先生に顔をびみょーんてされ隊

 先生の片手が腰に回り、じんわりと熱が伝わって、私たちはホールの中央で踊り始める。


 何度もジオルド君や先生と踊ったワルツ。

 ダンス音痴の私が唯一不安なく踊ることのできる曲だ。


「遅れてすまなかった」

「大丈夫ですよ。それよりその服、とっても素敵です……!! 先生は何を着ても素敵ですけど、そのブローチもとっても先生に似合ってますし、マントを翻し歩く姿なんてもう孤高の騎士!! まさに天から遣わされた──」

「とりあえず落ち着け」


 先生からのストップがかかって、私はあわてて口を閉じた。

 危なかったぁー……。

 危うく公衆の面前で愛が漏れ出るところだった……!!


「君もそのドレス、良く似合っている。が……まさか揃いにするとは……あのタヌキ……」

「え? これフォース学園長が用意してくださったんですか⁉」

「あぁ。せめてもの罪滅ぼしだとか言って、この服を渡してきた。おそらく記憶忘却についてなんだろうが……。到底足りるわけもないから、今の今まで奴の頬を伸ばし続けていた」


 良く伸びるもんね、あのほっぺ。

 でも私も先生にほっぺびよびよしてほしいぃぃいいいい!!

 羨ましいぞタヌキエルフ!!

 と、心の中でだけ叫ぶ。



「フォース学園長、気にしてらしたんですね?」

「みたいだな。まぁ、これぐらいで許す気はないが」


 おぉ……怖い……。

 さすが鬼の騎士団長様。目がマジだ。

 あぁ、でも……。


「……ごめんなさい」

「?」

「記憶に関しては私もわかっていながら止めることをしませんでした」


 ただ、過去を変え、今を変えてしまってはいけない、そのことだけを重要視してきたけれど、巻き込まれた先生たちとしてはたまったもんじゃないわよね。


「私も同罪なので、ほっぺびみょーんってしてください!!」

「それが本音だな?」


 バレた。


「そ、そんなことは──!!」

「それはまた、希望であれば二人きりの時に。今ここでしたら、君の伸び切った顔を全国民に晒すことになるぞ。それでもいいならばここでしても構わないが」

「ふぁっ!?」

「知っているか? 君の頬は、フォースよりも伸びが良い」

「!?」


 カッコいいが過ぎる!!

 何その悪い笑み!!

 反則ですよ先生!!


 内なる私が血をのたうち回り悶えるも、外側の私はそれを取り繕うように穏やかに笑う。


「先生」

「ん?」

「その顔、褒美です。やっぱりうちの推し最高……!!」

「……」


 ぁ、繕いきれんかった。


「先生になら縛られてもつるされても私としてはご褒美ですからね」

「人を変なへきのある男のように言うなこの変態娘」

「何を言われてもデレにしか聞こえません先生」

「都合のいい耳だな。良い治療院を紹介するからその壊れた耳を何とかして来い」

「ツンデレ最高……!!」

「……」


 周りで私たちのダンスを見守る人々は思いもしないだろう。

 微笑みあいながら優雅に踊っている私たちがこんな会話を繰り広げているだなんて。


「ぁ、先生」

「なんだ?」

「今夜、少しお話させていただけませんか? その……、聞きたいこともありますし……」


 なぜあの時キスをしたのか?

 あの言葉はどういう意味なのか?

 記憶が戻ったのか?

 わからないことだらけだ。


「……あぁ、わかった。私も君に伝えたいことがある」

「伝えたいこと?」


 そういえば 戴冠前に言ってたっけ。

 何の話なんだろう?


 も、もしかして、私が知りたいことと同じ、だったり……!?

 ……いや、先生のことだ。

 あまり期待はできない。

 変なところで天然ぶちかますし、なんたって純粋培養なんだから。

 色恋なんて期待してはいけない、絶対に。


「じゃぁ、お部屋で二次会、ですね」

「あぁ」


 そのくらいに考えていた方が気が楽だ。

 今はとにかく、この場で女王をしっかりと務めることに専念しよう。


 でも少しくらい、今のこの夢のような時間を楽しむことは、許される、わよね?





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