第5話 十人の仲間ができました
奴隷商のリーダー格らしき男が前に出てきた。
「い、いやあ、強いねお兄さん。おじさんびっくりだよ」
「なんだ。文句あるのか?」
「いやいや、ないない。ただね、そいつは馬鹿だがおじさんの仲間だ。10バルで売るのは安すぎる」
「適正価格は?」
「大切な仲間なんだよ。そこの奴隷全員と交換してやろう。お兄さんがここから立ち去るっていう条件付きで。どうだ?」
仲間一人を助けるために奴隷を全員手放すなんて、気前が良すぎる話だ。
何か裏があるのだろう。
おじさん達の方を見た。
後ろの川に、小船が何艘か並んでいる。
その中には、まだ奴隷らしき人が乗っている船もあった。
「あの小船に乗ってる奴隷もくれるなら考えてもいいな」
「……お兄さん、そこまでやられたら俺達も商売上がったりだ。丸く収めるわけにはいかなくなるぜ」
「お前に選択権があると思ってるのか?」
「ちっ、バカなガキだ。やっちまえ!」
奴隷商人たちが一斉にかかってきた。
片っ端からチョップで叩き潰す。
奴隷商は全員倒れた。
自分でもびっくりするくらい強い。
強すぎて虚無だなこれ。
足元に転がる奴隷商を見下ろして、俺は最強名を欲しいままにした。
「おじさんとそっちの船のやつら。こっちに来い」
奴隷達が狼狽えた表情で近寄ってくる。
小船に乗っていたのは女奴隷だったようだ。
こっちが目玉商品というわけだ。
俺におじさんを与えて厄介払いした後に、メインの競りを始めるつもりだったんだな。
子供に飴玉与えてあっちで遊んでなさいって追い払って自分達はケーキと紅茶を楽しむママ友のお茶会みたいな作戦だ。
なんとも小賢しいやつらだ。
俺は全員の縄を切ってやった。
奴隷達は自由を再確認するかのように解放された手足を動かした。
「俺の名はグラルド・ユートリアス。お前たちの解放者だ。あとは好きに生きるがいい」
今日の勇士は絶対日記に書いておこうと思った。
控えめに言ってかっこよすぎる。
この調子じゃ恋人の一人や百人くらい三日でできるだろう。
「あんた、なんてことしてくれたんだ!いや、あんたの心意気はありがたいのだが。解放されても故郷になんて帰れやしない。野垂れ死ぬだけだ!あんたバカだろ!」
おじさんは怒った。
助けてやったのに怒った。
「どういうことだ?助けてあげたんだけど。余計なお世話だった?ねえ?」
「こいつらはゴボル傭兵団だ。私らの故郷は今頃もう占領されてしまっている。生きる手段は奴隷くらいしかないんだよ。家も金も無いのに自由市民になれるわけないだろ!」
「はあ?そんなの俺は知らないし。あとは自分でどうにかしようよ。子供じゃないんだからさあ」
「無責任だ!このままじゃ私達はみんな死んでしまう!なんという悪夢だ、こんなことってあるかっ……!」
おじさん達は肩を寄せあって泣きはじめた。
周りで見物してたやつらまで軽蔑の眼差しでヒソヒソと話しはじめる。
「わ、わかった。俺が悪かった。みんなで家に住もう。それでいいか?」
「いいんですか!?じゃあそれでお願いします!」
話の流れで六人のおじさんと四人の女達と一緒に暮らすことになってしまった。
ちょっとかっこつけようと思っただけなのに……。
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