萌えの供給
「さ、さて!! とりあえず魔王は消滅しました!! 先生は騎士団に。レイヴンは魔法師団に警戒態勢の解除を伝えてもらえますか?」
「あぁ」
「まかせろ」
私の指示に頷くと、先生はそのまま風魔法で、窓を開けて観戦していたグレイル隊長たちの元へ飛び立ち、レイヴンは伸びをしながら騎士団本部の方へと歩いて行った。
「レオンティウス様とエリーゼは、アレンを医務室へ。ゆっくり休ませてあげてください。クレア、お疲れさまでした。学園に戻って、今日はもうゆっくり休んでくださいね」
「了解よ」
「もちろん」
レオンティウス様がアレンを抱えてエリーゼがそれに付き添う。
「ヒメ、あんたも人のことばっか言ってないで、できる限りちゃんと休みなさいよね」
クレアのお小言に苦笑いしながら「はーい」と緩く返事をする。
一人ひとりに指示を出してあらためて実感する。
皆が、誰一人欠けることなくいる未来。
私が目指していた未来。
これでもう、これからはおびえることはないんだ。
大切な人が、死んでしまう未来に……。
「あ、エリーゼ」
「ん?」
「……ありがとう、ございました」
「ふふ。ううん、これは私の……私の、罪滅ぼしでもあるもの」
そう言って悲し気に笑ってから、エリーゼはレオンティウス様について訓練場を後にした。
罪滅ぼし──。
そういえば医務室でも彼女は贖罪だと言っていた。
もしかして、濃く追おうと王妃のことを覚えて……?いや、覚えているならばこんなに落ち着いてはいられないはず。
だってこの世界で一番力を持つ二人を消滅させてしまったんだもの。
でもだったらなぜ……?
「カンザキ」
「先生」
考えをまとめているところで、名前を呼ばれた方へ視線を向けると、ポン、と大きな手が降って来た。
な、撫でられてる?
いや、手の置き場にされてる?
「もう伝えてきたんですか?」
「あぁ」
さすが、仕事が早い。
「グレイルに任せてきた」
先生が人に任せることを覚えた!?
「せ……成長だ……」
「何か失礼なこと考えてるだろう……」
低い声で静かに口にしながらも頭を撫でる手は止めない。
どうした先生。
何か悪いものでも……。
「食べてない」
相変わらず私の心の声を読むスキルは健在のようだ。
「……大丈夫なのか? 身体は」
「は、はい、多分」
魂を取り込んで私も魔王に支配されることを心配しているのだろう。
「大丈夫ですよ。きっと。魔王となって黒く染まった魂は消滅し、残ったのはエルフであった時の魂だけですから」
大丈夫だという確証はないけれど、私の勘が大丈夫だと知らせている。
何より鬼神様がついているんだ。問題ないはずだ。
「……そうか」
安堵したように先生がわずかに表情を緩める。
冷たそうに見えて。本当はすごく心配してくれてるんだよね。
はぁ……好き。
「疲れただろう。部屋へ戻って、早く休みなさい」
「あ、でも……先生、何か話があるんですよね? 待ってますよ」
エリーゼが目覚めたことで話が途中になってしまったけれど、私も早くその続きが聞きたい。
うぬぼれかもしれないけれど、でも、もしそれが私の望む言葉なら──。
「……いや、またにしよう。魔王の魂でないにしろ、身体に負担はかかるだろうし、私も大司教に報告しに行かねばならない」
そうか。
元々魔王の封印された剣は、神殿の管轄。
大司教様にもきちんと報告すべき、か。
「なら私が大司教様のところに──」
「いや、君は休みなさい。私一人で十分だ」
「でも、それじゃ先生の休む時間が──」
「問題ない。普段通りだ」
確かに普段から仕事ばっかりで休んでる感じはないけども──!!
社畜根性が染みついちゃってるのかしら、先生。
悔しいけれどこんな時の先生を止めるだけの口を私は持っていない。
私は深くため息をつくと、
「わかりました。よろしくお願いします」
と先生に頭を下げた。
「で、でも!! 終わったらすぐに休んでくださいね!! その……倒れるんじゃないか心配なので……」
ただでさえオーバーワーク気味なのだ。
少しでも休んでほしい。
私が言うと、先生は頭に乗せたその手をぽんぽんと動かしてから、
「わかった。では、おやすみ」と少しだけ頬を緩ませてから、訓練場から立ち去った。
何、あれ……。
萌え殺す気か──!!
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