第3話現状確認
唖然としたような表情で固まった少年。よほど驚かせてしまったらしい。そんな少年の体が唐突に揺れる―――そしてそのまま崩れ落ちるように地面へと倒れてしまった。
慌てて近寄って確認してみるが特に外傷もなく体自体に問題はない。どうやら目の前に迫っていた危機が去ったことで気が抜けたのか、気絶してしまったようだ。
頬を軽く叩いてみるが目覚める気配はない。さすがにこのまま放置して置くわけにも行かない。目が覚めるまで待つしかないだろう。
「…ここはどこなんだろうな?」
その合間に現状の確認をしてみる。まずはこの場所についてから、周囲にはどこもかしこも背の高い木々が立ち並んでいる。どうやらここはどこかの深い森の中らしい。何らかの力が働いているのか不思議な感覚のする森だ。念の為に周囲の気配を探る、目を閉じると神経を研ぎ澄まして近くの気配を探るとともに探知の魔法を併用することでより広範囲を調べる。
先ほどの戦闘によるせいか近くには全くと言っていいほどに気配はなく。離れたところに動物はいるが先ほどのような魔物は居ないようだった。
ひとまずの安全が確認できたところで今度は自身の確認をする。
「こんな姿になってしまったのはおそらくあの魔法による影響なのだろうな…。魔法自体の行使は今のところ問題なさそうだ」
一つ一つ口に出しながら確認をしていく。やはりその姿は小動物のそれであり、その理由をあの
「そういえばあのバカは異世界に飛ばすとか言っていたな。すぐに分かる違和感と言えばマナが濃いくらいだが……真偽のほどはまだ分からない…か」
魔法を使う上で欠かせない
「あまり多用はしたくないが一番早い方法はアレしかないか」
現状を正しく認識すための手段として最上の一手として俺のオリジナル魔法がある。とある理由から使用を控えているものであるが背に腹は代えられない。『ある場所』から情報を引き出すその魔法を使おうと準備をする。
「ふむ、パスが繋がらない?」
しかし準備の最初の段階で躓いてしまった。そのことに動揺が走る。その魔法…俺が『
「ん―――っあれ…ここは?」
耳に届いた戸惑うような声に一度考察を中断する。声のほうへに視線を向けるとどうやら気絶していた少年が目を覚ましたらしい、目を擦りながら上体を起こしたところで目が合う。
「あ…イテっ。夢…じゃないみたい」
こちらと目が合うなり驚いた顔をしたあと自分の頬を抓る、夢じゃないかとでも疑ったようだ。夢だと思いたいのは俺も一緒だが残念ながら現実である。
「おう、ようやく目が覚めたか?」
「きみは―――ってそれよりも! あの魔物は? というかなんでここは聖域のはずなのに!!」
また慌て出す様子に若干呆れながらも声をかける。先ほどの言葉に気になる単語もあったが一先ず置いておくことにする。
「落ち着け、あの魔物ならもういない。君も気を失う前にアレが倒れる瞬間をみたはずだが?」
「え? ……あれも夢じゃない?」
焼け焦げた魔物の残骸跡を顎で示しながら言うとまた呆けた顔になる。すこしの間の後、深呼吸をしてようやく落ち着きを取り戻した。事態をなんとか飲み込んだらしい。
「落ち着いたか?」
「う、うん。何とかね…えっと助けて貰ったのかな?」
「俺も狙ってきてたからな。結果的にそうなっただけだ、気にする必要はない」
「そっか、…でも助けて貰ったのも事実だよね。 ありがとうございます、おかげで助かりました」
馬鹿丁寧に頭を下げて礼を言ってくる少年に少し驚いた。得体の知れないであろう自分にそんな丁寧な言葉をかけてくるとは思わなかったのだ。
「君は馬鹿なのか? こんなに怪しい姿の奴に礼を言うとは、襲われないとも言い切れないだろう?」
だから思わず思ったことをそのままぶつけてしまう。
「だってそのつもりなら気絶しているうちにどうにでも出来たでしょ? それにただのカンだけど君はそんな悪い存在だとは思えないし、あんな魔法を使える人に敵うはずもないから」
恐怖を感じていないわけでは無いようでその体は若干震えているようだった。ただ面と向かってそんな言葉を言うとはどうやらただの馬鹿では無いらしい。
もとより彼を襲うつもりなどはない。考えても見ればこれはいいチャンスである。現地人である少年には聞きたいことが山ほどあるのだ。
「まあ君を襲うつもりは無い。ただいくつか質問したいことがある」
「良かった。良いよ僕が答えられる事なら」
少年の了承を得られたことで聞きたい質問を早速ピックアップしていく。
「まずはじめに―――」
最初にした質問は現在位置に関すること。
それによるとここは『クラウディア王国』という国らしい。そしてそのクラウディア王国の南端に位置する『ウェスタの村』というのが目の前にいる少年が住む村であり、そこから数刻ほど歩いた先にあるのがこの森だということだった。
やはり俺が飛ばされる前にいたセレナリア王国とは全く違う国。それにクラウディア王国という国名は全く記憶にない。いくら隠遁生活を送っていたとはいえ名前を知らない国が生まれたなどということはまずないはずだ。一度中断していた先ほどの疑念はよけいに深まる。
続けての質問は先の少年の話の中でで引っかかった『聖域』という言葉に関して。ここが何か特別な場所だというのならばこの場にいる以上無視も出来ない。
「聖域か…」
「うん。僕らの村ではそう呼ばれてるんだ。魔物が近寄らない不思議が力が働いている森でね。安全な場所だからここで薬草集めをしていたんだけど…魔物が現れるなんて」
少年の説明によると『聖域』というのは彼の住んでいる村での呼び名であり。普通の森であれば自然発生してしまう魔物の類が全く現れない特殊な森であるらしい。現に先ほどまではそれらの気配は全くなかったようで突然の異常に少年は動揺しているようだ。
それを聞いているうちにあることを思い出す。それはこの森に落ちてきた時の事だった。
「……もしかすると俺のせいかもしれないな」
「え?」
その言葉に少年がが驚いた顔を向けてくる、そんな彼にここに落ちてきた時に感じた何かを貫くような衝撃があった話をする。先ほどから突然起こった異変。そのタイミングと先ほどの探査で得た情報を鑑みるにその可能性は十分に高い。
「何かが割れるような感覚があったんだが、あれがこの森を守っていったのかもしれないな」
「そ、そんな!! この森には貴重な薬草が自生してるんだ…もしそれが荒らされでもしたら」
見る見るうちに狼狽えて青ざめていく少年。そんな彼をみて若干申し訳なく思えてくる。周囲の状況を改めて探ってみる。この森の周囲に焦点を当てて詳しい情報を探る。すると先ほどは気づかなかった僅かな差異、徐々にではあったがその力らしきものが復元されていくのが感じ取れた。
「…どうやら大丈夫そうだな。数日もすればもとに戻るだろう」
「本当に? 何でわかるの?」
その疑問に『魔法』と言う言葉を返す。種類こそ違えど目の前でその力を見せられていた少年にはその言葉で十分だろう。案の定少年の表情は安心したような表情へと変わっていた。
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