第39話
「ふむ……反乱か」
尋問を終えた俺は魔法で男を気絶させたあとに近くにあった蔦を使って男たちを縛り上げた。そして男から聞いた『計画』について思案していたその時。
「あ、あの…」
遠慮がちに掛けられた声に振り返る。そこにいたのは先ほど襲われかけていたあの女だった。俺が拘束を解いてやった後に着替えのために馬車に引っ込んでいたのだがどうやら戻ってきていたようだ。女だけでなく他に10人ほどの男女の姿がみえる。女と一緒に何やら話し合っている様子なので多分仲間なんだろう。その目には怯えが浮かんでいる。
「何かな? そんな怯えなくても危害を加えたりはしないから安心して良いよ、馬鹿どもならそこで気絶しているしな」
戸惑っている様子の女達へと声をかけて危険がないことをアピールする。するとまだ警戒はしてる様子ではあったが先ほどの女が一歩前に出ると声をかけてきた。
「えっと…助けてくれてありがとう…ございます。あなたはいったい何者なんですか?」
「ん~今はこんな姿になってはいるが人間だよ。まあ怪しいかもしれないが君達の敵ではないのは確かだからそこだけは信じてくれ。君達は何だってこんな場所で襲われていたんだ?」
「私たちは…」
「ここからは私が説明しよう―――改めてありがとうございます。貴方様のおかげで囚われの身から抜け出すことができましたそれに団員の危険をも救って頂いたようで何とお礼を言って良いやら。私はクラウン・サーカス団の団長のクロムと申します――――」
俺の質問に女が答えようとしたが、それを遮り一人の年配の男性が出てきた。その白髪頭の老人は名を名乗ると礼と共に状況の説明を始める。
「旅の途中で偶然に遭遇してしまったってことか」
「そうなります」
老人の話によると公演のための旅の途中にあの盗賊団に襲われてしまったそうだ。金品や食料などを奪われて自分たちの馬車に閉じ込められていたようで、例の女が連れ出された時も何もできなく打ちひしがれていたらしいところをBに助けられたということだった。
「それでこれからどうするつもりなんだ?」
「とりあえず公演を予定していた村に向かおうかと思っております。ここからそこまで離れていないはずですので」
その公演の予定があった村について詳しく確認するとやはりそれはアリスたちの村の事であった。彼らが祭りに際して呼ばれたサーカスで間違いないようだった。
「…その村は俺が世話になっている村で間違いないようだな。仕方ない村まで案内してやろう」
このまま放っておくのは後味が悪いと感じたのでとりあえず道案内を買って出た。遠慮する老人達をついでだからと説き伏せて、最低限の持ち物を持って村にへと歩き始める。
「ふむ―――そう簡単にはいかないな」
村へと歩きだして数十分後に俺達はある集団に遭遇してしまっていた。
「やっと見つけた――――ん? サーカス団の…。閉じ込めていたはず…どゆこと?」
それは俺を追いかけてきていた例の少女が率いる一団だった。少女は俺と一緒にいるサーカスの面々をにらみつけるように見渡してきた。
それを受けてサーカス団員たちは固まってしまっている。
「そう睨まないでやってくれないか? 彼らを逃がしたのは俺だよ」
俺の言葉に少女たちの視線が集まる、視線を外されたことでホッとする団員たちを横目に俺は言葉を続ける。
「成り行きというか、君のとこのお仲間がそこの女に乱暴を働こうとしていてね、つい止めに入ってしまったのだよ。何か変な顔をしているようだけど事実だよ、何ならあの場所で寝転んでいるはずだから本人たちに確認してみるといい」
俺の話を聞いていた少女が乱暴の話のところで眉を顰める、あのような行動は盗賊の中でも認められているようなことではないようだ。
「そう―――それが本当なら、父さん…じゃなくて団長に伝えておく。それは団の掟を破ったってことだから。でもそれはそれ、今ここで見逃す理由にはならない」
イライラを感じさせる口調でそう返す少女の姿にあることに気付く。
「――――ん余計なお世話かもしれないが団長とやらは大丈夫なのかね?」
「何?」
それは先ほど聞いた『計画』とやらについて――――――
「いや君たちも一枚岩ではないようだな。先ほどのバカ者たちが『計画』とやら反乱を口にしていたものでね…なんでも―――」
俺の話す不穏な内容に少女の顔がだんだんと険しくなってゆく――――が。
「それが本当のことだって証拠はある? ていうか、そっちの言葉を私がそのまま信じると思う?」
「いやそんなことは思っていないが――――」
「じゃあ茶番は終わり」
少女はそう言い切った。それを受けて俺は言葉での説得を諦め行動に移ろうとした―――その時だった。少女の後ろからあの副官らしき男性が何かを耳打ちする、その後ろには息を切らす伝令らしき族の一人がいる。
話を聞き終わった少女は唇を噛みながらこちらを一瞬キッと睨む。
「――――戻る。認めたくないけど本当のことだったみたいだね。貴方たちに構っている暇はなくなった、好きにするといい」
そう言い捨てると少女たちはあっという間に走り去ってしまった。よほど急いでいたのか走り去る際にかぶっていたいた帽子が脱げてその場に落ちる。
―とその後ろ姿を見てあることに気づく。
「こちらに来てからは初めて会うが獣人だったのか」
少女の頭の上に見えたのは獣の耳、ピンと立ったその耳は狼や犬系統のものに見えてようやくオズは少女の種族を知った。恐らく人間の姿に近い獣人の一種、完全に帽子をかぶって尻尾も見えない、まるで隠していたかのような姿でこの時まで全く気付くことはなかった。
「さて、改めて村にむかうとしようか」
「は、はい」
呆気にとられていたサーカス団員たちに声をかけて再び歩き出す。少女達の様子と最後の言葉でで大体の事情をさっしていたオズだったが、自分には関係ないことと割り切っていた。
「やっと着いたな」
「はい・・ようやくですね」
しかし―――村に到着すると同時に他人事ではなくなった。
なぜならば――――
「オズ? あなたルカと一緒じゃないの?」
「不思議な顔してますけどご主人の後をルカちゃん追いかけて行ったみたいですけど?」
――――後ろを振り向けば遠くに黒煙が登っているのだった。
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