【1】後篇

後はこの国のみんなが頑張るだけだから、俺達にやる事は特に無いそうだった。だが、それを聞いて俺も久遠も驚いてしまう。なぜなら俺達は……そんな大役を担うなんて聞いていなかったからな。でも……ここでやらなかった場合、俺も久遠も……この世界で生きて行くことが厳しくなると……。そう言われてしまったのだから……断ることはできなかった。だが俺達ならできると確信してるようで、それについては自信満々な表情をしていた……。それを見た俺と久遠はお互いの顔を見合わせると笑い合う。そして俺達にしかできないことならば、しっかりとやるしかないと心に決めた。


「ええ。わかりました。やりましょう!」


俺は力強く答えると、今度はリリアに質問をした。それは……。今の状況だ。なぜリリアはこの世界に閉じ込められることになったのか? どうして閉じ込められなければいけないような状況になってしまったのか? そして……どうすればその呪縛を解くことができるのか?……俺と久遠が協力できるような方法であればいいんだけど……。俺はそのことを聞くことに決め、久遠も同じことを思って居てくれたようだった。すると、俺の言葉に反応するかのように……。この世界の事を話し始めてくれた。……この世界を創ったのはいいものの、自分の想像していたのとは違う方向に進んでしまったのが原因で、この世界を一度滅ぼして、新しい世界を作ろうとしていたらしい……。だけど、それを知った俺の父上は、その計画を止めるためにこの世界を再構築する能力を使ったようだ。


『そうです……。私はあの方に……創造神に逆らうことができない存在でした……。なので、私の願いを……叶えていただくことさえできずに……。私のせいで……。私があんな提案をしなければ……このような事態にはならなかったかもしれない……。ですが、あの時の私にはあれが最善だったと思うのです……。ですが……真也さんの事をお兄ちゃんと呼んでくれる可愛い妹分を……失うのは辛すぎました……。だから、私なりに考え……実行に移したまでです……。それが間違いだったことに気付きましたが……』……そう言うと悔しそうに下を向いた。それからリリアの話を聞いた俺達は驚きを隠せなかった。だってそれは……。久遠は俺の事が大好きだし、家族のように大切に想ってくれているのが分かったからだ。


そして……俺も同じように久遠の事を大切にしているし、久遠は大切な仲間だと思っているのだ。だからこそ俺はこの世界で生きることを決意した。それに俺だって……家族を無くしてしまったから……。久遠には家族のような温かさを感じていて……そして、久遠といると……すごく安心できて……幸せな気持ちになれるんだ。そして俺達はお互いに見つめ合いながら笑顔を浮かべた。


『そう言っていただけて……光栄です。ありがとう。ですが……あなた達はまだ知らないでしょう……。私のせいであなた達のお父様が亡くなったという事実があるという事を……そしてその事をお兄ちゃんも知ってしまったからこそ、私と同じような道をたどる可能性もあり得るということを……。ですのでお二人は、お二人でいる時にしかお話しすることができないと思います……。ですが、その方がよろしいかもしれません……。そして久遠さん。……私の力を使うと、貴女が消えてしまいかねないので、真那としてではなく……真也の妹である真那様としての力を発揮していただきます……。それでも構いませんよね?』そう言って少し申し訳なさそうな表情をした後、久遠に目線を合わせたリリアを見て俺は気付くことができた……。俺にその話をすることで……久遠にも危険があることを……。俺の瞳に写るのは……。今まで見せたことのない表情で、真剣で真っ直ぐな眼差しをリリアに向けている久遠の表情。俺はその表情を見た瞬間……。久遠を信じるって決めたのだ。


そして俺の考えを久遠に伝えた……。久遠はその俺の思いを聞き届けてくれると……ゆっくりと深呼吸をしながらリリアに語りかけ始める。


『そうですね。分かりました。真奈ちゃんには申し訳ないんですけど……。私は……やっぱりお姉さんとして……。久遠としてもですが……。お姉さんとしては、久遠が……久遠くんを守るって……守ってあげたいな……。そう思うのはいけないでしょうか……。』……と。そう言ったあとに久遠は俺の目を見ながら笑顔を見せてくれた。


そしてリリアと久遠が握手を交わす。その手からは淡い輝きを放っていて……その光景は幻想的だった。俺の体は自然とリリアと久遠の間に入って、リリアと久遠の手を掴むと目を瞑り祈り始めた。するとリリアと久遠は……手を繋いだまま動かなくなってしまう。俺は……そのままリリアの体に顔を近づけると、そっとリリアに唇を重ねていた……。そしてすぐに俺は顔を話すとリリアに抱きついて……。「必ず……俺がなんとかするから……」と言って……涙を流してしまう……。


「ありがとう。久遠」……そう言うと久遠は、笑顔になり、優しい口調で……こう告げてくれた。


『こちらこそ、いつも助けてくれてありがとう! 真那さん。いえ……真矢さん』……そう言って久遠は、涙を流す俺の背中を優しくさすってくれていた……。


リリアとの約束を果たす為に俺達はリリアが作り出した世界に行こうとしていた……。そしてこの世界には……リリアの力によって作られた俺達の武器を保管してある場所が存在しており、そこに案内してもらった。その部屋に入ると、そこにはたくさんの武器があり、その中にはレイアが使っていた剣もあった。


俺はそれを見ると少し寂しさを感じたが、それを振り払うとリリアが持っているはずの俺達の加護を宿すことが出来る指輪を取りに向かうことにした。その指輪を手にするとリリアに確認をとることにした。するとリリアからはすぐに返答が来ると、その答えを聞いた俺は、リリアの加護の宿っているこの指輪を使って……リリアから貰った力で、久遠の加護を強化することで……なんとかなるのではないかと考えると、久遠に向かって話し始めた。


「久遠。ちょっと試したいことがあるんだけど……いいかな?」そう尋ねると久遠が不思議そうな顔をすると……。


『え? 何をするつもりなの?』……と尋ねてきた。すると俺が久遠の質問に対して答えようとしている時だった。……いきなり俺達が居た場所に雷が落ちてくると、地面が激しく揺れ動く。そしてすぐに俺と久遠はお互いの顔を見合わせると、「いくぞ! 久遠! 今すぐここから脱出するんだ! 急げ! 早く!……俺が必ず何とかしてやるから!」そう叫ぶと、久遠も察してくれたのか俺に返事をする。


「はい! 絶対に死んじゃだめですよ? 生きて帰りましょう! 私は……待ってますから!」久遠がそう俺に話しかけてくれると……「おう! じゃあ……また後で!」……と言うと俺達の周りに光が溢れ出すと、俺達の姿はこの世界から消えた……。


リリアから教えてもらった通りに、俺達3人は、リリアの世界のリリアが作った世界へと転移していた。すると、その世界は俺が思っていたよりもずっと平和だったのだ。俺が考えていたのは、魔物がいっぱいいたりとか……荒廃した世界だったのだが……。


この世界に来て初めて見たものは……この世界の住民だったのだ。それも、子供や老人ばかりだった。その光景を目にすると……すぐに久遠が声を上げた。その声で俺もようやく現実に戻ることになる……。久遠は続けて……こんな事を呟いていた……。


「もしかしたら……あの時の……。リリアさんは私達の世界の人達が居なくなった原因がわかるかも知れないと言っていたけれど……これでは分からないかもしれない。だけど、あの人が言っていた通り、世界が崩壊するのだけは避けなければ……それだけは絶対ダメ……。だから……真也さん。私達2人で協力して頑張りましょう!」と。俺はそんな久遠の気持ちを聞くと……。「もちろんだよ。それに……俺達だけじゃないから。この世界に住む人たち全員を助けるんだ!」俺は力強く言い切ると久遠が微笑みながらうなずいてくれると……リリアに教えられた、リリアの力を封じている場所へと向かう事にした……。だが、久遠と行動している途中で俺の体に異変が起こり始めていたのだ。……その現象は少しずつ進行していて……いつ倒れてもおかしくない状況になってきている……。でも……久遠はそんな俺のことを気にしている様子だったけど、俺の身に起こっていることは伝えなかった……。


するとリリアからもらった地図を辿り、その場所にたどり着いたのだが……。そこにあったのは大きな扉だった。しかも、その前に門番が立っている……。そしてその門の前にいた男に声をかけられる……。


『止まれ! ここは許可証を持つもの以外は入ることはできない』その言葉を聞いて俺は……その男のことが気に入らなかった……。だってそれは……まるで自分が偉いと勘違いしていそうな言い方だと思ったからだ。だけど……俺がそう思った理由はもう1つあって、それは俺に近寄ってきている門兵の男には……全く隙がなかったからなんだ。だから、俺は久遠の事を後ろに下げさせると久遠を庇うようにして、一歩ずつ前に進んでいく……。そして……。目の前まで行くと、俺と男はにらみ合いを始める……。俺は……相手の力量を図るべく観察することにした。まず、一番最初に感じたのは威圧感だ。……ただの人間が発するようなレベルのものではないと感じていた。それから、相手からは……殺意も敵意もないのを感じていた……。俺は相手が本当に俺を殺しに来たのではないことを確認すると……。久遠に小さめの声で「少し離れるね」……と告げる。久遠はそれに黙ってうなずくと、久遠が離れていってくれたのを確認して、俺は、俺の後ろに居る門兵の男に視線を戻した。そして俺に話しかけてきている男に……。


「……何しにここへきた?」と問いかけた。


「……お前を始末するためにやってきたんだ。……この国はこれから滅びていくだろう。そして私達の計画も破綻していくに違いない。その責任は全て君にあるんだ……。」……俺が……この国を滅ぼしてしまう……?……俺には意味がわからなかった……。


だってそうだろ……。俺には全く心当たりがないのに……。その事をその門兵をしている男に尋ねようとした時だった。突然後ろから気配を感じる……。俺は久遠から渡された短刀を抜き放つと背後に迫っていた何者かの攻撃を防ぐことに成功した……。その攻撃は、今まで戦ってきたどんな敵よりも速くて、鋭く、重い攻撃をしてくる。俺はそれを受け止めた後すぐにバックステップで距離を取ると再び攻撃を仕掛けてきた者の事を確認した……。その者は俺より背が高く……。筋肉隆々の男で……。俺が今まで見てきた中で、今まで出会わなかったタイプの男だったのだ。なぜなら、その男が纏っていたオーラは、禍々しくどす黒いものだったからなのだ。すると男は笑い出したかと思うと、「ククッ! クハハハッ! まさか俺の一撃を防げる人間がいるとはな……。驚いたぜ……。お前の名前はなんっていうんだ?」そう俺に問いを投げかけてくる。その声は自信に満ち溢れていて……俺の心はざわつき始めていた。


「……名前なんていう必要はねぇーよ。お前を倒すのに、名前は関係ないからな。……ただ俺に喧嘩を売るというなら……俺の名前をしっかり刻んでやる。俺の名は……黒羽 真矢だ!」……そう告げると……「真也? ああ……。お前が……例の人物か。噂は聞いている。確か異世界から来た奴が……。『勇者様』『英雄様』『救世主』だとか言われてるんだったっけな……。確かに、そう名乗ったとしても誰も不思議はないか。」


「うるせぇ! さっきの俺の言葉聞こえてたんなら……。そんな風に俺をからかうんじゃない!……それより……さっさと始めるぞ。これ以上……久遠を怯えさせたくはねぇんだよ……。さぁ……。来い!」


そう言って……今度は俺から先に攻撃を仕掛けていった……。俺の攻撃に合わせて……目の前の筋肉野郎も動き出すと、俺は、相手に反撃をさせないような戦い方をするように意識を切り替えた。


だが……。その選択をしたのが悪かったのか……俺は一瞬にして距離を詰められ、俺に回し蹴りを放つと俺を蹴飛ばすとそのまま壁にぶつかる勢いで吹っ飛ばしていた……。俺は地面に転がされる形になったのだが……すぐさま立ち上がると構え直す。……すると俺の体の中から力が溢れ出してくるのを感じ、それと同時に俺は自分の体を確かめ始めた……。


まずは体に異常なし。そして……次は……。腕に力を込めてみた。……問題なく動く……。そして最後に……脚に力を込めた。そして……地面をける。その速度は今まで俺が出してきた中で一番の速さで移動する事に成功していた。その瞬間に俺は確信する。この男を俺の力でねじ伏せられる可能性があるということに……。俺は……俺にできる最大の力で……俺の命を賭けて……この勝負に挑むことを決意していた……。そして俺は、男の正面から接近していきながら、男に向かって、短刀を突き出すと、男は、ニヤリと笑うと……。「なかなか速いじゃないか。だが、まだまだ甘ちゃんだぜ!」と俺の突きを避けるとその流れのまま、強烈な右ストレートを俺に向かって放ってきた……。


そのパンチに対して、俺が選んだ方法はカウンターだ……。つまり、相手の攻撃を完璧に読んで、そこに渾身の一撃を叩き込むことを……。そして、男の放った攻撃に対して、完璧なタイミングと位置取りで俺も攻撃を放った。そして……お互いの拳同士がぶつかり合ったのだ……。


「ぐあっ!!」「がはあぁ!」2人して同時に悲鳴をあげるとお互いに弾かれるとお互いの後方に飛んでいった……。そして俺の方は……。体が言うことをきかないくらいのダメージを受けている事が分かった……。でも……ここで諦めてしまったら……。俺は一生このまま後悔して生きていくことになってしまうかもしれない……。だから俺は必死に踏ん張るしかなかった。すると男は俺に話しかけてくる……。「真也……。今の俺の一撃を食らってなお……。立っているのは……お前だけだ……。だから真也……俺と一緒にこい!……俺は今この世界を滅ぼそうと動いている組織の一員になっている……。……だから真也、俺と一緒についてこないか? 今からこの国は……いや、全ての国が崩壊の危機に瀕しようとしている……。真也は……それを止めたいと思わないのか?……俺についてくれば……俺はこの世界を救うことができるんだ……。」


その言葉で俺は理解していた……。この筋肉男は俺の力を狙っていたのではなく……。この世界の崩壊を食い止めるために連れていこうとしていたのだという事に。俺は男から目を離すと、男の背後にある扉に視線を向けた……。そしてその先にある世界は、今にも滅びてしまいそうな世界だという事もわかってしまった……。そして俺が男に視線を戻すと……。「……残念だが、断る。俺はそんな世界のために命を捨てるような事はしない……。俺は……俺の家族のためだけに生きている……。久遠を守るため……。そして……みんなが笑って暮らせるようにしたい……。そのためには俺は死ぬ訳にはいかないんだ!!……それにな……。この世界の住人達も、久遠と同じように……。大切な仲間なんだよ……。だから……久遠を守れるくらいの力をくれよ……。俺は絶対に久遠を見捨てたりなんかしない。……だから頼む!……この通りだ……。だから俺ともう一度戦ってくれ……。俺の願いを聞き入れてくれるまで……。」そう伝えると……俺が頭を下げると……。


「そうかい……。そこまでこの世界に思い入れがあったんだな……。……じゃあ真也、一ついいことを教えてやる。この世界でお前と俺が本気で戦った場合、お前は間違いなく俺の敵にならない。俺の本気は……お前の全力を超えているからな。だけどお前が俺と戦う時はお前も全力で戦えるだろうさ。……ただし条件があるが……。お前も知ってのとおり、俺はもう長くないんだ……。俺に勝てなければ……この世界にいる限り……俺はいずれ死んでしまうだろう。それに俺も、死にたいと思っているわけでもないからな。そして、お前の大切な人を死なせないために、俺が知っている事を全て教えてやる。どうだ?」と俺に提案してくると……


「わかった。その条件で……いいぜ。だから俺に久遠を任せてくれ……。あいつを泣かせるようなことは絶対にしたくないからな……。」俺はその男の目を見ると……その男も、俺の事を真剣に見つめていた。俺は久遠の所に歩み寄ると、久遠の耳元に小声で……。「久遠。ごめんね……。ちょっとだけ待っててね。」そう告げると……「……はい」……と一言つぶやくと、俺は久遠の元を離れた。そして久遠から離れると、俺は男の元へ戻っていく。久遠は俺をずっと見ていてくれたようで、心配してくれたようだ。俺は……久遠の不安が少しでも減るように……。笑顔を浮かべてみせると、男のもとに向かった。そして……俺と男は……最後の戦いに挑んだ。俺は今まで感じたことのない緊張感の中、短刀を構える。そして男も同様に構えると、俺たちは動き出した。俺は今までよりも速く駆け出すと……。相手の隙を突こうとしたのだ。しかし、相手はそれを予想していて、カウンターを繰り出してきた……。その攻撃を受け止めた後、今度は俺が反撃に移る……。俺は相手にダメージを与えることばかりを考えていたが……その行動は男にとってみれば……。自分の弱点を教えるようなものだった。俺の攻撃が命中した瞬間……。俺は勝利を確信したのだが……。その攻撃を受けて……ダメージがまったく入っていなかったのだ。しかも俺の攻撃によってできた傷がどんどん治り始めているようだった。俺は攻撃をやめて後ろに下がると、男を観察し始める……。すると男は俺に声をかけてきた。「おい、何休んでんだ? 真也。もっと俺を楽しませてくれないか?」そう挑発してくるので……俺はさらに加速すると、相手の動きに合わせながら攻撃を繰り出す。だがやはりその全てを防ぎきられている……。そしてしばらく戦い続けるうちに俺はある結論に達する……。俺はこの戦いの中で成長しているのだが、それと同時に、相手は、少しずつ……だが、着実に俺のスピードに対応してきているのだ……。つまり俺は相手には手も足も出ず……。負けることはないだろうが、勝つことはできないという結論に達した。俺は……自分が今出せる最速の技を繰り出そうとすると……その技が通用しなかったのだ……。その攻撃が避けられた後……。俺は反撃にあい……。吹き飛ばされてしまっていた……。


そして俺は地面に転がっている状態だ……。すると男は笑い出した。「ハハッ! 真也! お前、俺が思ってた以上に面白い奴みたいだな。さっきの戦い方を見てた限り……。かなり力を隠してるんじゃねぇーか?」そう言って俺に手を差し出してきたので、その手を掴んで立ち上がった。そして男も立ち上がると、「やっぱり……。俺の目に狂いはなかったぜ。お前となら……。俺は本当の戦いができそうだぜ!」と告げてきたのだ。そして俺は「その前に……。久遠の事、任せても良いんだな? あんたの強さは認めるが……。正直……。あの子を守りきれるとは俺には思えない……。俺が死んでしまった後に何かあったとしても……。俺は知らないからな!」と告げると……「久遠ちゃんは安心して俺に任せとけ。それより、早く続きをするぞ。まだ終わってはいないはずだからな……。」と言うと……また戦いが始まった。……結局。俺はその戦いでは勝つことはできずに、最後には地面に倒れこんでしまっていたが、俺は意識を失う直前に、不思議な感覚を覚えていた。なんというのか……。体が軽いのだ……。それに体の中に力がみなぎってきている気がするのだ……。俺はゆっくりと立ち上がると……。自分の体の調子を確かめると……。違和感を覚えたので、自分の体を調べ始める。すると……そこにはあり得ないはずの物が二つも生えていて……。俺は思わず驚いていた。すると……「お、やっと気づいたのか?……真也、その様子だと……どうやら成功したようだな……。真也! お前の力は俺を超えたんだ! 今のお前なら……。俺を超える事ができると思うぜ!」と言ってくるので……「ああ、そうかもな。確かにお前は強い……。だが俺も強くなっている……。」俺はそういうと相手の拳を避けようとしないままで受けると……その攻撃を簡単に受け止める事ができた。そして俺はその攻撃に拳を合わせると、男を吹き飛ばすことに成功したのだ。「まさか俺の拳を受け切るなんてな……。だが……。まだまだこれからが本番だぜ?」と俺に向かって言ってくると……。「分かってる。行くぞっ!」と言い放ち、お互いに攻撃をし始めたのだ……。その打ち合いの結果は互角で……。どちらも決定的な攻撃を与えられていないのだ……。俺はこのチャンスに、今まで以上の集中力で相手を観察し始める……。まずは相手の筋肉の一つ一つの動きに注目する……。そこから次にどこを狙うのかを予測しようとしていたのだ……。筋肉の動きから次の動きを読んでいた時、突然。男の動きが変わる……。その動きは俺に読まれていると分かった上での行動のように見えた……。つまり男はわざと隙を作っていて、それを誘い込もうとしていたのだろう……。なので俺は男の懐に飛び込むとその体にパンチをめり込ませようとした。すると、男の体は光に包まれていくと……そのままどこかに行ってしまう……。それを確認すると、俺の頭に痛みが走った……。


俺は気がつくと地面で倒れており、全身に痛みを感じていた……。どうやら俺は気絶していたようだ……。すると誰かがこちらに来て俺を抱きしめると、泣いていたのだ……。俺はそれが誰なのか確認するため、目をあけると、そこにいたのは……


「えへ、来ちゃいました……。」……と俺が大好きになってしまった……あの女の子……いや、俺の恋人の久遠だった……。その声に聞き覚えのある男は俺の横にいた。「おう、久遠。お前が真也を守ってくれてたんだってな……。ありがとよ。」「うん。私……どうしてもここに来てみたかったから……」「まぁ気持ちは分かるぜ……。久遠の事は、俺が責任を持って守り通すからよ。約束通り……。俺がお前を守るって事を……証明してやるぜ……。」


「うん……。お願いします……。それと、私の事も……。絶対に守ってほしい……。私がこの世界で生きていられるのも、全部あなたのおかげですから。」……俺はこの会話を聞き、ようやく思い出していた……。久遠は……。天使族だ……。久遠は元々、俺と一緒に地球に住んでいたらしいが……どういうわけだかこの世界に来ていたのだ……。それでこの世界の人にも見えるようになっているらしいが……。どうやったんだろうな?……俺はそう思いながらも起き上がると、久遠の肩に手を置く。すると……久遠の目には涙が浮かんでいたが、久遠はすぐに笑顔に戻ると、「あ、真也さん!……大丈夫ですか!?︎」と尋ねてきた。


「うん。平気だよ。それよりも、久遠はどうしてこんなところに?」……と尋ねると、「私は……。ずっとこの世界に憧れていました。なので……どうしても見てみたくて……。でも、この世界で生きるためには色々と条件があるみたいなんです……。それに、私は真也さんの傍から離れたくないから……だから……一緒に居させて下さい。」と言うので……


「……うん。いいよ。」と答えると、「はい!」と満面の笑みを浮かべると抱きついてくる。そんな俺たちを見ていた久遠は、「……私だけ仲間外れにしていませんか?」……と不機嫌そうに言うので……「じゃあ久遠も一緒に暮らさないか?……俺が保証してやる。こいつなら、久遠を幸せにしてくれるさ。」と男……久遠の父親である久遠 勇也に言われると……。久遠も嬉しそうな表情をしていたので……「久遠も……良かったね。」と言うと久遠の父親は……


「ああ、久遠は俺の自慢の娘なんだ。……真也くんなら……きっと大切にしてくれそうだしな……。それに久遠の好きな人を疑うような事はないさ。それにな、久遠が真也君を選んだ理由はそれだけじゃないんだよ……。……これは俺の推測でしかないが、久遠は恐らく……。真也君の事を知っていて好きになったんだと、俺は思うんだ。だからこそ……。真也君は……久遠の事を……守ってあげてほしい。俺からも頼むよ……。娘が選んだ相手だ……。信じてやりてぇからな。だが……。もしも、万が一の事が起これば、すぐに連絡を入れてくれ……。……その時は俺も協力しよう。」そう告げてくるので、「……はい。わかりました。俺の命に代えても……久遠を守り抜いて見せます!」……と告げ、俺と久遠と久遠の家族と、それから俺たちの家に、新しい家族が加わったのだった……。


久遠を俺の家に住ませて1週間程たったある日……。俺は朝早く起きると家の裏庭に出る。俺がいつも使っている弓の手入れを済ませると、少し早めに朝食の準備をする……。今日は久しぶりにレイアが帰ってくると言っていた日なのだ。レイアにはもうしばらくしたら家に来ると聞いていたので俺はその前に準備をしておく事にしたのである。


そして俺が家事をこなしている間にみんなが起き出してきてしまうと、久遠が手伝いを申し出てくる。……最初は断るつもりであったが……。どうやら手伝わなくては気がすまないみたいだったので手伝ってもらうことにしたのだが、そのお陰で、思っていたよりかなり早い時間から料理ができ始めていたのであった……。俺が作ったものをテーブルの上に並べ終わる頃には、他の人も全員起きてきていたので……。早速ご飯を食べ始めることにする。今日の献立は、焼き魚、卵スープ、野菜炒め、肉団子の甘辛煮といったものである。そして食事が始まろうとした瞬間に玄関のチャイムがなる音がした。すると俺は玄関に向かうと鍵を開けて扉を開けると……


「やっほー! マユー! 久々だけど元気そうじゃん! それにしてもあんたが作るご飯は相変わらず美味しそうだねぇ。」そう言って中に入ってきた。俺もその人物の顔を見ると懐かしいと感じながら中へと招き入れると、レイアの姿を見て、全員が驚いていた。「えっと、あんたたち、どうなってるの? なんで真也の家にいるの? え、ええと……とりあえず……おかえり。」レイアが戸惑ったままの状態で出迎えの言葉をかけると……。それに合わせるようにして……久遠も、久遠の父も「ただいま帰りました。」と声をかけ、それに続けて母も……「……お母さん。……帰ってきちゃいました……。」と告げると……それに反応したのは父だった……。


「……な、なぜ……久遠がここに……いる? それにその羽は……どういうことだ?」……父は、その見た目のせいで、久遠の事を受け入れられなかったのだ。なので久遠は「あの時は……。本当にすみませんでした。お父さんが受け入れてくれなかったのですが……。私も、真也さんも必死になって説得をして……やっと今、ここに居ることを許して貰えたんです。だから……お願いです……。また仲良くしてください……。お願いします……。」と頭を下げると……


「……すまなかった。今までのことは謝らせて欲しい。」……と謝罪をしたので……。それに続き俺と母も頭を下げた。その光景を見ていた父は、何も言わず。ただ涙をこぼしながら黙って下を向いていた。すると久遠は父の手を握りしめ……


「……ありがとう。ごめんなさい。これからよろしくお願いします……。」そう言うと……。父と和解ができたようだ。その後久遠と俺は久遠の部屋に布団を運び、泊まることになるのだった。その日の夜、俺が寝ようとしたとき、久遠が突然話しかけてきたのだ。「私……。やっぱり真也さんの事が大好きになりました。なので……。付き合ってください!」と告白される……。すると久遠は、「私と一緒の部屋じゃ嫌ですよね……? なので……隣で眠るだけでも構いませんから……」と、そう告げてくるのである。


俺は……


「いいよ。俺で良ければ喜んで」そう言うと、「……嬉しいですっ!」と久遠が抱きついてきてそのまま俺を押し倒してきたので……。「久遠……。そろそろ離れてくれないか……?」と言いながら離れさせようとすると……


「……ダメ。離して欲しかったら……キスして。」そう言われてしまう……。そして俺は覚悟を決めると、久遠と口付けを交わした。それからしばらくして唇を話したあと、恥ずかしくなってきたので久遠の顔を見られないように背中を向けていたのだが……。急に「真也さんの事が好きです。」と言われたため、久遠の方を見ると同じように照れている様子を見せていた。「俺も好きだよ」と、俺は答えるのであった。こうして……二人は恋人として付き合いを始めることになったのだ。だが……俺達は気づいていなかった……。この後に訪れる運命のことを……。そう……。この時既にこの世界に魔の手が近づいていることを……まだ知る由もなかったのだ……。


あれから数週間ほど経ったが、特に変わったこともなく平和な日々が続いていた。そんなある日のこと……。いつものように仕事を終え帰宅すると……。俺は自分の目を疑う事になる……。なぜなら……。そこに……レイナがいたのだ。


俺達は再会を果たすと、お互いに抱きしめあい涙を流してしまった……。俺が生きていた喜びからか、はたまた俺が死んだと思い悲しんでくれていたというのか……。俺はどちらでも嬉しく思ったが……。俺が死んでいなかったことに驚いたようで……。「生きててくれたのね……。よかったぁ……」と言ってくれたので、レイナはどうやら俺を心配してくれて、会いにきてくれたらしい……。そんなレイナに俺は、「ありがとう。ずっと会ってなくてごめんな……。それに、いきなり来てもらって悪いな……」と謝るが、「いいんだよ。私は真也のことが大好きなだけなんだもん」と言われてしまう……。俺もそれに合わせて、同じように返すとお互い見つめ合い笑い合う。それからレイナと会話をしているうちに、時間が過ぎていってしまうと、「そっか……もうこんな時間になっちゃってるね……。明日もあるし……もう帰らないとだね」と言うので……


「あ、あぁ。送っていくよ。それと……。もし良かったらで良いんだけど……。俺ん家に寄っていかないか? 少し話がしたいんだ……。」と言うと、レイナは、「……うん! そうする!」と笑顔で返事してくれた。俺はレイナと一緒に家まで向かうと、レイナを家の中に迎え入れると、「適当に座ってくれ。今お茶を持ってくるよ」と言うとキッチンに向かいお茶を注ぐ。その間にレイナは俺の部屋の中をぐるりと見渡すと、「へぇ〜。意外とキレイにしてあるんだねぇ。もっと散らかってるかと思ったけど……結構整理されてるんだねぇ。あ、これ可愛い!」などと言いつつ俺の写真を見て楽しそうな表情をしていたので……。俺はレイナのところに持ってくると、写真を見せてもらう。その時にレイナの年齢を聞くと……。16歳という若さだったことには驚くが、それよりもレイナは見た目が幼く見えていたのでもう少し幼いと思っていたので余計にびっくりしたのだ。


それからは2人でいろんな話をしていたのだが、いつの間にやら眠ってしまったようだ。ふと目が覚めるとそこにはレイナの姿はなく……。時計を確認するとお昼の時間だったのだが、俺は妙な感覚に襲われていて……。外を見ると……雪が降り始めていたのだった……。


そして俺の予感は的中してしまうことになる……。俺が、家の外に出ようとすると、「おーい! 真也ー! 久しぶりだねぇ!」と声をかけられる。俺はその声を聞いて一瞬誰だかわからなかったのだが、振り向くと、レイアがこちらに向かって歩いてきていた。どうしたんだ? と思っていると……。俺の隣に立つと……「どうだい? 私が言った通りだろう? 私も久々だからさ。今日は真也に会いに来たのさ。」と言うと、俺の手を握って歩き出したので……。俺は「ちょ、ちょっと! 引っ張らないで!」と慌てて声を出すと、「ごめんごめん! 私とした事がついね。それでさ、せっかくだから一緒に出かけないかい? もちろん久遠ちゃんにも声をかけておいてあるよ。どうせだったらみんなで行かないかと思ってさ」と言うので……


「そうだな……。みんなで行こうか。久しぶりに会えたわけだしな。じゃあ久遠に電話してくるよ」と言い電話をかけようと部屋に戻り携帯を取りに行くが……。部屋にはなぜか久遠がいるので少し焦ってしまう……。「あれ、真也さん……。お邪魔してます……。すみません……。連絡しようと思っていたんですが……。なかなかかけられなくて……。」そう言って頭を下げるので……。


「大丈夫だよ。それより、久遠はレイアとは顔を合わせてなかったよね?」と尋ねると、「はい。なのでレイアさんに私も連れていって欲しいんです。私も真也さんの恋人として挨拶しておきたいですから。」と答えてきた。そして俺はレイアにそのことを伝えると、レイアも「構わないよ! じゃあそろそろ出かける準備をしに一度戻ろうじゃないか」と言ってきたので俺は一旦レイアと共に自宅へ戻ると、俺はレイア達を連れて街に向かうことにしたのだった。


それからレイア達に街の観光をして、レイアの提案により俺達は温泉に入ることになり……。久遠の背中を流すことにしたのだ……。俺は緊張しつつも久遠の体を流している時、「私……幸せですよ……。だって、真也さんが傍にいるだけで幸せな気分になるから……。きっとこの気持ちは真也さんもそうだと思います……。私は……そんなあなたが好きになりました……。大好きですよ。真也……」と久遠は囁き、俺の首筋へと唇を押し付ける。「あっ……。や、止めてくれ……」俺が久遠から離れようとすると、「私……今すごくドキドキしてます……。だから……お願いします……。私に触ってください……。真也さんに触れられることで安心させてほしいんです……。真也さん……。」と久遠は俺を見上げてくるので、俺は久遠の顔に手を当て……。


「俺も好きだ。だから今ここでキスをする」と言って久遠と唇を重ね合わせたのだった……。その日、俺は久遠を抱き枕にして眠るのだった。そのせいなのかはわからないが、朝起きた時は体が重たくて仕方がなく、体を動かすことが出来なかった。すると……。「……んっ。……おはようございます。真也さん」と、寝起き特有のとろんとさせた目を向けながら言ってきたので……。「お、おはよう。久遠」と俺が答えると、「私……。とても幸せな夢を見た気がします。真也さんが私を抱きしめてくれる夢を……見ていたような……。でも……これは現実ですよね……?」と言われてしまい、「あぁ。これが夢であってたまるか」と言ってやる。それを聞くと久遠は笑顔を浮かべ、再び眠りに落ちていった……。それからしばらくして起きると……すでに昼を過ぎており……。久遠は朝食を食べるため、台所に向かおうとするので……


「俺が作るから久遠は座っててくれないか?」と言うと……。


「……いいんですか?」と久遠に言われるので、「もちろん」と返すと久遠は席に着くのだった。その後久遠のために作ったオムライスを食べ終えると……「……美味しかったです。真也さんの愛情をしっかりと感じました。」と言ってくるので、「そりゃ良かった。」と言ってやり、「これからどこかに出かける予定だったよな……。悪いけど久遠も着いてきてくれないかな……? 出来れば……レイナと3人で。俺はどうしても話さなければならないことがあるんだ。」と言うと……。「わかりました。行きましょう。」と返してくれるので、俺達は外出する支度を始めた。それからすぐに俺はレイナに連絡を取ろうとしたが……繋がらず、仕方なく俺は久遠とレイナの家へと向かうことになった。


久しぶりの街はとても懐かしくて……でも、なんだか前よりも明るくなっているように感じる……。俺がそんなことを考えているうちに久遠とレイナの家にたどり着き……インターホンを押すと、「はーい! どなたですかぁ〜?」と聞こえたので、「……俺だけど」と言うと……扉が開かれるとそこには驚いた顔をしたレイナと……。レイアが立っていた。


レイナは俺を見つけるなり抱きついてこようとしたが、なんとか踏みとどまり俺の前に立つと、「真也。久しぶりだね。元気そうでなによりだよ。それと、久遠さんだね? 初めまして。真也の彼女のレイリア・フォンティエールです。話は色々と聞いているよ。私の方からも挨拶をしておかなければと思っていたんだ。これからよろしく頼むよ」と言って手を差し出してきたので……。


「えぇ。こちらこそ。それにしてもレイリアさんって本当に美しい人ですね……。それにとても大人っぽい……。」と言いつつ握手を交わすと、「そうでもないさ。ただ……。久遠は可愛いよ。私なんかよりね」と言って久遠と会話を始める……。レイナはそんなレイアのことを少し見つめていたが、俺はレイナのことを見て、「あぁ……。紹介するよ。レイナ、こちら久遠。レイナも知っていると思うけど……。俺達のクラスメイトだった子だ。それと、レイナは俺の恋人になったから……。今後はレイナとも一緒に行動することが多くなるかもしれない。だから久遠。仲良くしてくれ」と言うと……


「はじめまして。真也くんの彼女になります。久遠といいます。私からお願いするのは不遜だと思われるかもしれませんが……どうか……宜しく御願い致します……。あ、あの! その、できれば……呼び捨てで呼んでもらえると……。」と言い出すと……


「あぁ。分かったよ。では私からも改めて自己紹介させて頂こうか。真也と恋人同士となったレイナ・アリアードという者です。真也には命を助けてもらった上に……今はこうして一緒に暮らしています。まあ……その。真也と付き合っているということもあるけれど……今後一緒に戦う仲間としてもお互いを支えあっていけたらと思っている。久遠……君とは友達として付き合いたいと願っているよ。これから……宜しく頼んだよ」


「わ、私こそ! よろしく御願いします!」


レイアと久遠が挨拶をかわすとレイナは久遠の手を取り……「久遠。せっかくだしみんなで出かけようじゃないか。今日は休みなんだろう? だったら街に遊びに行こう」とレイアが言うので、「それもそうだね! 真也。久しぶりだし……みんなで街に出掛けようよ。」と言うと久遠は嬉しそうな表情をしながら「はい! 是非!」と言うと……。


俺は2人に連れられ、街の中心街にあるショッピングモールに向かうことに。そこで俺達は様々な店に立ち寄り……。2人は服を見たいらしく、女性物を中心に見て回り、俺の方は何をすることもなくボーッとしていた。


すると突然後ろから誰かが俺の手を掴み、俺は驚き振り返ると……そこにいたのは……。俺の妹だった……。


「久しぶりじゃん。お兄ちゃん。相変わらず辛気臭い顔してるね」と言われ……。「……誰だよ?……お前。……俺の知ってるやつじゃないぞ……。」と返すと、「は? 何? もしかしてお兄のこと忘れちゃったの? マジありえないんだけど……」と返してくる。……どう考えても俺が妹を知っている訳がない。なぜなら……。俺の記憶の中にこんな奴がいた記憶がないし、名前も聞いたことがないのだ。なので……俺は「俺に……兄弟なんて……。いなかったよな……?」と言うと、「……お兄……。私を忘れてない……?」と言うと、俺に詰め寄ってきて、俺の両頬に両手を当て、俺の目を見てきた……。……俺を覗き込む妹の瞳の色は青く染まっていた……。俺はこの瞳の色を知っている……。だってこの子は……。


「……俺の……実の弟だよ。」


すると、弟と名乗った男は……。「ははっ! まさか俺達以外に異世界から来てた人間が居たとは思わなかったぜ。……でもその反応を見る限り、俺の事を忘れてるみたいだね。……久しぶりだね、お兄。」と言うので……。「久しぶり。久々だな。元気にしてたか?」と俺は返す。そして俺は……


『 お父様とお母様には内緒にしておくが……。こいつは俺の……双子の弟の……。…… 蓮也。』と俺は弟にだけ分かる言葉を呟き……。俺は久遠達に弟を紹介する。久遠はいきなりの事に困惑しているようで……。「あ、あの。真也さんのお知り合いですか?」と言うと……。「あぁ。俺の……家族だよ。……名前は蓮也っていうんだ」


俺がそういうと……。


久遠は何かを感じ取ったのか、「……そうだったんですね……。ご家族の方にも会えて……真也さんも喜んでいると思います。」と言うので……。


俺は「久遠。こいつらは……この世界で出来た……俺の大切な……親友なんだよ……。……だから久遠。レイナと仲良くなって欲しい……。」と言うと……。「……真也さんがそんなことを言うだなんて……。分かりました。レイナさんとも仲良しになりましょう」と言ってくれたので…… レイナは、「……そうか……。久遠さんは……。私と真也は幼馴染だからな……。私とも仲良くして欲しい」と言うと……。久遠も「はい!私からも宜しくお願いしますね。レイナさん。……その、蓮也さんも」と言いながら、手を出し握手をする。……俺の家族は……。お父様と……お母様と……あと……もう1人、俺によく似た男……。……こいつもまた異世界人なんだが……。そいつもこの世界にいるはずだ……。まぁ……それは今話す必要は無いか……。


〜side:レイリア〜 私は現在真也と一緒に買い物をしている最中だ。私が買ったものは下着類で、久遠さんが着ているのと似たようなものを色々と購入しているところだが……。……私の方も久遠さんのような服を着ている人がいて、その人たちを久遠さんと同じような人なのではないかと思っていたが……。久遠さんもそう思っていたようだ……。……それからも色々な場所に行き、洋服などを購入したり、食事をしたり、ゲームをしたりして……。楽しく過ごした……。それからしばらく経ち、日が暮れると、私達は帰ることに……。


久遠が久遠の家に帰りたくない理由があるのだろう……。……久遠の家にたどり着くと……久遠が、「すみません。レイナ、少し……2人で話したいことがあるので……。少し外してもらえますか?」と真剣な表情で言い出したので……。「わかった。外で待っておくから話が終わったら連絡してほしい」と言って私は一旦離れることにした……。


〜数分後〜


「お待たせしました……。すみません、レイナ……。少し、時間を貰っても大丈夫でしょうか……?」と言われるので……。


「あぁ。構わないよ」と言うと……。


久遠が「では、少し失礼させていただきますね」と言って外に出ていく。


しばらくして……久遠が出てくると……。


久遠が「……私の部屋に来ていただいても構いません。そこでなら落ち着いてお話しできますので」と言うので…… 私も「ありがとう。助かるよ」と言い、私達は久遠の部屋に入る。


私達はお互いに座れるくらいの距離をとり、床に座って向き合うようにしながら……。


私は「さて……。話を聞こうか……。私も……久遠と2人きりで話がしたかったんだ」と言うと……。


「わかりました。……実は……。レイナが真也さんの恋人になった経緯と……レイナのことを真也さんから聞いたのですが……。私もレイナと同じように真也さんの事を想っていた時期がありまして……それで……。レイナにそのことを相談したんです……。……そうした時にレイナから言われたのが……『私と同じ境遇にあれば……。もしかしたら……。』と言われたんです。それもあって……。レイナには申し訳ないのですが、こうして同じ部屋にいることを許可してもらったわけなんです……」と言うと……。


私はそんな言葉を聞き……「久遠は一体……どういう人生を歩んできたんだ?……少し、私達の思い出話からしよう。…………あの頃、久遠はまだ中学生で、まだ幼くて……。……あぁ……。懐かしいなぁ……。私達が出会った頃、ちょうど中学に入ったばかりの頃だったかな……。その時から久遠は真也の事が好きで好きで堪らなかったみたいで……。でも久遠はその思いをずっと胸に秘めていたらしくて……。あぁ、真也が高校生になって……。久遠も私も高校に入学したばかりの頃だった。あぁ……懐かしい……。久遠が思いを伝えたあの時が……久遠と真也の関係が一歩進んだ記念日だったなぁ……」と言い始める。


久遠は私の言葉に驚いているようで……。「え?レイナと……。真也が恋人になったのは……その前じゃなかったの……?」と聞き返してくる。……どうやら……私達が初めて出会ってからは久遠も知っている通り、真也が久遠を突き放してから、再び私と真也が付き合ったという話しか知らないらしい……。


久遠に真也との馴れ初めや付き合うまでの話を一通りの説明すると……。久遠はとても驚いた様子で……。「そんな事が……!……でしたら……。私も真也さんを救わなければ……。私達だけが幸せなままでは駄目です……。」と言うので……。「……久遠。もし……本当に君さえよければ……。私と共に来てくれないだろうか? 真也を救うのに久遠の協力が必要だと思うのだ……。……勿論。久遠が望むのであれば……。真也の元から去ることも厭わないし、私と敵対しても……文句を言うつもりもない……。それに……私は……久遠とも友達として付き合いたいと思っている。久遠と一緒だったからこそ、真也と恋仲になることができた。その点に関しては……久遠に感謝しかないからな……。」と言うと……。「そうですね……。確かに私は……。真也さんを助けたいとは思っています。しかし、私が居なくなることで……。あの優しい2人の関係が崩れてしまうことは望んでいません……。レイナの話を聞く限りでは、レイナはもう真也さんと和解できているんですよね?……真也さんが異世界に行ってしまったとしても……また会える可能性はゼロではないでしょう?ならば、私は……自分の意思を貫くまでです……。私もレイナとはもっと一緒に居たいです。私にとってかけがえのない親友であるレイナと、真也さんと3人、幸せに暮らせる未来を夢見ていきたい。だからこそ……。真也さんがこちらに帰って来たときに……ちゃんとした生活が出来るよう。……私はこの世界に残り、出来ることをやろうと思ってます」と返される。……やっぱり……私と違うな……。私も、私も久遠が居るおかげで救われているし……何より……楽しい。……でも私はこの世界に来れて良かったと思う反面……この世界での生活に不満もある。……私は……やはり元の世界の真也と過ごした日々に戻りたかった……。……真也がいなくなったら私は生きていける自信がない……。……真也がいない世界なんて考えられない……。


久遠は……私とは違い……。元の世界に戻ってもまた会うことができるかもしれないという希望を抱いている。だから、久遠はこんなに輝いているのだろうか……?


〜side:久遠〜……あれは真也さんがまだ小学生の時だった。真也さんが突然……私たちの前から消えてしまったのは……。それからは大変でした。私は、私の両親が離婚した原因でもある真也さんのことが忘れられず、私は何度も、会いに行ったが真也に会うことはできなかった。それでも……また真也と出会えると信じて私は勉強に励みました。そんな折……。私は、私と同じように真也のことを諦められない人と出会った。彼女はとても優秀で、私よりも先に真也さんと再会できた。私と彼女とはお互い協力し合いながら過ごしてきたが……。ある日を境に……真也は私達に会ってくれなくなってしまった。理由はよく分からないけど……。とにかく、このままではダメだと思い……。彼女と一緒に色々と真也のためにできることを考えたが、私と彼女が持っている知識と、彼女の父親が経営している会社を使ってできることと言えば、せいぜいこの世界の経済の活性化や政治改革。後は……。医療の発展とかぐらいで、正直言って役に立たない。それから数年経っても状況は変わらなかったけど……。私はどうしても諦めきれなかった……。それから数年後。真也に再会した時は凄く驚いた。なんせ……。目の前にいた少年は記憶にある顔と違っていたからだ。私は思わず泣いてしまうほどに嬉しかったが……。彼の方からすると、初対面の女にいきなり泣きつかれて困惑していることは想像がついたので……なんとか落ち着かせることに……。そして話を進めていくうちに真也さんが真也だと分かった。真也は、昔に比べて明るくなっていた。……それもそのはず、彼が中学生になった頃から私の知る彼とは別人になっていたのだから……。


そんなこともあり、それからというもの、私達は色々なことがあった。真也が久遠と一緒に出かけて行ったときなどは特に寂しく感じたものだ。真也に好意を持つ人は沢山いるけど……。私には分かる……。真也と特別な何かがあるのはこの2人だけだということに……。……だからこそ私は嫉妬してしまうのだろう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜レイナと一緒に久遠の話を聞いた。


俺は2人が話した内容を聞き、「……そっか。久遠にも辛い思いさせてたんだな……。……久遠がこっちに来てくれてからは本当に助かったよ。……久遠、レイナ。これからもよろしくな」と言うと……。久遠は「はい!」と答えてくれる。レイナには「あぁ。任せておいてくれ。……さて、とりあえずは久遠の家に行こう。色々と買って行かないといけないものもあるだろう?」と言うと…… 久遠が「はい!ありがとうございます」と言いつつ立ち上がり…… 久遠の家に行き……。夕食の時間まで楽しく過ごした後、俺は久遠を駅まで送りに行き……。


久遠を見送った後にレイナの家に帰り……夜ご飯を食べることになった。……そうして次の日を迎える……。


俺はレイナと2人で学校へ登校中だ。……ちなみに今は2人とも私服だが、今日は始業式だけで特に何もない日なのだ。俺達は校門を通り抜け教室に入ると……そこにはいつもと同じ風景があった。みんながそれぞれ席に着いたりグループを作って会話をしていたりする。……俺はレイナにアイコンタクトを送りながら席へと向かう……。


席に着きレイナに「昨日の夜は大丈夫か?辛かったんじゃ無いか?」と聞くと……。「ええ。心配してくれたんだ。……うん、もうすっかり良くなって平気よ」と返事をする。


レイナが体調が優れなかった原因はあの薬にあったわけで、恐らく、そのせいであんな風になってしまっていたのだろう。俺は「よかった」と言いつつ自分の机を見ると……。


【真也】と書かれたシールが貼ってあった。……俺としたことが……。自分の名前の書かれた席に気付かなかったのか。「すまんな」と言いつつも、内心は結構嬉しかったのだが。そんな事を考えているとレイナから「いいよ」と言われる。


しばらく経ち担任の先生が来たところで朝のホームルームが始まる。そこで……


「えー。明日から1週間はゴールデンウィークになるんだが、その間は部活動の申請書とかも出せるからな。……あぁ。もちろん、休み明けは実力テストも有るから勉強は忘れずにするように」と伝える。……どうもうちでは5月6月7月に連休があるようで、その前に試験を行うようだ。……まあ……中間試験みたいなものなんだけど。その後……簡単な連絡を終えて午前の授業を終える。昼休みになり、購買に行くため廊下に出ると……レイナが付いてくると言うので2人きりでの昼食となる。……購買に向かう道の途中に中庭があり、そこにベンチが置かれているのだ。……なのでそこへ行く事にする。……ちなみに今はまだ春で気候は暖かく、天気も良いので非常に気持ちの良い時間を過ごしている。


レイナが作ってきたお弁当は……とても美味しい。俺も自分の分のお弁当を持ってきているが、それを食べ終わる頃になって……


「レイナ。ちょっと相談に乗ってくれないかな」と話しかける。レイナは俺の顔を見ながら不思議そうな顔をしていたものの「どうしたの?なんでも言ってみて」と返答をくれたので……「いや、その……。なんだ。……レイナはさ、異世界転移とか、転生、召喚なんかを体験したことあるか?……」と聞いてみた。……正直に言ってしまうと……。俺が元いた世界に戻るためには……。異世界に行って、元いた世界への干渉を止める事が必要らしいのだ。そして……。異世界へ行く為には、レイナのような存在の助けが必要なのでは?と思っている。しかし、そんなことを急に相談されても……。困るだけだとは分かっているが……。レイナにしか話すことが出来ないし……。なにより……。俺はレイナと一緒にいられるなら、他の事はどうにかなるんじゃないか?と考えているのだ。しかし……いくら仲が良くても……普通に考えれば無理な話なのはわかっているので……レイナに「その……な。例えばの話な?……もし仮にだよ?レイナが……もし別の世界にいく事になったら……その……俺についてきて欲しいって言われたら……レイナはどう答える?」と質問した。レイナにこんな話をしたのは……レイナならば何か答えを出してくれるのではないか?と考えたからである。……こんなことをいきなり言われてしまうなんてレイナだって思ってなかったはずだが……。それでも、真剣に悩んでくれるのがこのレイナという少女なのだ。…………沈黙が続いたが……。俺はレイナの言葉を待ち続けた。すると……レイナはその綺麗な青い瞳を真っ直ぐに向けてこう言い放った。


「私は、真也と一緒に居るわ。何があろうとね。たとえどんな事が有っても、真也から離れない。私は真也と一緒に居たい」とはっきりと言った。……レイナがそう言ってくれることは予想していたが……。改めて面と向かって言われるとその重みが違う。それに……一緒にいると言って貰えただけで嬉しいが……。その……好きという気持ちを伝えてもらえたことが一番嬉しかった。……俺は……少し泣きそうになってしまうが……。グッと我慢しつつ「ありがとな……。……実は、まだ誰にも言ったことが無いんだけど……。その……俺は一度……。死んでいるんだ……。で……その時に……。不思議な女の子に助けられて……。そしてその子はこう言ったんだ……。真也とずっと一緒にいるって……。……それが……その子の名前で……。レイナっていう子なんだよ……。だから……レイナは俺にとって特別で……。好きな子なんだけど……。そんな子とまた会いたいと思わないか?……でも……。レイナを巻き込む訳にはいかないから……諦めた方が良いのかもしれないって考えてたんだ……。だけど……。どうしても……。また会いたくて……。その……。こんな話をいきなりされちゃったら……嫌だったろ……。悪い……こんな変なこといきなり聞いちゃったりして……」


と……話を続けるうちに段々と声が小さくなっていきながらも、なんとか話しきる事が出来た。すると…… レイナがいきなり立ち上がったと思うと、そのまま座っていた俺の前に来る。


俺は突然の出来事で驚いてしまうが、レイナはそのまま両手でぎゅっと俺の事を抱き締めてくれた。俺は、恥ずかしい気持ちもあったが……同時に安心している自分もいて、レイナの腕の中でされるがままになる。しばらくしてレイナが俺を解放してくれると……。「ふぅ。……私はあなたの力になりたいの。だから……。真也の役に立たせて頂戴?」と言う。俺はレイナに迷惑を掛けないようにしようと思っていたのだが……。その言葉を聞けば断る理由は無い……。だから……「分かった……。その時は頼むよ。ありがとうな」と伝えると……。「うん!」と元気よく返事をする姿がとても可愛かった。……それから午後の授業を受けるが……その時間も幸せであった……。……そんなこんなで放課後。久遠のところに行き、色々と買い込んだりした後、レイナの家にお邪魔した。


久遠は俺にレイナを託すような形で「じゃあ、レイナさんのこと頼みますよ!私は用事があるので失礼しますね!」と言う。久遠には……後でしっかりお礼をしておかなければ……。俺はレイナに連れられ家の中へと入る。中に入るとすぐにリビングの椅子に座りながら久遠に貰ったおみやげを開ける。中には紅茶セットと焼き菓子が入っている。俺が「おっ!美味しそうだな。早速お茶にするか?」と言うと……。


レイナも嬉しそうにしてるように見えたので……良かったと思った……。……しばらく談笑して過ごす……。今日は……レイナとゆっくりした時間を過ごせた……。


次の日の朝……俺が目を覚ました時、俺は自分の体の変化に驚くことになる。……昨日までは男の姿だったのだが……。今は何故か女の体になっているのだ。どういう事なのか分からない。昨日久遠と話した内容を思い出してみる。


確か昨日の夜にレイナの家に泊まりに来たんだっけな……。レイナが作ってくれた晩御飯を食べたり、2人で映画を見たりした後に寝て……。今起きたってわけだ……。自分の姿を確認するために鏡を見てみる。するとそこには、銀髪の少女がいるのが確認できる。……一体なんなんだ?とりあえず……昨日の久遠との会話を聞いた後に起きてから起こった事を思い出してみる。そういえば……あの後に、朝に飲むと効果が出る飲み物を渡してきたな……。


レイナが「あぁ……。そうね……。確かに昨日のうちに飲めなかったし、そのせいもあるかもね」とレイナも同意する……。……しかし、これはまずいな……。俺は今……レイナの家で2人っきりなのだ。レイナの両親は今日はいない。つまり今日から連休なのでどこかに出かけている可能性がある。そうなれば家に帰ってこない可能性もあるわけで……。もしこのまま戻らなかった場合は……。俺はこれからもレイナと一緒にいることが出来なくなってしまう。レイナも俺と一緒にいることを望んでくれてるし、俺も出来るだけ一緒にいたいと……。


とにかく今は……。どうにか戻る方法を考えないと。……と俺とレイナの2人が悩んでいる最中、玄関の方からガチャッという音がしたかと思えば、「ただいま〜」と聞き慣れない声がしたのだ。……どうやらレイナの両親か帰ってきたようである。


俺は慌ててレイナの部屋を出ようとしたものの……。服を上手く着れないのとレイナの部屋に一人にしておくのも不安だったので……レイナと一緒に隠れることにした。レイナもこの状況を理解できたのかコクリと首を振ると、部屋にあった布団の中に潜っていった。……俺は布団の中に入ってもなおドキドキしていたが、そんな事を気にせずに扉が開いた音を聞いたのでそっちに視線をやる。……レイナの両親のようで2人共こちらに向かって歩いてきているようだ。


レイナの両親は「いなくなってたらびっくりしちゃうわね」「ええ……」と話していたのが聞こえてくる。……恐らく俺のことについて話をしているようだ。俺は緊張のあまり汗が止まらずに布団の中にも垂れていく。俺はバレないように祈るしかない……。……俺が焦っていると、レイナの両親が話していた内容が耳に入る。どうも……俺のことが話されていたようで……。「ねぇ……貴方は私達が帰ってくるまでに……本当にこの子を帰らせなかったのかしら?……」


と俺のことを責める口調で話しているのが聞こえてしまった。……どうにも……レイナが俺を無理矢理に連れていったと疑っているらしい。


レイナは黙ったままなのでどう思われていても問題はないと判断した俺は「すみません。私がこの子を引き留めたのです」と言い、俺の声が聞こえるようにレイナの方に近寄っていくとレイナの手を握る……。するとレイナはビクッとしたが……。それでも俺の手をギュッと握ってきてくれる。その行為に心が温まる。


「そう……なら、どうして?」とレイナの母と思われる人物が問いかける。俺はレイナの方を向き目で訴えかけるが、レイナがそれに応えてくれず……俺は言葉を選んでいく。


「その……レイナさんに助けて頂いたことがあるんです……。そのお礼を言いたかったのもありまして……。レイナさんの優しさに触れてしまって……その……離れることが出来なかったといいますか……。レイナさんともっと話がしたかったといいますか……。だから……その……私が悪いんです……。」……と必死になって答えるが、俺の心が苦しくなるのを感じる。やはり俺の言葉では説得力が無いのだろうか?


「へぇ……それは良かったわね?レイナちゃん?……でも、その様子だと何か隠してることあるわよね?」


と俺の言葉を信じていないようだったが、レイナに矛先が向いたことでホッとする……。しかしレイナは相変わらず俺の手にしがみついたままだった。……レイナはずっと無言を貫いていた。……すると突然、レイナの母親がとんでもない事を言う。


「ねぇ、正直に言いなさいよ!本当はこの子のことが気になったんじゃないの!?だから無理やり引き止めたんでしょ?」……俺はレイナが傷つかないかどうかが心配だった。そしてレイナの答えを待つ。……レイナは震えた声で話し出す……。


「違うもん……。私は……真也のことなんて興味無いもん……。私は……。真也とずっと一緒にいるんだから!もう決めたんだから……。だから……私の好きな人は真也だけだもん!他の人に何と言われようと関係ない!私は絶対に離さないんだから!!」


レイナの怒りが感じられる発言であった。その証拠に今までレイナの手を握っていた俺の手には痛みが走る……。そして……レイナの母親の表情は見る見るうちに青ざめていく……。そして……俺に対しての罵倒が始まる……。「そんな……。まさか……。そんな事が……。嘘……。信じたくない……。レイナちゃんが男の子を好きに……なっちゃうとか……。でも……。こんなに可愛くなったんだものね……。それに……。レイナちゃんだって女の子なんだから、男の人に惹かれたって……。それにしても……なんで……こんな事に……。こんなはずじゃ……。」……どうにも様子がおかしいのでレイナを見ると、顔色が悪かった。……レイナは母親にこんなに嫌われたことがないのかもしれないな。レイナをこんな風にしたのは紛れもなく……俺だ。レイナには……もう頼れる人間が……居なくなってしまったのだ……。そう思うと……。自然と涙が溢れ出し、俺は思わずレイナに謝っていた……。


俺は自分が泣いていることに気づくが、レイナの母親の発言でそんなことを気にする暇はなかった。……どうも……レイナに恋心を向けられる俺を恨んでいるみたいで……。……俺は今の状況を考えるが……俺が何を言ってもこの親子関係が変わることは無いと思う。俺がレイナと一緒にいれば……レイナの家庭環境は変わるかも知れないが……。レイナの親がレイナの事を諦めない限り、この事態をどうにかするのは無理だろう……。


だが……そんな俺の考えとは裏腹にレイナの母親の発言に違和感を覚える……。何故だかは分からないが、今すぐにこの場から離れないといけない気がした。俺はレイナを庇おうとしてレイナを抱き締めながら……急いで逃げようとするが、既に遅かったようで、俺達の周囲に魔法陣のような物が出現しており、俺達の動きは封じられてしまった……。「なっ……。一体……。これって……。一体どういうことだ!?」と俺は動揺を隠せずにいると、今度は俺達の目の前に1人の男が現れた……。その男は……俺のよく知る人物だった……。「初めまして!俺は……まぁいいでしょう。それより、貴方方は何をしているのですか?この子に何をするつもりなんでしょうか?」と笑顔で言うが……。目が笑ってないので怖さを感じてしまう。俺はレイナの方を見る。レイナはガタガタ震えている……。「レイナは……。私はただ……。この子の面倒を見てるだけよ……。私達はこの子が困っていると思って……手を差し伸べたのよ……。」


と、どうもこの状況に納得いってない感じの返答をする……。……確かにこの人がやったのであればレイナが震えている理由も分かるが……。この人がレイナを傷つけるとは思えない。俺はレイナに大丈夫だと伝えたいが、俺とレイナの周囲には強力な結界のようなものがあり身動きが取れずにいた。……レイナはこの人に対して「やめてっ!お願いだから!」と言っていたが……そんな事を聞くわけも無く、そのまま男は話を進めていく。「そうでしたか〜!それは申し訳ございませんでした!いやぁ〜!僕とした事が大きな勘違いをしてしまっていて……お恥ずかしゅうございます!!あぁ……。自己紹介がまだでしたね?僕は……。【久遠寺 龍】です。よろしくね?君の名前を聞かせてもらってもいいかな?僕の愛しい人」……と俺に向かって話しかけてきたのだ……。レイナの顔色が再び悪くなっていく……。「レイナの……。レイナの名前を呼ぶんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


と俺も叫ぶが……全く聞いてくれない……。俺はこの男が嫌いになり始めていた。……そもそもこの人がレイナの事を好きな時点で……信用出来ないんだよ……。レイナの事を本気で好きだと言うなら……。この人がやってる事は全て間違いである。「ふむ……。レイナか……。良い名前だね。君の美しい声に相応しい素晴らしい名だと思うよ。」……俺はこの人に対する嫌悪感が増していた……。レイナは自分の名前が呼ばれるとビクッとしていたが……。レイナは「やめて……もう……許してあげて……。この子は……。本当に優しい子なのよ……」と涙を流し始める……。すると、俺も限界に達してしまったのか……怒りの感情に支配されていく……。「……貴様。俺の前で……その名前で……呼ぶな。」……どうやら俺とこの人とでは全く価値観が違うようだ。俺は自分の名前をバカにされるのが一番腹が立つ。この人はレイナが自分の所有物だとでも思っているような発言を繰り返していたが……。そんなことは俺が許さない。「お前にそんな事を決める権利はないぞ!これは……。これは……この子と俺の絆の問題なのだからな!俺達が……家族になる為に、必要な儀式なんだ。俺は、この子を悲しませる事はしないと決めたんだ。レイナの家族を名乗るなら……俺の前に姿を見せるな。二度と現れるんじゃねぇ。」


と言って俺は睨みつける。俺は……もう迷わないと決めたのだ。……レイナの事を……守るために。俺は……。この世界で……生きるんだ。……この世界で、新しい人生を歩むと。俺はもうこの世界の人間ではない。だが……。それでも、レイナを守ることが出来るのならば……。この世界で生きていく覚悟がある。だから俺はこの世界に来ても、自分を見失うことは無かった……。


俺は……もう何も失わないと誓ったんだ。レイナを守っていくために、強くなってみせる。俺は決意を固めた後、「分かったか!?」と俺の怒りは頂点に達したが、相手からは返事が無いため……俺は「もう行くから。」と言い、レイナを連れて行こうとすると……。この男の笑い声が響き渡った。……俺は思わず、レイナを庇いながら攻撃体勢に入るが、男は「クククッ!アーハッハハ!そんな怖い顔しないでくれ。悪いのはそっちなんだぜ?」と笑うが、俺は「何が悪いんだ!レイナを傷つける人間は俺には許せないんだ!それがたとえお前であろうと!!」と叫んだ。……俺は今にも飛びかかりたい気持ちを抑えていたが、この人は余裕な態度を見せながら……。俺をあざ笑っていた……。


俺の言葉を聞いたレイナが……この男に飛びかかって行った。だが……この人に簡単に弾き飛ばされてしまい、地面に叩きつけられてしまっていた。……その瞬間。レイナの心が見えた気がした……。その心の叫びを聞いてしまうと……レイナの母親が「……やめなさいっ!!その子に手を出さないでっ!!……どうして……。どうして……私達から奪っていくの……。どうしてなの!?どうしてこんな目にあわなきゃいけないの!?私だって辛い思いをしているのよ……。それなのに……こんなのあんまりじゃない!!私達はただ、あの子を助けたかったのに……。こんな事って……ある!?私はただ……普通の暮らしがしたいだけなのよ!?どうしてこんな事になってしまったのよぉ!?もう嫌……。こんなの耐えられないよぅ……。私にはもう無理だよ……。だから……。だからね……。私にもう関わらないでちょうだい。私の事はほっといて……。私は一人でも何とかなるから……。もう誰も信じない……。もう誰も信じられないの……。私は……。私は一人なんだから!!」……その言葉と共に、俺は思い出してしまう。


そうだ。……俺はこの人の気持ちを知っている。俺には親が居ない。だから親から受けるはずだった愛情を受けられなかったこの人の辛さを分かってしまった。そして……その言葉は……。俺にもよく当てはまる。


俺は、前世の記憶が有るせいなのかは分からないが……俺は誰かに頼るということをしなくなった。だが……その行動こそが間違いだったんだ……。


そして……。今まさに、俺も同じ道を進もうとしている。この人からすれば、俺の方が邪魔に思えるだろう。そして俺はレイナを守りたいと願ったが……。今のこの人は……レイナに近づかれたくないはずだ。そして俺はレイナの方を見る。……そこには、泣いているレイナの姿があった。俺は今、やっと理解することが出来たんだ。……俺のせいで、レイナを苦しめてしまったことに。俺の行動は、結果的にレイナを追い詰めることになったのだと。


だが……レイナは俺に対して、謝り続けた。……俺は、俺に何か出来ることはないかと考えたが……。……結局は何も出来なかった。


そういえば俺は……この男にまだ自己紹介をしてないことに気がついた。


「……すまない。俺は……この子の父親だ。……レイナの母親とも少し話したが……。やはり俺とこの女の関係は変わらないみたいだな。レイナは……誰にも傷つけさせない。例え……レイナが拒んでも、俺が何度でも言ってやる。……俺は、絶対に、こいつを許さない!!お前だけは!!……この子が、どれほど辛い想いをしたかなんて……分からないだろうな!!だが、これ以上……レイナを苦しませないために……俺はお前に勝つ!この世界に来たからこそ!俺は強くなる必要があるのだ!!」


と俺は言い切った。……この人がどういう意図があって俺達に近づいてきたのかはまだ分からないが……。この人はきっと……本気でレイナを愛していると思う。でなければ、わざわざ俺達のところに来ないだろう。


俺が言った後にしばらく沈黙が続くが……。この人は笑い出した。「アァーハッハハ!君とは分かり合えると思っていたが、まさかそんな風に思われているなんてね。君は一体どれだけお人好しなんだろうか?……僕はね、その女の事を本当に愛してる。だからこそ僕は彼女の事を想って行動していたのさ!彼女のために、色々とね。僕は彼女を幸せにする為に行動していたが……。それは間違いだったということか。君がそこまで本気だというのなら仕方がないね。……さぁ。君の力を見せて貰おうじゃないか!」と言った直後。


俺達を囲っている魔法陣のような物が消えたと同時に……この人が一瞬にして目の前に現れる……。だが……。レイナは「パパ……。私も……。一緒に戦わせて?」と言い始めたので……。俺は、レイナに「危ないから下がっててくれないか?」と頼むと、「ううん。私はもう逃げない。私がこの人のことを受け止められないなら、それはそれで良いと思ってるの。けど……もし受け止めることが出来るなら……。この人も、私と同じなんじゃないかと思ってるの。……だから……。」と言う。


そう言うとレイナはこの人の方に視線を向ける。「そう……。レイナがそういうなら構わないよ。ただし……。危険な状況になったらすぐに下がらせるからね。僕が守るから大丈夫だけど、万が一があるからね。」「……分かった。ありがとう!」


レイナがお礼を言うと、今度は俺のほうを向く。「真也さんも、お願いしていいですか?貴方も強いのかもしれませんが……。お願いします!」と言われてしまう……。「俺は……。まあ、良いんだけどな。分かった。じゃあ……3人で頑張ろうか!」と俺は言うと、2人共、俺の言葉の意味を理解したようで……。俺達が何を考えているのかを悟ったのか、「ああ。分かったよ。」と言い始めてくれる……。そして俺は、あの人との距離を取ると、「まずは、あれからやってみるか……。『炎剣』!」と俺の手の中に、1本の赤い刃を持った剣が現れる……。俺が最初に使えるようになった武器であり、使いやすいため愛用しているのだ。


俺はそれを確認すると……。「お前は俺を試したいんだろ?だったら本気でかかってきなよ。手加減されて勝っても面白くないし、俺も全力を出させてもらうぞ?」と言い放つと、この人はニヤリと笑うと「もちろん!君に勝った後、ゆっくりとその剣を味合わせて貰うとしよう。僕の全霊の力を!!君に叩き込んであげるとしようか!ハアッ!!」と言うと……。俺に急接近してくるが……。その動きは遅いように思えた。


俺はこの人の動きを冷静に見ていたのだが、レイナと会話をする暇も無く……。俺はその一撃を防ごうとするが、あまりの力の差から、その攻撃を受け流せず、後ろに吹っ飛ばされてしまう。そして俺は「クッ……。」と言って地面に倒れ伏すが……。俺はすぐさま立ち上がり……。再び構えると「やっぱりまだまだだったようだな……。だがこれでわかったことがあるな……。お前を倒す為に必要なものがな!次からはもう少しマシに相手が出来るかもしれないな……。」と俺が言うと、この人は笑みを浮かべる。


「どうやら君の考えが分かったよ。……これは楽しみになって来たよ。……君はどうやって戦うんだい?君もあの子の加護を使えるのかい?……それと、あの子にどんな感情を抱いているんだ?」と聞かれるが……。「そんな事は言わないよ。」と答えておく。


そうしている間に、レイナの準備が出来たらしく……。


レイナは俺に話しかけてくる。


「パパ!準備は終わったわ!私に任せておいて!……ママは私が止めさせるから!安心していて!」


俺が「……ああ。よろしく頼む。あいつを止められるのはレイナだけだと思っているから……。俺はサポートに専念するから。……だから……。任せたからな。俺達は……お前を信じる。」「えぇ!行ってくるわ!私の事、見ていてね!!」とレイナは言いながら走り出した。俺は、その様子を見守っていたが、レイナは相手の元に到着するが……その時だった。突然、レイナに向かって何かの攻撃が飛んでくる。だが……レイナはその攻撃を見事に弾いて見せたが……。攻撃を放ったはずの男はその場におらず……。次の瞬間には……レイナの背後にいたのだ。その男はレイナの首筋に向けて刀を振り抜こうとしていたが……。


レイナはそれを予想しており……男の斬撃をかわした後……。男に対して反撃を行う。レイナの放った蹴りは男の腕によって止められてしまったものの、その衝撃までは抑えきれずに吹き飛ばせたが……その隙を突いて……男がレイナに攻撃を仕掛けようとしてきたので……それを援護する形で……


『風弓:嵐雲(ストーム・クラウド)!』……と唱えて、大量の風の矢を放つ。


すると男に命中していく……。


俺はレイナに近づき「ナイスアシストだ!レイナ。次はこっちだ!行くぞ!!


『炎雷乱舞』!!!!」……そう叫ぶと俺の周囲に多数の小さな竜巻が出現し始める。そして俺の周りに出現した複数の小さな竜巻が徐々に大きくなると……やがて巨大な竜巻へと変化を遂げる……。俺はその現象を利用して一気に相手に近づいていき、その無数の小さな刃による猛攻を始める。……その数は20を超えるが……その全てを命中させている……。だが……それでも致命傷にはならないらしい……。


「アァーハッハハ!素晴らしい技だが……。その程度の力で僕をどうにか出来ると思ったのかい?だとしたら……舐められたものだね!」……そう言って俺の連撃の隙間を狙って、俺の心臓に刀を突き立ててきた。俺は咄嵯に反応するも、ギリギリのところで避けたものの、完全にはかわしきれていない。そのため、肩口から血を流してしまっている。


「グゥッ……。……まだ終わりじゃないぞ……。俺にはこの技があるんだ!レイナ!!後は頼んだ!……こいつの相手を任せた!俺は……」……そして……レイナは……俺の言葉を聞かずに「大丈夫だよ!私は信じてる。だから、私を信じて!」……そう言ってくれる……。俺はまだ諦めてはいない……。俺だって負けたくないんだ……。それに、まだ……俺は……。レイナを守ることを諦めていない! 俺はレイナを心配させないためにも、「ああ。俺は……絶対に負けない!!だからレイナも……あいつの気持ちに応えてやってくれ。」「うん!」そう返事をしてくれた。レイナの身体から魔力のようなものがあふれ出しているような気がしたのだが……。


レイナはそのまま走って行って、そのまま……俺がやったことと同じ方法で攻撃を始めたのだ……。


そして2人の戦いが始まると……2人の動きが激しくなり、お互いにぶつかり合うと、その反動を使って離れるという事を何度も繰り返すようになる。……2人の動きを見続けているが、互角のように思える……。


「さぁ……君達はまだ僕に勝つつもりなんだろ?ならさっさと本気で来るべきじゃないか?僕としてはそろそろ飽きてきてしまったんだよねぇ……。君も、あの娘も本気を出すべきだと思うんだけどな?……さあ。早く本気を出してくれないかなぁ……。」そう言いながらも俺への攻撃は忘れずにしてくるので、俺は必死になってその攻撃を防いでいく……。


レイナとあの人の様子を見ていると、俺と似たような戦い方をしているように見えていた……。


レイナの足は速くはないように見えるが、移動速度は凄まじく速い……。ただ……あちらの世界の時と比べると遅く見える。やはり身体能力が強化されているのか? 俺も同じように動こうとするが……俺の場合は少し違っていて、体がついていけてない状態になっている……。だがそれでも……俺は少しずつ動き始めている。それはまるでスローモーションのような状態で……俺はあの人と同じような速度で動けるようになったのだが……。そこであの人が攻撃を仕掛けてきた……。俺も対抗して攻撃を始めようとしたのだが……俺はここで初めて……自分がレイナの加護について知っていないことに気づく……。


あの人とレイナとの戦いに集中できないまま、あの人は俺に斬りかかろうとしているので……なんとかして防御しようとするも間に合わないので回避しようとしたら……なぜか、俺の身体は勝手に動いて……俺に迫ってくる斬撃を弾き飛ばしたのだ……。そして俺の手の中にある武器もいつの間にか変わっていて……あの人と似たような武器になっていた。俺はその武器を確認して、ある一つの事に気づいたのだ。……この武器は俺とそっくりだということに。俺の使っている武器である紅玉剣と似ているのだ。


俺は驚きを隠せずにいたが、この好機を逃すまいとして、すぐに攻勢に移ると、あの人も俺と同じように……武器の形状が変化し始めた……。俺はそれを見てすぐに分かった……。この武器の正体に……。これは……俺が使っている武器なのだ……。俺はそう確信したのだが、なぜそれが分かったかと言うと……。あの武器から感じる雰囲気が似ているように感じたからだ……。この武器は間違いなく俺の使っている『炎神剣(ブレイジングソード)』のはずだが……。この世界で同じ名前の物が出回っているというのか……?……もし、そうだとしたらこの世界にも……真也さんは存在しているということなのか……それとも俺がここに居ることがイレギュラーなだけで……本来はいない存在だというのか……?……まあ、それはいいか……。それよりも今はこの状況をどうするかが問題だな……。俺は自分の状況を把握しつつ、レイナが勝っているのを願いながら、戦闘に集中する。だが俺の攻撃は通用していないらしく、あの人は攻撃を続けているが、あの人はダメージを負うことなく……俺の剣は破壊されていく……。この武器が『紅玉剣』という事が分かり、『聖魔鋼剣』ではないので、俺に宿る加護を使うことは出来ない……。このままではいずれ壊されてしまうだろう……。そんな考えをしていたせいもあってか……俺が劣勢に陥っているのが分かる。


俺は……レイナの事ばかり気にしていたが……あの人の動きの変化に驚いていた……。先ほどまでは速さと力を重視していたが……今では俺が知っているレイナと同じような攻撃方法をするようになっている。その証拠に……攻撃速度が上がったのだ。俺は何とか防いでいるが……徐々に押されていることが分かる。レイナがどうなったかわからないが、俺が負けたら……。レイナも危ない……。レイナも頑張っているが、まだ……この人をどうすることも出来ていない様子だった……。だが、俺はそんな事を考えた時に、突然頭の中に何かが流れ込んできたのを感じたのだ。……何があったのかわからなかったが……今の俺にできることは、この人から逃げ続けることだけだ。俺は逃げるためにレイナの様子を見ると……。そこにはボロボロになったレイナの姿が映る。……そして次の瞬間には、俺に向かって何かの斬撃を放ってきた。俺は間一髪のところで避けると、今度はレイナの斬撃を避けることになる。レイナの方から悲鳴が聞こえたので……おそらく斬撃を受けたのかもしれない……。俺は急いで助けに行きたいが、あの人から逃げることで精一杯だ……。するとレイナが俺に向かって声をかけている。俺はその声を聞き取り……


「……任せて!私を信じて!必ずあなたを救ってみせるわ!」……俺はそれを信じることにした。レイナは俺を助けようとしているのだ。俺が信じなくて誰が信じるんだ! 俺もそれに答えてみせよう……。そう心に誓って……俺は……全力を振り絞った……。レイナを信じることにしたんだ……。もう何も怖くない!俺はレイナを信頼することにした。


レイナの一撃が放たれると俺はそれをまともに受けてしまう。だが俺には効いていない……。レイナの斬撃を無効化したのだ。俺にはその方法を知ることはできないが……。それでもレイナが戦ってくれているのなら俺はそれで良かった。


俺はあの斬撃を受け止めた。……俺はこの斬撃を知っている気がした。そしてレイナも……


「え!?……どうして……。この技は……」


そう言っている。そして、この斬撃を知っていた理由は……レイナの攻撃方法があの人と同じだったからだ。俺は、あの斬撃を見た時に、あの人の事を思い出していた……。その事から推測するに……。この世界でもあの人が存在している可能性が非常に高い。そう考えると、今起きていることは現実なのかと疑問を持つ。……俺達は本当に違う世界に飛ばされてきたんじゃないか?そう思い始めていた。そしてレイナに話しかけてみる。「……レイナ。……俺が時間を稼ぐから、その間にあの人のことを頼む。……きっとあの人も俺達と同じ境遇にいる可能性が高い……。だから俺は、俺がやるべき事をやる。レイナは、俺が時間を稼げるようにしてくれ。」「……わかったよ。私もやれるだけやってみるね。……だから死なないでね!」……その返事を聞いて嬉しかった。だから……。俺は絶対にあの人に勝って、生きて帰ろう!……そう決心することができた。


そう思ってからは必死に避け続ける。少しでも反撃の機会を作る為の隙を作ろうとしていた。俺は今まで以上に集中していたのだと思う。……だからこそ気づくことが出来たのだ。あの人の刀の軌道が変わったことに。あの人はまだ刀を使っている。つまり、まだ本気を出していないのだ。まだ何かあるに違いないと思い……。その攻撃を見極めようとする。そして俺はその軌道を読むことに成功すると、あの人が刀を投げたのだ。……まさか刀を投げるとは思っていなかった俺は慌ててしまうが、レイナの斬撃をどうにかして受け止めることはできた。そしてレイナはその攻撃をどうにか凌ぎ切る。あの人は刀が手元に戻ってこないことを確認して焦っているように感じた。


俺もこのチャンスを逃さないように……攻撃を仕掛けたのだが……避けられてしまい……。さらに攻撃を続けるのだが当たらない。……俺もレイナと同様に体力が減ってきてしまっている。レイナも同じようだ。……だがお互いに諦めてはいないので、攻撃の威力が落ちていても、当たる気配がないのだ。俺は攻撃を繰り出し続けながら、レイナに声をかける。「大丈夫か?」……すると、


「大丈夫だよ!……私は負けない!」


そう言いながら俺に返事をしてくれる。その顔はとても苦しそうな表情をしているが……。その言葉通りレイナは決して負けてはいないのだ。俺だって諦めてたまるか!俺はまだやるべき事がある!ここで死ぬわけにはいかない!俺は絶対に諦めないんだ!!!……そう強く思いながら……。それでも攻撃の手は止めずに……。レイナと息を合わせながら、俺は少しずつ……あの人を追い詰めようとしていた。


レイナと俺は……徐々にあの人のスピードに追いついていき……そして……。


レイナの攻撃は防がれることなく命中し……あの人はその場に倒れ込んだ。


「うぅっ……なぜ……?……」


そんな呟きが聞こえるが……俺はそんな事よりもレイナが無事だったことが嬉しい。……だがあの人が最後に使ったあの攻撃……。レイナも知らないようで困惑している。だが俺にはあの人が誰なのかなんとなくわかっていた……。だが確証はなかった為に…… 俺はレイナに質問してみた。……レイナはすぐには理解できないのか……?少し考えた後で、ようやく思い出したような顔をして……。「……あっ!もしかして……私の知り合い……なの?」と、尋ねてきたが、その問いに対して、俺はこう答える事しかできなかった。……それは……。「ごめん……。分からない……。だけど……。どこかであったことがあるような……懐かしさがあるんだよ……。俺の勝手な考えなんだけれど……。あの人は……。」……そこまで言って言葉を詰まらせていると、俺が言わんとしていることがわかったのか……。少し悲しげな顔をしている……。俺はあの人に対して申し訳ない気持ちになってしまった……。あの人はおそらく、この世界での……レイナにとって大切な人だったのだろう……。だが今はそれを考えるのは後にすべきだ……。今は……。あの人をどうすべきかが重要だろう。


俺とレイナは、あの人と話をするために近づいて行った。


そして……俺達が近寄ると、あの人は目を覚まして起き上がると、俺達に向かって謝罪の言葉を述べた後に話を始める。……俺が思った通り……。あの人は『オリオン』のメンバーで、パーティ『アルデバラン』のリーダーである真也さんだ。俺はそれを理解すると、すぐに警戒心を解き始めると……。レイナもその人を見て安心したような顔をする。レイナはこの人と戦ったからこそ分かるのだ……。実力の差を。……そしてレイナが『アルデバラン』に所属していた時のことを話し始めてくれた。……レイナから色々と話を聞いたが……『アルデバラン』はやはり俺がいた頃のままだと分かった。俺はこの人達の事は覚えている。だがレイナが話していることが俺には記憶にない出来事ばかりで驚いていた……。……だが……。俺はふと疑問を感じたのは、レイナの話の中に、なぜかリリアが出てこないのだ。俺の頭の中では……この世界に来て、一緒に冒険をしてきたレイナの印象が強く残っているのは確かだ。……そしてそのせいか……。俺はリリアがレイナと一緒のはずなのだが……何故か違和感を感じたのだった。


レイナにそれとなく尋ねると……。「それは……。リリアちゃんには会えなかったからだよ……。多分だけれど……。あの時はまだ私達は王都に向かっていた途中だと思われるんだけど……。私達の目の前に現れたのは……私だけみたい……。あの人にも尋ねたけど……何もわからないようだった……。」と、教えてくれる。そしてレイナは続けて、「あとは私が知っているのはこの国についてかな……。まずはこの国は……今は帝国に喧嘩を売っていて戦争状態に陥っているらしいよ。それでこの国の騎士団長であるレイカ様が指揮をとっているみたいなの。それでレイナは騎士団の副団長になったらしいから……。それからは副団長としての務めを全うするって言っていたわ……。だから私はレイナにお願いされた事を果たすことにしたの。……あの人を止める為にね。でもあの人は止められなかった。……それで最後は私が……倒されてしまった……。本当にあの人は強い……。あの人が敵じゃなくて良かったと思ったぐらいだから……。それにあの人もきっと私と同じように……。そう思うとやっぱり助けてあげたいよね。」「……そうだな。俺も同じ気持ちだ。だがその方法はあるだろうか……。あの人のことだからきっとこの世界にはいないと思う。おそらくだが……。この世界に飛ばされてくる前のあの人がどうなったかは想像でしか無いが、おそらく死んでしまっている可能性があるかもしれないんだ。そうなれば……。もうこの世にいない可能性の方が高い。俺の予想だ……。だから俺達はあの人を……レイナの仲間を助ける為に協力するしかない。レイナの言うとおりにあの人が味方ならばいいのだが……。……もし違っても、出来るだけの協力をしよう。」そうレイナに提案してみる。


「わかったよ!それにしてもあの人に私達は勝ったんだね!」


その声を聞いて嬉しくなる。そしてレイナは続けて話す。


「私達はレイナが勝つって信じてたよ!だって俺達もあの人に負けない自信があったからね。それにあの人なら絶対に負けないって信じてたから……。あの人には……仲間がいるしな……。」と、俺は答えていた。そしてレイナも同意するかのように首を振った後……。


そういえばあの人の名前を知らなかったなと思って……。「そう言えば……あの人の名前はなんていうんですかね?レイナとどんな関係なのかとか……。」


そう質問してみる。レイナも名前を知らないらしくて困惑しているようだが、とりあえずレイナは……。俺の疑問に答えてくれる。「うーん……。あの人は名前は分からないけれど、レイカさんに聞いてみるとわかるんじゃないかなぁ。」


その返答を聞いた後で、俺はあの人に話しかける。


俺達は、あの人とこれからの事を話すためにレイナの自室に来ていた。レイナは自分のベッドに腰をかけて座っているのに……なぜか俺にはソファーに座ってくださいと言われてしまった。なので俺は少し戸惑っていたが……。俺もソファーに座り始めると、あの人、……『真也』も隣にいる。俺は真也の顔を見ないように気をつけながら話をすることにしていた。俺は、真也とは初対面ではないはずだが……。正直顔を見れない。そして、真也の方も緊張をしているようで……。あまり会話をしていない。だがレイナのおかげで少し空気が和らいだように感じた俺は感謝をしながら、今後のことについて話し合っていた。


すると……。レイナが急にあることを言い出す。


「あのさ……。お兄ちゃんとあの人の戦い見てたらさ……なんだかさ、私の知ってる人と雰囲気が似てるんだよねぇ。……まあ、顔を見たのは初めてだけどさ……。でも何だか見た事があるというか……。もしかして……お母さんの知り合い……なのかな?」


レイナが言ったことに驚きつつ……。


「俺もなんとなくそんな感じはしていたが……、レイナもなのか?俺もなんかそんな気がしてた……。なんでだろうな……。レイナの知り合いだったりするのか?」と俺は質問してみた。するとレイナが……。「それがさ……。なんでか知らないけど、私の記憶には無いの。でもなんでだろう……会ったことがあるような気がするの……。変だよね……。私はこの世界の産まれじゃないっていうか……。前世のことは覚えていないのにさ……。不思議なんだ……。あの人だけなんだ……。こんな事感じるの……。他のみんなとは違う……。それになんだかあの人の雰囲気は……。……あっ!なんでもない!」


レイナが突然慌てていたのが不思議だったが……。


だが確かにレイナが言っていることも一理あった。俺だって初めて会うはずのあの人から、懐かしさを感じているからだ。しかもその人は男ではなくて女性だし……。一体どうしてこんな気持ちになるのかわからない。だが俺はそれ以上考えてみる事を止めて……。あの人に話を戻そうと切り替えることにした。「レイナが言ってたことについては……。またレイカさんのところで調べてもらった方がいいかも知れませんね。俺もレイカさんと話がしたいですし。」


そして俺はそう言うと真也は……。俺と目が合った途端に目を逸らす……。……おい!なんでだ!?︎なんでお前は目を合わせるだけですぐに顔を背けるんだ?俺はちょっとイラっとしながら真也を睨むが……当の真也は何も喋らずに顔を背け続けている。俺はそんな真也に呆れつつも話を進める事にしたのだ。……全く……。……俺は心の中で悪態をつきながらも、レイカのところに一緒に行くことを決めた。レイナの話ではこの世界では戦争を終わらせられる力を持った存在として、『勇者』と呼ばれているジョブの人が居るらしい。その『勇者』は特別なアイテムを持っているらしく、『魔王』を倒す力を持つらしいのだ。……俺の推測だが……。『真也』はその『勇者』だと思われているが……。俺は『アルデバラン』が壊滅した時の出来事を思い出せば……。『勇者』の力を使ったのだろうと考えている。だがその『勇者』の力を使える者は、限られていると聞いた。その限られた者の中に……おそらくあの『真也』が入ってしまったのではないかと、考えているのだ。……ただその事は誰にも言わない方が良いと思っている。『アルデバラン』が壊滅した時に『アルデバラン』に所属していたメンバーが全滅している事も知っているからな……。だから俺は……あの人が『勇者』であるとはあまり思えないが……。それでも一応『真也』本人にも確かめる必要があると考えたのだ。俺は『アルデバラン』を壊滅させた後は……。ずっとダンジョン攻略をしていたせいでこの国の状況や情報は、ほぼ手に入れていなかったが……。この国の事を調べていく中で俺はあの『真也』を見かけることがあったのだ。それは冒険者達が集まっている場所で、俺はいつもの様に情報収集をしようと、その場所に向かっていたが……。そこには『聖騎士』の称号持ちで、『剣姫 天音(アマネ)』と呼ばれていた人物が立っていた。その人物を目にした時は本当に驚いてしまったが……。その人物がなぜそこに居たのかというと、俺達がリゼを助け出した後にリゼが俺と別れた後で、この国に戻ってきたと教えてくれたからだった。そして、俺はそのリリアとレイナに頼まれていた事を果す為に……レイカと話をして、協力してもらう事にしたのだ。だが……。俺はそこで予想外の出来事に直面する事になる……。リリアからの情報通り……その人物は間違いなく『真也』だと確信してはいたが……。まさかこの世界で、あの人と再開するとは思ってもいなかったから……。それにあの人……、真也は……。俺のことを覚えていなさそうだった……。……そして俺はあの人の反応を見ていて気づいた事がある……。あの人は俺に対して恐怖を抱いているという事だ……。あの人がなぜそうなっているのかわかっている……。……それは……俺がレイナを殺したと誤解をしているからだろう……。俺はそれを確信しながらも……あの人にレイナは生きていることを伝えずにいる。あの人が勘違いしていることを知っているのに……。俺は本当のことを言うべきか悩んだ。だが……もし言ってしまうとその人は……本当にこの世界にいなくなってしまうかもしれないと恐れたから……。俺はあの人に伝えられなかった……。だから俺の予想が正しければあの人にとって俺と話すことは、俺への恨みつらみを話すことになるかも知れないと危惧してもいる……。だが俺が予想したくない最悪な結末は……レイナを殺す為に協力させられることだ……。だから……まずはあの人に俺が生きていることを知ってもらうことが先決だと考えていた……。俺がそう考えながら黙っていると……。隣にいたあの人が俺に質問をしてきた。……だがあの人が発した質問に俺が答えることはできなかった。なぜなら……。俺達がいる部屋にいきなり現れたリセさんによって俺達の話は中断されたからだ……。


俺達の部屋に現れた女性は、俺が前に見かけた人だと思われるのだが……なぜか急に現れて……。


俺達に挨拶も無しに勝手に俺と真也が向かい合っているソファーに割り込んでくる。……どういうつもりだ?と思いながらも、俺の隣にいるレイナの表情を見てみると……どうやらこの人は……真也の関係者かもしれないと俺は思い始めた。そしてこの女が何者かを聞こうと話しかけようとしたその時に、真也が立ち上がって女の目の前に立ちふさがる。そして……その女を殴り飛ばした!……そしてさらに真也が怒号を発した。


その声の大きさには驚いたが……。真也が怒鳴る姿を見ると……。


なんとも言えない感覚に襲われた……。


怒りに身を任せる様な形になってしまっている真也を見たからなのか、それとも……レイナの言葉を聞いたからなのか……わからないが……、何故か……懐かしく思ったのだ……。……もしかして……。と、一瞬だけ俺は思っていた……。でも俺は、自分の心に問いかける。……俺はそんな訳がないと。ありえないと思った。この人は男だ……。そう思いたかったのに……あの人とレイナの関係を考えると……もしかしたら……。俺の頭の中はぐちゃぐちゃになり始めていて……。


「なんでそんなに怒ってるんですかぁ〜?別にいいじゃ無いですかぁ?あなたはこの国では有名人みたいだしぃ。」


だが、俺の混乱は……この女のせいで掻き消されてしまった。だがこの男は真也の怒りを無視して話しかけてくる……。……一体なんだこいつらは……。


俺は……この状況をどうにかしようと考え始めていたが……。だが真也は突然、その女性の手を掴んだ!……そしてそのまま握りつぶそうと力を込めているのか、女性の表情が苦悶の表情に変わったのが分かった……。その表情を見た俺は……もうこれ以上黙ってはいられないと感じた……。


そして俺の気持ちに応えるように……レイナが立ち上がると、あの男の手を離させる様に動き出す。


すると……男がこちらを見てきた。


そしてレイナの方を見ながら何かを喋り出す……。


レイナに何かを伝える為なのか?


「なんでお前までここに居るんだ! ここは子供が来て良い場所じゃないぞ!早くここから出て行け!」


だがレイナも一歩も引かない。真也の手を握ると無理やり引き剥がそうとする。


「真也!その人離してあげて!その人もあなたの知り合いなんでしょ!?︎お願いだから落ち着いて!」……レイナに言われた通りにあの男の力が弱まったのを感じた……。


「なんでレイナがここに居るんだ……。……わかった。少し冷静になった……。悪い……。ちょっと取り乱した……。でも……そっちのあんたもだ。何者なんだ?」と、そう言う男を横目で見てみると……。その男はあの人を警戒してるのが分かる。


そしてあの人がその質問に答えようとするのを止めた……。あの人の口からあの人の正体を聞けるのは嬉しいけど……。それよりも先に聞いておきたいことがあったから……。


すると突然、あの人が現れた時の違和感を思い出す……。あの人が現れる直前……。


誰かが部屋に入って来るのを感じていたからだ……。その瞬間……あの男の雰囲気が変わったのが伝わって来た。……おそらく……その人物をあの人は警戒していたのだろう。俺はその事を確かめるために声をかけてみる……。「すいません……。もしかして……あなたもこの人と知り合いだったりするんですか?」と、俺がそう言うと……。その女性がこちらに向かって話を始めた。


「えぇ……。そうね……。一応私は『聖剣』と呼ばれる特別な力を持つアイテムを所持していますし……。そしてこの方……『勇者 如月 真也(きさらぎ しんや)』とは顔見知りよ。」……やっぱり……。この人だったのか……俺が初めてこの世界に来た日に、レイナの命を助けてもらって以来……。この人が持っている特別なアイテムで『魔導書』を呼び出してもらったのだ……。俺は、この人が誰なのかをやっと確認することができたことで安堵したが……。それと同時にある問題が発生する……。


俺の事をレイナの友達だと思い込んでいるらしいこの人ならレイナの味方になってくれるはずなのだ……。俺はその事でこの人に協力してもらえるように、頼むべきだろうか……と悩んでいると……。あの男……真也の視線を感じる……。


そして俺と目が合うと……すぐに逸らす……またイラっとする……。……真也の事は放っといてもいいだろうと判断した。……今はレイカに協力を要請することが先決だと考えていたから……。ただ……あの人の事は頼まないと駄目だとも思う。あの人と俺は初対面だと思っているだろうから……。そして俺がレイカの協力を得るために話しを切り出そうとしていると、突然リリアの声が聞こえてきた。リリアはどうやら俺たちの様子を心配して様子を見に来ていたようだった。そしてリリアは、リセさんのことについては詳しくないと言いながらレイラさんが、リセさんをどこかに連れ出した方が良いと言ったのだ。俺はそれを聞いて、あの女の人はレイアの仲間である『リリア』に助けを求めに行くと思っていた。……そしてリリアの予想通り、あの女はすぐに立ち上がろうとしていて……。


俺は……咄嵯の判断でレイナの前に立って……リリアにリリアの事を教えようとしたのだが……。その前にあの女が立ち上がってしまう……。……俺はその時……なぜか……俺の行動が正しいのか……不安になってしまった……。そして、あの女がこの部屋の外に出ようとドアを開けた時……。俺達全員はあの人が何をしようとしていたのか気付いた……。そしてリリアはいち早く動いていた……。俺はそれを見て……何もできずに突っ立っていただけだった。


俺達が今見ている光景は……。俺があの日レイカを助けた時に見ていたものだ……。あの時……俺が見たのと同じように……リセさんとあの女の人が衝突しそうになっているのが見える……。


だがあの出来事の後に聞いた話で……リセさんは自分からあの人とぶつかりに行ったと言っていたから……今回は違うと思うのだが……。……そして俺はレイカを連れて、急いであの人達の元に行かないといけないというのに……。体が固まって動かない……。俺は焦りながらも何とかして体を動かそうと試みていた。だが俺は動けずにいた……。あの人は……俺の後ろから飛び出していったのだ……。あの女は俺の方に近寄ってきて……、


『大丈夫?……間に合った?』と声をかけてくれた。……正直かなりギリギリだったがなんとかなるだろうと俺には余裕があった。……俺がリゼを助ける時に使ったのと同じ技を使うために準備をしている最中だったからな……。だからその人に俺はお礼を言おうと振り返った時に……思わず声を出してしまったのだ……。……俺はあの人の顔を見るなり……つい、懐かしく思ってしまった……。俺がこの世界に転移してきた初日の……あの時に初めて会った時の印象が強いからだろう……。だがこの人は、俺のことを覚えていないような気がした。だがそれは当たり前かもしれないな。この人にとって俺は知らない男なんだからな……。だが……俺が名前を聞くとあの人は、あの人と俺を勘違いしていたみたいだ……。


そして俺はリセさんと話をしたかったのでリセさんの所に向かう。


だがそこであの男がリセと口論をし始めていた。


どうやら真也がレイナに自分のことを教えたらしく……真也のことを敵認定してしまったようだ……。


そして真也はその事にショックを受けている。……確かにあの時はリゼのために行動してくれたし、レイナの為にも動いてくれたが……。真也はそんなことを言われる覚えが無いのだろう。それに真也もレイナに嫌われたくはないはずなので、反論はできないでいる……。


レイナが止めに入ろうとするが……。リゼとあの男と真也が揉めている状況を見たせいなのか……。それともその三人に割り込んでいける勇気が無かっただけなのか……俺もわからない……。だがあのレイナが躊躇してしまう程には険悪な雰囲気がこの部屋を支配しようとしていた……。……俺は……どうしようか悩んだ末に……。あの男の元に行って仲裁に入ることにした。……レイナは俺に任せてくれるようで、俺の言葉を信じてくれてるようだった。


「……あなたは、一体なんなんですか?私の名前は『如月 怜奈』。レイナちゃんとは知り合いだけど、あなたは私の知り合いではないです。だから、この子と話すなら私が同席してます。それで良いですか?」……その言葉を真也は信じたようで、あの女の名前を聞き始めた。俺はあの女の名前が、『如月 美羽』という名前で真也と同い年で俺よりも一つ上の学年であることも伝えた。だがあの男は真也に対して、自分は真也の友人だと名乗った後、真也がなぜ怒っているのかを尋ねた……。そして真也はあの人が男だという理由を説明し始めるが……。あの男は納得していない様子だ……。そして真也の話が終わるとあの男は突然、怒り出す。……俺はその事にも驚いていたが、それ以上に真也が突然殴りかかってきたことに驚きを隠せなかった。俺はあの男の行動を阻止しようとする。


すると……俺の後ろにいたはずのあの女がいつの間にかいなくなっている……。一体どこに行ったんだ?俺は不思議に思いながらあの女の姿が見えないことで動揺していたこともあり、目の前に迫ってくる拳を防ぐことはできなかった。俺はその拳を顔面で受けてしまい吹き飛ばされる……。……俺は、殴られたことで一瞬意識を失いかける……。……するといつの間にか……あの男が倒れていて真也は俺を睨んでいた。俺はその目を見た瞬間、ゾクッとした寒気を感じ取った。……俺は……無意識にあの女を探してしまっていた。……もしかしたら、俺の代わりにあの人が真也を止めたのではないかと思ったからだ……。あの人ならあの状態の真也を止めることも可能だと俺自身思っていたからだ……。……俺はあの人を探すが見当たらない。もしかしてさっきの女がこの男を止めたのではないかと期待したが……違ったようだった。……そう思った瞬間……真也に蹴り飛ばれて壁に激突する。……そしてその後俺は気を失った……。……真也の様子がおかしい。何かあったのか……。あの女に止められたことと、俺を蹴飛ばしたことで落ち着いたのだろう。……そして真也は、何かを思い出そうとしているように頭を押さえている。


俺はレイナと一緒にその男の元へ向かうと……。その男は……レイナを見ると驚いた顔をする。そしてレイナの顔を知っているのかレイナの名前を叫び、抱きついた!その男は泣きじゃくり始めてしまう……。……レイナはこの男の事を知っていたのだろうか……。……そういえばレイナにこの男の事を聞いたことはなかったが……。レイナは俺を安心させる為に声をかけてきてくれた。そしてレイナから話を聞いてみると……。やはり、俺がこの世界に転移して来た時のレイカの命を救った男らしい……。その事をレイナに説明してもらうと、その男が落ち着きを取り戻していく……。そしてレイナに感謝し始めている……。そのレイナの様子を見て……その男は少し警戒心を解く。


俺はその様子を見てホッとする。……だがその直後……あの男がまたキレ始めたのだ……。どうやらあの男はまだレイナのことが忘れられないらしい……。俺はそれを察して、今度は俺が間に入り話を始めた。


そして話し始める前にレイカを呼び寄せ、俺はレイアを呼びに行くように命じたのだが、あの女に阻まれてしまったのだ……。そしてあの女はあの時と同じ様に俺がレイアを呼びに行くのを阻止するつもりらしい……。俺があの女のその行動の意味が分からず、困惑して立ち尽くしていると、あの男が現れ俺達を怒鳴りつけてきた。そしてあの女があの時俺に話しかけてきた女であることを知ると、あの女の所に歩いて行き、あの女と口論を始めようとしたのである。……その時のあの女の表情は真剣なものになっていたのだが……。……すぐにあの男が来てあの女との口論は収まったのである。そしてレイラさんもやって来て……俺達は話し合いの場を設けることになった。ただその時は、レイナにリセさんについて教えなければいけないため、あの男に時間を割いている暇はなかったのだが……。あの男がまた余計な発言をしてしまい……。リリアがブチ切れ、リリアを止めに入った俺も巻き込まれてしまう……。俺は……あの二人に殺されそうになってしまったが……何とか命を繋げたのだった……。


あの男のせいでリリアさんはあの女と喧嘩しそうになり……。私はあの場を収めるためにあの女のところに行きたかったが、レイナに止められて、その場にとどまる事になった。


だが結局あの女があのままリセさんの味方になってくれればいいと思っていたが、リゼを攫うためにここにやって来ただけだった。


それを知った私とリリアさんが止めるためにあの女と争いそうになるが、レイアが間に入って止めてくれたのである。


そしてリリアさんの気持ちは分からないが、レイアに言われた通りにあの女のところへは行かずに、リゼのいる所へと行くことになったのであった……。


私はリゼを連れて来た。そしてリゼにリゼの本当の名前はリゼではなく、レイナという王女の名前だと言うことを伝えると……。リゼはすぐに納得してレイナに自分の正体を話し始める……。そしてリゼは自分が今置かれている立場を説明するが……。あの女は信じていなかった。リゼは信じて貰おうとしてリゼの今までの経緯を話すと……。リゼの話が終わるとあの人は急に涙を流し始めてリゼを抱き締めていた。


あの人はレイナの事を思い出していたのだ。リゼの言っていることは真実で間違いないとわかったようだ。だがレイナはそんなあの人の態度に疑問を抱く……。そしてあの人自身もあの日何があったのかを思い出すかのように記憶を探るが……どうやら何も思い出せていないみたいだった……。


だがそこでレイナがあの人に自分と初めて会った時の話をし始めた……。だがその話を聞いた後でもあの人はレイナがレイナ本人だとは認めなかった……。そこでリリアがキレてしまいあの人と取っ組み合いになる……。私とリーゼとレイアとでなんとかリリアを落ち着かせる……。だがあの女がリリアに攻撃してしまったことで……さらにレイアが止めようとすると……今度はリゼが攻撃を仕掛ける。……そこでようやく、リリアとリゼはリセの話を信じる事になるのだった。


そしてリゼから事情を聞き終えたあの人は私とリアナをレイナの元に連れて行く。……あの人も、もうリセさんがレイナだって事はわかっていただろうけど、それでも連れて行ったってことは……レイカさんとリセさんの二人の話をさせたかったのだろう。


リゼの話をレイナとあの男、そしてレイアとリアナにリゼはリセと真也、それに私の5人で話すことにしたのだった。


レイナからあの人が何者かを聞いたリゼはその人物の名前を言い始める。……どうも知り合いのようだが……。……まさかあの人の関係者か?俺は、あの人が誰かをレイナに尋ねる。……するとどうやらあの人が俺の予想通りあの男と同一人物だということが分かった。……やはりそうか……。だがなぜレイナを攫おうとしたんだ? 俺達がこの世界にいる理由を話そうとしない。俺とレイナが元いた世界では勇者召喚されたことを隠さなくてはいけないのだろうか?……いや、それはおかしい。……なぜなら俺は、元の世界でも異世界に召喚されているからな。……あの男が俺達にそのことを言わなかった理由はわからなくもないが……なぜか信用できると感じてしまっている。だから俺はあの男の言い分を聞くことにし、そしてレイナもそれに同意したのだった……。すると突然……あの男が暴れ始めた……。どうやらあの男もあの男が誰なのか分かったようだったが、その事を信じられず、あの男の言葉を疑い、あの男を攻撃してしまったのだ。……その後、レイナはあの男の言葉を聞き入れ始めていたが……突然レイナは何かを思い出そうとし始める……。だが……その後すぐに、真也が男を殴りつける光景を目にしてしまう。……俺はすぐに真也の行動を止めようとした。だが遅かったようで……。すでに真也は、あの男を気絶させていた。俺は真也にどうして殴ったのか理由を聞いた。すると真也は、レイナにあの男が近づかないようにする為だと言い出す。俺はそれを理解できず、聞き返すが、答えは返ってこなかった。そしてあの男が意識を取り戻した瞬間に、レイナは男に対して自己紹介を始めた。そして、俺は真也に、真也がなぜあの男に怒りを覚えていたかを説明したが、全く信じてくれていない様子だった。……どうも真也もあの男が嘘をつく人間ではないと感じたみたいだが、どうしても受け入れられないらしい。俺も真也の言いたいことは分かるのだが……あの男が本当にあの『真也』だった場合、俺たちはあいつが言う通りあの日の事を思い出せないのだ。だからあの男が何をしても不思議には思わないのだ。そして真也がレイナに向かって、レイカはどこに行ったのかを問いただすと、リリアも気になっているのか真也と一緒に質問した。


リゼは俺とリアナの二人が心配なのでついていくらしい。……リリアが一緒についていく事については特に反対はされなかった。そして真也は、あの男がレイカに何かをしたのではないかと考えているようだったので、まずはそれを否定しなければならないと思ったが……。……正直、俺にもまだよくわからない……。だが俺はその可能性を否定しなければならないと思いながら口を開くが……。その前に、あの女が現れて、あの男と口論を始めてしまう。俺は……俺達だけでレイアさんを探すためにこの城を出ようとしたが、リセさんが城を出る時に付いて来てくれることになった。リセさんにはまだ話していないことがあるのでちょうど良かったかもしれないな。


真耶のあの男への態度からすると……多分だけど真也もあの頃の記憶はないんじゃねーかな……。


「……それであの男は一体……」


私は、あの出来事があって以来あまり話さなかった真弥と少し話せるようになった事が嬉しいです!ただ、やっぱりどこか違和感を感じます……。……あの時、真弥は私の為にあの男と戦ってくれたはずなのに……。今の彼の姿を見ると別人にしか見えないのです……。でも私は彼が彼であることは分かりました……。私達はこれから、あの男に言われた通りに行動する事にします。そしてその事をあの男の従魔であるラミアに伝えてある。そして私達はその男のところに向かうと……そこにはまだリセさんがいましたが、リセさんとは一旦別れて行動することにした。


私が真也達のところに行くと、そこには、リゼがいたのでびっくりしました。そしてリゼは、レイナとリアナがあの男に連れ去られたと言ったのである。そしてあの男が、私たちとレイナの二人をあの男の部屋まで案内すると。……私はそれならレイアを探しに行けると思って安心していたが……。


だが私は、リゼの話が本当かどうかを確かめるためにあの男に聞くと……あの男は、自分の言ったことを信じてもらえなくてショックを受けているようだ。


私はそんな男を見つめる。


私は、この男があの『真也』だと分かってから、この男について考えるようになったのだ。確かにあの時はリリアとリセが襲われそうになっていたのであの男を助ける必要があったのだと思っている。


あの男の正体を私は知らなかったから仕方ないが……。私は男から事情を聞くことにした。だが私は男の話を全て信じなかった。そしてあの女に、あの女もあのときリリアさんやリゼを襲っていたじゃないかと言ってやりたかったが……なんとか抑えてあの女のところに向かった。……それからは私もリリアとあの女のところに行って一緒に説得し、ようやく私の言葉を聞いてくれるようになってあの男が私達にしてくれた説明の続きを始めるのだった……。それから私はあの場で起こった出来事を思い出していくが、結局思い出すことなど出来ずに、あの男の言っている事は正しいという結論に至ってしまう……。そして……最後にあの男にあの女の本当の名前を言って貰うことにして……。ようやく私の知っているあの人の名前がわかるのであった……。


私はリリアさんの言っていることは全て事実だと言うことが分かったので、リリアさんの言う通りにすることを決めた。あの男の言うことなんて聞かないほうがいいだろう。……だがその言葉はあの男にとっては相当応えているように見えた。まぁあの男のことはどうでもいいのだ。それよりもレイアさんと真也の行方を知るために私と真弥とレイアさんは真也について行く。


あの男は真也にレイアの捜索を頼んで、そして真也とレイナの二人はあの女のところに向かい始めたが……。その途中で私はリリアさんに話しておくべき事があるので話すことにした。だが、リリアさんはもう全部知っているようで、全て教えてくれた。……レイカさんと真也の事を……。レイカと真也は、お互いのことを好きでい続けていて、結婚したかったみたいだった。だけどレイカが突然亡くなってしまい……。そのせいもあってか……その後の真也はあまり元気がない状態がずっと続いてしまっていたのだろう。そして……あの日も……あの日も、きっと何かを思い出せたら……あの人はもっと強くなって、レイカを守れるような力を手に入れたんだろう……。


あの人は、真也とレイアさんが部屋から消えてすぐにあの女の元に急ぐ。だが……リゼさんが、レイアの気配はあの女ではなく、城の地下に感じたというのだった。そしてリリアの先導のもと、俺とリゼとリアナの3人は地下に向かうのだった。リリアさんによると、リリアはあの男の従者になったわけではなく、リリアさんの意思でここに来たと言う。そして俺達がリリアさんの言うままに階段を降りようとすると、リリアさんは、この先では何が起こるかわからないので武器を持つことを勧めてくる。……俺はその忠告に従って剣を持って階段を降りる。リゼやリアナも同じくして剣を持ちリリアの後に続く……。そしてしばらく歩くと大きな扉の前にたどり着いた。その部屋の前についた時リゼが俺の方を向いて話しかけてきた。


リリアとリゼは、あの女と俺達が対峙する時に備えて待機することになった。……そして俺達が、あの女のいる部屋にたどり着くと……どうやら俺達がこの部屋にたどり着く前にすでにあの女とあの男が言い争いをしていたようだった。……あの男はどうやら俺がレイナをさらったことを責めてるようだったが……。俺はそれに反論することはできなかった。そしてリアナが俺の代わりに反論をしてくれるので任せておくことにしよう……。俺はあの男の言葉を聞くふりをしながら……俺があの女と初めて会ったときのことを思い出していた……。俺はその時あの男の顔を見たことがあったのだが、あの時の俺はあの男が誰なのかわからなかった。だけど俺は……この男が誰かを思い出すことができなかった。だが、レイカのことを知っているあの女があの男のことを教えてくれることになるのだが……俺は、あの女の言葉を信じることができないと思っていた……。なぜなら……俺はその男の顔を見ていたにも関わらず、全く思い出せなかったのだ。……俺は、あの男の名前をリゼとリリアの二人の口から聞き出すことに成功していた。……そして俺は、この二人があの少女の名前を出した瞬間、レイナだと確信した……。そしてあの時俺は、レイナを助けなければと必死に戦おうとした。だが……やはりあの男は強かった。……そしてあの男が、リリアに向かって何かをしようとした時に俺が止めに入るが、すぐに反撃されてしまう……。あの男が俺達三人を殺すつもりだったのか、それとも生かそうとしたまま俺が動けなくするつもりで俺を攻撃したのか分からないが、俺はその攻撃によって気を失ってしまった。


その後俺は気がつくとレイナの姿が見えなくなっていることに気づき、慌てて追いかけようとしたときに……あの女が現れたのだった。……そしてあの男がリリアに俺のことを見張るように頼むが、その時にはすでに俺達はあの男に見つからぬように行動を開始し始めていたのだ。


私はあの男の話に嘘偽りはないと思った。……だがリゼの話を聞いた後では……その話が信用できなくなったのだ。リリアの話では、リリア達を誘拐しようとしていた男がリリアに殺されそうになり、リリアはその時にその男を殺してしまいそうなくらい怒っていたらしいが、その時に、その男の仲間であるはずのあの女が現れてリリアを説得していたのだという。


そして……その男があの女の話を遮ってあの男を殺せばこの世界にはもう二度と帰れないと警告されたという話を聞いていたそうだ。……リリアは、私達のことを考えてくれて、私達の命を奪うことも、殺すこともできずに苦しんでいたというのを知ったので、あの男とリリアのやり取りに私は口を挟むのをやめた。だが……リリアとあの男の話し合いが終わったと思った途端、あの女はまたリリアに斬りかかったのだった。そしてリリアがその攻撃を受け止めた後にあの男が再び現れたのだった。あの男は、リリアを脅した上に私を殺そうとしてきた。その事でリリアの怒りは爆発してしまい、私達は逃げるしかなくなってしまった。だが、その時にリゼからあの男が私とリリアがレイカという名前だとわかったという話を聞いたので、おそらくあの部屋から逃げた私を追いかけてきているであろうあの男から逃げる為に私達はリリアの指示に従うことになった。


私達は急いでリリアについていく。だがその途中にリリアが立ち止まってしまう。私はそのリリアの行動に疑問を持ったが、その理由はすぐに分かった。そして私達は今……目の前にいるこの男の事をあの男と呼んでいたのだが……リリアがその男に対してあの男と呼び直したことで、その男の正体を確信できた。私はその男があの男であることを知って驚きを隠すことが出来なかった。


その男が私の知っているあの男であることがわかった時……私は思わず笑ってしまったのだ。……そうなのだ……私達は騙されてこの男のところに来てしまっていたという事を知って。リリアは、リゼの事を少し心配しているような表情を見せていて、リゼも少し困惑している様子を見せていた……。そんな状況を見て、あの女は突然怒り狂って、そして私の大切な人の仇であるあの人を侮辱し始めた……。それに耐えられなくなった私は、女を止めようとする。だが私は女の攻撃を避けきれず、私の腹部は貫かれてしまった。だが私はまだ死ぬつもりは無いのですぐにその場を離れ、回復薬を取り出した。だが、それを使用する前に私はリゼに捕まり気絶させられてしまう。


私はリゼからあの男についての説明を受けたことで、リゼから聞いた話が事実であるという事が分かってしまったのだ。私はそんなあの男のことをあの女と一緒になって笑い、リリアとあの女がリリアに殺されるのは確定だろうなと考えていたのだ。そして私はあの男に自分の命を捧げると誓っているのだから。リリアはあの男のことをあの女と同じように殺そうとしていて、そしてあの男があの女の方を向いたとき……リリアがあの女に向かって魔法を発動させていたのであった。そして……私はその光景を目にした後の記憶がない。私は死んでしまったのだろうか……?私は……死んだ後の世界でリゼが生きていることを祈りながら目を覚ますのだった。私はあの女の攻撃を喰らい、その場に倒れ込むが、すぐに立ち上がる。


私がリリアに視線を送ると、どうやら私達がリリアの元に行ったところでリリアに殺されて終わりだろうと悟ったようだ。なので、その前に、あの女を殺してからあの人の元へ向かおうと考えたみたいだった。だがリリアの魔力が限界に近く、あと一発だけなら撃てるだろうという状況になっていたので、私は、あの男を倒すための策を考えた。だが……思い浮かばない。そして、リゼの体力が底をついてしまったため、リリアも打つ手が無くなってしまい、万事休すになってしまった……。


私は諦めるわけにいかなかった……。そして私はある作戦を実行することにした。私は、リゼに向かって合図を送りそして、あの女の足下に結界を展開し、そこに落とし穴を作るように指示を出す。すると、リゼの狙い通り、リリアと私達のところにいたはずの女の体がいきなり消えたのだった。そして……私はあの女のいた場所に土の壁を作り出し、そして壁が壊れないよう補強してからさらに壁を変形させて大きな岩を作ってその上に乗っけるとそのまま落ちてきた岩の上に土を乗せて完全に塞いでしまい閉じ込めることにも成功した。そして……私は、あの男が私達に近づいてくる前に急いでその場を離れるのだった。あの女がこの場から消えればあの男がリリアを始末してしまうのは明白だと思ったからだ。私はあの男があの女とリリアが戦えなくなったと気づいてこちらに戻ってこないように必死になって祈った。だが、あの男はなぜかリリアをすぐに殺さずにしばらく話をしているように見えた。そしてあの女は何かをしようとしているようだったのだが、それを邪魔するように男が攻撃する。だがその攻撃も避けられ、再びあの女は、リリアを殺すために動こうとしていた。


リゼは何とかあの女を止めることに成功するが……リゼの疲労は相当なものだった。リゼ自身も自分がどれだけの時間をあの女の相手をしていたのかも覚えていないようだったが……あの女の相手をするというのはそういうことなのだ。そしてリゼは自分の限界を感じているようで……もうこれ以上の戦闘は不可能と判断していた。その時に……ようやくリリアの元にたどり着いたあの男がリリアを殺そうとしたが……あの男があの人に剣を向けたことに我慢できなかったのか、あの女の方にリゼが攻撃を仕掛けようとした。そして、リゼはリリアに当たらないギリギリのところで剣を止め、攻撃を中断させることに成功した。


そして……あの女があの人に向かって攻撃しようとしたが……どうやらそれは叶わなかったようだった。……どうやら、あの女にはリリアを殺すことはできなかったらしい。あの人はあの女の持っていた剣を奪い、女を斬ろうとするが……その前に、リリアは女に向けて攻撃をした。その攻撃で、女を動けなくしたみたいだった。だが女はすぐに意識を取り戻したのだった。そして女とリリアの戦いが始まってしまう……。私は……それを見ながらあの人がリリアを殺してしまうのを待つだけだった……。私はその戦いをただ見ているだけで……あの人のために何もすることができないのだと思っていた。だが……私は……ここであの人が死んだとしても、あの女を殺せるチャンスを見逃すことはしないと決めてあの人達のことをずっと見ていたのだ。そして……ついに……あの女にあの男が勝ったと思った。私はその時を待ち望んでいた……。これで、やっと終わるのだと……。だが……違った……。リリアは女を動けなくしたのにも関わらず、女を殺すことができなかった……。私は、なぜあの人が女を仕留められないのか疑問を持った……。そしてあの人の顔を見ると、とても苦しそうにしていることに気づいた。そしてその様子は、リリアに殺されかけていた時よりもひどい状況になっていると分かったのだった……。


あの男……あの人のことが怖かった。私のことを見下してきて不快だったのだ。それにあの男のせいで私の愛するあの人を汚されてしまった気がして嫌だった。そして……あの男の顔を見る度に怒りが湧き上がるほど嫌いだったんだと思う。そのせいであの男の事を何度も殺すつもりで攻撃してしまった。それでも死ななかったのは驚いたけどね。……でもそれも今日で終わるはず。


だって、あの男を私の力でこの世から消し去ってしまえば良いだけだもの。そうすれば私の心の中にずっと巣食っていたあいつの影が綺麗さっぱり無くなるはず。だから早く消さないとね。そう考え私はあの男を睨みつけるように見ると、男もまた、私のことを殺さんばかりの視線で返してきたのだった。……それからしばらくして……どうやらあちらも準備ができたみたいね……。


『……ねぇ……あなた……そろそろ時間よ……。あの女の首をはねる為の用意が整ったわ……。それと……最後にもう一度聞くけど、本当に私達の元に帰らないの?』……ふーん、それがあなたの本音なんだ……。……ならいいわ。私はもう覚悟を決めてるもの。


私はもう迷いは無かった。私の愛しているあの人の力になるために私はこれから死ぬかもしれないが、それで良いのだ。私にとって大事なことは、自分の人生をかけてでもその人と居たい、その人だけを愛し続けたいと思える相手が居るということ。その人と少しでも長く生きて幸せになりたい。私にそれだけの力があればもっと楽しかっただろうに、残念ながらその力は私にはなかったのだ。


だから……もし私にこの世に残す未練があるとするならばそれはあの男のことだろう。……あぁそういえば一つあったな。この世界に転生する前に神から言われたことだ。……私が異世界に行って、自分の運命を変えることができるかどうか。……今なら分かる。この世界で生きていくことは辛いと。私の好きなあの人がこの世界で生きて行くためにはどうしても私の協力が必要になってくるはずだ。


なぜなら……私は知っているのだ。この世界をあの人はきっと良くしてくれるだろうと、そしてあの人について行くということは私にとってもプラスになるということを。私はあの人を愛している。だからこそ私という存在を無駄にして欲しくないのである。あの人の役に立てることならどんな事でもしたい。たとえ死ぬことになったとしてもその思いが変わることはないだろう。


私は……あの人の為に死ぬのではない、あの人が私の為に死ぬのではなく私があの人を……そして……みんなを守る為に私は死ぬ。……それこそが私の本当の気持ちだ。あの男の剣が私の首に迫るのが見える……。……私は最後まで目をそらさなかった。……死ぬ時は一瞬だと思ってたのに、意外と長い間目を開け続けることができていたのだな……。そんなことを考えながら、私は目を閉じたのであった……。……私は死んだはずだった。いや……死んだのは確かだろうが……まさか……これは……。目の前には私がいたのだ。どういう事だろうかと困惑していると、そのもう一人の私は突然私を抱きしめるとこう告げるのだった。


『私の名前はアリア。よろしくね。』


そしてその言葉を最後に私は再び光に包まれていくのであった。


そして再び私は目を開けると……そこにはあの男ではなくて……あの人がいた。……良かった。また会えたのだ……。私は嬉しさから思わず涙を流してしまいそうになる。私はそれを必死に抑える。まだ泣くときじゃない。まだ喜ぶのはまだ早いからだ。まずは何があったのかあの人に聞かなければならない。そう思った私はあの人に質問をしたのだった。……そこで衝撃的なことを言われてしまった。どうやら私達は死んでいないようだが、このままでは私は死んでしまうのだと。どうやら私のスキルの代償がかなり厳しいものだったようで、私が生きているだけでも凄いことなのだと教えてくれたのだった。私はそのことを知って涙が止まらなくなってしまった。そして、私は泣きながらあの人に訴えかける。


『私は、例え私がいなくなったとしても、絶対に貴方のことを恨まない!むしろ私は……貴方の為になりたかったからこそこうして行動したんだよ……。確かに私はあの人を殺すことしか考えてなくて、自分が生きるために必死になってただけだけど……。それでも後悔だけはしていないから……。お願い……私に償いをさせて。私が死んだとしても……あの人が無事だったと知ることができただけで、私にとっては幸せなんだ。それに、あの人がこれから先も幸せになれるなら私は死んでも満足だから。だから……私に償いをさせて下さい……。あの人を幸せにする手伝いをさせて欲しいの……!』……あの人にそう伝えた後……しばらく私は気を失ってしまった。……どうやら気を失っていたのはほんのわずかな間だったらしい。そして私は目が覚めた後にあの人を見てみると……どうやらあの人は困ったような表情をしているみたいだった。


そして私はあの人から、私はもう既にあの男を仕留めたことを伝えられたのだった。どうやらあの人は、もうあの男のことで苦しむ必要が無いらしい。私はそれを聞いた時に嬉しすぎて思わず笑顔になってしまっていたと思う。すると、あの人が急に私の名前を訪ねてきたのだ。だがその瞬間私は焦ってしまった。なんせ今の私は真矢としてあの人と一緒に過ごしている。だがその名前はこの世界にはない名前だ。……つまりここであの人に名前を尋ねられると正体がバレてしまう可能性があると思ったのだ。私は慌てて適当に名前を名乗ることにした。そう、私はアリアと名乗らせてもらうことにしたのだ。そして私は、あの人の力になりたいと伝えるとあの人が私に協力を求めてくるのだった。どうやらこれから私のことを鍛えてくれるらしい。


それから数日の間……あの人は私の相手をしてくれて、あの人の戦い方を真似しながらなんとかついて行こうとしたのだが、あの人にはとても敵わなかった。どうやらまだまだ足りないらしい。


それから更に数日経った頃……あの男は生きていた。そして私達の前に現れたのだった。そしてあの人が戦おうとすると、その男はある話を私達にしてきたのだった。その内容は……


「……そう言えばお前には言っていなかったことがあったな。まぁ……別にどうでもいい話なんだがな。」


その言葉を言ったあと……男が何か呟いたのが分かったが私の位置からは聞こえなかった……。その後男があの人に何かを言うと……どうやら私の耳がおかしいのかあの人の声色が変化していたのだ。そして、男と喋り終えるとあの人はあの時と同じようにあの女を殺すと言い、そのまま戦闘を開始したのだ。


私は、あの人の実力を間近で見て改めて驚かされる。あの人はどうやら相当に強いようだ。そしてあの女を殺すための行動に出るのにそれほど時間は掛からなかった。……どうやら私の出番は無いかもしれない。だがあの女を逃せば次は確実にあの人が殺されてしまうのは間違いないだろう。だからこそ私はこの機会を逃すまいと思ったのだ。


だが私の心配はすぐに吹き飛ぶこととなった。それはなぜか?あの男が私に魔法を掛けようとした瞬間……何故か私の身体が動き、男に向かって剣を振るうことができたのである。一体何が起こったのか私にも分からなかったが……私はすぐに自分の置かれた状況を理解し、私は今がチャンスだと思い、男に向かって攻撃したのだ。その攻撃をまともに受けたあの人は私の攻撃により地面に叩きつけられ、その勢いのままにあの男の上に覆いかぶさる。……そのおかげであの人が助かったのだと分かってホッとしたが、私は男を逃がすわけには行かない。なので、私は急いで追撃を行うのだった。そして私の剣が当たる直前にあの男はあることを言い残して去って行ったのだった……。そして……それからあの男が来ることは無かったのである。


俺は久遠くんに剣を向けると……そこに現れたのは俺の予想していなかった人物だった。……なぜ彼女が此処にいるんだろう。そう疑問を持ったが……彼女の瞳を見た途端にそれが分かった気がする。……おそらく、リリアさんを治してもらった恩義を感じていて、リリアさんの頼みを聞き入れ、そしてここに来たということだろう……。彼女は俺の事をじっと見つめているようだった。それからしばらくして、彼女が口を開いた。


『あなたはあの竜人を追い詰めることに成功をしたはずです。しかしあなたは私を殺しに来ることを躊躇っているのでしょう?』


それからしばらく彼女と話すが、彼女はどうやらリリアのことについて聞いているようだ。そして俺の話が終わると、今度は彼女からこう話しかけてくる。


『私の愛する人のことを大切に思ってくれて感謝しています。……ありがとうございます。……それとあなたの剣……少し見させてもらっても宜しいですか……?あなたの持っているその剣は、ただの剣ではありませんよね……?恐らく……神具のような力を宿した代物なのではないでしょうか?』


どうしてそんなことが分かるのだろうか。普通に考えれば分かるものなのだろうか……。分からないが今は考えている場合ではないと思い彼女に了承すると、その剣に触れながら目を瞑っていたのだ。……その姿を見て俺は驚く。何故なら、彼女が纏っていたオーラがどんどん変化していったからである。最初は淡い青色だったのだが、その色が段々と濃くなっていき最終的には……銀色になったのだった。……まさか、これはあの伝説の神獣……聖銀狼のオーラの色だ……。俺は思わず動揺してしまう。だがそれも当然だろう。まさか、聖銀の狼王と同じ存在だと言われているこの人が……まさかこんなところでお目にかかれるとは思ってはいなかったからだ。……だが今目の前で起きている光景はそれどころではないほど信じられないものだ。なぜなら、この人の体が光に包まれたのだから。そして、光が消えた後にその人が姿を現した時には……その人の体から光のようなものが発せられており、それが剣に吸収されていった。


俺は、目の前で起こったことが本当に理解できなかった。いや、正確には頭の中ではちゃんと理解しているのだ。だが、感情の方が追いついていないと言った方が適切だろう。そんなことを考えていると突然俺の腕輪が光出したのだ。そして……俺は気を失う。……そして再び目が覚めると、先程までとは違う場所にいたのだった。


そこにはアイリス様がおり、どうやら俺が起きるのを待ってくれていたようである。……そして、彼女はいきなり土下座をして謝罪をしてきたのだった。……一体何があったのだろうか……。


俺は気がつくと……どこか別の場所に移動していた。そこには、俺がよく知る人達がいたが、その中にアイツの姿がなかったのだ。


『久遠くん大丈夫かい!?』


その声に反応すると……そこに立っていたのは久永だったのだ。


『……えっと……。あれからどれくらい時間が経ちましたか……?』


とりあえず、時間の確認のためにそう尋ねたのだったが……。まさか、あの出来事から3ヶ月も経っていようとは夢にも思わなかった。俺はそのことに驚きつつも久永の話を聞くことにした。そうすると、どうやらあの世界にいた奴等は全員無事で、今はこちら側で生活しているようだ。どうやら、俺が寝込んでいる間にあの戦いについて話し合っていたらしく、そこで俺が倒した男の処遇についても決まったらしい。……そして、俺はその男を倒すために、これから訓練を始めるのだということを伝えられる。


『そっか……まぁいいけどさ。それよりアイツ……どうやって生き返ったんだろうね……。……それにしてもアイツの使ったスキル……一体なんだったんだろう……。確かあの時……あの男から何か声がしたんだけど……。でも何を言っているのかまでは聞き取れなかったんだよな……。ま、考えても仕方ないし、取り敢えず訓練とやらを始めようぜ!まずは何すれば良いんだ?』


そう言うと、どうやらこの部屋から移動をすることになるらしい。それからしばらく歩き続けると、一つの部屋に辿り着く。どうやら此処では俺のステータスを確認していくようだ。ちなみに俺のスキル欄を見てみると、どうやら新たに増えていたスキルがあることが分かったのである。


その新たなスキルは…… 【???】


この効果はどうやら相手の能力をある程度見ることが出来る能力であるらしい。その能力を使って俺のステータスを覗くのだが……何故か見ることが出来ないというのだ。その理由が、どうやらこの世界で手に入れた能力は表示することができないようだ。……そして、それを確認した後で俺にとある魔道具が配られたのだった。その効果はこの世界に生きる人々が持つ魔力を測定するもので、どうやらこの世界の人たちはみんな魔力を持っておりこの世界には魔術が存在することがわかったのだ。


『じゃあそろそろ始めるよ?この水晶に触れるだけでいいからね!』


そう言って久永が触れてみると……。


どうやら測定不能ということだったらしい。それから他の人達の計測を行うが、結果は全て数値化出来ず……つまり、俺以外に誰も測れなかったのである。その結果に周りは驚いたような顔をしており、俺はそんなにすごいのだろうかと少しだけ思ったがそんなことは無いだろうと思った。……だってそうじゃないとおかしいだろう。なんせこの俺のステータスが測定出来ないなんてことはありえないのだから。


それからは色々質問され、答えられる範囲のことを答える。


だが、どうやらこの世界にも地球と同じように科学があり、俺が元いた世界でも使われていた電気というものが存在していてその力で動く車などがあるらしい。また、こっちの世界ではモンスターも存在していて魔物と呼ばれているのだとか。どうやらあの時の竜人も元々は魔物であったようだが、今では人に近い形に変化出来るようになり人と同じように生活をしているとのこと。


それからは色んな話をしたが……久遠さんだけは何故か俺のことを見定めようとしているかのような視線を感じた。どうやらあの人は俺の事を知っているようだった。だけどそれは当然なのかもしれないなと思う……。なにしろあの人の旦那はあの人なんだから。……でもやっぱり、あの人にもう一度会っておきたかったなとしみじみ思いながらも……色々と話していくうちにいつの間にか時間は過ぎていき、俺達は城の中へと戻っていくのだった。


俺とアイリス様は、お互いの実力を測るために戦闘をすることとなった。


俺の相手となるのは……やはりアイリス様なんだろう。……どうやらリリアがアイ様に俺のことを任せたようで……今に至る。


『さて、行きますわよ……?』


どうやら彼女から仕掛けてきたようだ。……彼女の手に持つのは、あの時に使っていた細剣のように見えるが、俺が知っている武器のどれにも当てはまらない形をしている剣だった。その刀身の部分に、何とも言えない紋様のようなものが描かれているのが分かる。そして、その剣は……淡い水色に発光しているように見えた。その剣を目にした瞬間、嫌な予感がして俺は剣を抜こうとしたが、何故かその手が剣の柄に届くことはなかった。


俺の様子に異変を感じたアイリス様は俺に問いかける……。


『貴方は私の攻撃を受け切れれば勝ち。そして私があなたに与えた一撃が当たった場合は負け……分かりまして……?』……俺はアイリス様の攻撃を避けたり、剣を受け流したりする。だが何故か思うように攻撃に転じられない。そのせいで俺は次第に追い詰められていってしまったのだった。


『……あら……まだ全力を出してはいませんのね……。それなら少しだけ本気を出しますの……。』


そういうと彼女は目を閉じる。そして次に彼女が目を開けた時……彼女の瞳が金色に変わった。そして彼女はまるで別人のように動きが素早くなったのだった。……そして俺は彼女に反撃をすることが出来ずに……ついに一本取られてしまったのだ。それから彼女は続けて二本連続で決めてきて俺は敗北してしまったのだった。……どうやらこれで俺はアイ様と戦うことになるみたいだ。俺はアイ様と対峙する……。その顔を見ると、俺に対して何かを感じているようにも見えたが……その真相はわからない。そんなことを考えている間に、戦いが始まるようだ。


アイ様はこちらに向かって駆け出してくると俺に斬りかかろうとしてきたのだった。


俺に剣撃を与えてくるアイ様……。俺はそれを必死に避けながら反撃の隙を伺うのだが、その剣のスピードになかなか追いつけずに、逆に俺が追い詰められてしまう。


このままではまずいなと思い始めた時、アイさんが一瞬で姿を消したのである。俺の視界には何も捉えられなかったが、その次の瞬間には俺は背中から強い衝撃を受けていた。俺は地面に激突しそうになるものの、どうにか堪えて体勢を立て直すことが出来た。……どうやら俺は背後から攻撃を受けたようである。一体どこから現れたのかと思っている間にも俺の頭上からアイさんの蹴りが迫ってきていたのだった。……だがその時……俺の頭の中にある声が流れたのである。


(久遠、久遠。聞こえる?)


その声は俺の妹である結衣の声であった。だが……どうして急にこんなことが……。


「あぁ聞こえてるよ……。それで……どうしたらいいんだ……?」


俺は思わず独り言でそう呟いてしまっていた。


(久遠、私の声が届いているなら今のうちに説明しておくね。その空間は精神と現実の境界のようなものだから、その中に入ったら……私はサポートできないから気をつけてね!それと、アイちゃんも久遠の力になれるはず!だから頑張ってね!!)


その言葉が終わると共に、俺の前に光の粒子のようなものが集まってきて人の形になった。そして、それが徐々に姿を表したのである。その姿を見て俺は驚いたのだ。何故ならば、そこには先程俺が模擬戦で倒したアイ様が立っていたからである。


『えっ!?アイちゃんが……もう一人いる……?』


俺はそんな疑問が頭を過ぎるが、どうやら俺の目の前にいる彼女は俺と戦おうとしているようだった。俺は気を取り直してアイ様との戦いを再開することにする。


俺が剣を構えている間にアイ様は先程俺にした攻撃を繰り出してくる。だが俺は、今度はなんとかその技を避けることに成功したのだ。それからは俺はひたすらアイ様からの剣を避け続ける……。だがどうやらこの世界に来てから身体能力が上昇しているのは間違いないらしく俺も少しずつ余裕が生まれてきた。だがそれでも、中々攻撃に移ることが出来ない。どうやら、アイ様に攻撃を加えようとすればその隙に俺にカウンターを入れられてしまうからだ。そして遂に俺は……アイ様に捕まってしまう……。俺は何とか逃れようと足掻くがアイ様が許してくれることはなく、そして……俺の首に鋭い刃が突き立てられたのだった。


『そこまでですの……。久遠くんの降参により、アイさんの勝利となりますの……。』


リリアがそう宣言したことにより、俺は敗北したことがわかったのである。それから俺は自分のステータスを確認するが……やはりレベルもスキルも変化はないようであった。だがそれよりも俺には気になることが二つあったのである。一つは俺が倒したと思っていた男だが、実は生きていたという事実である。そしてもう一つが俺のレベルは変わっていなかったのに、アイさんが使った剣は……スキルではなく武器であったということである。


そして、どうやら俺はアイ様に気に入られたのか……これから一緒に戦うこととなったのである。それから俺達は、この世界の人達の能力を測定するために城の外に出た。


どうやらこの世界の人達はみんな魔力を持っていて……さらに俺達のような地球から来た人間の中には特殊なスキルを持った人達もいたらしい。それから測定の結果はやはり俺だけが突出した数字を示していたのだった。そして、測定を行ったあとに俺達は食堂に向かうと……そこでは宴会が行われていた。そこで、この世界の人々と一緒になって食事を楽しんでいたのだが、突然この世界にやってきた時に出会った女性が現れると、その人がレイア王女でありこの国の王女であることを教えてもらったのだった。そして、その隣に座っていた少女がこの世界における勇者らしいのだ。……それから、どうやらこの世界には俺の他にもこの世界に来る前からこの世界について知っていた人物もいるようだった。その人物は俺の予想通りの人物で、その人物が言うには俺達が召喚されたこの世界は……ゲームの世界で俺達はこの世界で起こっている魔王軍の侵略を止めるために呼び出されたということだった。……だけどそれは違うだろう。なぜなら俺がこの世界に召喚されたのは、俺と妹以外が既に死んだ後のはずだから……。だけどそのことを口に出すことは出来ずに、ただその話を聞き流していた。そんな話を聞いていくうちに夜になっていたが……俺は一人になって考えたいことがあると告げて……リリアに許可を取ると部屋を抜け出してこの世界が本当に俺の知っている世界かどうかを確かめるために、城の周りを探索することにしたのである。


そして……暫く歩いていた時だった。後ろから誰かが追いかけてくるような音が耳に入ってくる。そして……俺は振り返り確認しようとする前に、何かの液体が俺の顔に付着してきたのだ。


どうやら何かを投げてきたようなのだが……俺は慌ててそれを落としてしまう。そして……何が飛んできたのかを確認してみると……なんと俺に襲いかかってきたモンスターだったのである。


俺は驚きながらも剣を抜いて構えようとする。……そして俺が構えようとした瞬間だった……。また何かが俺に向かって投げられて……それは見事に俺に命中したのだった。俺はどうしようか迷った挙句……俺は剣で斬りつけることにしたのである。


だが……それは悪手だったことに気がついて俺はすぐに逃げに回った。どうやらそのモンスターの弱点は、斬られることのようだ。つまりそのモンスターの攻撃は当たらなければ問題はないと言うことなのである。それから俺は何度もモンスターに投げつけられたのを俺は避ける。……どうやら俺を殺そうとしているわけではなく……単に嫌がらせをしたいだけのようである。だけど俺はそれに気がついたらもう怖さはなかった。そして……俺はとうとう剣で倒すことに成功したのだった。そしてそのモンスターを倒したことで経験値とアイテムを手に入れたようだが、それを確認したところで俺はあることに気づいたのだった。どうやらこの城の近くには、俺が倒したいモンスターがいないという事にだ。……だけどここで俺は一つの違和感を感じた。何故、こんなにもモンスターが俺を執拗に攻撃してくるのかという事だった。俺に敵意を向けてくるならわかるが、今回は……まるで遊んでいるかのような動きをしていたのである。


俺はそんな事を疑問に感じながらとりあえず城に戻ってきたのだった。するとそこに、レイラ様ともう一人の女性が待っていたのである。そして俺を見るなり彼女は、


『……お前は……一体なんなんだ……?』


彼女は俺のことを警戒しながら質問をぶつけてくる。だが俺もどうしてなのか分からなかった……。


「どういうことだ……?」


『どういうこともなにも……どうしてあんな化け物を倒せたんだって言っているんだよ!!』


彼女は俺に向かってそう問いかけるのだが、俺には心当たりがなかったのである。だが、俺が何も言えないでいると、彼女が勝手に話しを始めたのだった。


『私はな……あの化け物と戦っても勝てないことくらい最初から分かってたんだ……。あいつは……今までに何度か私に襲ってきて……その都度どうにか生き延びてこれたのは……全部偶然だ。だけど……お前が現れた途端にあいつは、急に逃げていった……。どうして……お前は私より弱かったのに……お前が来ただけであいつは逃げたんだ?……教えろ!……答えてくれ!!……私の命よりも大切な親友を返してくれ……!!頼むよぉ……!!!……』


彼女の必死の訴えが……俺の心の中に響いてくる。


「……俺は君の親友のことは知らない……。」


俺はそう呟きながら……彼女の元に近づくと……そっと彼女を抱きしめていた。その時に俺の瞳から自然と涙が流れ出ていく。


『どうして泣いてるの……?』


「わからない……。だけど……何故か……涙が止まらないんだ……」


そう呟くと同時に……彼女は安心したように俺の腕の中で眠ってしまったのだった。そんな光景をリリアは、悲しそうな顔をしながら見守っていたのだった。


それからしばらくしてから目を覚ました彼女に……俺は、俺達の事情を説明することにする。そして、俺の話を聞き終えた彼女はしばらく沈黙してから口を開いた。


『なるほどな……。つまりは、この世界に来た時からずっと私が守っていた女の子がいて……それがお前の妹だったというわけなんだな?』


「そういうことになる……。だけど……どうしてこんなことに?」


俺の質問に対して、彼女もどうしてこのようなことになってしまったかは分からないと言っていた。だがそれでも俺には思い当たる節があった。……そう、この世界に来る直前の出来事が原因だとしか思えなかったからである。……俺達がこちらの世界に来て、そして真那もこちらの世界に来ていたということは、おそらく俺と結衣以外はすでに死んでしまったのだろう。だから結衣だけは助けるために……俺とリリアは結衣だけを助け出そうとした。その結果としてリリアの力を借りて俺達は無事にこの世界を救い、この世界にやって来た時とは逆に、今度はこの世界に来れるようになってしまったのだと思っている。だが結局……この世界の人を救うことが出来なかったのは確かだった。だからこそ、この世界をもう一度救う必要があるのかもしれないと思ったのである。そして俺達は……魔王を倒すことに決めたのだった。それから俺達は明日のために、お互いのことを話して寝ることにしたのである。


翌朝になると俺達は城から外に出て、そして王都から離れた場所に向かった。その場所に行くまでに魔物と遭遇したが……どうやらこの場所は俺の知っているゲーム世界と酷似した地形のようだ。だが俺の知るゲームの世界とは違う点も多く存在していた。だが、それは仕方のないことである。だって、ここはゲーム世界ではなく、俺達にとって現実であるのだから……。そして俺達が進む先々に、多くの村が存在している。だが、その村は今現在魔族に占領されているのだ。そして俺はその現状を変えるために……行動を開始することにした。それから数時間が経過してから俺は、遂に目的の場所まで辿り着いたのだ。そして、そこには一人の男性と複数の少女達がいた。どうやら男性は怪我をしているようで地面に倒れ込んでいる……。だが俺はその男性のことを一目見てわかったのである。彼は、俺の知る限りこのゲームのラスボス的存在であり……魔王であるレイ・リザードマンであるということを……。それから俺はリリアに目配せをして合図を送る。するとリリアはコクリと首を縦に振った。それを確認してから俺はレイに話しかけたのであった。


俺が声をかけると、魔王の側に立っていた女性が反応する。どうやら、その女性の名前はミレーネさんらしい。そして俺はミレネーさんの話を聞いた。それは俺が想像した通りのことだった。この世界の人間は、みんな魔力を持っていて……さらにこの世界の人特有のスキルを所持していることを聞いたからだ。


俺達はそれから、レイと話をするのだが……やはり魔王軍の侵略を止める為にレイに協力を求める必要があったので……俺はレイに協力する代わりに協力を要請したのだった。するとどうやらレイは協力してくれると言ってくれた。そして、その見返りは必要ないと言ったのである。その理由がこの世界で生まれ育った者達を助ける為なら協力は惜しまないという言葉を聞いて……俺は嬉しく思ったのだ。


そして俺達がレイと共にこれからについて相談している時だった。急に地面が激しく揺れ出したのである。そのせいで俺達は、バランスを崩してしまう。だがなんとか踏ん張ることは出来たのだ。そして俺は……嫌な予感を感じ取り、すぐさまこの場から離れようと言い出す。それに対して他の人達は疑問を抱いたようだが、俺の考えに全員が同意してくれたのである。そして俺達は急いでその場を離れようとするが……間に合わなかったようだった。なぜなら俺達がその場から離れた途端に巨大な地震が発生したのだ……。それは俺達に強烈な衝撃波となって襲いかかってきたのだった……。そしてそれと同時に大きな音を立てて崩れ始める建物や大地……。どうやらこの国自体が……いや、大陸そのものが崩落しようとしているみたいだった。俺はその状況に焦るが……どうすることも出来ないと諦めるしかなかったのである。なぜなら俺の予想以上に、崩落までの時間が短く……このまま何もしないでいれば間違いなく全員死んでいるのがわかっていたからだった。だが、どうやらそんなことはさせまいとした人物がいたのだ。レイは崩壊していく足場に、自身の体を突き刺すことで何とか落下しないように耐えたのである。俺はそんなレイの姿を見て驚くが……すぐに俺自身も何かをしなければならないと思い……ある魔法を使うことを決意する。それは【土属性中級魔術】という魔法である。


そして俺がその魔法を使ったことにより……俺達は何とか生き埋めになることを免れた。だが俺は自分の体力と魔力を使い果たしたのか……その場に力無く倒れたのだった。


俺が倒れると、俺を抱きしめるように受け止めた誰かに意識を奪われていく……。だが俺は……その温もりを感じるとそのまま深い眠りに落ちてしまったのだった。……次に俺が目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。


そして横を見てみるとリリアの顔が見え、その奥の方では……どうやらミレネー様と、もう一人女性の顔を見かけたので、その二人にも見覚えのあるような感じだったのだが……。俺はまだ少し頭がぼーっとして考えがまとまらなかったので一旦考えることをやめたのである。そこで、この部屋で看病をしてくれていたリリアにお礼を言う。するとリリアは嬉しそうに笑みを浮かべていたのである。そんな時に扉が開かれそこから現れた女性を見た瞬間、俺の記憶は鮮明になり、俺がこの部屋に運ばれた原因を思い出したのだった。そしてその人はアイラ姉さんだったのだ。そんな姉貴は俺を見るなりいきなり俺の頭を強く叩いてくる。


『全く、お前はいつになったらくたばるんだ?』そんなことを言うアイの姉御だが……俺はその言葉で安心感を覚えることができた。


「いってぇな!!……別に死んだわけじゃねぇんだからいいだろ!?それに俺にはちゃんと目的があるんだよ!!」


そんなやり取りをしていた俺たちだが……その様子を微笑ましそうに見ている二人の姿が目に入ってきた。そんな二人の内の一人の女性を見ると俺は驚いた表情をした。何故ならその人がリリアに似ているように見えたからだ。


そして俺が驚いている様子を不審に感じたリリアに問い詰められる。


『どうして私のことじろじろ見てるの?』……そして何故か機嫌が悪くなるリリアに説明をしようと思ったが……。俺に抱きついているアイの姿が視界に入るとリリアはなぜか不貞腐れたようにしていたのである。そのことに俺が戸惑っていると……今度はアイがリリアの耳元でこそっと囁くと、リリアはすぐに上機嫌になり、俺から離れて笑顔を見せていた。一体何を言われたんだ……?そう思っていると、アイと目が合ったのでとりあえず笑っておいた。


「それで、この人達は誰なんだ??」そう聞くと……アイが俺が倒れてからの出来事を教えてくれたのである。そして、俺の目の前にいる女性はリリアのお母様で、名前はアイリス様だと聞かされたのだった。俺はリリアから事情を聞くと、どうやらリリアとこの三人はこの世界の出身ではなかったらしい……。だが今はそんなことはどうでも良かった。そして俺はアイがどうしてリリアの母親であるこの人と一緒なのか不思議だったのだ。


そんな時だった。俺は突然の眩しい光に思わず目を閉じてしまう……。するとしばらくしてから、目を開くとそこには美しい容姿をした少女がそこに立っていたのである。その女の子は……リシアと名乗った。そして俺はその言葉を聞いた後に驚愕してしまった。……その女の子はなんと俺達の妹である結衣の双子の妹である真奈という名前の女の子のようだったのだ……。その女の子は確かにリリアによく似ていたのである。俺は驚きのあまり、言葉を発せなかった。だけど、どうして真那がこの世界にいるのか分からなかったが、真那は今現在は魔族の実験のせいで精神が崩壊しており、俺のことを忘れているのだという。俺はそのことを聞いて胸を痛めたが、同時にこれは俺にとってチャンスだと考えたのだ。なぜなら……この世界の魔族を滅ぼすことが出来れば、真那を救うことも可能だと気づいたからである。


だが、どうやって魔族を滅ぼすことが出来るだろうかと考えるが、今の俺のステータスは魔王を倒す時のレベルよりも遥かに高くなっていた為……俺は魔王と戦おうと考えていたのだった。だが俺は……この世界に転移した時から持っていた固有能力が発動した時にあることを思い出したのだ。俺はリリアのことを好きになる前は……とある少女のことを好きでいて……だがその好きな少女が死んでしまったことでリリアのことが気になっていたということに……。その忘れたいけど忘れられない初恋の少女の名前が結衣だったことに……そして、その結衣にとても似ている存在を見つけた俺は、もしかしたら結衣は死んでおらずどこかに生きているかもしれないと思ったのである。だからこそ、俺のこの世界への想いが強くなっていったのである。


それから俺達はこれからについて話をすることになり、俺達が今やるべきことが決まった。俺達の目的は魔族を滅ぼし、魔族が作り出しているという迷宮を潰すことと……魔王軍の殲滅をすることになったのである。だが、魔王軍についてはどうすれば良いのか分からないため……とりあえずレイ・ドラゴンの力を借りようと考えたのだ。レイが俺の師匠になってくれると言っていたから、その言葉に甘えることにする。そしてレイと協力する条件として、魔族を倒さなければならないということを知った。


俺達が話し合っている時に、リリアのお父様に呼ばれた俺達は話に参加することになる。だがその前に俺はレイに確認したいことがあったのだ。


「なぁ、俺に修行をつけて欲しいって言ってたよな。それなんだけど、俺に修行をつけた後はどうするつもりなんだ?」……するとレイは俺の目を見つめてから言ったのである。


『俺がお前の先生役を終える時……それは、魔王を倒し……この世界の魔族の長を討ち取った時である。その時には……俺が直々に、お前に戦い方を伝授してやる』……レイはそんな約束を交わしてくれたのだった。そしてその後、レイとの話し合いは終わり、これからのことについて話し合うことになった。そこで俺はレイから渡された聖剣をアイに渡すと、その聖剣は一瞬で姿を消して、代わりに一本の大槍が姿を現す。それを見たレイは興味深そうにしていたが、それ以上にアイが嬉しそうにしていたことは意外だったのである。


それからリリアの両親とレイとミレーネとリシアと一緒に今後について話すことになり、俺達がやるべきことは決まっていた。だが……その時だった。急に地震が起き、地面が裂けていく光景を目の当たりにしたのである。俺達はそのことに動揺するが……俺とアイだけは冷静さを保っていた。なぜなら……アイが言うにはすでに崩壊が始まっていたと教えられていたのだ。そのため……俺達のいた場所は比較的早くに崩落していった。そんな中、俺達は必死にお互いを助け合って生きていたのであった。


しばらく時間が経つと徐々に揺れが小さくなっていき……どうにか全員が助かることに成功する。するとどうやら俺達が助かった場所は……王城の地下だったようで……そこから外に出てみるとすでに崩壊しており……地上に出ることは不可能に見えたのである。しかも……外には魔物が大量に存在していたのだ。それはもう、数え切れないほど……。そんな状況の中……俺はレイと連絡を取るために、【念話のイヤーカフ】を取り出すと、すぐにレイの声が返ってきたのである。


そしてレイから、この場にいる俺の仲間達に、レイの作った【アイテムボックス】をプレゼントされることになった。そしてその中にはレイによって創られた大量のポーションが入っているという話を聞き俺は嬉しく思っていたのだった。そして、その【アイテムボックス】を貰った後、レイが言っていた『勇者と竜王の絆の書』(この【絆の書】には特殊な力が備わっているみたいだ)を取り出した後……俺はレイの言いつけ通りにこの場で待つことにしたのである。


俺がその場から離れようとしなかった理由はいくつかあった。まず第一に、崩壊したこの場所で生き残れる確率があまりにも低いと感じたからだ。第二に、リリアの母のことや真那のことを心配していた。第三に、ミレネー様を一人で放置するのは良くないと判断したからである。だが、俺は正直なところ、ミレネー様はここにいない方がいいんじゃないかとも思ったのだった。というのも、ミレネー様が俺が渡そうとした回復薬を拒否されてしまったからなのだ。


俺がどうして拒否をされなければいけないのか意味がわからなかったが、そのあとのやりとりを聞いていくと……俺はどうやら何かミレネー様の逆鱗に触れてしまったらしい……。まぁその理由に関してはなんとなくわかる気がした。というのも……あの時はミレネー様が気絶していたために俺は普通に会話していただけであって、起きていて俺の顔が見えていたのであればきっと、この顔は見られたくないと俺の顔を隠すか、または……この場から離れるように促されていただろうと容易に想像がついたからである。だが、だからといってこの人をこのまま放置するのはあまり得策とは言えないと俺は考えていた。そして俺はリリアのお願いもあり、渋々と了承したのである。ちなみにこの人は極度の方向音痴らしく……こんな状況下でこの人を一人だけ放っておくと……確実に遭難することは間違いないだろう……。だからこそ俺と久遠で、護衛を兼ねて付き添うことを決めたのである。


そして俺とリリアが一緒にいるところを久遠に目撃されると、リリアは少し不機嫌な様子だった。そのことからも、やはり久遠は、俺とアイの関係を疑っているのではないかと思えてしまう……。


そしてそんなことがありながら俺は、ミレネーとアイリスと共に王城の外に出ることにした。そして、この世界の人達に事情を説明する為に俺はこの二人を連れて、この国の首都に足を踏み入れたのである。この国の人にとって俺はこの世界に来てから出会った最初の人物でもあり、俺の印象はとても良かったようだ。俺はこの世界に来るまではどこにでもいる普通の人間だったが、この世界にきてからは勇者と呼ばれてしまい、そしてその立場を利用したことも多々ある。そして……この世界に来てからは俺は今まで以上に、自分というものに対して自信を持てなくなった。


そして、そんなこともあり、俺はあまり人に好かれないように心がけるようになった。特にこの世界で生まれ育った者達に対しては俺は嫌悪感を抱いてしまいがちである。なぜかというと……この世界の奴らのせいでこの国がここまで腐敗しているというのもあるだろうが、何よりこの国は……いや、この世界の連中は全て腐りきっていて、この世界の奴らのせいで俺の家族は死んだようなものだとさえ思っている。だが俺のそんな態度を見て、リリア達は俺が怒っていると勘違いしているようで……俺はこの気持ちを押し殺してこの人達に接することを決め、リリア達とはぐれないようについて行くのであった。だが俺はまだこの二人の本当の怖さを知らなかったのだ……。この二人こそが世界で一番怖い人たちだということを知る由もなかったのである。


それからしばらく歩いていると突然魔物に襲われそうになったが……リシアによって助けられることになる。そして俺はリシアがなぜここにいるのか疑問に思いながらもリシアの言葉に従って付いて行く。リシアによると、ミレーネがリシアを探していたらしいのだ。なんでも……ミレーネが行方不明になっていたため、この王城に戻ってくるかどうかを心配したリシアは急いでこの国までやってきたらしい……。その話を聞いた俺がそのことを伝えるとリシアは……リリアとアイリスにも伝えて欲しいと言われ……リシアが去って行った後……俺はこの二人がこの世界の人間とは違う存在だということを確信することになる……。


なぜなら……この二人が、この世界では見ることのできなかった……笑顔を浮かべていたからである。しかもそれはとても可愛くて、思わず見惚れそうになるほどだったのだ。しかしリシアのことが気になった俺はその笑顔が本物なのか……それともまた俺をからかっているだけなのかを確認する為にある行動を起こした。


その方法は……リシアの後を追うことである。すると案の定と言うべきか……リシアはすぐに見つかったのだが……。


俺の視界に飛び込んできたのは、なんと、リリアとアイの姿がそこにはなかったのだ。それどころかリリアの母親と妹……さらには……ミレネーまでも姿を消してしまっている……。


一体どうなっているのか……。リシアがミレネーを探しているという情報を聞いた時に違和感を覚えた。そして……この王城に来た際に、リシアは俺が王城内で暴れてミレネーを探すと言っていたが、その発言自体が……嘘だったということになる……。それにしてもミレネーを連れ去ってしまった犯人の目的がわからないままだが、リシアがいるということは……おそらくはリシアの敵という可能性が高いと考えられる。つまり俺は今、窮地に立たされているといっても過言ではないのである。


この王城の中では……ミレアが魔物を呼び出すことで、この国を支配していることをこの王城に入る前にリシアは聞いていた。それに加えて、その魔物がミレネーを襲ったという話もリアナに聞いたことがあるのだ。そして俺はリネアにその魔物の特徴を聞くことにする。その特徴に合う魔物に一つ心当たりがあったからだ。


その特徴は、この王城を襲ってきた竜人の容姿に似ているとリネアから教えてもらったことがあったからだ。その時にこの王城で見たことを俺は、リネアとリリアに伝えていたのだ。すると……リアナは急に立ち上がって走り出そうとしたが、それを止めたのはリシアだった。


そしてそんなやりとりをしている間にミレアとこの国の宰相らしき男が、この王城に入ってきたのだ。その瞬間にミレアの身体が震え出し……どうやらミレアはこの王城で酷い目にあったようで恐怖を感じているようだった。そしてミレアは怯えるリネアを見ると怒りをぶつけ始めたのである。ミレアの話を聞いてみると、どうやらミレアがミレネーに危害を加えた張本人だったらしい……。


そしてミレーネはそのことについて謝っていたが、どうやらその言葉には全く誠意がない感じだった。そして、この場にいたリリアは、そのことに疑問を感じていたようだ。だがミレネーはそれでも許してくれたみたいだ。リシアとリアナは、その光景を不思議そうに見ていたが……俺はその時の光景をしっかりと確認することはできなかったのである。なぜなら……この王城に侵入してきた竜人の姿を俺は、その目に焼き付けることができなかったからである。その理由というのは……ミレネーに化けていたその男の正体に驚いてしまったからだった……。その正体がなんだったのかと言うと……そう……その正体は、魔王……ガル・スレイアードだったのである。しかもこの世界では【神滅の魔神王】として君臨しており、かつて……この世界に災厄をばら撒いた存在であることは言うまでもない事実である……。そんな人物がなぜこんなところにいたのか……俺は混乱してしまっていたのである……。そんな俺の様子を見て、ミレネーはどうやら俺に敵意を抱いているようで……どうすればこの状況を切り抜けられるのかを考えていた。だがそんなことを考えていたところで、リネアとリリアを攫われたという事に変わりはなく、まずは二人を助ける必要がある。ただ……そんなことはリリスにお願いすることでしかできない。だが今の俺は、その肝心のリリスとの連絡がつかないでいた……。そして……なぜかリネアに【絆のネックレス】で繋がっている感覚がまったくなかったのである……。


それからしばらくして、俺はリシアに連れられて王城の最上階に行くことになる。そこで待っていたのは……この世界で、俺と唯一接点を持つ少女、リシアとリリア……それにミレネーとリリスだったのである。ミレネーがこの場に現れたことに俺は驚くと同時に、そのミレネーがリシアを探していたという話をここでやっと信じることになったのである。そして俺は、ミレネーがこの国に帰ってきた理由は……リシアがミレネーを連れ戻すことを望んでいたからであるということを聞かされたのである。その話を聞いた俺はすぐにリレミーの方を向くと、リレミーの様子が少しおかしいように思えた。そしてミレネーの話を聞いた俺はミレネーに、なぜそんなにも俺のことを信用しているのか理由を聞いてみたが……それは……リアナという女性をリシアが助けてくれたからだと教えてくれる。そんなやりとりの中で……どうやらミレーネには、リリアや俺に対する敵対意識というものは一切ないことが分かった。そして……なぜ俺の居場所がわかったかというと……リシアがリネアとリリアの場所を知っていて……俺の魔力を感知することができるらしい……。俺はリシアの言葉が本当なのかと疑いながら……そして……この世界でリシア以外に俺の味方をしてくれる唯一の存在ということもあり、とりあえずは話を聞くためにその場にとどまったのである。


だがそんな時、突如ミレアの悲鳴とともにミレーネと、そしてリシアまでも消えてしまうという事態が発生する。


そして俺達がミレーネとミレアがいなくなった場所に近づくと……ミレアは魔物化しており、ミレネーはどうやら怪我をして倒れ込んでいたようだ。俺はミレネーを助けようと動くと、なぜかリシアに止められてしまった。そして俺がリシアに対して何故止めるのかを問うと、彼女は俺達よりも先に魔物化したミレアを何とかしなければならないと答えたのである。そしてミレネーの方も、もう限界が近づいてきていた……。このままでは死んでしまうと判断した俺は……この世界に来る際に、久遠の使っていた技を使うことにした。この世界の魔法が、どういうものなのかを知ることができるこの世界でなら久遠のあの技を使うことができるはずだと踏んだのである。その結果……俺は久遠のスキルの一つである……久遠流魔闘術……を使えるようになることができたのであった。俺はこの世界で、久遠が使っていたこの力を再現できるように特訓をしてきた。だが俺自身この力を完全に使いこなせているわけではなく、まだ久遠の域にまで達するには至っていないのだ。


だがこの魔物化している状態のミレアならば……あるいは……そう思い俺はミレアに近づき、そしてその身体に触れ、ミレアの記憶を探る……。その最中で俺はミレーネに自分の意思を伝え、俺とミレーネの力を合わせると、俺はミレネーにミレアにかけた呪いを解き……さらには俺が持っていたある特殊な能力をミレアに渡すと……その瞬間に、俺が予想していた通りにミレアの傷が癒されていき……ミレアは再び人間の姿へと戻ることができたのであった。


俺がこの世界で初めて使ったその特殊技能は、【呪怨浄化】といい、その名の通り……対象の魂を穢された状態から綺麗に戻すことができるのである。この世界に存在するあらゆる存在は魂を持っているのは、リリスから聞いて知っている。この能力の発動条件としては、相手の体に触れることで、相手を自分と同じように呪われさせることで発動できるようになるのだ。その条件とは……相手との身体的距離が離れるほど、その能力は失われていくということである。だから今回俺はミレアの体を触れてミレアの魂を穢すことで、ミレアにかけてしまっていた……【死鬼憑き】の状態異常を解除したのだ。


この【呪怨浄化】は相手がアンデッドなどの肉体を持っていないような生物であっても、状態変化させることができるのはリリアに確認してもらっており、俺もこの力で実際に実験を行ったのだ。そしてリリアは俺の実験に協力してくれて……結果としては……俺が想像していたこと以上の効果を得ることができていたのである。


俺はその後、気絶してしまったミレネーを抱き抱えて、安全な場所で寝かせることにすると、リリスはミレネーのことを見ながら何かを言おうとしていた。おそらくはミレネーにこの国を案内したいというようなことを言っていたと思うが……俺はその言葉を聞いた後にリシアに向かってミレネーの事を頼んでいたのである。そして俺がこれからリシア達に何を伝えるのかを告げようとしていた時に、ミレアとミレネーが現れたのだが、そのタイミングに……なんとも言えない感じになったのだ。ミレアとミレアが連れてきたリシアが俺に詰め寄ってきて……なぜか怒られてしまい俺は困惑したのだった。


だが俺は、なんとかその二人の誤解を解くことに成功すると、ようやく俺は本題に入ることにしたのである。その話をしようと俺はリリアのほうを見るが、なぜか顔を赤くしながらそっぽを向いてしまうのだ。一体どうしたのだろうかと思っていると……リアナとリリスがニヤつき始めていて……その二人が何を言っているのかと疑問に思っていると……二人は急に笑い始めたのだ。その様子を見ながら俺は、リアナに質問を投げかけると……なんとリアナは【呪殺】の禁書を所持していることが判明したのだ。しかもこの世界にある七つの禁書をコンプリートしようとしているとかで……リアナは嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。


そしてその話が終わって俺はミレネーと話す機会ができたのだが、どうやらミレネーはリリアとリリスと一緒に王城を出ることに決めたようで、リリスはその提案に賛成し、そしてリレミーは……反対の立場を示した。その理由としては、どうやらこの国はリリスの故郷であり、リリスはこの国の王女でもあったことから、その決断を下すことはできないと言ってきたのである。そんなミレネーの話を聞いている中で、俺にミレネーは感謝の言葉をかけてくれた。どうやらこの世界で俺はミレネーの心の支えになれているようで、俺もその言葉が素直にうれしかった。だがミレネーとリリア、そしてリリスはこの場を離れることにはならず……ミレネーはこの国に残りたいと願い、リリスはリネアに用事があるらしいため……リシアだけを残していくことに決まる。その話を聞いて、リレミーは渋々ではあるが、その提案を受け入れてくれ、リレミーはどうやらミレネーにこの国に残って欲しいという気持ちが強いらしく……リシアにそのことをお願いしていた。どうもミレネーとリリスを二人だけにするのは不安なのだろう……だが……俺は……その時に、俺にはあることが頭に浮かび、その考えに納得できた。だからこそ俺はリシアに、リリアに伝言を伝えてほしいことをお願いするのだった。その内容は、久遠についてなのだ。久遠が、もし仮に……もしもだが、なんらかの形で……こちらの世界に来ていた場合……俺は必ずリネアのところに行くように伝えて欲しいとリシアに言うと、リシアは了承し、そしてミレーネを連れてどこかに行ってしまったのである。その途中で俺は、リシアの口から聞いた衝撃的な事実を聞き驚くのだったが……。その話はあまりにも突拍子がなく信じ難いものだった……。だが……その話の内容は真実であることを俺は確信し……この世界に……リネアがやってきた時のことを考えると、少し憂鬱になりそうな気がしてくる。俺はミレネーの頼みごとを引き受けた後はミレアとリレミーに、この世界に来て以来、会っていない知り合いに再会できるかを聞いてみたが、リリスはどうやら知り合いがいないらしい……。そんな話をしている間にミレアはなぜかリシアの胸を触り始めるという、奇妙な行動をしていたが……俺はミレアになぜその行動をとったのかを問いただすことにした。


すると、俺とミレアのやり取りを見ていたリレミーの様子が少し変わったことに気づいた俺は、その違和感の理由を聞いてみたが……なんでもないと、誤魔化されてしまったのである。俺はその様子を見てリレミーが、何かを隠そうとしていると予想したが、そのことは後回しにしてリレアの質問に対する答えを考えることにした。まず最初に……俺が知っている人の中でこの世界での知り合いは……一人だけだ。俺はそのことをミレアに伝えようとするが、なぜかミレアの顔色が少し悪くなったように見え……俺は体調が悪くなったのかと聞くが……どうにも歯切れが悪いのである。


俺はそんなミレアの様子を不思議に思うのだが、とりあえず俺とリシアでこの世界の知り合いのことを説明していくが、リレアはあまり乗り気ではないような雰囲気があり、俺の問いかけにも曖昧に返答をするだけであった……。そしてそんなミレアの様子を見て俺の中で……嫌な予感がし始めたのである。そのせいで、俺は焦燥感を抱くことになるが……とりあえずミレアに確認をとることにすると……俺は……ミレアとリシアを信用することにしたのであった。


そしてミレアに俺は確認をしたあとは、ミレアからこの世界でのことについて色々と聞いていく。ミレアからこの世界についての色々なことを教えてもらった。その話の中でも、俺が興味を抱いたものは二つあった。一つは、リシアから教えてもらっていたがこの世界で俺達が使う魔法のレベルだ。俺はこの世界に来たばかりであるためその知識はないが……どうも俺は他の勇者達と比べて魔法に関しての知識が豊富なのかもしれないということだった。リリアにその話を聞いた時には、俺はまだ魔法というものを使ったことがないのだが……なんとなく自分がこの世界に来る前に習得していたことを思い出すことができた。


そして俺がミレアと話している時、ふとリシアのことが頭によぎったのだ。この世界の魔王を倒すためにはどうしても、あのリリスの力が必要だと直感的に理解していた。そのためリリスにこの国をしばらく任せることを俺が伝えると、俺の提案にリレミーが反論するが、俺はこの国を信頼しているためにその判断を覆すことはできなかった。それにリレミーもこの国のことを心配して、この国を俺に任せるという選択をしたとわかったからだ。リシアは俺の考えを肯定してくれたので、この方針が妥当だろうとリレミーは受け入れてくれ、ミレアがなぜか俺をリシアと一緒に連れていきたいと願う。その理由が、この国には自分以外の仲間がいないからと言うのだから、仕方ないと思ったのだ。そこでリレミーとミレアは二人で話し合うことになり……その結果、ミレアは俺を連れて行くことに決めたようだ。しかしリレミーはその意見に不服な様子を見せたが、結局は俺の意見を尊重してミレアと共にこの国から立ち去って行ったのだった。


それからしばらくして、俺の意識は現実世界に戻ることになる。俺が最初に感じたのは強烈な光であり、眩しさのあまり目を瞑ることしかできなかったのだが……俺はゆっくりと目を開けることにして、周囲を確認することにする。だが俺は目の前にあるものが信じられずに混乱してしまうことになった。その視界に入ってきたものは、この世のものと思えないほど綺麗で……幻想的光景が広がっていたのである。その光景に見とれてしまった俺は、この景色に感動するのだが……なぜか自分の姿に驚いてしまい……困惑することになった。その理由としては……なぜか俺の服装が、この世界に来たときの姿になっていたのである。俺は、一体どうなっているんだと困惑したのだが……その時に、背後にいた存在に気づいて……さらに困惑したのだった。その人物とは……この世界を創造した神であるリリアだったのである。そして俺とリリアが話をした瞬間に……突然の出来事が起こり……リシアとミレアがリリアによってこの世界に転移させられてきたのだ。


私はその光景をみて思わず叫んでしまった。それは私が憧れていた人が、私と同じ世界にいて私の側にいたという事実を知ったからである。……だが、そんな嬉しくもある現実を受け止められるほど……今のリシアの気持ちに余裕はない。……リシアにとって、今は真也との再会を果たした喜びより先に、この事態への困惑のほうが上回っていたのだ。……そして困惑した表情を浮かべた後にリシアが発した一言目は、この世界で再会した友人が女性になってしまったという、あまりにも残酷な真実を告げるものだった。……その言葉で、リシアの心は一瞬にして砕かれてしまい……その場に座り込んでしまうのだった。そんな様子を見かねて、俺はリリアにどうしてこんなことになっているのかを聞くと……この世界は俺とリシアが来る前よりも数百年先の未来の世界だとリリアは答える。そしてこの世界の時間と現実の時間が同期しており、リリアの力は俺が想像していた以上の能力があるようだった。そんな話を聞いて、俺も改めてこの世界で生きていくことの覚悟を決めると、リリアは俺に対してリシアの今後については安心してほしいと話すのだった。その話を聞き終えた時に俺はリリアに感謝をしようと思ったが……なぜか俺はその言葉を言えなかったのである。その時に、俺には一つの不安が生まれた。その不安というのが……なぜかはわからないのだが……リリアのリシアに対する態度や言動には……リシアが男性であることを否定するようなものが含まれていたように思えたからだ。だが俺はその理由を考えようとしたが……リリアは、リシアのことをよく知らないと言い出したのである。そしてその理由として……今、リシアはこの世界での年齢でいうならば12才で、まだ幼い子供なのだ。そのような子供を男として扱うのはどうかと思い、女性として扱うことにしたと話したのだった。その話の内容を聞いたときに、俺は疑問を感じた。……なぜその結論に達したのかがわからなかったのと、そもそもその考えに至るのは……少しおかしいと感じたためである。だがそのことの真偽を問うわけにもいかず……俺は納得することにし、この話題を打ち切った。だが俺の中には……なぜかリシアに悪いことをしてしまったという罪悪感が生まれ、それと同時にリシアを助けたいという思いも芽生えたため、その思いがリリアにバレないようにするため必死に感情を押し殺すのだった。


だがそんな俺の決意はすぐに無意味なものになる。なぜなら……俺がこの世界で生きている間にリシアを救う方法を探すためにリリアについて行きたいという意思を俺が持つようになると……なぜかその話を聞いていたリレミーが……俺の気持ちを読み取ったのか、リレミーも俺と一緒についていくとまで言い出す。そんな時にリシアとリレミーの話が終わったのか……リシアが立ち上がると……リシアはなぜか涙を零しながらこちらにやってきたのである。俺はリシアに何か声をかけようとしたのだが、そんな俺の行動を止めるようにリレミーが俺の手を握ると俺を引っ張るようにリシアの方へと俺を連れて行く。俺はいきなりのことで戸惑ってしまうが、なんとか踏みとどまると、リレミーに手を離すように言う。だがその時のリレミーの顔を見て俺は驚いたのだ。そこには真剣で……そしてなぜか悲しげな雰囲気を醸し出していたからである。そのため、俺はその雰囲気に気圧されてしまい、そのまま流されるまま、されるがままにリシアの元へと近づいて行くと……俺は無意識のうちにリシアを抱きしめていたのである。そして、俺は……そのリシアを抱き締める行為によってあることに気づいたのだ。リシアの体に触れたことによって、リシアの状態を確認することができるようになっていた。その状態で俺はステータス画面を開くと、そこには【呪印】のスキルが追加されており……そのスキルを俺が詳しく確認しようとした瞬間……リシアは、なぜか急に大泣きをしてしまい、その声で俺とリレミーは驚き……俺は慌ててリシアに声をかけようとする。そんな時にリリアの声が聞こえたため、リシアは落ち着きを取り戻し、俺達はリリアがいる部屋に移動することになったのだった。


俺が目覚めた時にはすでに太陽は沈みかけ、空を赤く染め上げている時間帯になっていた。俺は、その赤い夕日を見て綺麗だなと思うが、同時にどこか懐かしさを感じてしまい、俺は自然と笑みをこぼしていた。


「そうか、もう夕方なのか……」


俺がこの世界に転生して今日は初めての外出だ。そのため、俺はこの異世界に来て初めての景色を楽しんでおり、かなりテンションが高くなっていたのだ。


「うん、やっぱりここはすごいところだな。」


そんな独り言を言いながら、俺は周りにある建物を観察していく。建物は中世の西洋風の建築物が広がっており、とてもいい風景が広がっていく。だがそんな美しい景観の中、建物の中を見ると、そこでは鎧を着た兵士とおぼしき人達がいたのだ。俺はその姿を見ただけでこの世界が戦争状態にあることを察することができた。


この国の名前すら知らない俺はその兵士達のことがすごく気になったが、とりあえず、情報収集をしようと思う。この国はどんな所かを知らなければならないからだ。それに、お金もないので、宿も取らないといけないのだ。


俺は早速行動に移そうと立ち上がった時、お腹が鳴ったのだ。その音があまりにも大きい音だったため、周りの人の注目を集めてしまったのだ。俺は恥ずかしくなってしまい顔を赤らめてしまうが、とりあえず宿屋を見つけなければと思い、歩き始めた。だが、この世界で俺の身体能力はかなり低くなっているのだ。そのため俺は人ごみに流されてしまいそうになるのであった。だが、そこで俺の腕を誰かがつかんだのである。


俺は驚いて、自分の腕を掴んだ相手を確認してみるとそこにいたのは、この世界で初めて見る女性の姿があった。その女性の容姿はとても整っており、髪は肩くらいまでの長さで、茶色で、目も大きく顔立ちもいいのでまるで芸能人のような人だった。そのため俺はこの女性をみて、見惚れてしまっていた。その女性はなぜか頬を朱色にしながら俺を見つめていて、「あ、あの、大丈夫でしたか?」と心配してくれていたのだ。


俺は、そこでやっと自分が今どこにいるのかということに気づき、急いで離れることにした。俺と彼女は道の真ん中で話し込んでいたために、周りの通行人に迷惑をかけてしまってたのだ。なので早くその場から立ち去ろうと俺が考えていると……彼女が俺の右腕に抱きついてきたのだ。そのことに俺はもちろんだが、彼女もなぜか慌てた様子だった。だがそこで俺は気づいたのだ。彼女が俺の右手を両手で握って逃さないぞと言わんばかりに強く握りしめてきたことを……俺がそのことに気づくと、俺の右手を握ってきた女性は、突然俺に向かって土下座をしたのだ。


その行動の意味が全く理解できなかった俺はどうすれば良いかわからず、戸惑ってしまった。すると、そんな俺達の間に、一人の男が割り込んできたのだ。その男はなぜか怒ったような口調で俺に対してこう告げてきたのだ。


『おい、そいつをこっちに渡せ。』…………はい?どういうことなんだろ。


この人はいったい何を言ってるのだろうか。


俺が不思議そうな表情を浮かべていたのをみたその男はさらに怒ってきたのだ。しかも、なぜか怒りで震えており……その拳には血管が浮かんでいて、明らかに殴るという意志を持っていたのだ。俺はそれを見てこの人は頭がおかしいのかと思ってしまい呆れていたが、この男が次に起こしたことはあまりにも予想外の出来事であり……俺はその男の行動によって驚かされたのだ。その男の右手が一瞬ブレたかと思った時に、男の手が伸びて来て、その伸びて来る速度が速すぎて残像を残し、気がつけばその男はすでに俺の前にいたのだった。俺も反射的に避けようとしたが、体がまったく反応しなかったのだった。だが、そんな危機的な状況だったにもかかわらず俺はなぜか冷静なままだったのだ。俺はなぜか分からないが自分の死を悟ったためかもしれない。そんな俺の考えとは裏腹に……なぜか俺は……自分を殺そうとした男に対して憐みの気持ちを抱いてしまったのである。


俺が死んだとしても別に何も感じないはずなのになぜか俺はこの人を憐れんでしまっており、こんなに殺意の塊である人間がどうしてそこまでの覚悟を持って俺を殺しにきているのか……その理由を探りたいとも思っていたのだった。俺はなぜか……その考えがずっと心の中に残っており、そして……俺はなぜそんなことを考えていたのかが自分でもよく分からなくなってきて混乱していると……いつのまにか、先ほど俺の目の前に立っていた女性が俺の前に立って庇ってくれていたのだった。その女性は俺の前に立って男をにらみつけると、「あなた、私の妹に手を出したから許せないわね!」といってその男を蹴り飛ばしたのだ。俺もその女性の行動に驚いたのだが……その後、俺が見た光景はさらに俺の予想外なもので……俺が驚いたのは女性が強いということではなく、蹴られたはずのその男性が空中を舞っていたからだ。そしてその男性は、5mくらい吹き飛んだ後に、民家の壁にぶつかった後地面に落ちて行ったのだ。その男性はそのままピクリとも動かずに気を失ってしまったようで、俺はそんな異常な現象を起こせるその女性の力の強さと容赦のなさがすごいと感じてしまった。だがそれと同時に俺が守ろうと考えていた女の子の力の強さにも驚いていたのだ。俺がそんな事を考えながらもボーっと突っ立っていると……いつのまにかさっきの男の仲間と思われる人が二人来ていた。俺は警戒したが、俺を守ってくれていたその女性は俺の方に振り返ると笑顔になって、そして俺のことを優しく撫でてくれたのだ。その行為によって俺は嬉しくなってしまい照れてしまったが、なぜかその時俺は少しだけ寂しい気持ちになってしまった。だがその感情がなぜか全くわからず俺は混乱してしまった。


その二人の仲間らしき男たちも俺のことを守ろうとしていた女の子の姿を見てすぐに謝ろうとしたが……俺を守るように前に立つ彼女の姿がとても美しく見え、そして何より俺が彼女に惚れてしまっていることに気づいており……その気持ちが抑えきれないまま俺の目の前にいたその少女に声をかけるのであった。


その二人は私達に頭を下げてきて何かを必死に言っているがそんな事は気にしないで私はその男を吹き飛ばすと、私の妹分になる予定だった少年を後ろへと隠す。そしてその男の頭を掴んで壁に投げつけてやった。するとその男の体は綺麗な弧を描きながら、家に衝突していった。私が後ろを振り返るとそこには、なぜか頬を朱色に染めている男の子がいて、その少年の顔を見た瞬間、私は何故か……彼に一目惚れしてしまい、思わず私の心臓がドキドキと高鳴り始めていたのだ。


そんな彼の事を見ていると……さっきの男の仲間たちが集まってくるのをみて私は焦ったが……そんな心配は無用に終わった。なぜなら、さっきまでの余裕の表情が嘘のように、その連中たちは完全に怯えていたからだ。だから私はさっさとこいつも吹き飛ばしてやろうと手に力を入れようとした時……その子は急に立ち上がり、その子の瞳は……まるで宝石のエメラルドのような輝きをはなち……とても美しかったのだ。そして、そんな彼に声をかける男がいたが、そんなことは気にせず私は再びその男の子に話しかけようとするが……急に彼が私の手を握り……なぜか顔を真っ赤にしながら、「助けてくれてありがとうございました!……でも……俺なんかがこんな可愛い人の手を握ってしまうなんて……ほんと申し訳ありません!!」そういって彼はなぜか全力で土下座を始めたのだ。


そんな彼を見下ろした時、ふと自分の手が握られていた事に気づくが、なぜか私には嫌悪感が全然なくむしろもっと握ってほしいと思ってしまい……気づけばまたその手を握っていたのだ。そうして握った時の感覚があまりにも気持ち良くて、私はなぜか幸せな気分になっていた。そんな私たちを周りの人たちは不思議そうにこちらを見ていた。そこで、やっと自分のしでかした事が恥ずかしくなり……その手を話してしまった。だが、その行動になぜか私は後悔してしまって、そんなことを思っている自分にさらに動揺してしまう。


私はそんなよくわからない思考にとらわれてしまいながらその男の子に話かけると、なんとこの子がいきなり、私の胸に触ってきたのだ。……もちろん……わざとではないと分かってはいるが、この子は、無防備過ぎると注意するべきか、それともこのまま何もせずにこの子のことを襲ってしまうべきなのかを真剣に悩み始めたが、なぜか私の心はとても落ち着くのであった。


私はその行動を見て……この子はとても純粋なんだなぁ……としみじみ思ったのである。なのでその行動があまりにも可愛くてつい抱きしめてしまった。


「もう!!……君、それは絶対に他の人にやってたらダメよ!?分かったわね?」


私がそんなことをいいつつもこの子を離さなかったせいでこの子は顔を真赤にさせてしまい、「すいません」としか言えなかった。だが、その行動がとても可愛いかったから私はその男の子を抱き抱えていたのだ。するとその男の子はとても慌てて暴れ出した。そんな様子を見ていると、なぜか私の中で悪戯心が生まれてしまいついついこの子に意地悪をすることにしたのだ。


そして、私がこの子の首筋にキスをした時、この子は驚いて飛び跳ねるかのように反応してくれたのが、それが面白くて、今度は唇にも……と思っていたが、なぜか途中でその思いは消えてしまい……なぜか私の体全身に甘い痺れが起き始めてしまって、私はなぜか力が入らなくなりそのままその場に倒れそうになった。


そのことに気づいたその子は心配そうな顔で私を見つめていた。私はそんな顔を見て心配させないために笑おうと思ったのだが、うまく口が回らなかった。なので私はとりあえず立ち上がろうとするのだが……足腰に力が入らないのである。なので私はそのことに困惑しつつもその少年の方を見ると……なぜかその男の子も顔が赤くなっていた。……そこで初めて気づいた。私は今、あの子の膝の上に座り込んでいたことに…… そのことに気づいた瞬間から、私は羞恥によって、今までよりも激しく体が震えだした。だが、それでもこの子から体を離したくなかったので、何とか耐えている。するとその男の人はなぜか突然、「あの!……俺を貴方の弟子にしてください!」といってきており……意味がわからなかったが、とにかく弟子になりたいというその言葉に私は嬉しくなってしまい……つい、受け入れてしまったのである。……この子と一緒に過ごせるのなら、それも悪くはないのかもしれない。そんなことを心から思っていたのだった。


俺はこの人に土下座をした後……突然俺に対して、この人は師匠として俺の指導をしてくれるらしいのだ。しかも、俺はこれから俺の家に住む予定だとか……俺にはなぜこうなったのか全く理解できず、頭が追いつかなかった。


俺がその事に戸惑っている間にも、彼女は俺に抱きついてきて俺の匂いをかいだり……胸を揉んできたりしてきたので……俺はそれについて抗議をしようとしたが、その人は全く聞く耳を持たず、ひたすら俺を虐め続けたのだった。……だが、なぜだろう?……なぜだろうか……俺の体はなぜか彼女に対して恐怖を感じていないのだ。それどころか……俺は何故か彼女に弄ばれたいと思っており……なぜか体が疼いていたのだった。だがそんな事を俺が考えているなど、その人は微塵も気づいていなかったようで、ずっと笑顔で俺の事を見続けていた。


俺達は、いつのまにかついて来ていた仲間と共にその村にある家へと向かった。……その村は俺達が住んでいる場所と比べると小さく、家の数も少ないため本当にただ寝泊りするだけのようなところであるように感じる。だが……そんな場所になぜか俺の知り合いがいたのである。


俺が驚いた表情でそちらに振り向くと、そこにはなぜかセルスさんとアイラさんが一緒にいて、その二人は俺たちの方に歩いて来ていたのだ。俺はなぜここに二人が来ているのか分からず、疑問を二人に聞いてみると……なんでもレイナを探しに来たとかなんとか……そんなことを言って来たのだ……。どうやら、レイナは俺が死んだという噂を聞いていたらしく……それで急いでここに向かったのだという……。だが俺が生きていたことで二人はすごく驚いていたので、レイナはその二人に対して事情を説明すると、二人は驚きすぎて声も出せなくなっていた。……なぜこんなことになっているのか……なぜ二人がそこまで驚くのか……なぜそんなに焦ったような顔をしているのか……俺は全く分からずにいたが……とりあえず三人が落ち着き始めた頃に……俺の家でゆっくりと話し合う事になったのであった。


*


* * *


私は家に着くと、さっそくレイちゃんに何があったかを聞き出す事にしました。すると、レイナがいうには……あの変な男が急にレイちゃんを襲い始めたけど、その時レイちゃんの様子が少しおかしかったらしいのです。……そして、レイちゃんと男がしばらく戦った後男は急に苦しみだし気絶してしまい……そしてその後レイはなぜか急に泣き出してしまい……それを慰めようと私が抱きしめると……なぜかレイも興奮し始めたらしく、そしてそのあと、なぜか私は急にレイのことを襲うことにしたんです。……正直何をやっているのか自分でもよくわかりませんでした。そして私がレイのことを襲っている時に何故かレイが急に倒れ込んできて……その倒れた原因が男の呪いが解除されたせいだという事を知ってしまったのだ……。


そこで私はすぐにその男に何かされていないかを確認しようと思い、男の体に目を向けると……男の体は傷だらけになっていた。……そこで、私の中に怒りの感情が生まれたが、男の体の状態を見て、私が触ればさらに状態が悪化してしまう恐れがあるのを知っていたので私は触ることを諦めた。だが、私はその事に気づいていないレイちゃんを騙すような形で、無理やりその男のことに触れさせて……その呪いを解除してもらうことに成功したのである。だがその直後、なぜかその男はすぐに目を覚まし始めてしまい、男の事を殺そうにも私の力では絶対に勝てない相手だということを悟った私はその事をレイに伝えて……私はこの家から逃げ出そうとしていたのだが……なぜかその男が私達の前に急に現れて……急に襲いかかって来たのだ。……そしてその瞬間に私はなぜかその男に負ける事はあり得ないと悟り、そして私はその男を殺すことに決めたのである。だが、結局私は殺すことはできなく、私はその男とレイが話始めると……急に私の頭の中にはその男と仲良く話している姿が浮かんでしまって……その光景に嫌な予感がしたのだ。だから、私は必死になって止めようとしたのだけど、その時にはすでに手遅れであり、男が倒れ込む瞬間、私の目の前にいたはずの男が急に姿を消したのだ。そして次の瞬間、その消えた男が、私の後ろにいることが分かってしまい私はとてつもない恐怖に襲われていた。だが、そんな時その人が「安心して」と言ってくれたので私はそれにすがりつくことしかできなかったのである。


そしてその言葉を聞いた私は、なぜだか心が温かくなり、私はそのまま気を失ってしまったのであった。


俺はレイラから聞いた内容をしっかりと理解してから……この子が一体どういう行動を取るべきなのかを考えようとしていたのだが、それよりも前に……どうして俺とこの子が出会ってすぐに殺し合いに発展するほど険悪になってしまったのかという疑問に頭を悩ませていたが……それはどうも俺に原因があるみたいである。というのも

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