第28話
「ルカにはこの部屋の片付けをお願いしようかな」
「……なに? この散らかっている物たちって」
手伝いを申し出たルカが通されたのは屋敷の一室、広間ほどの大きさがあると思われるその部屋には様々なものが乱雑に散らかっている。その有様をみたルカは絶句してしまったようだ。
「これはね、研究のために遺跡とかから発掘された物を集めたものなんだけど、ある程度調べ終わったものや、お手上げでどうしようもなくなった物なんだよ。今度また新しく資料とかを集める予定だから一先ずこれらを処分しなくちゃならないんだ」
その部屋に積まれた品々はざっと見ただけで100は超えていそうである。種類も色々で大きさも大小様々あった。
「……全部?」
「うん、全部。ルカにはこれらを種類ごとに分けるのを手伝って欲しいんだよ」
ルカは若干項垂れている。元々手伝いのために来ていたとはいえ提示されたものの量の多さにやる気を削がれてしまったのだろう。丸一日かけても終わるかどうか微妙である。
「捨てるものだから壊しちゃっても問題ないから頼むよ。別な部屋の方が終わったら俺も来るからよろしく」
ジョンは説明をするだけすると別な部屋に行ってしまった。もしかしたら同じような状況の部屋が他にもあるのかもしれない。
「ほらルカ、俺も手伝ってやるから始めるぞ!!」
「う、うん…」
立ち尽くすルカを叱咤激励して終わりの見えない作業を始めたのだった。
◆ ◆ ◆
捨てるものなので分類をするだけの簡単な作業のはずなのだがその種類の多さもあって中々進まない。何かの動物を模したと思われる置物、装飾具の数々、多種多様な言語で書かれた書物達、よくこれだけ集めたものだと呆れてしまう。
面倒なのでまとめて魔法で消滅させたくなる衝動に駆られるがその後の事情説明を考えればそんなことは出来ないので何とか抑える。
「ふ~……ん?」
途中、息抜きのためにふと顔を上げた時にあるものが目に飛び込んできた。手をとめてそれを見ているとこちらに気づいたルカに声を掛けられる。
「どうしたのオズ?」
「うむ、なあルカ? あれってこの世界の地図か」
「ん~ちょっと古いけど多分そうだと思うよ」
俺が見ていたのは壁に掛けられた地図と思しきものだった。ルカに確認を取ってみたが間違いないようだ、大小様々な大陸が描かれている。自分の知っている世界地図とは全く違っており改めてここが別世界であるのを再確認されてしまうのだった。
「確かこの国の名前はクラウディア王国だったか、この大陸の中央部がそうみたいだがこの村はどの辺なんだ?」
「その地図で言えば右端の方になるかな、ほら山脈の間のあたりだよ」
地図を見ながら大体の位置確認をしてみる。地図によるとアルテニア大陸の中央部に位置する国が今いるクラウディア王国ということらしい、その右端、山脈がいくつか書かれているのだがその合間がこの村ということだ。
「ほう……こういう大陸になっているのか。 この白紙の部分は何なんだ?」
地図を見ていてあることに気づく、山脈などまで詳しく書かれている地図なのだがいくつか白紙の地帯があるのだ、見る限りわざと開けているように見える。
「未開の場所だよ、今も完全な地図なんてなくてね。どの地図も不明だから書かれてない場所があるんだよ。……ここまで書かれているこの地図は珍しいものだと思うよ」
さすが学者というべきか、この地図はよく出来た珍しいものらしい。この地図も処分するのだろうか、それならぜひ譲ってもらいたいものだ。
地図談義でしばらく休憩したあと作業に戻る。そのあとしばらく作業を続けているとジョンがやってきた。
「ルカ~どんな調子かな? このお菓子でも食べて休憩しなよ」
どうやら、お菓子と飲み物を持ってきてくれたようだ、それを食べながら小休止を取る。ちなみに俺の分もちゃんと用意されていた流石である。
「ジョン兄の方は終わったの?」
「いや未だなんだ、お菓子を持ってくるついでに様子を見に来たんだ。悪いけどまだしばらくは一人で頑張って欲しいんだ」
「分かったよ、大丈夫二人だし」
「二人って…そっかそのオチビさんも頑張ってくれているんだありがとう」
ルカの言葉で俺にも労いの言葉をかけてきた、胸を軽く叩いて返す。
「言葉が解ってるのかな? 頭が良いんだね。 じゃあまた引き続き頼むよ――――――とそうだ片付けた物の中で気に入ったものがあれば持って帰っていいよ、処分するものだから」
それはありがたい話である、早速地図を貰えるかルカに確認をとってもらう――――――が
「ゴメンアレは違うんだ。処分品じゃないから分けておいて欲しいな。下に置かれてるのがそうだからその中から選んでみてよ」
――――――残念だった。地図は元々この部屋に飾っていたもので処分するものではなかったようだ。
だが何かもらえるというのなら作業にも力が入るというものである、作業再開のあと少しやる気を盛り返して品物を吟味していくのだった。
「さて、続けようか」
「オズ、突然やる気出してどうしたの? もしかして何か貰えるって聞いたからとか?」
「当然じゃないか!!」
「現金だなぁ~」
ルカに何やら言われてしまったがやる気を出しているのだから何の問題も無いと思う。元々何の報酬もなかったのが何か貰えるかもしれなくなったのだ、当然の反応ではないだろうか。
ハイペースで作業を進めていくのだが中々良いものは見つからない。そういえば前半やっていた時にも特に気を惹かれるものは無かった、そんな簡単に良いものは見つからないか…と若干諦めかけていた時だった。
「ん? 何だろうこれ……何の円盤? 思ったよりも軽いな綺麗な鉱石から出来てるみたいだけどもらっても邪魔かな」
「――――――待て!!」
「なに、どうしたの?」
「ちょっとそれを見せてくれ」
ルカが手に取った円盤へと興味が惹かれた。呼び止めてこちらへと渡してもらう。ルカはただの置物の類と思ったようだがその円盤からは気づけるか気づけないかほんの微量の魔力が感じられたのだ。
それを手に取り確認してみるとその円盤の表面には文字らしき文様が刻まれている、やはり微弱な魔力が感じ取れる。どういうものなのかはまだ判断がつかない試しに魔力を流し込んでみようとすると―――。
ボワンッ
「うわ!! 何!?」
「どうやら魔力に反応する仕掛けのようだな」
円盤の文字が光ったかと思えば円盤の上へと何か浮かび上がった、光で現れたそれは古代語の文章のようだ、所々図形のようなものも見える。これはある種の本なのかもしれない。
「……これは」
「オズ、分かるの?」
「あぁ、これは昔の魔法についての本のようだ。いわゆる魔導書というやつか」
魔法で情報を読み取るとそれは魔法に関する記述のようである。この世界に来てから少しはこの世界の魔法について調べていたのだがそれとは違う体系の魔法のようである、もちろん俺の世界の魔法とも違う。古代文明の遺跡から発掘されたものらしいので多分古代魔法の一種なのかもしれない。もしかしたらリアなら何か知ってるかもしれないので後で尋ねてみても良いかもしれない。
「……」
「どうしたの?」
つい無言で見入ってしまったところでルカに声をかけられた。いや、この魔道書は興味深い。幾つもの魔法の説明が載っているのだがいくつかは俺も使ってみたいと思える魔法だった。
「なあルカよ、これって貰えないだろうか? さっきの地図とは違って飾られてた訳ではないようだし山から出てきたよな?」
「どうかな? ジョン兄に聞いてみないと… でもこんなふうに文字が浮かび上がるなんてアーティファクトの一種じゃないかな。紛れ込んでた可能性も…とりあえず聞いてはみるよ」
「頼んだぞ、この円盤は絶対に欲しい。そうだな
その後、作業を続けるが魔導円盤以外に興味が持てるようなものは残念ながら無かった。日が傾いて来た頃になってジョンがやってきた。
「ルカお疲れ様、今日は陽も傾いてきたし終わりにしょうか。手伝いに来れなくて悪かったな」
「お疲れ様、ジョン兄。 頑張ったけど6割くらいしか終わらなかったよ」
「いや十分だよありがとう、良ければまた手伝ってもらえると嬉しいな」
「う~ん、明日からまた家の手伝いとかあるから手が空いた時だったらいいよ」
どうやら作業は終わりのようだ、互いに労いの言葉を掛け合っている。忘れてるようなのでアリスを小突いて円盤について聞いてもらう。
「そうだ、ジョン兄?」
「なに?」
「気に入ったのがあったら貰っても良いって言ってたけど…これって貰えるかな?」
円盤を見せて確認をルカが取ると―――
「良いよ」
あっさりと了承が取れてしまった。
「ルカには今日助けられたからね~そんなので良いのなら」
「え? 本当に良いの? 珍しいものじゃない?」
「調査済みのだから元々捨てる予定だったからね。それに珍しいといっても置物にしかならないけど逆に良いの?」
「う、うん」
ジョンの言葉に思わず顔を見合わせてしまう。置物にしかならない? 調べ済と言っていたが情報に齟齬を感じる。
「調べてみても何も分からなかったんだよねそれ」
「そうなの?」
話の内容から推測するに、この文字を映し出す力に気づいていないようだ。確かに微弱な魔力を感じ取らなければ俺も興味を持たなかっただろう。本当に僅かなものだったので俺だからこそ感じ取れたのかもしれない。
「ジョン兄…これって――イテッ」
真実を言いかけたルカを小突いて言葉を中断させた。折角貰えそうなのだ気づいてないならわざわざ教える必要もないだろう…それに教えても有効利用は難しいと思うのだ。
「どうかした?」
「いや…じゃぁ貰ってくね。ありがとうジョン兄、またね」
「おう、またなルカ」
俺の無言の圧力に負けたルカが言いかけた言葉を飲み込んで挨拶を交わして帰途につく。その顔は少し納得してない顔だった。
――――――ともかく魔導円盤が手に入ったのだ、魔法を使ってみるのが実に楽しみである。
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