第17話

「やれやれ散々な目に会ったな……」

「それはこっちの台詞でしょ!!」


 ふと愚痴をこぼすとすかさずユーリに睨まれてしまった、愚痴くらい無視してもらいたいものである。魔物の巨大スライムを撃退してからしばらくの時間が経っていた。あの後、流石に直ぐに動くことは出来ずに小休止をとることにしたのだ。倒れていた木を椅子の代わりにして座り水分補給などをしてからこのあとの相談を始める。


「それでこれからどうするの? アクシデントはあったけど目的地には到着してるわよ?」

「―――そうだった、水源の調査に来たんだよね」

「ちょっとルカ…。 貴方まさか本来の目的を忘れてたの?」

「え……だって色々あったじゃない」


 ユーリはその答えにジト目になり、視線を向けられたルカはそれを誤魔化すように愛想笑いをしている、そして話の矛先を逸らすように俺へと話をふってきた。


「それでどうしようかオズ? 目的地に着いたらどうするのか、具体的な話はまだしてなかったよね?」

「どうするもなにも調査するに決まってるだろう。俺は忘れてなんかないぞ」


 ルカは忘れてしまっていたようだが勿論俺は忘れてなどいなかった。村の地下水の異常、その原因を突き止め解決すること、それが今回の目的である。

 何としても村の地下水の異常を止めなければならない。なぜならば俺の食事のスープいのちが懸かっているのだから。


「それは分かってるわよ。そうじゃなくて、私が聞いているのは具体的な方法の事よ」

「どうするの? 調査するのにも何の道具も持ってきていないよ。それにこの状況は……」 


 ルカの目線を追って辺りを見渡す、木々は倒れ、爆発により地面は陥没し、酸によって岩は溶けている。先程の戦闘によって散々な状態となっていた。


「確かに酷いわよね…。調査しようにもこれだと…」

「…もう少し抑えられなかったの?」


 暴れまくった俺たち二人にルカが少し批難混じりの言葉を向けてくる。


「私はそこまで暴れてないわ… ほとんどオズの仕業じゃない」


 いや俺ひとりの責任にされる流れらしい。確かに魔法を使いまくっていたのは俺だけど…ここは連帯責任じゃないかと思う。


 少し気まずい雰囲気になってしまった。調査だけなら俺の魔法でどうにでもなるのだが…この場の修繕となると今の俺には荷が重い。


「……そうだな、折角貰ったんだ試しにヤツを呼んでみるか。 この状況もどうにか出来るかもしれんし」

「ヤツ? 誰か呼ぶの? 誰を呼ぶにしても難しくないかな」


 何のことを言っているかわからない様子のルカが問い返してきた。まぁアレと言われてもわからなくて当然か、隣でユーリも訝しげな顔をしている。


 ルカへの返答として今俺が着けている首輪を示してやる、それでルカには伝わったようだ。


「そっか、あれを呼び出すんだ…」

「何のこと? 私には全く分からないわよ」

「えっとね、さっき説明した時に言ったと思うんだけど遺跡であった精霊ってのがいるんだよ―――」


 何の話をしているかついていけない様子のユーリにルカが説明を始めた。ある程度の説明は既にしていたようなので直ぐに終わるだろう。


――――そう、俺がアレと言っているのは遺跡で出会ったあの光る人型、あの精霊の事である。


 そもそも精霊とは何かと言うと簡単に言えばマナそのものである。魔素マナとはこの世界のあらゆるものに宿っているものであるが、そのマナ事態に意思が現れた存在それが精霊である。

 

 意思が現れるといってもそれにはいろいろな条件が必要であり滅多にいる存在ではない、しかし微弱なものであれば実は至るところにいる。

 

 我々では普段感じることは不可能なレベルであるが、同じ精霊であれば簡単に感じ取ることが出来る。特に希少な存在ではあるが高位の精霊であれば、その精霊たちを使役することで様々な奇跡を行使できるのだ。


 それで偶然ではあるが、あの精霊は高位の存在であるようなので。調査は勿論、この場を回復することが出来るかもしれない。


 それに、使えるものは使うのが俺の主義である、早速利用させて貰おう……何かあれば呼べと言っていたし。


説明が終わったらしく二人がこちらへと近付いて来た。見れば二人共緊張しているようだ。ルカはあの時にすで圧倒されていたこともあり、そのルカから説明を受けたのだユーリに関しても仕方ないのかもしれない。


 二人がコクンと頷くのを確認してから早速呼び出すことにする。



首輪に手を添えて意識を向け念じる――――刻まれている文字が輝き始め…



―――来い!!




そう念じた瞬間辺りを光が包み込む――――。



視界を光が多い尽くすなか何かの存在が現れた気配を確かに感じた………しかし何かが前とは違うように感じる…




そして目が慣れ視線を向けたその先にいたのは――――








「喚ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!! 何か御用でしょうかご主人様☆」




 


 そこに現れたのはあの時に出会った光の人型ではなく………似ても似つかぬ、妙にハイテンションに不思議なポーズを決めた一人の少女だった。


「……」


 開いた口が塞がらない……というのはまさに今のようなことをいうのではないだろうか。ともかく突然の事に思考が働かない。


ふと横を見れば他の二人も似たような有様だ、状況についていけずに唖然としている。


それもそうだろう俺が呼び出そうとしたのはあの光る人型の精霊だったはずだ。


「もしも~し? どうしたんですかご主人? 呆けた顔しちゃって」


そう決して今、目の前にいるような能天気そうな少女ではない!!


しかし、いくら見渡しても少女以外の姿は見つからなくて―――


「あれ~どうしたのかな? 他の二人も似たような感じだし……もしかして私に見惚れちゃってました?☆ いや~美少女すぎるのも考えものですね~」

「違うわ!!ボケッ!!!」」

「ややッボケとはあんまりですよ~」


 とりあえず何やら馬鹿なこと言い始めた少女の言葉を遮る。

 

 見たところ年齢はルカたちより少し上くらい、17、18歳ぐらいに見える、貴族の家などにいるであろう給仕の女性に似た服装(所々にフリルがあしらっていたりとあくまでも似た服装というだけであるが)をしている。自分で言うだけあって確かに見た目は良い。黙っていれば神秘的と言っていいレベルの美しさではあった…が言動などで台無しになっている。

 

 それに俺たちが呆けていたのは見惚れてた何かではなく現れたのが予定とかけ離れた存在だったからだ。

 

「聞いていたのと全然違うんだけど?」

「まさかとは思うけど間違えたりしてない?」



 ユーリ達にもそんな言葉とともにジト目を向けられてしまった、どうやら俺が失敗したんじゃないかと疑われているようだ。


「俺は失敗なんてしてないぞ!!」


何度思い返してみても俺にミスがあったとは思えないし、そもそも失敗するようなものではないのだ。


「それならこれはどういうわけ?」


 そう、確かにおかしいのだ俺は失敗してないのに目の前にいるのはどうみても残念少女。



「あれあれ~ 何か揉めてますねどうしましたか?」


当人であるはずの少女の能天気な言葉にイラッとくる。


「お前は一体何なんだよ!!」


 我慢できずについつい怒鳴ってしまった、それに対して少女はキョトンとしたあと口を膨らませる。


「何って酷くないですか? 私は喚ばれたから来ただけなのに!!」


妙な事を言ってきた、喚ばれた? 何を言ってるんだコイツは…喚んだには喚んだがお前ではなく――


「俺が喚んだのはこのアクセサリーをくれた精霊だ!!」

「ほら喚んでるじゃないですか」


「は?」

「だから~私があげたその腕輪もとい首輪で私を喚んだのですよね?」


ん?どういう意味だ、コイツの言っていることを整理するとつまり

……理解できそうだが理性がそれを阻む。


「何を言ってる?俺の言ってるのは光の人形で現れたあの精霊のことだぞ」

「だからそれが私ですよ☆ おかげさまで結構回復出来ました、あの折はありがとうございました♪」

「な、なんだと」


衝撃の事実だった。見ればルカも驚きを隠せないようだ、ユーリはあの時の姿を見ていないために首を傾げている。


「あっその目は信じてませんね。仕方ないですね~ これで信じて貰えますか?」


今だに疑いの視線を向けていると少女はそう言って一つの光球を手のひらに生み出す。その光はどんどん強くなっていき終いには目も開けられなくなるほどの光が辺りを埋め尽くした。


「眩しっ」

「あれ?この光って?」


確かにその光はあの時のものそのままであった。





◆ ◆ ◆




「どうですか? 信じて貰えましたか☆」

「…分かった信じるよ」


胸をはって言う少女もとい精霊少女に力なく頷いた。確かにあの時と同じ光だった、証拠を見せられては認めるしかない。


「一つ聞かせてくれ。あまりにあの時と姿も声も全てがかけ離れ過ぎてないか?」

「あ~それはですねー」


どうやら理由があるらしい、何かと思い身を乗り出して聞くと。


「ほら、よく第一印象が大事って言うじゃないですか、なので精霊っていうからには厳格な雰囲気を出した方が良いかと思いまして。こっちが本当の姿ですよ☆」


しょうもない理由でだった。思わずガクッとしてしまう。


「その服装もそうなのか?」

「ふふっこれですか? もしかして気に入っちゃいました?☆」

「違う!! 珍しい服装だから気になっただけだ」

「またまた恥ずかしがらなくて良いのに」


何でコイツと話すと殴りたくなってくるのだろうか。


「私たちも人間達と一緒で着替えたりしますからファッションですよ☆ とある世界で『ゴスロリメイド服』って言われてる服らしいです♪ 多重世界を観察してた時に偶然見つけまして、可愛いでしょ?☆」


精霊とは俺が思っていたのとは随分違うらしい。


気がつけばルカ達も最初の緊張はどこへやら慣れたようでファッションについて精霊と話し合っている。


一つだけ言わせてほしい――――お前ら順応性高過ぎるだろ!!  

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