第4話 仲居修行も先輩は辛く当たる。
それから二日後、千春の実家では何処を探しても見つからず、もう一度千春の部屋を探して見たら、手紙を見つけた。両親は置手紙を読んで茫然としている。すると千春の母春子が。一徹に文句を言う。
「貴方が強引に事を進めるからよ。あの子だって子供じゃないのよ。有無を言わさず殴ったからよ、それは不味いわよ」
「……まさか家出するとは思っても見なかった。そうだ学校に連絡して見よう」
大学に電話を入れたが既に退学届けが出されていた。もはや何処に行ったか見当もつかない。母の春子はその場に泣き崩れた。だが父の一徹は心配を通り越して怒って。
「まったく親不孝者め。あのくらいで何が不満なのだ」
千春は翌日から旅館で働いた。これまでアルバイトはしたことあるが本格的に働くのは初めてだ。これから同僚であり先輩の仲居二人は、最初は親切に教えてくれたが、要領が悪い千春に次第に厳しく当たるようなった。しかし何を言われようと我慢して働かないと行く所がない。
千春は旅館の近くにある産婦人科を訪れたのは妊娠四カ月目に入った頃だった。
「奥さん、おめでとうございます。双子ですよ」
「えっ? 双子。確かに目出度いけど二人も育てる自信ないわ。どうしょう」
「大丈夫ですよ。夫婦で力を合わせれば」
「それが……結婚していないんです。だから一人では厳しくて」
「ほうそんな事情が、それならご両親に協力を仰ぐとか」
「それも勘当同然に出て来たので頼めません」
「なんとまた。それなら役場に行って相談した方がいい。後で看護婦さんから資料貰って役場に行きなさい。育児支援という制度があるから」
それから暫くして朝倉幸太郎は千春の子供が出来た事を知らずに婚約したらしい。それを親友の咲子から知らされたが千春は動揺も祝福もしなかった。もう人の事を心配している余裕もない。大きなお腹を抱えて頑張ってはいるが仕事が遅いとか要領が悪いと先輩の仲居に辛く当られる日々だが父親に似て強気な性格の千春は文句ひとつ言わず働いた。いくら怒鳴られても嫌な顔ひとつせず先輩の苛めに近い仕打ちに耐えた。
「女将さん、なんでまた妊婦なんか雇うのよ。こっちか迷惑よ」
「なんでも姪っ子さんに頼まれたらしいの」
「どうでも良いけど迷惑な話よね」
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます