第8話 子供の喧嘩に親が出て来た。

 しかし問題が無かった訳ではない。ある日、小春と春樹か泥だけで、おまけに怪我をして帰って来た。千春が問い詰めても、ふざけで遊んで怪我をしたという。納得の行かない千春は更に問い詰めた。すると公園で遊んでいる時に小春が男の子に虐められたそうだ。怒った春樹が小春を虐めた男の子を殴ってしまった。すると近くで見て居た母親が凄い剣幕で小春と春樹を殴り飛ばしたそうだ。それを聞いた千春が子供の喧嘩に親が出てくるとは何事かと相手の家に怒鳴り込んだ。何処の母親でも子供が可愛い、我が子が相手の親に殴られたと聞き、千春は怒りが沸騰した。文句を言おうと、その家に向かうと、どうやら旅館の裏手のようだ。親は旅館の関係者だろうか。


「突然失礼致します。貴女が友則くんのお母さまでらっしゃいますか」

「なんですかアンタ、人の家に怒鳴り込んでくるなんて」

「別に怒鳴り込んだ訳ではありませんが、申し遅れました。私は小春と春樹の母で御座います」

「それでなんの用件で来たのかしら。まさか子供の件で……」

「ええ普通なら子供の喧嘩ですから、ほって置きますが、聞いた所に依りますと、あなたがうちの子を殴ったそうじゃないですか。本来なら喧嘩両成敗で仲直りさせるんじゃないですか、それが頭に血が登って殴ったそうですね。それが大人のすることですか」

「冗談じゃないわよ。私も手を出だしするつもりはなかったけど、双子姉弟二人がかりでうちの子を殴ったのよ」

「あら? 春樹の言い分と違いますね。春樹は小春がお宅の子に殴られたから仕返ししたそうですよ。それを二人がかりとは、小春は女のですから殴られた相手に立ち向かえる勇気はありませんよ。勝手な言い分ですね」

「うちの子が殴られて黙っている親がいますか」

「子供同士の喧嘩なら私は何も申しません。けれど大人が出て来たら話は別です。謝る気がないなら出る所に出ましょうか」

「どうして私が謝らないといけないの。それでどこに行くと言うのよ」

「勿論、警察です。子供同士の喧嘩なら問題ないですが、大人が子供を殴ったのだから、立派な傷害罪ですよね。更に大怪我して後遺症が残ったら高額な慰謝料と禁錮刑三年以上になるわよ」

「そ! そんなぁ脅し気なの」

「別に事実を言った迄です。信用出来ないなら警察でハッキリさせましょうか」

警察に訴えると意気込む千春に、流石のこの親も何も言えなくなった。更に千春は畳み掛ける。

「まぁ怪我をしていなくても暴行罪、子供が受けた苦痛。これは立派な犯罪ですよ。私だって騒ぎたくありませんよ。まぁご近所ですし今日の所は引き揚げますが、反省してくださいね」

 千春が帰った後、この母は震え上がったそうだ。


 こうなると収拾がつかなくなる。千春もカッカッしていて以前起きた旅館でのよう大岡裁きとはいかなかった。狭い町だから噂が広がるのが早い。当然、小端屋旅館女将の耳にも入って来た。このことは千春に内緒で事が進んだ。調べたところ相手も同業者だと分かった。旅館組合では時おり会っており、知らん顔が出来ない。女将は相手の母親と会った。

「どうも先日はうちの仲居がご迷惑を掛けたそうで、申し訳ありません」

「あれ小端屋の女将さんじゃありませか。どうしました。まさか女将さんのところの仲居さんなの」

「はい、普段は大人しい子なのですがね。自分の子供の事とると別人になりまして。本来は大人しい子のですが、気は人一倍強く、以前私の旅館で盗難事件がありまして仲居を捕まえて『お前が取ったのだろ』と先輩の仲居が泣き出して、そこにあの子が来て『お客様冷静になって下さい』と今度はお前が取ったのかと喚き散らして大変でした。すると、お客様此処では他のお客様迷惑になります。外でお話を、いくらお客様でも証拠もなしに泥棒呼ばわりされては人権問題になります。もし財布が出て来たらどうします。これだけ騒いでは営業妨害になりますよ。法律的な言葉を並べたてたら大人しくなりました。そのあと、奥さんが財布持って風呂場行った事が分かりました。慌てたのはその泥棒呼ばわりしたお客さんで、でもあの子は、責めもしないで、良かったですね、ではお休みなさいで一件落着でしたよ」

「そんな事があったのですが、頼もしい仲居さんですね。度胸もあるし口が達者なんですね。法律にも詳しいようで、私も傷害罪とか言われました」

「御免なさいね。よく教育して起きますから、あの子は大学で法学部に入っていましたから法律には詳しいですよ。親の後を継ぐ傍ら弁護士を目指して居たそうです」


「どうりで法律に詳しい訳ですね。私も正直驚きました。私のところに怒鳴り込んで来たんですよ。まぁ私もカッとなってその時は収まりが付かなくて。発端は子供の喧嘩ですからね。私もいけないです義母に叱られました。子供の喧嘩に大人が首を突っ込むなと」

「まぁ双方に言い分があると思いますが。人の家まで押しかけて行くなんて行き過ぎです。その辺はお詫び致します」

「いいえこちらこそ申し訳ありません。女将さんまで出向いて貰って。後から聞いた話なんですが、旦那が居なく一人で育てているとか」

「まぁそうなんですが、一人で育てなくてはいけないから自然と気が強くなるようで」

「気持ちは分かります。私なんか旦那や女将さんに見守られているので我が侭になってしまって」

「あの子は鎌倉で酒造業を営んでいる、そこのお譲さんなのですよ。一人っ子で婿を取って後を継ぐ運命だったんですよ。それが大学を中退し自分がしでかした過ちで千葉まで来て働く事になったんですよ。でも優しい子でね、今では私の娘のように思っています」

「大学の法学部に通っていたのですか。どうりで頭の回転が早いようで、苦労しているんですね。こちらこそご迷惑をかけまして。女将さんまで出向かせて貰い申し訳ありません。今後とも宜しくお願い致します」

 そんな出来事があったとは知らず、千春はまさか女将が出向いているとは驚きだ。



つづく

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