第5話魔法
調査を始めて最初に遭遇した敵は、2体のガーゴイル。
小部屋らしき場所に到着すると部屋の真ん中に不気味な像が鎮座している。それを通り過ぎようとした瞬間に襲いかかってきたのだ。俺へと向かって突っ込んできた1体目を魔法、地面から土の槍を突出し撃墜する。それをみた2体目は不利を感じ取ったのか少年に標的を変えて向かっていく。
「判断としては悪くない。だがまだ甘い」
「うわあっ―――ってあれ?」
情けない声をあげる少年だが彼にガーゴイルの攻撃が届くことはない。俺が魔法で作り出した少年を囲む透明な障壁に阻まれ弾き飛ばされたのだ。そこへ一体目と同じように魔法で粉々に粉砕した。俺がいる以上弱いものへと標的を変えたとしても対処することなど造作もない。
「ほら、大丈夫だろう?」
「そ、そうだね、はははっ」
俺の言葉に乾いた笑いを返す少年の顔はどこかひきつっている。証拠を見せるためにギリギリになってから手助けしたのだが刺激が強すぎただろうか、次からは早めに対処するとしよう。
そこからの道のりは順調であった。探知により早い段階で敵を見つけることで遠距離から殲滅していく。これくらいの相手ならば初級の魔法である
罠に関しても落とし穴や、降り注ぐ無数の槍などがあったが、大体は察知することで回避出来るものであったし、発動したとしても障壁の魔法によってすべて防いでいた。
その途中ふと振り向けば、どこか疲れた顔をした少年の姿が。
「どうした? 怪我とかはしてないよな?」
「大丈夫。怪我とかはしてないよ、ただ疲れちゃってね…」
俺の問いにどこか乾いた笑いで返してくる、どうやらただの村人である少年にとっては刺激が強かったようである。
出て来る魔物たちを蹴散らしながら難なく遺跡の奥へと進んでいく。数時間が経っただろうか、後ろにいる少年へと目を向けると、それに気づいたのか声をかけてくる。
「どのくらいまで来たのかな? 結構進んできたと思うんだけど」
「多分まだ半分くらいだろう。どうした疲れたのか?」
「…いや大丈夫だよ。早く進もう」
口ではそういうが疲れてないはずがないだろう。もうしばらく行った先で休憩をとった方がいいかもしれない。そんなやり取りを交わしているうちに広い空間へと到着する。
「うわぁ~広いね」
部屋に入ると少年が感嘆の声をあげる。今まで通過してきたどの部屋より広いそこは円状で半径約百mほどもあるだろうか。どこか
部屋を見渡してみるとその中央に一体の像が、今まで戦ってきたガーゴイルとは違うようだ。それは全身に甲冑を着込んだ騎士のような姿をしている、全長は15mほどだろうか片膝を着いた状態で佇んでいた。それを見た少年が眉を寄せながら話しかけてくる。
「ねぇオズ?」
「どうした?」
「何か嫌な予感しかしないんだけど?」
その言葉が契機になったわけではないだろう。だが案の定ともいうべきか唐突に騎士が動き出す。よく見れば胸のあたりに填っている宝玉らしき綺麗な石が赤い光を放ち始めている。
「あー君が余計なことを言うから」
「僕のせいなの!? 関係ないよね?」
少年をからかうのは程々にして騎士を観察する。立ち上がったその騎士は腰に下げていた鞘から剣を抜き放った。動き始めたことでその身に積もっていた塵などが舞い上がる。作られてから長い年月を経ているだろう騎士であったが、その身体、武器ともに特殊な素材で作られているのだろう鋭い輝きを放っていて劣化などはみられない。
騎士が一歩一歩こちらへと近づいてくる。試しにいままでと同じように初歩魔法を連続で放ってみる。今までの敵であれば難なく屠ってきたその魔法であったが、地水火風空のどの属性の魔法でも傷つけることは出来ない。
「どうやら今までの奴らとは違うようだな」
目前まで近づいてきた騎士がその手に持つ剣を振り上げる。
「うわっつ」
「邪魔だ!!」
その剣が振り下ろされようとしたギリギリのタイミング。一緒に巻き込まれそうになっていた少年を蹴り飛ばし自らもその剣線上から退避する。
間一髪、ギリギリで避けた剣が地面を打ち付けて砂埃を巻き上げる。退避した先で元いた場所を確認すると地面が凹みひび割れてその威力を物語っていた。障壁の魔法があったとしてもあまり直撃は食らいたくない。もし生身で一撃でも喰らえばひとたまりもないだろう。少年は蹴られた場所を庇いながらもその威力に戦慄して震え上がっている。
「ど、どうするのっオズ!」
「大丈夫だから下がっていろ」
問うてくる少年に下がるように命令する近くにいられても邪魔なだけだ。幸いと言っていいことに騎士はそこまで速い動きは出来ないようだ。この間があれば十分に準備が整う。
初歩魔法では効果はなかった。恐らくは魔法に耐性のある素材で作られた騎士型ゴーレムなのだろう。だがその耐性も完璧ではない現にその体に先ほどの魔法による傷が出来ている。ではどの程度の威力があればその限界をこえられるか。はっきりとした答えは不明…であるならばより強力な一手で决めてしまえばいい。
順々に効果があるかを確認するのも面倒である。上級魔法を準備する。威力が高い分巻き込まれる危険性や周囲への被害は気にはなるがこのくらいの広さがあればどうにかなるだろう。先ほど少年を下がらせたのはこの理由もあったのだ。
魔力を徐々に練ってゆく、詠唱を始めて魔力の渦を魔法のカタチへ―――足元に魔法陣が現れる。焦る必要はない、近づいてくる騎士に視線を向けながらも魔法を組み上げてゆく。そして目前に迫った敵に向かって解き放つ――――
が、完成間際になって胸に走った痛みとともに魔法が霧散してしまう。
「な、何だ―――」
そう思ったときには時すでに遅く、目前の騎士の一撃により吹き飛ばされてしまう。
「オズ――――!」
離れた場所から少年の声が聞こえてきていた。かなりの距離を飛ばされたあと地面に当たり擦られてようやく止まる。ギリギリの障壁魔法によっていくらかのダメージは軽減できたが全身が痛む―――だが何とか動けそうだ。
「何故だ?」
先ほどの魔法の失敗について考える。
まず敵からの妨害を考える…がまずその可能性はなさそうだ。自分の魔法を妨害できる程の力は感じられなかった。
失敗時に感じた胸の痛みを思い出し胸元を確認する――――とそこには何かの紋章らしき痣が現れていた。そこに触るとその情報を読み取る。
「――――そういうことか。つくづく邪魔をしてくれるわけだ」
結論から言えばそれは呪いであった。いつかけられたかといえば、あの神官に飛ばされた時しかないだろう。獣に変えられた呪いと関連したものだと目星をつける。
読み取った情報、それと今までの経験上から効果について予測する。この呪いは魔力を制限するものでは無いようだ。それであればもっと早い段階で気がつけた。
初歩魔法や障壁魔法は問題なく使えたことから魔法自体を禁止するものでもない。上級魔法を使おうとした時にのみ効果が現れたということは、つまりある一定以上の上級と呼ばれる魔法を制限するものであろう。
ではどのレベルまでが制限されるのだろうか?
「オズ――――――っ」
再びの少年の呼び声で思考の海から我に帰る。ふと見れば騎士が少年のいる方向へ向かっている。
「ああ、そういえば丁度良いのがいるじゃないか」
先程はダメージを受けはしたがそれは
「せっかくだから実験台になってもらおう」
そう決めて騎士に向かって歩き出す。
さて―――どこまで保ってくれるだろうか?
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