう?ずいぶん素直じゃないか?」と不思議に思った俺は「おい。どういう風の吹き回しなんだ?俺があの女を手に入れた後はお前の好きにしても構わんぞ?」と言うと、今度は声を出して笑うと、「あははははははははは!!!……何言っているの? 別に私はあんな小娘に興味なんて無いわ。だって私の目的に必要な物を手に入れる為に邪魔なんだもの。でもあなたに協力するのは面白いから……。ふふふ……。さっきは、久遠なんて知らない。興味ないからって言ったのは嘘。あなたの力になってあげる。」と言って、こちらに向かってくると……いきなり抱きついて来ると……「私はあなたの事なんてこれっぽっちも興味無いんだけどね。でも、協力するのはあなたのためなんかじゃないの。私のためなの。だから私のために動いてくれるよね?……ねぇ……。勇者の旦那さま♪」と俺の頬に手を当てて唇を重ねてきながら舌まで入れてきたのであった。……〜〜〜〜〜 俺とリデアと2人でレイナが連れて行かれた場所へと向かおうとしたが、そこでリデアが……。「ねぇ……。レイナちゃんを助けるのはもちろんいいんだけど、その前に真也の力の使い方を考えましょうか……。私達の目的はレイナちゃんを助けてこの世界を救ってあげること……。それが出来なければ意味がないの……。だからまずはその方法を見つけましょう。」と言われてしまう。確かにリデアの言う通りだが……俺が持っているこの力は、リディアも知らなかったみたいで……この力をどう使ったらいいのか分からない。そこで、リディアに相談してみることにしたのだが、しばらく考え込んでいた後……。リディアが「うーん……。真也の能力の使い道を考える前にまず確認したい事があるんだけど……真也は、どうしてレイナちゃんを助けたいんだと思う?」と聞かれたので、「俺はレイナの兄だ。……兄として当然だろ。それにリディア、君は俺達の事情を知っていてそんなことを聞いてるのかと思ったが?」と返すのだが……リディアから返ってきた答えは意外なもので……「ごめんね。それはわかっているけど、どうしても気になることがあってね……。でも、安心して。私は真也の事を信じている。これから私達がしようとしている事は、決して間違った事ではないと思うの……。だから今はとにかく前に進むしかないのよ……。」と真剣な眼差しで言われてしまった。


俺の能力は一体なんなのか……


「リディア、その言い方から察するに、リディアは俺に何か能力が使えると思ってるようだが、俺は今までその力を使ったことがないし、そもそもその能力というのが何のことを指しているのかよくわからない……。その……リディアは俺の力がその力の可能性が高いと思っているようだが……本当にそうなのか教えてくれないか?」と聞くと……。


リディアは少し考える仕草をしたのだが、「うーん。……じゃあちょっとだけ、見せてもらうわね?」と言って、手をかざしてきたのだ。……すると、俺の目の前にある画面が表示された。


『おぉ!リディア、これはすごい。』と思って、その画面に表示されている内容を確認しようとした時、突然リデアの声が響いた。「真也……。今、その能力を使わないで頂戴……。もしその力で世界を変えられるとしたら……大変なことになる可能性があるの……。私と約束してくれる?……絶対に、その能力を使わないと……」


突然、真也が消えてしまった。そして次の瞬間……真也が現れた時と同じぐらいの光が放たれると、真也の姿が見えなくなっていた。その事に戸惑ったリデアは、「真也……。貴方にどんな能力があるとしても、今の私達にはそれを知る術が無い……。だからこれから先、何かを試そうとする時は全て私がやる……。そのかわり……必ず私を頼って……。私なら、何かあった時にも、すぐに対応ができる……。私を頼ることを覚えて……。私をもっと信頼してほしいの……。……わかった?真也……」


と少し涙声で話すと……「あぁ。……すまなかった……。リデアを信用していない訳ではなかったんだ。でも正直に言うと……少しだけ自信が無くなっていた……。自分の持つ力の意味と使い道を……」と言うと、俺の肩を抱き寄せてくれた。


「私こそ……。不安にさせてゴメンなさい……。私の気持ちを分かってくれていたからこそ……私のことを信じられなくなったんだよね……。でも大丈夫だよ。きっと……。だって私の事を心から信じてくれてるんでしょ? 真也は、私の事が大好きだしね♪」……あれっ?……今の発言おかしくない??……えっ? リデアに、俺の本心を話した記憶なんてないし……というより俺にそんな話をした覚えもない。


「……なあリデア、リデアに何かしただろ? リデアが言ってたことはおかしいぞ……。」


「あらあら、どうやらとぼけるつもりなのね……。仕方ないわね。私の可愛い可愛い妹をここまで悲しませて……責任をとってもらうから覚悟なさい!!」


そして俺に詰め寄ってきて……俺の耳元に口を近づけてくると……。


「愛しているよ……。真也……」と囁いてきたのだった……。


〜その頃、勇太と天星は、久遠の父と対峙しており……。お互いの武器を構えていた……。〜 私は、ミホークを操って久遠の父親を襲わせる……。「ふふっ。これで終わりね……」と笑みを浮かべたが、その時……。突如、久遠の父親が、目を閉じると……「はぁっ!」と叫んだのだ!! するとミホークが弾け飛び、辺りに血をばらまいて倒れた。そして……。


「貴様が何者かは知らんが……娘に危害を加えようというのならば容赦はしない!! 例え相手が神だろうと悪魔であろうと、私は戦わなければならないのだ!!……私は、もう……逃げないと決めたのだ!!……お前のような奴には分かるはずがないのだ!! もうこれ以上何も失わずに済む方法を!!……何も奪えない私に……戦う以外の選択肢はない!! 娘を取り戻すまでは……。私は止まらん!!……何人たりとも、邪魔などさせぬ!!……さあ、来い。かかってこい!!……私はもう逃げはせん!! お前を倒し、私は

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