狂王グラルドの異世界恋活 ~転生したら最強だったから世界征服する。あと彼女が欲しい~

日出而作

第1話 プロローグ

 俺は、ハースタン公国のユグルという城下町に産まれた。

 名前は、グラルド・ユートリアスだ。


 母は旅芸人で、ユグルにやって来た時に、隠れて俺を産み落とし、そのまま娼館の傍に棄てた。


 なぜ覚えているかと言うと、俺は前世の記憶を持ったまま転生したきたからだ。

 そのおかげで、俺は産まれた瞬間から普通に物事を理解することができた。

 正確には腹の中にいた頃から身の回りの環境について把握していた。


 今では記憶も薄れてきているが、前世の俺はとにかく悲惨なやつだった。


 見た目は醜悪で、女からは嫌われ、男には殴られ、学校ではイジメられ、最後には隕石があたって死んだというお笑い人生だ。


 隕石だぞ。

 世界に隕石があたって死んだ奴が何人いるというのか。

 今頃あっちの世界じゃ隕石にあたって死んだ男として笑い者になっているに違いない。


 そのあと、死んですぐに神様だとか言うジジイが現れた。

 お前の人生はあまりにも酷かったから、もう一度命を与えてやるというのだ。


 勿論俺は断った。

 もう産まれたくないからやめてくれと。

 しかし、あのジジイは聞く耳を持たずに無理やり俺を転生させた。

 バランスが大事だからとか意味不明な理由でだ。


 そういう経緯で、産まれて五分で母に棄てられた事も理解していたし、また最悪な人生が始まったということも理解していた。


 俺は泣き声一つ出さずにじっと堪えて、そのまま娼館の傍らで死のうとした。


 そこで、育ての母、パルマに拾われたのだ。

 パルマは娼館の清掃をして小銭を稼いで暮らしていた。

 悪性の病気を患っているらしく、身体が弱かったので、稼ぎのいい仕事につけなかった。

 病気を理由に婚約を破棄されたうえに、養父からは絶縁されたというコメントに困る身の上話が俺の子守歌だった。


 俺を拾ったのは寂しさからだろう。

 もしくは、将来自分の面倒を見てくれると期待していたのかもしれない。

 俺が6歳になった頃、パルマは一度だけこう言った。


 「お前を拾って来たことを後悔してる。わたしは、寂しさのあまりつい魔が差してお前を拾ってきてしまった。他の人に拾われていればもっと幸せな人生だったろうに。わたしは多分もう長くないでしょう。せめてお前が一人前になるまで育ててやりたかった。こんな母親で本当にごめんなさい」


 俺はその時はじめてパルマを母さんと呼んだ。


 パルマはそれから二年して眠るように死んだ。苦しまなくて良かったと今でも思う。


 俺はほとんど毎日パルマの世話をしていて、パルマが死ぬまで外に出たことも無かった。

 だから、パルマが俺を育てていたことを知ってる人はほとんどいない。

 身寄りのないパルマの死を誰かに伝えるべきか迷ったが、何もせずそのまま家から消えることにした。


 その頃には、自分の能力に気づいていたからだ。

 指先に少し力を入れるだけで、煉瓦を砕くことができたし、パルマの買ってくる僅かな牛乳でも死ななかったのは、治癒能力のようなものが備わっていたからだろう。


 パルマは子供の育て方など知らなった。

 泣き声一つあげない俺に疑問を持つこともなかった。

 普通の子供だと思って育てていたようだ。

 パルマが拾ってきたのが本当に普通の子供だったらと思うとぞっとする。

 俺でなければ死んでいた。

 だから、きっと運命的な出会いだったのだと思うことにしている。


 もっと早く自分の能力に気づいていれば、パルマの病気を治してやることだってできたかもしれない。

 今更後悔しても仕方がないのだが。


 とにかく、この身体のおかけで、誰かに頼らずとも簡単に生きていけた。

 そんな経緯で、山奥に隠って一人で暮らしはじめたのだ。

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