第30話

「それで、何で私まで巻き込まれたの?」


「まぁまぁ大勢の方が面白いじゃないですか☆」


ジョンの相談を受けてから一週間後、遺跡探索の日。ジョンとの待ち合わせ場所に4人で向かっていた。せっかく行くことになったのでアリアとユーリも誘うことにしたのだ。


「ちょっと聞いてるのオズ? 私は貴方に訊いてるんだけど?」


「何でって薬草探索の時に約束しただろう? ルカが回復したらあの遺跡へとみんなで行ってみようと。良いタイミングだったから一緒に行こうと思ったんだがな」


「……忘れてると思ってたわよ」


 少しご機嫌ナナメなユーリの質問に答えてやる。それに対するユーリの言葉はこちらに聞こえるかどうかの小さな声であった、いや聞かせるつもりはなかったのだろうが俺には聞こえてしまったというのが正解だろうか。

 ユーリとの約束に関して俺は忘れていたのではない。タイミングが掴めなかっただけだ、ただ何も伝えて無かったのはこちらに非があるが。兎も角、何だかんだ言いながらもついて来てくれているので探索を楽しみにしてくれていたのかもしれない。


「それでジョンさんとの待ち合わせは村はずれで良いんですかご主人?」


「ああ、その約束のはずだが……ってそういえばアリア、お前はジョンと面識があるのか?」


「え~と、ありますよーちょこっと会い辛かったりしますけど…」


 アリアの問に答えながらふと思った質問をぶつけてみる。ユーリに関しては昔からの知り合いのようなので聞くまでもない。それに対するリアの答えはあいつにしては歯切れの悪いものだった。村にいるので会う機会はあっただろうがこの反応は何なのだろう?

 ルカたちの方へ顔を向けてみると何やら苦笑いをしている。どうやらあの二人の方は何かしら知っているようだ。



 何やらモヤモヤしたものを感じ始めたところで集合場所である村はずれへと到着する。そこには既にジョンが到着していた。


「おはようジョン兄」


「顔は合わせていたけど面と向かって話してなかったよね、お久しぶりジョン兄」


「おはようルカ、ユーリも久しぶり」


 先に幼馴染たちがまず挨拶を交わす。それに続いて俺も声をかけるのだが。


「待たせたか? おはよう」


「いや待ち合わせ時間はまだなんだから気にしないで――――――ってアリアさん!!」


 ジョンがこちらの方を向くとアリアを見つけて何故だか固まってしまった。


「あはは、おはようございますジョンさん」


「お、おはようございます!! でもどうしてアリアさんが?」


「ルカちゃんたちとはお友達なんですよ、それで一緒に行こうと誘われまして…」


「そうだったんですか」


 何だこれは、アリアと会話するジョンは何かおかしい。ガチガチに緊張しているというか興奮気味というか…心なしか顔も赤くなっている気がする。


「俺、アリアさんと一緒に出かけられるなんて嬉しいです!!」


「そ、そうですか~?」


 対するアリアの方は若干引き気味なのだが。さすがの俺でも分かる、ジョンはどうやらアリアに気があるらしい。


「ジョン兄が前に村であった時に一目惚れしたみたいでね…必死にアプローチしているみたいなんだ」


 小声でルカがそんな情報を教えてくれる。どうやらさっきの苦笑いの正体はこのことだったらしい。


 にしてもあのアリアに惚れるとは、まあ見た目が良いのは認めるが…。


「あのー前に伝えたように、お付き合いするのは無理ですよ?」


「分かってます!! でもまだ俺は諦められません」


 まさかの告白済みだったらしい、それはルカたちも知らなかったようで普通に驚いていた。しかし俺が本当に驚くのはそれに続く言葉のほうだった。


「貴女を縛っているご主人様とか言う奴の魔の手から絶対に貴女を救ってみせます!!」


――待て。アリアの主人? それは俺のことではないか!! それで魔の手というのは一体どういうことか!!


「熱く話し合ってるところ済まないが、ちょっとアリアよこっちに来い」


「あ、熱く―――?」


「…はい」


 ジョンは俺の言葉で何を口走っていたかに気づいたらしい。その場で顔を真っ赤にして固まってしまう。その間にアリアを呼び出して問い詰める。


「それで、どういうことかな? 俺の魔の手とかそこのバカは口走っていたようだけど、何がどうなればそんな話になるのか教えてくれないか?」


「あ…ハイ」


俺の剣幕に怯えたのか、普段はおちゃらけるアリアが大人しく事情を説明してくる。


「―――つまり、断るための理由として『私はご主人様のモノだから私じゃどうにも出来ない』と言ったと…それで俺の魔の手に縛られているのだとあのバカは思ったということか…」


「ハイ…あまりにしつこかったので」


「ジョン兄…何してるのさ」


「…しつこいのはちょっと考えものね」


 アリアの説明にルカ達女性陣は同情を覚えたようでジョンに呆れているようだが、それって俺がご主人だとバレた時に俺も巻き込まれるパターンじゃないか…


「俺は関係ないだろうが!!」


 俺が思わず叫んでしまったその時だった―――



「おっ――本当に小動物が喋ってるじゃないか」


「行き倒れくんの妄想の類ではなかったようね」


「不思議な気配は持っているようだと感じてはいたが勘違いではなかったか」


 何やら聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。振り向けばそこにはあの冒険者3人組が。


「あ~来てくれたんですね。ありがとうございます」


 放心から復活したジョンがそんな言葉をかける。


 一体これはどういうことだろうか。 


「あら? ルカちゃんもいるのね、こんにちは~」


「エルゼさん? こんにちは」


「ん? 君はブラムさんのところの娘さんではないか?」


「はい、そうです。貴方はウェインさん?でしたか」


 さてどうしたものか、これはどういう状況なのか全くわからない。アリスとユーリはそれぞれエルゼとウェインに話しかけられている。


 そして俺の方にはクルツがやってくる、明らかに俺に向かってだ。怒鳴っていたところを見られたのだから間違いなく俺がただの小動物ではないのはバレたのだろうが、先ほどのクルツの言い様はどういうことなのか。今ので完全にバレたのは確かなのだが俺が人の言葉を話すのを既に知っていたようだった。初対面の時から疑われてはいたのだがそこまで知られてはいなかったハズだ。


「おい、なに呆けてるんだ小さいの?」


「小さいのとは俺の事か? 君たちはあまり俺が人の言葉を話してるのに驚いてないな」


 クルツがこちらに向かって話しかけてきた、どうやら「小さいの」とは俺のことらしい。その呼び方が気にはなったがそれより気になってることを直接ぶつけてみようか。


「これでも驚いてるぜ。まあ予めそこの兄ちゃんから話は聞いてたからな、派手なリアクションにはならなかったんだろうよ。」


 ジョンを顎で指しながらそんな答えが返ってきた。どうやら秘密をばらした犯人はアイツだったようだ。


「それに人の言葉を話す獣ってのが存在するのは知っていたからな。お前さんで二回目か。もっとも前回は刃を交わした相手だろくに会話なんて出来なかったけどな。お前さんと敵対するつもりはないぞ。嬢ちゃんたちの様子を見る限り悪いヤツではなさそうだ」


 どうやら他の要因もあったようだ、最後には俺と戦う意思は無いとまでフォローされてしまった、実力のありそうな相手だったので警戒していたのが伝わっていたか。

 しかし、二回目か。敵対するような相手だったようだがどういった相手だったのか、それを言った時に一瞬見せた苦笑いに俺は気がついていた。普通の動物はこの世界でも人の言葉を話したりはしていない、あちらの世界で人の言葉すら理解するのは聖獣や竜種の上位種くらいなのだが。


「ふむ、それは分かった。ちょっと失礼するよ」 


 まあそれはさておきやらなければならないことが出来たのでそちらを優先しよう。


「おいジョン?」


「何かな?」


「なんでこいつらを呼んでるんだ? それに俺の事もバラしてるとはどういうことだ?」


 それはもちろん今回の件についてジョンを問い詰めることであった。俺は冒険者たちを呼ぶ話など全く聞いてなどいない。というか俺の事は秘密だということを理解できていなかったのか。


「え…だって遺跡を探索するのに護衛が必要かなと思って。ルカから聞いたんだけど魔物ともいるんだろう? それなら彼らなら最適かなと、それで了承してもらえたからメンバーについて話しただけなんだけども…」


 ジョンに不思議そうに返されてしまった……言い分が解らないこともない。しかしどこかコイツはズレているような気がする、護衛をお願いするにしてもせめて相談は必要だろうに。


「何か揉めてるようだが大丈夫か?」


「えーーと…」


 横からこちらの様子を伺っていたクルツから声をかけられるジョンは俺に怒鳴られためか答えに窮している。


仕方ない、ここは俺が折れるしかないか。それに今さら文句を言ってもバレてしまったものは仕方ない。


「今回の件は俺が折れるが、これ以上バラすなよ」


 ため息をついたあとに小声でジョンに耳打ちする。それにジョンはコクコクと頷いていたのでこれ以上話が広がることはないだろう。


それからクルツへと向き直る。


「いや、大丈夫だ。今日はよろしく頼む」


「おう、邪魔なら帰っても良かったんだが良いのか?」


「そんなことはあいつらの様子を見たら言えないさ」


 クルツには俺たちの会話が聞こえていたのだろう、帰っても良いと言ってくるが今更だろう。


「クルツさん、あちらを見れば解ると思いますよ?」


 俺の後ろからクルツへと声をかけたのはアリアだった。どうやらずっと俺の後ろで様子見をしていたようだ。考えに没頭していたので全く気づいていなかった。


 アリアには俺が何を言っているかちゃんとわかっていたようでクルツへとフォローを入れてくれる。


 そしてアリアが示した方向では。




「今日はルカちゃんと一緒なのね? 張り切らないといけないわね~冒険者がどういうものか見せてあげる」


「一緒だなんて驚きましたけど嬉しいです!! 実は前にお祖父ちゃんの話を聞いた時から冒険者の戦いってどんなものか見てみたかったんです!」


 ルカとエルゼは冒険者の話で盛り上がり。







「君の父の腕は素晴らしいな。この槍を今日使ってみるのが楽しみだよ」


「あ、先日買って頂いたウチの槍ですね、ありがとうございます。そう言って頂けると父も喜ぶと思います」


「君は弓を使うのか? それもブラムさんの作品かな、良い弓のようだが」


「はい!! 実は私も弓を新しくしたんです」


 ユーリとウェインは武器の話で何やら意気投合している。







「あちらを見ればさすがのご…いえBも何も言えませんよ」


「確かに…しかしあいつら随分と盛り上がってるな…エルゼはともかくウェインもか」


 クルツは納得しながらも仲間の様子が意外だったらしく何やらぼやいている。


 それにしてもアリアのヤツ今「ご主人」と言いかけたな。まぁジョンにはバレてないようなので良しとするか。


 アリアに注意しようかとも思ったのだがそれより大事なことがあった。


「…ひとつだけ頼みがある。俺のことは村のみんなには秘密にして欲しいんだ」


「ほう?」


 それはクルツたちへの口止めのお願いだった。俺の言葉に一度思案するように押し黙る。


「まぁ良いぜ。アイツ等にも言っておくさ」


 やはりただお願いするだけでは難しいかと思い始めていたのだがあっさりと了承されてしまう。


「誰にでも秘密の一つ二つはあるからな」


 そう言ってニカッと笑って返してくるクルツ。不安はあるがジョンよりは何故か信じられる気がするのだった。




「じゃあ出発していいのかな?」


 色々と落ち着いたところで、様子見をしていたジョンが遠慮がちに号令を上げる―――ようやくの出発だ。

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