第18話

「…まだ納得いかないが仕方あるまい。 精霊よ、お前に頼みたいことがある。」


 まだ色々と思うことはあったが今は諦める。精霊を呼び出した本来の目的に戻そう。


「はいはーい!! なんでしょうか? あっ、それと私の名前は『アリア』って言います! 親しみを込めて『アリアちゃん』と呼んでくださいね☆」


 何でコイツと話すといちいち脱力させられるのだろうか、もう諦めたが。―――それとその要望は却下だ。


「その要望は却下させてもらう」

「えっなんでですかご主人!」


 自分の要望が受け入れられなかったことに不満げな声をあげるアリア。だが受け入れられない理由は単純なことだ。


「『ちゃん』付けなんて気持ち悪い」

「…なるほど☆ じゃないですよ~!なんですかその勝手な理由は!」


 最初こそポンと手を打ち納得してくれたように見えたアリアだがすぐに抗議の声をあげる。まあ無視しても良いだろう。


「アリアよ、訳あってこの辺りを荒らしてしまってな、この辺りの自然を復元することは出来るか?」

「無視ですか、無視しちゃうんですか!何度でも言いますよ!アリア『ちゃん』ですからね☆ んー確かにひどい有様ですね…ちょっと待ってください… 森の精よ」


 呼び方に不満を示したようだが無視した。辺りを見渡して状況を理解したアリアが目を瞑ると何かを小声でつぶやいた。


 すると、周りの木々がざわめくと、荒れていた地面に草が生え、新たな木々が次々と生えてくる、そのまま成長した木々はここに元々あったものとおなじくらいにまでなる。


 あっという間に森がもとの有様を取り戻した。


「わ~凄いね」

「こんなことが出来るなんて…本当に精霊なのね」


 その様子を見ていたルカたちも驚いていた。特にユーリは精霊に対して半信半疑だった為に愕然としている。


「森の精霊さんにお願いしてみました。 これでいかがでしょうかご主人?」


 得意満面な顔を向けてくるアリア、さすが精霊、伊達や酔狂ではないということか。


「さすがだ」

「そうでしょ? もっと褒めてくれても構いませんよ?」


 調子に乗るアリアを無視して次を頼むことにする。


「次なんだが、そこにある水源から流れて来る水の様子が変なんだ。どんな状況か調べることは出来るか?」

「あれれ~私の言葉は無視ですか?…仕方ないですね…」


 また目を閉じ…しばらくすると。


「分かりましたよ~。 どうやら水が酸性になってしまっているようですね……その影響で周りを溶かして変になっているようですよ」

「原因は?」

「勿論確認しときましたよ。 森の精霊さんによるとどうやら魔物の影響だったようですね。最近になってこの森に住み着いたようです、でもどうやらご主人がもう倒されたようですね」


 魔物というとあの巨大スライムのことだろうか、原因は取り除けたようだ。


「しばらく待てば元に戻ると思いますよ」

「そうか、それならばよし」


 ルカたちもその話を聞いて安心したようだ、ホッと息を着いている。


 これで今回の目的は果たせたわけだ。


「世話になったな、ありがとう、アリア。後は大丈夫だ」

「いえいえお気になさらず、これくらいどうってことないですよ。それに~これからお世話になるわけですから☆」

 

………は?今、コイツはなんと言った。


「これから?」

「はい☆ よろしくお願いしますご主人様♪」

「どう言う意味だ?」

「ですから~私とご主人様は契約を交わしたわけですので、これからずっと一緒ってことですよ」


コイツハナニヲイッテイルンダ、そういえば何でコイツは俺をご主人と呼んでいたのか。


「俺は契約なんかした覚えはないが?」


震えそうになる声を何とか抑えて質問を投げかける。


「えっとですね、その腕輪で私のことを呼び出しましたよね?」

「あぁ…」

「それで契約完了ってことです☆ いや~私も外の世界を見に行きたかったんですよ、でもあの場所との契約があったので出来なくて~」


――――ソンナハナシハキイテナイ


「そんな話は聞いてないぞ!!」

「え~そうでしたか? おかしいなあ~」


 アリアは首を傾げながらそんなことを言ってくる。自分の状態を確認してみると確かに契約がかかっている。

 

 冗談じゃない!!こんな奴と契約なんかしてたら疲れて仕方がない。

 

 契約を破棄しようと試みるが…ダメだ、本来の姿であればどうにでもなったのだろうが今の状態では破棄できなかった。


「おい!! 今すぐ契約を解け!!」


 仕方なしにアリア自身に契約を解かせようとするが…


「ゴメンナサイ無理です☆」

「何でだよ!!」


 まさかの拒否だった、その理由を詰め寄る。


「いや~無理矢理に契約変更したせいで私にも解けなくなっちゃいました☆」

「何だと…どうやったら解ける?」


半ば確信に近い嫌な予感を抱きながらも問いただす。


「え~と。私が消滅してしまうか、ご主人様が死ぬかですね。まさに『死がふたりを分かつまで』ってやつですかねっ!!」


 目の前が真っ暗になった、そしてアリアのふざけた言動にカッと頭に血が上った。


「ふざけるなっ!!」


 思わず火球の魔法をアリアへ向かって放ってしまった、しかしリアはそれを軽く躱す。


避けられた火球は地面に当たり亀裂が入る、そこから水源へと繋がっていたらしく勢いよく水が噴き出した!!


「きゃあっ」


その水すらもアリアは避けるが、俺と俺の後ろにいたルカ達は水をもろに被ってしまう。


「オズぅ~!!」


ずぶ濡れの状態で後ろを向けば同じくずぶ濡れの二人、そして案の定、怒ったユーリに怒鳴られてしまう。



………俺が悪いのか?


「あれれ? 大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないわ!!」


 他人ごとみたいに言ってくるアリアに怒鳴り返す。ずぶ濡れになってしまった、見ればルカがくしゃみをしている。このままでは不味いだろう。

 

 とりあえず小枝を集めて焚き火をつくる。


「ご主人様はこのままでも大丈夫そうですが、そちらのお二人は着替えたほうが良いですよ」


 アリアがルカ達へと声をかけている。確かに俺は動物の姿なのでこのまま乾かせば問題ない。


「それはそうなんだけど…」

「私たちも着替えたいけど代わりの服なんて持ってきてないわよ」


 それはそうだろう、調査に来るのに着替えなんか持ってこない。しかしその言葉を受けてアリアは待ってましたとばかりの笑顔を見せる。


「それなら問題ないですよ~。 ほらこの服なんてどうでしょう?」


そう言ってどこからともなく服を取り出した、それはアリアが着ているようなフリルのついた服であった。


「それを私たちが着るの?」

「サイズなら心配しないでくださいね。各サイズ取り揃えてますので☆」

「いやそういうことじゃないんだけど…。 でも濡れたままよりは良いかな、行きましょルカ」

「う、うん」


 更に色々な服を取り出したアリアにユーリが折れるとそれにルカも頷く。どう見ても女の子用だが良いのだろうか?


「はいはーい。2名様ご案内」


 アリアがよく分からない声をあげて、二人を茂みの方へと誘導する。



 その途中でユーリがふと俺に声をかけて来た。


「貴方ってオスなのメスなの?」

「お、オス呼ばわり?―――もちろん男に決まってるだろうが」


 突然何を言い出すかと思えば性別の話であった。特に渋る理由もないので直ぐに返答してやる。何で今聞くのだろうか?


「じゃあ私たちはあっちで着替えてくるから覗かないでよ」


「誰が覗くか…」


 どうやら覗くなと釘を刺したかったらしい。今は動物の姿なのだがそれでも気になるものなのだろうか、勿論覗くつもりなどないが。

 と、そこであることに気づく。


「ルカも一緒に行くのか?」

「そうよ、ルカも着替えないと…って何で変な顔してるのよ?」


 それはおかしくないだろうか、俺に釘を刺しておいてルカは良いなんて。


「それはおかしいだろう? 幼馴染だからとかなのか?」

「何を言っているの?」


 何ってルカも同じ男のはずである。そのまま疑問を口にする。


「何ってルカは男の子だろう?」

「「え?」」


その瞬間周りの空気が固まった気がした………何なんだこの空気は。


 そして次のユーリの発言に衝撃を受ける。 


「何を言ってるの? ルカは女の子よ?」

「―――え?」

「まさかとは思うけど勘違いしてたの?ずっと一緒にいたのに ルカは正真正銘の女の子よ」


 あまりの衝撃に頭が働かない。ユーリが嘘をついてるようには見えない、リアはやれやれといったように首を振っている。


「それは無いですよご主人」


 そんなつぶやきが聞こえる。仕方なしに残る本人へと確認を取る。


「……そうなのかルカ?」

「うん。まさか勘違いされてたとは思ってなかったよ…」


 事実だった。


 ルカは困惑した顔を浮かべ、ユーリはため息をついている。 


言われて見れば確かに女の子みたいな仕草だったのに今更気がつく。それでも今まで勘違いしていた訳を挙げるとするならば…


「だって僕って言ってたし…ズボンばっか履いてるし…それに」


思わず二人の胸元を見比べてしまう、年相応に女の子らしいプロポーションのユーリに対してルカは…


「あまりに真っ平らだったから―――ぐはっ」

「あっごめん、でもいくらなんでも失礼だよ!! 僕はこれからなの!!」


 見えなかった気づけばルカの右ストレートが俺へと命中していた、どうやら禁句だったらしい。防御する暇もなく俺の芯を捉えた一撃で意識が飛びそうになった。


 かすれゆく意識の中で怒気を上げるルカが見える。


「まっ自業自得よね」

「いや~綺麗に決まりましたね~」


 どこか遠くから聞こえてくるように外野の声が聞こえていた。


「見事だ――――」


そう一言残したところで俺の意識は闇へと落ちていった―――――。 






「ん………ん~。変な夢を見てしまったな」


 どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。


ここはどこだっただろうか?


それにしても我ながら変な夢をみたものだ、変な精霊と契約することになったり、性別を勘違いしてたりなどあるはずもないというのに。


「良かったオズ、目が覚めたんだね」


そこへルカの声が聞こえてきた、そちらへと顔を向ける…と。


「ルカか? 変な夢を見てな――――――夢じゃなかった!!」


 

 そこにはなんちゃってメイド服姿のルカがいた。現実逃避をしてしまったが夢ではなかったらしい。


 今のような女の子らしい服を着た姿を見ればもはや性別を疑うことなんて出来そうにない。目の前にいるのは逆に何故今まで勘違いすることが出来たのかと疑いたくなるほどに可愛らしい少女だった。


「大丈夫? 確かに僕も悪いとは思うけど、元はといえばオズが変なこと言うからだよ」


 その言葉に何故気を失っていたのかを思い出した、怒ったルカのスレートが見事に決まり気絶してしまったようだ。


「………大丈夫だ。あれからどのくらい経った?」

「そんなに時間は経ってないよ、10分くらいかな? その間に着替えたんだよ…ってどうしたの?」

 

 その言葉を聞きながらもその姿に見入ってしまっていた。すると俺の視線が自分の服装にいっているのに気づいたようだ。


「どうかな? おかしくない?」

「………大丈夫だ。というか凄く似合ってる」


 その質問に思ってたことをそのまま口にする、するとその言葉に照れた様子を見せるルカ。これは大人しく自分の非を認めるしかない、間違いなくルカは女の子だった。


「あれ目が覚めたんだ。自業自得だとは思うけど、大丈夫なようで良かったわね」


声を掛けられた方を向けばそこにはユーリがいた。彼女もルカと同じようになんちゃってメイド服風へと着替えていた。

 ルカとは若干違うデザインのようだ、ルカも似合っていたがそれに負けないくらいにユーリも似合っている。


「君も似合ってるな…」

「ありがとう。一応お礼を言っておくわ」


 俺の言葉に素っ気ない言葉を返してくるが、その頬は若干赤くなっている。素直に喜べば良いのに。そしてその隣には変な精霊ことアリアも居り、二人の着替えた姿を見てうんうんうなっている。


「ほらほら私の言った通り!! 二人共とてもよく似合ってますって、現にご主人も褒めてくれたじゃないですか!!」


 ルナはそんな風に囃し立てているが、当の二人は恥ずかしそうにしている。二人の反応の方が普通だろう。

それはさておき、こちらの存在も夢ではなかったようだ例の契約も確かにある、出来れば夢であってほしかったのだが。


 その後、焚き火で濡れてしまった服を乾かしながらしばらく休憩をとった。


 その間の会話では俺が性別を勘違いしていたことについて散々に言われてしまった、その時にまた一悶着あって、ルカの前で二度と胸の話はしないと誓うことになるのだった。





「やっぱりこっちの方が落ち着くわね」

「流石に恥ずかしかったよね」


 もとの服が乾くと直ぐにユーリたちは着替えてしまった、その姿を名残惜しそうにアリアが眺めていた。




 その後、本来の目的である水源の調査と問題の解決は果たすことができたので村へと戻ることになった、帰りはアリアも一緒にだ。


「それでどうする?」

「どうしようか?」


 その帰り道で村についてからについて話し合う。主にアリアの扱いについてと問題が解決したことをどうやって伝えるかについてだ。

 

 問題については時間が経てば勝手に伝わるとは思うのだが…。


「このままお前は俺に着いてくるんだよな?」

「勿論ですよ!!ご主人が行くところどこでもお供いたします」


 そう、アリアについては話し合う必要があった。このまま一緒に行くのは良いのだが、現状俺はルカの家に居候の状態である。

 アリアは普通の人間と見た目変わらないので同じように転がり込むことはできないし、霊体に変化して姿を見えなくしていることも可能らしいが、長期的になるとなれば上手くもない。というわけで転がり込むにも何か理由を考えなければならなかった。



 そして話し合った末に決めた方法とは―――


 アリアはルカの家の物置として使われていた一部屋に通されていた。そこでティナさんがベットに新しいシーツをかけながらアリアへと話しかける。


「それじゃあここ自由にを使ってもらってかまわないわ。それと何か必要なものがあれば教えてちょうだいね?」

「ありがとうございます☆ 助かります」


 そう結論から言えばルカの家の居候が増えたのだ。

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