私は私のままで
一曲目を踊り終えた私たちは、拍手と歓声入り混じる中、周りの人々に向けてお辞儀をした。
「では、私は護衛に戻ろう」
「はいっ、よろしくおねがいします!!」
配偶者や婚約者以外と二回続けて踊るのはマナー違反。
当然ながらそんな間柄ではない私達は、ダンスの輪から外れると、私の手を取ってエスコートをしてくれていた先生の手はすっとひっこめられた。
少しだけ寂しさが残るけれど、仕方がないよね。
「女王、よろしいですか?」
「えぇ、もちろん」
すぐにダンスに誘われた私は、先生に一度視線を合わせてから頷くと、再びダンスホールへ戻っていく。
そして私は他国の来賓をはじめレオンティウス様やレイヴン、他の貴族たちとのダンスを代わる代わる踊った。
ある程度のところで先生が私の休憩時間を確保してくれてダンスのお誘いが途切れる。
そういえば、グローリアス学園のAクラスの生徒たちは平民だから外の会場なのよね。
ここにいる同級生は皆どれも貴族。
平民クラスの同級生とは会場が異なってしまう。
各国の王侯貴族が来ているから会場をわけることは仕方がないけれど、やっぱり、今まで一緒に頑張ってくれた同級生達や町の皆さんに直接会って交流したい。
「……外、かぁ……。──よしっ」
「カンザ……陛下。何を?」
「先生、ちょっと私、皆に会ってきます!!」
「────は?」
訝しげに首をかしげる先生をよそに、ホールの出入り口へと足を進めた。
そしてくるりと向きを変え、中会場の招待客に向けて声を上げた。
「これから少し外会場にお邪魔してくるので、皆さんはごゆっくり楽しまれてくださいねぇぇえええ!!」
「は!?」
険しい顔で声を上げる先生や驚きざわめく来賓を置いて、きらきらと輝くドレスの裾をたくし上げ、外へと飛び出した。
バンッ!! と勢いよくエントランスホールの扉を開けると、目の前には大勢の人──。
「あ!! ヒメだ!! 遊びに来てくれたんだ!!」
私に気づいた子供が声を上げる。
親御さんはそんな男の子を嗜めているけれど、今の私にはむしろそんな無垢な言葉がありがたい。
きらびやかで明るい中会場とは違って、夜の帳が降りきった中を宙に浮かぶランタンがぼんやりと照らし、幻想的な雰囲気を演出している。
だけどこの賑わいがどこか町の市場のように見えて、なんだか気易くて安心するわ。
あら?
あんなところに見えるのはたくあん大盛り亭のおかみさん!!
あ!!
こっちには孤児院のシスターズ!!
あぁっ!!
あそこに見えるはクレアのお父さんとお母さん!! それにゼノも一緒だわ!!
見知った顔をちらほら見つけては嬉しくて頬が緩んでくる。
立場、名前、姿。
変わっていったものの中で、変わらずにいてくれる存在はただただありがたくて、安心感を覚える。
そんな彼らにとって私も、変わらぬ私でいたい。
「すぅ~~~~~……っ、皆さぁぁああああん!!」
大きく息を吸い込んで、ありったけの声を集中させた。
後ろで私を追ってきた先生のため息が聞こえるけれど気にしない。
気にしたら負けだ。
「来てくれてありがとうございまぁぁああああす!! 変わらずにいてくれて。私をちゃんと見てくれて。ありがとぉおおおおお!! まだまだ頼りない私ですけど、大切なこの国と皆さんのために、これから頑張るから!! だから、皆さん、これからも私のことを、生あたたかぁぁああく見守っててくださぁぁああい!!」
私の叫びに、一瞬にして場が静まり返る。
えぇ!? 何で!?
ここは盛り上がるところじゃないの!?
私なんか変なこと言った!?
こうも予想の反応と違えば、さすがに不安にもなる。
そこへ後ろから先生がぼそりと「生暖かくじゃダメだろう……」とつぶやくのが聞こえた。
「……」
あぁああああああああっ!!
ま、まずった……。
いつも基本生暖かい目で見られているという謎の自覚が前面に出てしまったぁぁあああっ!!
とりあえず先生!!
残念な子を見るような目でこっちを見るのはやめてぇぇえ!!
「……ぷっ」
まさに四面楚歌状態状態でパニックを起こしている私の耳に、小さく届いた笑い声。
「っははははは!! 何だそりゃ!! 生暖かく見守られるならいつも通りじゃんっ!!」
「アステル!?」
「もう、ヒメったら。でもそういうところ、変わってなくて良かった。おかえり、ヒメ」
「クレア……っ、はいっ!! ただいま!!」
変わらない二人に、私はふにゃりと笑った。
それから私は、外会場でアステルやクレアとたくさん食べまわりながら、皆との交流を、中では貴族間の交流を楽しんだ。
こういうのは楽しんだもん勝ちだものね!!
夜が更けるまで。
私は、私として。
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