第2話 恋の前にまず出会い
ふぅ、と息を吐いて、手を下ろした。
生まれ変わったというのに、思い返してみれば不幸な人生だ。
だが、実のところ新しい人生をとても気に入っている。
なぜなら、十八歳になった今、高身長で素晴らしいイケメンに成長したからだ。
髪の色が黒だったのがちょっと惜しい。どうせなら目立つ色が良かった。
しかしまあ、イケメンだから問題無い。
伸びっぱなしの髪をたまにナイフで切ってるだけだが、それも問題無い。
清潔感が無くてもワイルドなイケメンで通る。
顔が良ければ全て良し。
それが一回目の人生で学んだ大切な教訓だ。
だから、そんな新しい俺の素晴らしさを書き残すために自伝を書くことにした。
自伝と言えば聞こえはいいが、ただの日記だ。
しかも、一部脚色している。
パルマが俺に後悔を語った下りは嘘だ。そうだったらいいな、という俺の願望だ。
パルマを母さんと呼んだことも一度もない。一回くらい呼んであげればよかったかなと思う。
実際のパルマはそれなりに俺をコキ使っていたし、寝たきりになってからは特に世話を頼まれた。
まあ、悪い人では無かったからいいのだが。
とにかく、そんな自伝を書いているのだが、この作業は流石に骨が折れる。
岩盤層まで掘った地下室の岩壁に、指で文字を彫るなんて、効率が悪くて仕方がない。
なんで岩を彫ってるのかというと、紙が無いからだ。
というか、紙くらい買いにいけばいいのだ。
人里に降りたくないあまり買い物を避けていたが、こんな山奥にいたら折角の美男子が勿体ない。
そろそろ恋人とやらの一人くらい作らなければ、美男子に生まれた意味がないだろう。
十八歳といえばなんとかお姉さん達の恋愛対象にもギリギリ引っかかる年頃かもしれない。
二回の人生を合わせればもう五十年以上生きてるのだからあまり若い娘は気後れしてしまう。
まあ、愛さえあれば相手の年齢はどうでもいいのだが。
恋人を作るためにはまず人との出会いが必要だ。
いわゆる恋活っていうやつだな。
十年に及ぶ山籠もりで、人間嫌いも多少薄れた気がしている。
今なら、人と話すくらい造作もないだろう。
俺は、早速ユグルに行くことにした。
三十分も歩けばすぐにユグルだ。
金が無いから、毛皮を百枚程まとめて担いだ。
こいつを売って金にするつもりだ。
遠くにユグルの城が見えてきた。
麓には色とりどりの家が建ち並び、郊外には広い畑が広がっている。
こうして見ると、綺麗な町だ。
ヨーロッパの観光写真を彷彿とさせる。
記憶の中ではもっと汚い町だったが、それは貧乏暮らしをしていた記憶しかないからだろう。
俺は久々の帰郷が楽しみになって、町の入口まで走った。
町に入ろうとしたところを、脇に立っていた守衛が止めた。
「まてまて。そこのお前、勝手に入るな。町に何の用だ?」
「皮を売りに来たんだ。見れば分かるだろ」
「皮って……その汚いやつか?何の皮だそれ?」
「何って、タヌキだ」
「タヌキ?なんだそれ」
しまった。
タヌキっぽいから勝手にタヌキと呼んでいただけで正しい名前は分からない。
不審に思われているかもしれない
「……まあいい。お前の名前は?」
「……グラルド・ユートリアス」
「グラルドだな。よし、通っていいぞ。次はヤンムンの皮持って来いよ。売れ筋だからな」
守衛は中々いいやつだった。
しかし、町に入るのに許可がいるとは思いもしなかった。
手ぶらだったら追い払われていたかもしれない。
町の中は賑やかだった。
色々な店があって人が行き交っている。
早速、皮を買ってくれそうな店を探す。
店頭に皮の束を積み重ねて、暇そうに頬杖をついているおじさんを見つけた。
「おい、おじさん。この皮買ってくれないか?」
「あぁ?ああ、こりゃゴミだな。こんなひでえ皮はじめてみた。お前バカだろ」
殴りそうになったが、必死にこらえた。
まさかいきなりバカ呼ばわりされるとは……。
これが
貶して上げるというやつに違いない。
何かで読んだことがある。
「おじさんさあ、変ないちゃもんつけないでくれる。そうやって値切る気なのバレバレだよ?」
「ただでもいらねえよ。お前バカだろ」
十年ぶりに人と話すというのにこんなオッサンが相手とは。
しばらく山に隠っていたせいで忘れていたが、やはり人間は最悪だ。
「何が悪いんだ。タヌキだからか?皮は皮だろ!」
「あのなあ、皮は乾かして鞣さなくちゃいけねえんだよ。そんな腐りかけた皮持ってきてどうすんだアホ!くせえからあっちいけ!」
おじさんは親切に教えてくれた。
俺の粘り勝ちだ。
「鞣すってなんだ?どうすればいい?」
「鞣すのは時間かかるし技術がいるから、とりあえず燻して乾燥させたの持って来い。それか腐る前のやつ。な?わかったらその臭い皮を持って消えてくれ。商売の邪魔だ」
なるほど。とにかく腐った皮は売れないのか。
この皮は全部ゴミだったわけだ。笑える。
ゴミ担いで帰るか。
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