第27話
「体調はもう大丈夫なのか?」
「うん、ありがとうもう大丈夫だよ」
月下草による特効薬が完成したあの日から数日が過ぎていた。その後の経過も良くルカは動けるまでに回復した。
「あれルカちゃん、元気になったんだね!! 良かったねぇ~」
リハビリもかねて今日は久しぶりに散歩に出かけてきた。
八百屋のおばちゃんなど出会った村のみんなから回復したことを喜ばれ声をかけられる。例の流行り病も沈静化へと進みようやく村の雰囲気も落ち着きを取り戻したようにみえる、しばらくはもう厄介事は勘弁してもらいたいところだ。
穏やかな雰囲気に満足しながら歩き続けて広場へと通りかかったちょうどその時ーーー。
「ん―――――? 黒いリスっぽいのを連れたお嬢ちゃんっつーことは…お前さんがルカちゃんかい?」
初めて見る大柄の男に声をかけられる、今まで村で見かけない顔だが一体何者だろうか?
「…そうですけど。貴方は誰ですか? 初対面だと思うんですが」
見知らぬ大人だったためかルカの声も固くなっている。不審がられているのに気がついたらしい男は苦笑いを浮かべた。
「俺は別に怪しいものじゃないぞ! そこは誤解しないで欲しいんだが―――――」
「コラ、何やってんの? 怖がってるじゃないの アンタは見た目怖いんだから自覚しなさいよクルツ?」
「いてぇな―――何するんだよエルゼ!!」
男の後ろからやってきた女が男の頭を小突く。その妙齢の女は男を押しのけるとこちらへと声をかけてきた。
「はじめまして、可愛いお嬢ちゃん。私の名前はエルゼ。そこの男はクルツ、怖い顔はしてるかもしれないけど悪人じゃないわ、私たちは冒険者なの。あともう一人いるんだけど…あとで紹介するわ」
どうやらこの二人は冒険者らしい。見れば男の方は腰に大剣を、女の方は杖を持っている。剣士と魔法使いといったところか、纏う雰囲気からしてかなりの腕前とみてとれる。
「はじめまして、ボクはルカって言います。その冒険者さんが何の御用でしょうか? ボクの名前を知っていたようでしたけど…」
「私たちはあるクエストを受けるために来たんだけど……もう解決しちゃったみたいね。実は貴女のお爺さんには昔にお世話になっててね。せっかく来たんだからと思って会いに行ったんだけど、その時に貴女、ルカちゃんの話を聞いていたのよ。元気になったみたいでよかったわ」
もしやクエストとは月下草のことであろうか、そういえば冒険者にお願いをするとかグラン老が言っていた気がする。それはもう俺たちが月下草を採ってきたので解決した後なのだ。
因みにどうやって月下草を手に入れたかについては、ユーリが山脈へ向かった途中であった商人が偶然それを持っていて譲ってもらったと誤魔化した。その時、山脈に向かったという話でユーリはこっぴどく叱られてしまったのだったが。
「ありがとうございます、お祖父ちゃんの知り合いの方だったんですね。」
相手の言葉をそのまま受け止めるルカと小声で確認をする。
「おい! そんな簡単に信じて大丈夫なのか?」
「うん、お祖父ちゃんって昔冒険者だったらしくてね。たまにこうやって訪ねてくる人がいるんだよ。嘘をついてるようには見えないしね」
確かに俺もこの二人が嘘をついているようには見えない、悪意も感じないので大丈夫だとは思うのだが。
「貴女可愛いわね。あのグランさんが溺愛しているのもわかるわ」
「そ、そうですか?」
女、名前をエルザと言ったか。彼女がルカに近寄ってくるとそっとその頭を撫でてくる、ルカはされるがままだ。
今気がついたのだがルカは意外とお伊達に弱い、可愛いのは事実なので全部がお伊達ではないだろうけども。
「ってクルツ? 唯でさえ怖い顔がさらに怖くなってるわよ?」
「うるさいわ!! ちょい不思議な気配がしてな…お前は何も感じないか?」
エルゼの声に男、クルツの方を向けばその瞬間俺と目が合う。ずっと見られてたようだ、まさか何か感づかれたのか?
「気配? ……確かに不思議な魔力の流れは感じたわね」
エルゼもまたクルツの言葉を聞き魔力を感じ取ったのか一度こちらへと目を向ける。これは少し不味いかもしれない。
「―――――でも悪意は感じないし放っておいても良いんじゃない?」
「……それもそうか。 しかしお嬢ちゃんがあのグランさんの孫とは時代の流れを感じるねぇ」
冷や汗をかかされたがとりあえずは助かった。話題はルカの事へと戻ってくれたようだ。何か疑われたようだが今は見逃して貰えたようだ。戦って勝てないとは思わないが余計な争いを起こさないことに越したことはない。こいつらが村にいる間は今まで以上に気をつけた方が良いだろう。
「お祖父ちゃんの昔を知っているんですか?」
「もちろんさ!! あ~でも勝手に話すと怒られそうだな…」
「あら、少しくらいなら良いんじゃない?」
「ぜひ聞きたいです!! お祖父ちゃんって昔のことは教えてくれないので」
何やら盛り上がっているようだが、下手な行動は出来ない大人しく動物のフリを続ける。
「急に黙ってどうしたの?」
誤魔化してる途中にルカに話しかけられたりもしたが無視をする。今は少しやばい状況なのだ。ボロを出しかねないので話しかけないで欲しい。というかいつまでこの話は続くのだろう。
そんなこんなで俺の緊張はその後2時間ほど、盛り上がる話が終わるまで続いたのだった。
「―――――やっと見つかったか」
ルカたちの長い長い昔話が終わったのはある来客によってだった。槍を持った長身のその人物はコートをすっぽり被っており容姿は全くわからない、ただ声からして若い男性のようだ。
「おう、ようやく来やがったか!!」
「ずいぶんと遅かったじゃないの?」
「私に獲物の換金を任せっきりにしていなくなったのは誰だったかな?」
この来客はどうやらさっき言っていたクルツたちの仲間のようだ。こっちへと近づいてくると俺たちへと目を留める。
「君たちは誰だ?」
「おいいきなりその物言いはないだろウェイン? この嬢ちゃんは俺たちの恩人の孫だよ、前に話しただろあの薬聖のグランさんの孫」
どうやらこの人物はウェインという名前らしい。グランの名を聞くやいなやまじまじとルカを見つめてくる。
「…あの薬聖の孫か、普通の少女にしか見えんのだがな」
「そりゃそうだ、薬聖の孫ってだけで普通の嬢ちゃんだよ」
先ほどの昔話でもちょくちょく出てきていたのだが『薬聖』とは一体なんなのだろうか? グラン老の別名であるのは間違いないようだが、誤魔化すのに必死で詳しく聞いていなかった後でルカに聞いてみるとするか。
「ちょっと二人共ストップよ、ルカちゃんが困ちゃってるじゃない」
エルゼがここで話に割って入った、話について行けずにあたふたしているルカを指して注意する。
「特にウェイン? 貴方自己紹介もまだしてないじゃない、それとこんな時くらいコートを脱ぎなさいよ」
「む? 確かにこれは失礼した―――――」
指摘をされてウェインが被っていたコートを脱ぐ、そして現れたその素顔は―――
「うわぁ~」
――美形だな…男か女かどっちだ? それと耳が尖っている?
思わずルカがため息をつきそうになるほどの美形であった、金色の髪に青い瞳、中性的なその容姿はパッと見性別が分からない、そしてその耳は少し耳先が尖っている……ヒューマンではない、そんな特徴を持つ種族といえばあの種族しかいないだろう。
「はじめまして、私の名前はウェイン・アストリア。見て分かるかもしれないがエルフだ」
道行く人々も一度足を止めてその姿に観っている。看取れてポカンとしていたルカだったが自己紹介されたことに気がついて慌てて挨拶をし返す。
「はじめまして、ルカと言います。」
カミカミで返すルカに笑いながらクルツが声をかける。
「ガハハ、嬢ちゃんはエルフを見るのは初めてか? 驚く程美形だろ?残念なことにコイツは男なんだけどよ」
「はい、初めてです!! 話では聞いていましたけどここまで綺麗な人は初めて見ました!!」
確かに美人である。だがルカよリアを忘れていないか? アイツは精霊なので客観的に見れば同等以上に美人である、性格が残念なことで相殺されてしまったか?
「クルツ失礼だぞ。 綺麗か…私は男なんだがな。」
「あとな、コイツってこう見えて俺らより年上なんだぜ? なぁエルゼお前って今年で―――ってイテ」
エルフは長寿であることでも有名だ、彼らの中では見た目一番若いのだが、実際は一桁違うらしい。ちなみにクルツは年齢の話をエルゼへとふったことで制裁されている…妙齢の女性に対して年齢の話題は
「この村ってヒューマンしかいなくてですね滅多に他種族の人ってこないんですよ!!」
「なるほど、通りで人目を集めるはずだな……ちょっと居心地が悪いからフード被るぞ」
ルカの説明に納得すると、再びコートを被ってしまった、エルフは神経質なことでも有名だったか。
元の姿に戻り落ち着いた様子のウェインがふと俺を見つめてきた―――
「きみは…」
―――――お前もか!!
ただならぬ雰囲気を持っていたためにコイツももしやと思ってはいたが何やら感じ取られてしまったようだ……このパーティーレベルが高すぎではないか?
少しの緊張が走った時だった―――――
「ん? ……ここは?」
初めて聞く第三者の声が聞こえてきた、しかもすごく近くで。
「あ? 忘れてました」
声の出どころはウェインの抱えた黒い布にくるまれた荷物からであった。あまりに軽々と持ち自然だったので気がつかなかったのだが。それは荷物ではなく黒い旅装の青年だったのだ。
「誰よ?」
「いや換金したあとプラプラ森まで散歩に行きましてね、そこで行き倒れの旅人がいたので拾ってきたのでした」
「遅かったのは俺たちのせいだけじゃないじゃねーか!!」
「拾ってきたって猫じゃあるまいし…というか治療を早くしなきゃダメでしょうが」
けろりとした様でそんな説明をするウェインに各々が反応を返すなか青年が声を出す―――
「み、水―――」
「はい、これどうぞ」
ルカが真っ先に反応して水筒を差し出すとそれを受け取りゴクゴクと水を飲む。そしてルカへとお礼を述べて水筒を返そうとしたその時だった―――
「ありがとう~助かったよ―――」
「……もしかしてジョン兄?」
「えっ―――――」
「ボクだよボク分からないかな? ルカだよ」
「あ~~ルカ? もしかしてあのルカかい!! 大きくなって美人になったなぁ分からなかったよ!!」
まさかの展開というべきか、どうやらこの行き倒れ青年はルカの知り合いらしい、再開を喜んで二人は無邪気に騒いでいる。
この時の俺はまた面倒事が起きるのではないかという嫌な予感にかられていた。
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