二人きりの二次会
「かんぱーい!! さ!! 今日の疲れを労い合いましょうっ!!」
「……労うのはいいが……。君はパーティ会場であれだけ飲んで食べてを繰り返しておきながらまだ食べる気か」
そう言った先生と私の目の前には、机の上いっぱいに並べられたつまみ。
もちろん飲み物はお酒、ではなく、果実ジュースだ。
まぁもう名実ともに大人なんだからお酒も飲んで良いんだけど、先生からの許可が下りないので我慢だ。
「先生は別腹です」
「私は食べ物ではない」
先生ならおいしくいただける自信があります!! ……って言ったら多分ものっすごい引かれるだろうから、心のうちに留めておこう、うん。
「先生、今日はありがとうございました。ふふ、まさか公爵として来てくれるなんて思わなかったから、びっくりしました」
「女王の一番目のダンスの相手はとても重要だ。基本は王族か高位貴族だが、あの場で他国のどの王侯貴族を選んだとしても、後々面倒なことになる。特に今回は即位記念のパーティだからな。であれば、国内の筆頭公爵家である私が行くのが適任──いや……違うな」
「え?」
「私が、譲りたくなかった」
まっすぐにこちらに向けられた綺麗なアイスブルーに、私の間の抜けた顔が映りこむ。
譲りたくなかった?
それは誰に? 何を?
それを聞いて、もし思っているような答えではなかった時が怖い。
諦めていた。
わかったふりをしていた。
なのに、一度期待してしまったら今度はそれが覆るのが怖い、だなんて。
「えっ……と……。そ、そうですよね!! 私みたいなダンス音痴と踊って、もし他国の要人にダンス一発目から怪我でもさせたら事ですもんね!! 安全のためには身を挺して一番バッターを務めてくれる筆頭公爵……さすがです、先生」
「違う!!」
「!?」
声を荒げて否定の言葉を投げつけた先生に、思わず肩が跳ねる。
呆然とする私のすぐ隣で、先生がどこか切羽詰まったような、何かに耐えるような表情で私を見下ろしている。
「今まで言葉にすることにたくさんの壁がついて回った。教師と生徒という立場。大人と子供という立場。そして戦争という世の流れ。他国との調和。王位の継承。だが今は──ようやくすべての壁が無くなった」
「壁が?」
どくん。どくん。
鼓動が妙に早く胸を打ち付け始める。
呼吸が浅く早くなっていく。
私は先生の言葉を、ただ待った。
「君はもう、大人だな?」
「はい。むしろ前から大人だと──」
「生徒ではないな?」
「はい。生徒クビです」
「戦争も終結し、他国との調和も取れ始めた」
「そう、ですね」
「王位も継承した」
「はい」
「君は女王になり、私は護衛騎士になったが、まだ筆頭公爵であり、騎士団長でもあり、グローリアス学園の教師という身分もある」
「情報過多です先生ぇぇぇえ!!」
役職ありすぎて過労死の心配が再浮上したんですけど⁉
「し……死なないでくださいね? 先生」
「勝手に死亡ルートを作るな馬鹿者」
いやだって放っておいたら普通に過労死しそうなんだもん。魔王は今話足がアレンの中にしっかりと留めているから、それによって先生が死ぬルートは消えた。
そしてもともと先生がやろうとしていた命懸けのエリーゼをよみがえらせる魔法も私が成功させた。
もう何も、先生が死亡するというルートはなくなったはずなのに、なぜか付きまとう過労死ルート。
まったく先生は。人の気も知らないで。
「とにかく、だ。もう私を縛り続けていたものはどこにもなくなった」
揺らぎのない真剣なアイスブルーのまなざしが、私を射るように見つめる。
「どの時代も、君は変わらなかったように、私も変わらない。私は、君だから口づけた。君以外にそんなことはしない」
「っ……そ、それって……」
はやい。
どうにかなってしまいそうなほど鼓動が早くてついていけない。
私のそんな事情なんて待ってくれるわけもなく、先生は続ける。
「カンザキ。私は──私は君のことが──」
「っ……」
ゴンゴンゴンゴンッ!!
「!?」
緊張で張り詰めた中、突然激しく扉が叩かれて、私の意識は現実に切り替わった。
危なかった……!!
都合のいい脳内妄想の虜になるところだった!!
「は、はいっ!!」
すぐに返事をしてから扉に駆けてそれを引き開けると、そこには方で荒い息を繰り返すレオンティウス様の姿。
「レオンティウス様!? どうしたんですか、こんな時間に」
「ヒメ──っ、あら、お取込み中? ごめんなさいね。でも急いでて……」
すぐに私の後から顔を出した先生に気づくも、余裕のなさそうなレオンティウス様はそのまま言葉をつづけた。
「ヒメ、シリル。すぐにきて。エリーゼが……エリーゼが、目覚めた──!!」
「!!」
エリーゼが……目覚めた──……。
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