最後の”愛してる”を貴方に
大丈夫。できる。
だって──。
愛する人のためだから──。
「……私は、この王冠と共に、王の力を受け継ぎました。そして私は、ある目的のために、今までずっと、魔力を強くしようと修行してまいりました。これまでで得た力と、王の力を合わせることで、その目的は達成することができる。──皆さんはご存じでしょうか? かつて自身の魂ごと魔王を封じた、聖女エリーゼのことを」
歓声がざわめきに代わる。
知らぬものなどいない。
国民も、騎士達も、貴族たちも、驚きざわめきながら私を見上げた。
「彼女は自身の魂ごと、魔王を封じました。そして平和は訪れた……。……この良き日。彼女の魂へ──」
そして私は、大きく息を吸うと、自分の中に流れる魔力を放出させた──。
「この歌は あなたへの道しるべ
声のする方へ歩いておいで
遠い日語り合ったあの日の声を思い出して
いくつもの朝と夜を超えて
希望の光が今降り注ぐ
闇は今消えるから
あなたを待つたくさんの人の声を聴いて
思い出の中に置いてきた幸せを
あなたを待つ人のぬくもりをたどって
それはきっとあなたへ続く道だから」
歌に乗せて流れ出る魔力の風が私の髪を大きく攫い、私の目の前、大階段の中腹に、ピシリ、ピシリと、音を立てて大きな水晶が幾重にも重なる。
それはさながら、水晶の繭のよう。
もう少し。あと少し。
エリーゼ──!!
お願い……!!
皆が、アレンが、先生が、あなたを待ってる──!!
願いを込めながら魔力を余すことなく注ぎ込むと、次第に水晶の中に形付いていく人の影。
「!! ──エリーゼ……」
背後から彼女の名をつぶやく低い声。
私は一度だけ振り返り、その声の主を見た。
綺麗なアイスブルーが大きく見開かれ、呆然とそれを見つめる先生と視線が交わって──。
「先生」
「……カンザキ?」
──私はふにゃりとほほ笑んだ。
これが最後の
“愛してる──……”
口の動きだけだけど、伝わったかな?
伝わらなくても、いいか。
私は再び目の前の繭に視点を当てると、両手を突き出して残りの力を一気に注ぎ込んだ。
それでも注ぎ込む魔力を跳ね返そうとする摂理の力が働いて、その波動の強さに身体がのけぞりそうになるのを両足に力を入れて踏ん張る。
そそいでもそそいでも見えない波動に跳ね返される。
こんなに魔力を使うなら、命懸けだというのも頷ける。
まぁそうよね。
封印された魂をこちらに呼び戻そうとする。
それは自然の摂理からかけ離れたものなのだから。
でも確実に、届いてる。
ふと、クレアの隣でこちらを驚きの表情で見上げるアレンと目が合って、私は彼に微笑んだ。
大丈夫だよ、と。
だってほら、もうエリーゼが見えてる。
ピシリ、ピシリと音を立ててクリスタルにひびが入る。
今だ──!!
大丈夫。私はその言葉を覚えてる。
だって何度も繰り返された彼の死の後、彼の研究書に書いてある呪文を、しっかりと心に刻んでいるもの。
もう繰り返させない。
私が、終わらせる──!!
「昏き門よ。我が力を糧として、扉を開き、その者の魂蘇らさん!! 我は──セイレ国王、ヒメ・カンザキ・ヴァス・セイレなり──!!」
その真名と魔力を詠唱に乗せた瞬間、疾風が吹き荒れ、白光がさし、そして──。
バリィィィィイイイイイン……!!
クリスタルが──弾けた。
ブロンドの髪をふわふわとなびかせ、解放された美しい聖女がゆっくりと階段へと舞い降りる。
「エリーゼ!!」
アレンが彼女の名を呼びかけよると、未だ目の開いていない最愛の妹を抱きしめた。
上下を繰り返すエリーゼの胸元。
よかった。息がある。
あとはゆっくり目覚めるのを待つだけね。
「聖女を治療室へ。じきに目覚めるでしょうから」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
もう、立っているのもやっと。
はは、やっぱりすごいわ。
蘇りの魔法は……。
私はもう一度会場の人々を目に焼き付けると、歓声を送る彼らに向けてカーテシーをし、そしてくるりと背を向け、反対側の階段を下りて城内へと入城した。
続いて先生やレイヴン、レオンティウス様が入城する。
あぁ、もう、目がかすんで……。
眠……い──……。
「カンザキ!!」
大好きな人が私を呼ぶ声が遠くで聞こえた──。
─あとがき─
第四章完結です!
次回から第五章、最終章になります。
これからヒメちゃんはどうなってしまうのか。
ヒメちゃんとシリルの関係は!?
皆様お楽しみに!!
よろしければ、作品フォローや☆で評価していただけるととっても嬉しいです。
最後まで人魚無双、どうぞよろしくお願いします。
景華
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