第5話 冥府の戦い
当時異端の罪で死刑となるのは、異端を悔い改め改悛したあとに再び異端の罪を犯したときだけだった。ジャンヌは改悛の誓願を立てたときに、それまでの男装をやめることにも同意していた。女装に戻ったジャンヌだったが、数日後に「大きなイギリス人男性が独房に押し入り、力ずくで乱暴しようとした」と法廷関係者に訴えた。このような性的暴行から身を守るためと、ジャン・マシューの供述によればドレスが盗まれてほかに着る服がなかったために、ジャンヌは再び男物の衣服を着るようになった。
ジャンヌは敵軍の占領地を無事に通過するために小姓に変装し、戦場では身体を守るために甲冑を身につけた。『乙女の記録』には、ジャンヌが男装していたことが、戦場でのジャンヌに対する性的嫌がらせを抑止していたと記されている。ジャンヌの処刑後に開かれた復権裁判で証言することになるある聖職者は、ジャンヌが性的嫌がらせや性的暴行から身を守るために、獄中でも男装していたと証言している。貞操を守るために男装するというのはもっともな理由であり、男装のジャンヌを見慣れた男たちは、徐々にジャンヌを性的な対象とは見なさなくなっていった。
ジャンヌは男装をしていた理由を問われたときに、以前のポワチエでの教理問答を引き合いに出している。ポワチエで行われたジャンヌの教理問答に関する記録は残っていないが、さまざまな状況からポワチエの聖職者たちはジャンヌの男装を認めていたと考えられている。ジャンヌの役目は本来であれば男性がなすべきことであり、ジャンヌにしてみれば男装が自身の役割にふさわしい格好だった。ジャンヌは戦場にいたときも監禁されていたときも髪を短く整えていた。神学者ジャン・ジェルソンなどジャンヌの支持者たちは、のちに復権裁判でフランス異端審問官長ジャン・ブレアルが擁護したように、ジャンヌの短髪を弁護している。しかしながら、1431年に行われた異端審問の再審理で、ジャンヌが女装をするという誓いを破って男装に戻ったことが異端にあたると宣告され、異端の罪を再び犯したとして死刑判決を受けた。
1431年5月30日に執行されたジャンヌの火刑の目撃証言が残っている。場所はルーアンのヴィエ・マルシェ広場で、高い柱に縛りつけられたジャンヌは、立会人のマルタン・ラドヴニューとイザンヴァル・ド・ラ・ピエールの2人の修道士に、自分の前に十字架を掲げて欲しいと頼んだ。
「おまえたち、私なんかよりよっぽど女っぽいぞ!よってたかって、それでも男か!」
「騒ぐな!」
マルタンは怒鳴りながらも、ジャンヌをあっぱれだと思っていた。
一人のイングランド兵士も、ジャンヌの服の前に置かれていた小さな十字架を立てて、ジャンヌに見えるようにした。
ジャンヌは地獄の業火に焼かれた。
「アァァァァァァ!!」
断末魔が響き渡った。ジャンヌは19年という短い生涯を閉じた。
火刑に処せられて息絶えたジャンヌが実は生き延びたと誰にも言わせないために、処刑執行者たちが薪の燃えさしを取り除いて、黒焦げになったジャンヌの遺体を人々の前に晒した。さらにジャンヌの遺体が遺物となって人々の手に入らないように、再び火がつけられて灰になるまで燃やされた。灰になったジャンヌの遺体は、処刑執行者たちによってマチルダと呼ばれる橋の上からセーヌ川へ流された。ジャンヌの処刑執行者の1人ジョフロワ・セラージュはのちに「地獄へ落ちるかのような激しい恐怖を感じた」と語っている。
地獄に落とされたジャンヌはハーデースの裁きを受けた。
ハーデスはギリシア神話の冥府の神だ。クロノスとレアーの子で、ポセイドーンとゼウスの兄である。妻はペルセポネー。その象徴は豊穣の角及び水仙、糸杉。ポセイドーンと同じく馬とも関連がある。
オリュンポス内でもゼウス、ポセイドーンに次ぐ実力を持つ。後に冥府が地下にあるとされるようになったことから、地下の神ともされ、ゼウス・クトニオス(地下のゼウス)という別名を持っている。普段冥界に居てオリュンポスには来ないためオリュンポス十二神には入らないとされる場合が多いが、例外的に一部の神話ではオリュンポス十二神の1柱としても伝えられてもいる。また、さらに後には豊穣神(作物は地中から芽を出して成長する)としても崇められるようになった。パウサニアースの伝えるところに依ればエーリスにその神殿があったといわれている。
生まれた直後、ガイアとウーラノスの「産まれた子に権力を奪われる」という予言を恐れた父クロノスに飲み込まれてしまう。その後、末弟ゼウスに助けられクロノスらティーターン神族と戦い勝利した。クロノスとの戦いに勝利した後、ゼウスやポセイドーンとくじ引きで自らの領域を決め、冥府と地底を割り当てられたとされる。しかし、ホメーロスなどの古い時代の伝承によれば、ハーデースの国は、極西のオーケアノスの流れの彼方にあるとされていた。
神話中では女性の扱いに不慣れで、略奪する前のペルセポネーにどうアプローチしていいか悩むなど、無垢で純真な一面を見せる。
被ると姿が見えなくなる「隠れ兜」を所持しており、ティーターノマキアーではこれを活用してクロノスと対決するゼウスに助力し、結果的にティーターン神族を打ち破っている。ギガントマキアーにおいてもヘルメースがこれを用いて戦った。また、この兜はペルセウスに貸与されメドゥーサ退治にも貢献した。またハーデースは、二叉の槍バイデントを持った姿で描かれる。
「元の世界に戻りたいのなら怪物を8匹倒せ」
ハーデスはとてつもない試練をジャンヌに与えた。
ハーデスはジャンヌにハルパーという剣を授けた。
刀身が鎌のように大きく湾曲した形状をしており、刃は内側にある。主な使用法は、湾曲した刃を引っ掛けて力任せに切り落とす。
ギリシア神話においてヘルメースの武器として度々登場する。
鍛冶神ヘーパイストスが鍛造したアダマントのハルパー(アダマスの鎌)は、クロノスによる天空神ウラヌスの去勢、巨人アルゴスの暗殺、英雄ペルセウスのメドゥーサ討伐などに使用された。
このハルパーは、たとえ相手が不死の神や怪物であっても効力を発揮したといわれている。
最初に戦ったのはアララーの竜だ。アララーの竜にはこんな言い伝えがある。
ある若者が悪魔の捕虜になっていた。彼は、悪魔に従う獣たちに死んだロバの肉を均等に分けていたので、獣たちは彼に感謝し、お礼として魔法の力を与えた。
ある日、魔女と悪魔が集う集会の最中に、魔女が悪魔にその死期を尋ねた。悪魔は自身が死ぬ方法を教え、かつそれが事実上不可能であることを話した。若者は盗み聞きしたその方法を実行すべく、悪魔の住処からこっそり抜け出した。
若者はアララー山地に行き、魔法でライオンに姿を変えた。そして現れた「アララーの竜」と戦ってこれを殺した。切り裂いた竜の体から飛び出した野うさぎは猟犬に変身して殺し、野うさぎの死骸の中から出てきた鳩は鷲に変身して殺した。鳩の死骸を切り裂くと鳩の死骸の中から卵が出てきた。若者は人間の姿に戻り、その卵を悪魔の住処に持って行った。
その時悪魔は魔女が集う中で衰弱しきっており、アララーの竜が死んだことを悟っていた。そこに現れた若者を見て、悪魔は「私も殺されるだろう」と言った。若者が入手したその卵を悪魔の額にぶつけると悪魔が死ぬことを、若者はあの集会でこっそり聞いていたのであった。
ジャンヌは飛空の魔法を使え、竜のすぐ近くに接近するとハルパーで真っ二つに斬りつけた。
こうして、ジャンヌは最初の試練をクリアした。
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