第29話

「ちょっとオズ?」


「何だ?」


「自分で歩いてくれない? それかせめてその円盤はしまって欲しいんだけど…」


 ジョンの家からの帰り道、俺は自分で歩かずにルカの肩へと乗っていた。何故かというと戦利品である魔導円盤を読むためである。流石に歩きながら読むのは危なすぎるのでこうなった次第である。


「今、良いところなんだ、待ってくれ。それに魔法で浮かせてるからそんな重さはないだろう?」


「いや近くにそんな物が浮いてたら邪魔だって…もう、家についてから読んだら良いじゃない」


 確かにルカの言う通りではあるのだがそれまで待てなかったのだ。仕方がなく俺はルカの肩から降りる。そこであることを思いついた。


 近くの地面へと魔法を使う。地面の土が盛り上がると動物の形を象る。象った動物は馬だ、俺が乗れるだけで良いので大きさはルカの腰くらいまでしかない。


「うわっ何それ? 馬?」


「ふふっ これに乗っていけば問題あるまい」


「…最初からそうすれば良かったんじゃない?」


「いや、今知ったばかりだからな」


 そうこの魔法は今魔道書で見たばかりの魔法だったりする。魔法の名前は人形創造クリエイト・パペット。人形を作り出して操る魔法だ、今は土を使ったために土人形になっているが、その材料になった対象で様々な人形が作れるようだ。ただ、継続的に魔力供給が必要なのでそんなに万能なものでは無いようだ。


 その背に乗って歩き出す、そしてしばらくした頃。


「ねぇオズ? ボクも乗ってみたいかも」


「良いぞ、ほら乗ってみろ」 


「…小さいけど潰れたりしない?」


 ルカにそんなお願いをされたので代わってやることにした。小さめの馬が潰れるんじゃないかと心配されたが仮にも俺の魔法で作られた人形であるそんな脆くはない。


「うわぁ凄いね!! 思ったより良いよ」


「そうだろう?」


 予想以上に乗り心地が良かったようでルカが歓声を上げる。


 せっかくなのでこのまましばらく乗って帰ろうとしたその時――――――




「ルカ? 良かった追いつけたみたいだね……となにソレ?」


「え?」


 突然後ろから声を掛けられ振り向いてみるとそこには先程別れたはずのジョンの姿があった。ルカとルカの乗っている馬を見て目を丸くする。


 魔法に夢中になって周囲の気配を気にしてなかった、なぜここに? 疑問はあったがとりあえず俺は口を閉じてただの動物のフリをする。


「ジョン兄? なんでここに?」


「お土産を渡し忘れててね、お礼も兼ねていたから父さんにまた怒鳴られちゃったよ…」


「そ、そうなんだ…なんかごめんね」


 なるほど、それで追いかけてきたということか。とりあえず追いかけて来た理由は分かったので、さてどうやってこの場を誤魔化そうかと考えていたのだが―――


「まあ俺が忘れてたことだから仕方ないんだけど… それでもう一度訊くけど、それ何? それとそのこ、小動物さんも喋ってたみたいだけど、どうゆうこと?」


……どうやら誤魔化すのは無理そうである。今は自分の迂闊さを呪う他無かった。ユーリの事といい、冒険者の事といいバレすぎである。






その後、前にユーリにしたような説明をジョンにする。あの時と同じように疑われるかと思っていたのだが―――


「そうなんだ!!」

 

 予想に反してすぐ納得されてしまった。逆に拍子抜けしてしまったのでそれについて確認をしてみると。


「疑う? なんで? ルカが嘘をついているようには見えないし。何よりユーリもそれを知ってるとなれば疑いようが無いよ。だってルカに関してのユーリの心配性は半端じゃないし」


 妙な納得のされ方であった。ただ、ルカを知ってるようにユーリとも知り合いならその納得のされ方も仕方ないと俺も思ってしまったのは秘密である。


「それより!! 聖域の遺跡についてもっと詳しく聞きたいな?」


 半ば予想はしていたことだがジョンが食いついてきたのはその点であった。考古学者であるなら当然の反応とも言えるが。


「その代わりと言っちゃなんだけど、その円盤はあげるから」


…その言葉に了承せざるおえない。ルカが話の中で魔導円盤についても言ってしまったのだ、後ろめたかったためかルカはすきっりした顔をしていたがそれで今度は俺が困るはめになってしまった。


「……分かった」


「楽しみだな!!」


 こちらの言葉に満面の笑みになったジョンであるが、交換条件を出してくるあたり意外と抜け目ないのかもしれない。


 その後、ジョンの求めに応じて話をしていく。聖域の異変について、森の石碑、転移、遺跡の試練、最後にあった精霊について。

 ただアリアのことについては言わないことにした、理由に関してはアリアを心配したとかではなく、話の最後に出てきた精霊があのアリア当人だと言ってしまえば残念感が半端ないからである。


 そんな話の後、ジョンからある頼み事をされてしまった。


「頼む!! 俺をそこに連れて行ってくれないか?」


 その様子は話を聞いて騒いでいた時とは一転して真剣な顔であった、何か理由があるのだろうか。


「…何かあったの?」


「実は――――――」


 それをルカも感じたらしくジョンに聞いてみると…それは村へとジョンたちが戻ってきたことにも関係していたのだった。



「そろそろ何かしらの成果を上げないといけなくてね…」


 ジョンの話によると調査結果を国に報告しなければならない時期に来ているようだ。ただの研究者であれば時期を気にする必要はないのだが、ジョンの家は貴族籍も持つ研究職の家系である。そのために一定の時期に国への報告が必要になってくるらしい。


「あちらの調査が思いがけず振るわなくてね…まだ調べる場所の残っているこの村へと帰って来たんだよ。まだ調査中って報告しても良いのだけど、それは少し悔しんだよ」


 今までは順調に成果を報告してきたようで、それを今回で途切らせるのは悔しいらしい。

 そもそもこの村から去ったのも国からのよびだしがあったからで、そのままこの村で調査を続ければ成果は出ていたともボヤいていた。


「――でだよ。そこで聞いたのが君たちの話ってわけさ。もし君たちの話が本当ならその遺跡は宝の山だよ!! まだ生きている遺跡なんて!!」


 やけに興奮している。聞いてみればあの遺跡のように魔法がまだ動いている遺跡というものは物凄く貴重なものだという。鼻息を荒くしながら力説された。コイツってこんなキャラだったのか。


「……古代文明の話になると人が変わったようになるのは相変わらずみたいだねジョン兄」


「え? ―――あ、ゴホン、失礼 」


 今更、見繕っても無駄である、どうやらルカの言う通りのようだ。


「それで、研究のために遺跡へと連れて行って欲しいと?」


「そうなんだ。平時でも飛びつきたくなる話だし、それがこのタイミングだったから。無理なことを頼んでるのは分かってるんだ、そこを何とかお願いできないかな?」


 俺の確認に頷き再度頼み込んでくるジョン。

 

 ルカの方むけば…この顔はお願いを聞いてあげたいといった顔だ。


「オズ? 連れて行ってあげても良いんじゃないかな? ボクからも頼むよ」


 案の定だった。今一度考えてみるが、先程の円盤の取引の件もあるために断って素直に終わるとは思えない。ここは受けざるおえないじゃないか。思わずため息をついてしまう。


「……分かった。連れていけばいいんだろう?」


「ありがとうオズ!!」


「ありがとう。オズって言ったかな? よろしく頼むよ」


「こちらこそお手柔らかにな」


 こうして俺達は再度あの遺跡を訪れることになってしまったのだった。

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