第24話
アリアの悲鳴らしきものとともにユーリの叫び声が聞こえてきた。何事かと思い声が聞こえた方向を見ればそこにはグリフォンの鉤爪に掴まれたユーリたちの姿があった。
何とか抜け出そうと必死にもがいている、手元には弓矢があるようだがあの状況では射つのは難しいだろう。
先ほどまでグリフォンたちが寝ていた場所にすでに姿はなく。起きた彼らに掴まっってしまったらしい。
『なにしてくれるんですか?! 私たちを食べても美味しくないですよ!!』
「なんでも良いから離しなさいよ!!」
アリアの声を聞き、現状でアリアは鳥の姿なのででもしかしたら美味しいかも――――っと馬鹿な事をつい考えてしまいそうになる。それにしても見つかる危険性が高くなると俺が月下草を採りに行く役を買って出たのだが、待っていたあいつらが捕まるとは何とも運のない奴らである。
「離してよ!!」
さてそろそろ助けるとしよう。幸いこちらにはまだ気づいてないようだ。崖から走ってジャンプする。そのまま崖下近くを飛んでいるグリフォンの背へと向かって落下。障壁で身を包んで衝撃を殺してグリフォンの背中へと飛び乗る。
『グルゥ?(む? 何だ―――?)』
俺が飛び乗った事で起きた揺れで悲鳴を上げるユーリと、背に衝撃を受けたことで反応するグリフォン。
ユニコーンの件があったために半ば予想していたのだがどうやらグリフォンとも問題なく話せるようだ。
「やぁはじめまして、グリフォン君。ちょっとお邪魔するよ」
『この声ってご主人ですか?』
俺の声に捕まっているアリアが反応したが一先ず無視する。
『む? 何だ貴様は!! 勝手に俺様の背に乗るとはどういうつもりだ?』
尊大な態度であるがとりあえず今は不問としておこう―――交渉開始である
「ちょっと用があってね。今君がその前足で捕まえているのは俺の仲間なんだよ、放してもらえないだろうか?」
『フンッ 変な小動物が何を言い出すかと思えばこいつらは俺の獲物だ放すわけがないだろう? こいつらが仲間だというのならお前も一緒に食ってやろう!!』
『ぴぃ~』
グリフォンの『食う』という言葉を聞いたアリアが悲鳴らしきものをあげる。アリアの場合アバターだったはずなのだが本体にも影響があるのだろうか。
とりあえずこのグリフォンは話し合いに応じるつもりがないのは分かった。竜種はもっと知的で理性ある種族のはずなのだが、グリフォンレベルではこんな程度らしい。
「キャァ~~~ッ」
ユーリの悲鳴が響く。俺を振り落とそうと上下左右と旋回して暴れはじめたのだ。残念だがこれくらいの事では俺が振り落されることはない。巻き込まれた形のユーリにはご愁傷様という他ない。
『何なのだ貴様は? 何故落ない?』
散々暴れまわり疲れ果てたグリフォンが通常飛行へと戻る今度はこちらの番だろう。
「こっちの番だな?」
手始めに雷撃を流してみる――――が
『フンッ!! それくらいの雷撃など痛くも痒くもないわ!!』
これぐらいの攻撃では効果がないらしい。
「ほう、やはりこれくらいではダメか…」
さてどうしたものか。魔法の威力を上げていけばいずれは効果も出るとは思うがユーリ達が掴まれている状態では彼女たちにも被害が出かねない。
「よし、アレを使うか」
悩んだ末にある方針を決めた。異空間に収納しているものの中からある物を取り出す。それは漆黒の刀身を持つ一本の短剣だ。
『む? 何だその剣は?』
短剣を取り出した瞬間にグリフォンが反応を示す。剣から漂うただならぬ気配を感じ取ったのだろう。この短剣はこちらへ飛ばされる前の俺の世界で手に入れたもので、あちらの世界のとある黒竜の爪から作られた例え上位クラスの竜種の鱗でさえ簡単に切り裂けるというとても貴重な逸品である。ただ今まで使う機会は無く死蔵していたものだ。小動物になった今でもこれくらいの大きさなら扱える。ちょうどいい機会だろう。
「これならどうだ?」
グリフォンの背に向けて短剣を振り下ろす―――――
『ギャオーーン!!』
バターを切るようにグリフォンの背に突き刺さる短剣。その傷口から竜の血が溢れ出てグリフォンが悲鳴を上げる。
「降ろしなさいってば―――って、きゃあ――――っ!」
痛みのあまり暴れまわるグリフォンの鉤爪が緩みユーリ達が落っこちた。アリアは飛べるので問題ないがユーリはこの高さから落ちてはただで済まないだろう。慌てて障壁を張って落下していくユーリを守る。このことまでは考えていなかった。
不時着成功。衝撃は防げたはずなのだがユーリはガクッとうなだれたまま動かない。どうやら気を失ってしまったようだ。アリアが駆け寄ったのでそちらは任せるとしよう。なにせまだ決着がついていない。
『ギャオーーーン』
未だ暴れ続けるグリフォン。先ほど以上の暴れっぷりに今度はさすがに振り落されそうになっていた。いい加減大人しくしろとばかりに魔法を併用、短剣から雷撃を流し込んでやる―――ようやくの決着、一度痙攣したかと思えば地面へと落下した。
ズシンという大きな音を立てて地面に落下したグリフォン。死んでは無いようだが気絶して動きを止めた。
近くを飛んでいたこのグリフォンの仲間と思われる他の3匹が地面へと降りてきた、少し離れた位置に降り立ったそいつらはこちらを威嚇してくる。そしてその中の一匹が前に出るとこちらへと声をかけてきた。
『父ちゃんから離れろよ!!』
よく見ればその三匹は気絶したグリフォンより2回り程小さい。どうやらこのグリフォン子持ちだったようだ。後ろの二匹をよく見れば何かを守っているようにみえる――がここがグリフォン達の住処になっていたらしい。
『近づくなよ!! 近づいたら噛み付いてやるんだからな!!』
一歩、近づいてみると子グリフォン達は威嚇してくる。
これではまるで俺が悪者みたいである―――ちょっと納得いかない。
『―――――待て!! 子供たちに近づくな!!』
ここで気絶していたグリフォンが目を覚ました。傷ついた体を無理やり起こして子と俺の間に割って入ってきた。
もしかするとコイツは子どもたちを守るために気が立っていたのか?
試しに短剣を子共方へと向けてみる。するとその剣先を遮るようにグリフォンは移動する。どうやら間違いないようだ。これでは完全に俺が悪役だろう。
『ご主人、流石にそれは無いかと… 完全に悪役ですよ?』
傍から見ていたアリアにまでそんなことを言われてしまった、お前はさっきまでこいつらに食われそうになっていたはずなのであるが…彼女たちから見ても構図は同じらしい。なんだかやるせなくなってくる。
「グリフォンよ、一つ提案がある」
『……何だ?』
話を聞くつもりにはなったようなので短剣をまた異空間へと戻し交渉へと移る。今回の目的はグリフォンの討伐ではないのだ。
「俺にお前たちが敵わないのはわかったと思うが」
『……』
俺の言葉に無言になるグリフォン。元々賢いといわれるグリフォンこちらが言いたいことは理解しているのだろう、無言を肯定と捉えて話を続ける。
「元々俺たちの目的はお前たちの討伐ではない、月下草を採りに来ただけなんだ。お前の一番の行動理由は子供たちを守る事なんだろう? ならば取引をしようじゃないか』
『…』
再びの無言、こちらの真意を見極めようとしているのか。
「お前たちが俺たちに今後危害を加えないというのなら俺も今お前たちを見逃そう――――どうだ?」
『……もし応じなかったらどうなのだ?』
聞かなくても分かっているだろうに。その問に即座に答える。
「後顧の憂いが無いようにここでお前達を消す――――それだけだ」
俺の言葉に押し黙るグリフォン、俺の言葉が本気であることを分かってるのだろう。苦々しげに了承してくる。
『――――――分かった』
「俺に縁のあるもの全てに関してだからな?」
『分かっている、約束しよう。人間と違って俺たちグリフォンの約束は絶対だ、安心してくれていいお前たちの村を襲ったりもしない』
気になっていたのはそこであった、俺がいない間に村が報復で襲われては堪らない。短い付き合いではあるがあの村を気に入っていた。
グリフォン自身から約束をしてきたのだ信じるとしよう。
「よし約束だ!! ―――――よし、アリアちょっと来い」
『ハイハーイ☆ 呼ばれると思ってましたよご主人、彼らを治癒すれば良いんですよね?』
「分かっているならさっさとしろ!!」
『ではでは―――――
小鳥の姿のアリアが近寄ってきて魔法を使う、光が辺りを包んだかと思えば、グリフォンの傷口が塞がった。
それに驚いた様子のグリフォンだったがすぐにアリアへと礼を言う。
『すまぬ……』
『気にしないでくださいご主人の指示ですから☆ 流れ出た血までは戻せませんからしばらくは大人しくしていてくださいね。 これで良いですかご主人? ついでにご主人の怪我も治しましたけど」
「ありがとう。よくやった」
『ご主人が褒めてくれるなんて、今日は雨にでもなるんですか、か、か』
余計なことを言おうとするアリアの頭を揺さぶって黙らせる、全く一言多い。
ただこういう時にアリアは役に立ってくれる、俺は現状だと治癒魔法が使えなくなっていたのだ。俺が困ることはないがこういった場面で治癒魔法が役立つのは確かだった。
「ん、んん~?」
この時になって気絶していたユーリがようやく目覚めた。
「え? 魔獣?」
「大丈夫だから待て」
グリフォンを見て思わず後ずさりしそうとするユーリを宥める。
「オズ?それとアリアちゃんも… どうなってるのよ?」
「まぁ色々とな、とりあえずホレ月下草は手に入れられたぞ」
状況について行けずに戸惑った様子のユーリに月下草を取り出してみせる。
「良かったわ…。状況はよくわからないけど早く戻りましょう?」
目的は果たしたので後は早く村へと戻るだけであったのでユーリのその言葉に頷き、帰途へと向かおうとする―――――が。
『待ってくれ』
ここでグリフォンに呼び止められてしまうのだった。
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