第19話
「……解せぬ」
「どうしたのさ?」
水源の問題を解決して村へと帰ってきて数日が経過した。あの後、村の井戸水も元に戻りそれからは特に問題も起きていない。
あの一件に関しては、森へ出かけた俺たちが偶然に旅の途中だった魔法使いに出会い、その魔法使いに問題を解決してもらったという話になっていた。
因みにその魔法使いとはアリアの事である。
あの帰り道の話し合いでどう村の人たちに伝えるかを考えたのだが、まだ子供であるルカたちが解決したというのは無理があった。実際は俺の手助けがあったゆえ可能だった事だが…だからといって俺の事を伝えるのも難しい。
そうなったところで同時に話し合いにのぼっていたアリアをどうするかという話と纏めてしまおうということになったのだ。
アリアは村に行くのは初めてであったし、魔法使いという話にも精霊であるために十分実力も問題ない。それにアリアの協力があったから解決できたわけで全てが嘘というわけではない。
身元の問題もルカたちの言葉と村の問題を解決したということで十分どうにかなった。
その結果、村の客人としてルカの家で居候している。
そして先程俺が言った言葉はそのアリアについてだ。現在アリアは何故か村でかなりの人気者になっていた。…あのおちゃらけものがだ。
「アイツはなんであんなになってるのだ?」
「あ~アリアちゃんの事か」
俺の言葉にルカは苦笑を浮かべている、ルカたちも今ではアイツのことをアリア「ちゃん」などと呼んで仲良くしているようだ。
「だって人あたりも良いし、明るいから周りにいるだけで元気になれるから、人気が出るのはボクは分かるなあ」
まさかのベタ褒めだった。村の他の連中に関しても大体同じ感じだ。
昨日もアリアは村人たちから次々と声をかけられていた。
「アリアちゃん、昨日はありがとうね!! またお手伝い頼むよ」
「はいはい!! 任せてくださいおじさん」
「アリアお姉ちゃん今日も遊んでくれる?」
「このお仕事終わってからね~」
雑貨屋の店主から子供たちまで声をかけられる度に愛想よく返していた。
「それにアリアちゃん、村のあちこちでお手伝いしてくれてるみたいだよ?」
それは俺も知ってる。村に着いてからアイツは頼まれることがなくとも村のお手伝いを進んで行っていた。子守から店番、配達まで色々な事に挑戦しているようだ。
魔法で解決しているかと思ったのだが何故かあいつはそれをせずに皆と同じようにしていた。中には失敗したものもあるようだがその一生懸命な姿に皆、感謝はしても怒鳴るような相手はいなかったようだ。
何故魔法を使わないのか俺が問うてみると…
「そんなのつまらないじゃないですか!! せっかく自由に動けるようになったんですよ。それに何をやるのにも新鮮なので楽しくて仕方ないんですよ」
そんな風に笑顔で言っていた。生まれて直ぐにあの迷宮を任され、その後も永いこと封印状態だったためにこんな経験は出来なかったらしい。そんな奴だから俺としても人気が出るのは分かる……分かるのだが。
「もう、オズってばアリアちゃんの何がそんなに気に食わないのさ?」
「……それはアレに決まってるだろが!! 昨日もそうだった!!」
「昨日も? ……もしかしてアレってまさかとは思うけど」
察しのいいルカは気がついたようだ。明らかに呆れた視線を向けてくる。
そう、理解はしていてもあの一件がそれを邪魔する。
「昨日も、一昨日もその前もだ!! アイツは俺が食えないのを分かっていながらあんな風に伝えてくるなんて!! 鬼か? いや鬼だろ!!」
そう、あれというのは食事に関しての問題である。
食い意地が張りすぎ、食事に固執しすぎなどと言われるかもしれないがこれだけは譲れない。
何があったかといえば、アリアが居候し始めた初日。
ティナさんが用意してくれた夕食に俺と同じように感動したらしく、その夕食後どれだけ美味しかったかを俺に伝えてきた。
「ご主人!! あのご飯美味しすぎですよ~ 私、あんな美味しい食事初めてです!!」
俺はそれにありつけなかったのだがそのよく気持ちは分かったので大人しく聞いてやった。
しかしそれに気を良くしたのか、次の日から食事の毎にアイツは俺に伝えてくるようになりやがった。アイツが残り物を平らげるようになったために俺にくる分が減ったのに関わらずだ!!
一度は説明して怒鳴り返してやったのだが…
「これが食べれないなんて可哀想です… なのでせめて感想だけでも私が伝えてあげますね!!」
などと言って相変わらず力説してくるのだ。悔しいことにヤツの感想は上手い…本当に食べたくなってくる。
こんなことがあるのでアイツがどんなに良い事をしてると解っていても肯定的に捉えることは出来ない…食べ物の恨みは恐ろしいというのは世の真理だろう。
◆◆◆
「そういえば最近……」
「どうしたんですかご主人?」
ある日の朝食のあと片付けを手伝っているルカの後ろ姿を見ていてあることに気づいた。それはルカの最近の服装についてだ。
前まではズボンを履いていることの多かった彼女だったが最近はスカートを履くようになっていた。
「いやルカのヤツの服装が何か変わったなと思ってな。前まではスカートなんて着ていることなんかなかったのにな」
前からそうであれば性別を勘違いすることなんて無かったのに、などと思っていると横からアリアに半眼で睨まれてしまう。
「まさか前からそうだったら勘違いしなかったとか考えてませんよね?」
見事に内心を言い当てられてしまう…心を読まれたか?
「因みに私に心を読み取る能力なんてありませんからね? 今のご主人の顔を見れば分かりますよ」
また言い当てられてしまう、そんなに俺は分かり易いだろうか?
「…ちなみにルカちゃんがいつからスカートを履くようになったか分かってますか?」
いつからだろう…最近はよく見ていたのだが。
言い淀んだ俺を見てアリアの奴は盛大にため息をつきやがった、なんだというのだろう。
「前の事は私もよく知りませんが、ご主人が男と勘違いしていたというのを知った次の日かららしいですよ?」
……ソレッテモシカシテ?
「やっとわかりましたか? ご主人のせいですよ……結構ショックを受けていたようですね」
「……」
思わず言葉を失ってしまった、往生際が悪いと思いながらも再度確認をとる。
「……それは本当のことなのか?」
「私も来たばかりですからね。何ならよく知っているユーリちゃんに聞いてみたらどうですか?」
俺の言葉に若干呆れながらアリアはそんな提案をしてくる。
最後の足掻きということでユーリに会いにいくことになった、この時間なら家にいるだろう。
「あれ? 二人で出かけるの? 僕もついていこうか?」
「いや今から手伝いがあるのだろ? 俺たちだけで大丈夫だ」
「あ~そうだった。気をつけていってね」
途中、家から出る時にルカに見つかってしまったが適当に誤魔化して外へとでた。
「いらっしゃいませ!! ってなんだ貴方か、珍しいわね二人だけなんて」
ユーリの家まで来るとユーリは店番をしている最中のようだった。親父さんは出かけてるらしい。店内に他の客がいないのを確認してから話しかけた。
「…そうか?」
「ルカが一緒じゃないのなんて珍しいと思うけど? アリアもいらっしゃい。 それで何かようでもあるの?」
「ああ。君に聞きたいことがあってな、ルカの事なんだが…」
俺の言葉に眉を顰めるユーリに単刀直入に聞く、ルカがスカートを履くようになったのは俺のせいなのか、と。
「うん、それは間違えなく貴方のせいね」
すぐに断言されてしまった。
「あの子、あの後かなり気にしてたみたいよ? そんなに女の子らしくないかなってね。間違えるのなんて貴方くらいなのに。」
「そ、そうか…」
やはりそうだったようだ、横でうんうんアリアが頷いている。
「ズボン姿でもどこからどう見ても女の子なのにね。というか何で間違えることが出来たのよ?」
「…それは思い込みだったとしか言えない」
あの理由は口に出すわけにはいかないだろう、さすがに俺も学んだのだ。
「…あれは言わなくなったみたいね、懸命だわ」
それをユーリたちも分かっているようだ。
「まぁティナさんは喜んでたみたいだけど」
意外な話が出てきた、そこで何故ティナさんの名前が出てくるのだろうか?
それについて聞いてみると。
「え~とね、ルカって可愛い容姿の割に服装には無頓着だったのよ、動きやすさ重視でいつもズボンでね。ただ母親であるティナさんとしては娘に可愛い服を着せたかったみたいでね。でも言い出しにくかった所に今回スカートを履きたいって自分で言い出したものだから今喜んで作ってるみたいよ? ルカの可愛い姿を見れるのは私も嬉しいわね」
そうだったのか…ただ作るとはどういったことだろうか?
それについて聞いてみると
「ティナさんって洋服作りも得意なのよ? 本当に万能よね」
さすがのティナさんである。
「僭越ながら私もお手伝いさせて頂いているんですよ☆」
そこへ横からアリアが会話へと割り込んできた。そういえばコイツも着ている服は手作りと言っていたか。
「ほんっとに凄いですよねティナさん!! 本職も顔負けの腕ですよ。 あっそうだティナさんがユーリちゃんの分も作るって張り切っていましたから期待しててくださいね?」
「え、私にも? …そんな悪いわよ」
ユーリは口ではそんな風に言いながらも嬉しそうだ、やはり女の子と言ったところか。
そして、その日の夜。ルカと二人だけになった時に思い切って話を切り出した。
「その…ルカ、ちょっと話したいことがあるんだが」
「何? 何か言い辛そうだけど?」
「すまなかった!! ルカ!!」
謝罪とともに頭を下げる。そして何のことかわからずオロオロしているルカへと言葉を続ける。
「俺が君を男の子と勘違いしてた件で傷つけてしまったことだ、最近スカートを履くようになったのはそのせいなんだろ?」
「あ…うん」
「今更遅いかもしれないが、どんな服装でも君は女の子だ、俺がどうかしてただけだから気にしないで欲しい」
「そっか…うん大丈夫だよ」
口ではそう言ってもどこか浮かない様子の彼女にさらに言葉を続ける。
「その…もちろんどんな服装でも可愛いとは思うんだが、スカート姿はよく似合ってて更に可愛いと思う…ん…だ」
これは紛れもない本心であった。拙い言葉ではあったが思いは伝わったらしくポカンとした後に笑顔になってくれた。
「うん、嬉しいよありがとう」
その笑顔はとても綺麗で俺でも思わず見蕩れてしまうほどだった…。 謝ることが出来て本当に良かった、今は本当にそう思った。
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