第25話
「……本当にどうなってるの?」
『まあ良いじゃないですかユーリ。 ほら見てくださいよ木々があんなに小さく見えますよ!!』
今俺たちは親グリフォンの提案で子グリフォンの背に乗せてもらい村へと送って貰ってるところだった。状況が未だ飲み込めてないユーリがしきりに首を傾げている、アリアの方は何やら空の旅を満喫しているようだ。
「すまないな」
『父ちゃんの怪我も治して貰いましたからこれくらいどうってことないですよ』
乗せて貰っている子グリフォンへと声をかけるとそんな答えが返ってきた。グリフォン達は意外と義理堅いようである。
「ん…なんでこうなったのよ」
まだ納得のいかない様子のユーリへと声をかける。まぁ目覚めたら自分を襲ってきた相手と和解していたのだそれも仕方ないのかもしれないが。
「何だまだ納得がいかないのか? さっき説明したのが全てだぞ」
「…そう言われても」
「これで早く村へと戻れるんだから良いじゃないか」
「……それはそうね。早くルカに届けてあげないと」
俺の言葉で少しは落ち着いてくれたようだ。今は村へと月下草を早く届けることが一番なのだから。
『―――――い、おーーーーい!! おやぶーん!!』
この時下のほうから聞き覚えのある声が聞こえてきた―――――下の方を見れば山の入口で待たせていた子ユニコーンが俺たちを追いながら声を張り上げていた。
『どういう状況なんですかー?』
―――――すっかり忘れていた
「アレってユニコーンちゃん?」
『あ~すっかり忘れてましたね……どうしますかご主人?』
それに他の二人も気がついたようだ。
どうするも何も、早く薬を届けるのが一番なのだから下に降りている暇などない。ここから大声でユニコーンへと叫ぶ。
「上手くいったから安心してくれ!! お前にも世話になったな、元気で機会があればまた会おう!!」
『え~これで終わりですかい? そんな~せめてかわいこちゃんのハグを一度~』
…何やらまた馬鹿なことを言っていたようだが無視する、ではさらばだ。
「…なんか可哀想じゃない?」
リアはユニコーンの最後の言葉にドン引きしている。しかしユーリがただ一人、子ユニコーンの心配をする。ユニコーンの言葉が分からないからだとは思うが…。
「ルカに早く薬を届ける方が先だろう?」
「…それもそうね」
ルカの話を持ち出して納得させる。しかしこんなので納得してしまうあたり、どれだけルカ馬鹿なのだろうか。
◆ ◆ ◆
それからしばらくして、太陽が頭上に昇る頃、聖域の森の辺りまで来た。行く時の十分の一くらいの時間でここまで戻って来てしまった。
直接村へと降りることは出来ないのでこの辺りで降ろしてもらう。村へグリフォンが飛んで行ってはどれほどの騒ぎになるか分からないからだ。
聖域の森にグリフォンは入れないようなのでその手前で降りる。
「世話になったな、親の奴にもよろしく伝えてくれ」
『分かった。それじゃあねバイバイ』
挨拶を交わすと子グリフォンはあっという間に来た道を戻っていた。
どうやら俺たちを乗せていたために来るときは速度を抑えていたらしい。気遣いの出来る子グリフォン、どこぞの
『ご主人、ここまで来たなら私は消えますね?』
「おう、分かった」
ここまで来れば大丈夫だと思ったのだろう、アリアがアバターである小鳥を消した。
ここからは小走りで村へと向かった。
村に近づくと何やら騒がしい―――――
「おい!グリフォンが近くにいたらしいぞ!!」
「こんな時に!!」
「冒険者のクルツさんを早く呼んで来い!!」
見つからないようにと思っていたのだが子グリフォンの姿を見られていたらしい。まぁアイツはもういないので放っておいても問題ないだろう。
病の件で無いようで良かった。そのままルカの家まで急ぐ。
「ユーリ!! お前どこに行ってやがった!! 長いこといなくなりやがって、俺がどれだけ心配したと思ってやがる!? アリアちゃんに言われてたから騒ぎにこそしてなかったがちゃんと説明してくれるんだろうな?」
「ゴメンお父さん、説教なら後で聞くから今はルカの家に行かせて!!」
「お―――――ちょと待て!!」
途中、ブラムさんに会ったが今は押しのけて通り過ぎる。
そしてルカの家へと飛び込んだ。中には相変わらず寝込んでいるルカとティナさんがいた。良かった何とか間に合ったらしい、まだ落ち着いた様子に安堵する。
「―――――ユーリちゃん? 貴女今までどこに行ってたの、心配してたのよ」
「心配かけてごめんなさい。―――――グランさんはどちらに?」
「無事なら良いのよ。お爺ちゃんなら今村の巡回に―――――」
巡回とはタイミングが悪い、そう思いかけた瞬間後ろからバタバタと足音と話し声が聞こえてくる。
「急いでくださいよ~!!」
「な、何なんじゃ急かして―――――ってユーリちゃんか?」
入ってきたのはリアとグランさん。リアが呼んできてくれたらしい。
「グランさん!!これどうぞ!!」
「こ、これは!!」
ユーリが摘んできた月下草の束を差し出すと驚いた様子をみせるグラン。念の為に確認をとる。
「これが月下草で間違いないですよね?」
「―――――ふむ。間違いない、これが月下草じゃ…しかしこれをどうやって…」
「そんなことは今はどうでも良いじゃないですか!! これでルカたちを助けられますよね?」
月下草で間違いないようだ、どうしてここにあるのか訝しいむグランを説き伏せて薬づくりをお願いする。
「…そうじゃな、今はルカたちを助けることが先決じゃ。 ―――――後はわしに任せてくれ」
ユーリの言葉に力強く頷くとグランは薬づくりのために小屋へと向かっていった。
それから一睡もしないで待ち続けることしばらく次の日の夜明けまで薬作りは時間を要した。
「―――――出来たぞ」
「本当ですか!!」
かなりの集中力を要したのだろう、疲れ果てた様子で完成した薬を持って出てきたグランはそのまま寝ているルカの元へと向かった。
その完成した薬は、月下草と同じ淡い黄色をした液体であった。寝ているルカの上体を起こしてその口へと薬を流し込む。
効果は絶大で、先程までの辛そうな顔色が嘘のように回復して今は穏やかに寝息を立てている。
「―――――これでもう大丈夫じゃな」
安堵した顔を浮かべるグラン達、嬉しさで泣きじゃくりながらルカへと抱きつくティナさん。
「―――――ん? あれ…ボク薬の配達に……お母さん?」
抱きつかれたルカがその衝撃で目覚めたようだ、状況についていけず周りをキョロキョロしている。
「良かった!!ルカ~」
目覚めたルカを見た瞬間我慢が出来なくなったのだろうユーリもルカに抱きつく。
「ちょっと二人共…ちょっと苦しいんだけど」
「そのくらい我慢しなさい!!」
二人に抱きつかれてもみくちゃにされたルカが文句を言うがユーリに一喝されると今はされるがままになっている。
今は仕方がないだろう……ともかくルカが元気になってよかった、今はそれだけしか考えられなかった。
その後、アリアの手伝いもあって村にいた患者の全てに薬が配られて全員が快方に向かって行った。ユーリがブラムさんにこっぴどく叱られたという話も補足しておこう。
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