第2話  千春,家出をする。

「千春こんな時間にどうした。びしょ濡れになって。あれ……泣いているの」

「あのね咲子、聞いてくれる。ほら幸太郎さんって人知って居るでしょう」

「うん、もう付き合って一年ちょっとよね。将来結婚するんでしょう」

「私もそのつもりだった。だけど父が縁談の話を持って来たの。私は後継ぎだから仕方ないけど、いきなりだものね。それで幸太郎さんに私を連れて逃げてと問い詰めたの」

「うんうんそれで、まさかその人が逃げたの」

「そうなるかな、人は良いけど意気地がないのよ。情けない。でも良かった早く分かって」

「そう言えば気が弱そうな感じだったね」

「仕方ないわ。縁談の話、これで踏ん切りがついたわ」

そんな時だった。千春は急に気持ちが悪くなり吐きそうになった。

「千春どうしたの。何が食中りするような物を食べたの?」

「……」


「まっまさか千春、妊娠したんじゃないでしょうね」

「分らない。でもどうしょう。こんなじゃ親にも顔を合わせられない」

「もう何やってんのよ。じゃ幸太郎さんに責任取って貰わないと」

「無理よ。さっとき別れたばかりだし、それにあんな男なんかもう二度と会いたくない」

「意地張っている場合じゃないでしょう。これからどうするの」

「お願い、こうなったら咲子だけが頼りよ。お願い行く所がないの。今夜泊めてくれる」

「それは構わないけどご両親になって話しつもり」

「もう家に帰れない……」


 その翌日、隣町の産婦人科で調べて貰ったら三カ月目に入っていると分かった。間もなお腹が目立つようになるのは時間の問題だ。五日後に縁談の相手と会う事が決まっていたが、千春はもう家に居られない。また親にも妊娠しているなんて言えない。もし告白したらすぐ降ろせと言われる。翌日、幸い親は親戚の家に用事で出掛けている。千春は自分の通帳と私物を出来るだけ持ち出し、親友の咲子に頼み車を手配して貰い、咲子と一緒に久里浜のフェリーターミナルまで来た。


つづく

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