あの日の真実
それから私は、各町の状況報告を聞き、怪我人がいるところにはグリフォンに乗ってすぐに毛つけ、治癒魔法を施した。
大公は騎士団本部に拘束され、後にラスタ公子との会談後、彼に引き渡されることになる。
公子は父である大公によって城に幽閉されていたようだけれど、レイヴンが公子を解放してくれていたようで、少し前に通信で謝罪と感謝の言葉を受けた。
父親とは全く違う謙虚な姿勢と未来を現実的に見る姿に、グレミア公国はこれからきっと良くなると、そう希望を持った。
「先生は──、うん、今日は帰ってこないかな……」
夜も深まり、皆それぞれ休み始めても、騎士団本部で事後処理や報告確認に負われていた先生。
部下や私たちには早く休めと言いながら、今も一人で仕事をしているであろう優しい人。
反論し自分もと声を上げたレオンティウス様とレイヴンを魔法でやり込め、大型医務室として今は機能しているグローリアスの大広間へと押し込んでしまった。
まぁ、レオンティウス様もレイヴンも、怪我は私が治したものの、疲労は溜まっているだろうし、レイヴンの魔力欠乏に至っては私の魔法では回復不可能で、本人が休むしか回復の道はないのだから仕方ない。
私も残ると言うと、「明日から君にはやってもらう仕事が山ほどある。今のうちに身体と頭を休めておくんだな。明日から地獄だぞ」と悪い笑みを浮かべて追い出した。
きっと私を休ませるための嘘だ、と思いたい。
「帰ってきたら先生にあったかい魔法茶を淹れてあげよう」
学園旅行で買った、安眠作用のあるものを。
そう思い達部屋の備え付けキッチンで準備をする。
カチャカチャを金属音を立てながら、戸棚からカップとポットを出したところで、「ヒメー!! 起きてるー?」
バンッ!!
ノックすることなく開け放たれるということになんだか慣れてしまった気がする。
「レオンティウス様……。先生にまた怒られますよ? ノックぐらい覚えろって。大体、貴方今日は大広間に入院でしょう? 何普段通りここに来てんですか」
「いいのよ!! あいつのお説教は挨拶がわりなんだから。それに身体だって、あんたが直してくれたから大体大丈夫よ。それより、ちょっと一緒に来てくれる? 話があるの」
「話?」
「えぇ。……どうしても、話しておかなきゃ行けない話」
さっきまでの表情と打って変わった真剣な顔に、私はゴクリと喉を鳴らすと、手にしていたカップを置いた。
──夜の闇は深く、空を見上げれば雲係の星のない空に吸い込まれそうになる。
「もうすっかり冬ねぇ。大丈夫? 寒くない?」
「少し。でも大丈夫です」
冷たい夜風が肌を撫でるも戦いの高ぶりのせいかまだ身体に熱がこもっている。
「そ? 寒くなったら言いなさいよ? マント貸したげるから」
「ふふ。ありがとうございます」
またこうしてレオンティウス様と歩くことができる。
それは紛れもなく、彼の運命を変えることができたのだという証拠で、思わず笑みが溢れた。
「なぁに? 人の顔見てニヤニヤして。さすが、グローリアスの変態ね」
「ち、違いますよ!? やましいことは何も!! 先生に誓って!!」
私がやましい思いでニヤニヤするのは先生に対してのみだ。
「シリルも大変ね。でも、それだけ愛されてるあいつが、すこし羨ましいわ」
「へ?」
「──ついた」
レオンティウス様が連れてきた場所。
そこは──「え、セイレ城?」
またの名をマイホーム。
セイレ城の門の前。
「謁見の間に一緒に行ってくれる?」
「謁見の間、ですか? それは、いい、ですけど……」
こんな時間に謁見の間?
「どうしても、そこじゃダメなの」
あまりにもまっすぐで、どこか決意の含まれたようなその表情に、私は頷き扉に手をかざすと、セイレ城の扉を開いた。
ガラン、とした広い部屋。
王無きまま、長い時をぽつりと過ごした王座だけが物悲しく在る。
「ごめん。ここはあんまり来たくない、わよね」
気遣うように私を覗き込むレオンティウス様に、私は笑顔を作って見せる。
「大丈夫ですよ。で、ここで何を?」
私の問いかけに、レオンティウス様は視線を伏せ、しばらく考えたのち、私を苦しげにまっすぐに見つめ、口を開いた。
「まずは、私を助けてくれてありがとう、ヒメ」
「へ?」
出てきたのは感謝の言葉。
どんな深刻な話が来るのかと身構えていたのに拍子抜けしてしまった。
「え、いえ、別にそれは……。そもそも、私の目標の一つは、ここでレオンティウス様を死なせないことでもあったので……」
「てことは、私もあんたの知る運命の中では、私は死んでた、ってことかしら?」
「……はい。私は先生を幸せにするためならなんだってします。先生の幸せに、レオンティウス様の存在は必要不可欠です。それにエリーゼも……」
「あの子はもう……」
「甦らせます。そのために、私は王位を継承するんですから」
この後の大仕事に思いを巡らせる。
いよいよ王位継承へ。そしてエリーゼを甦らせるんだ……。
「あんた……!! 確かに、王位を継いで力を手に入れることができれば可能かもしれない。でも……あんた、本当にそれでいいの?」
「はい」
「シリルを、愛しているのに?」
「……はい」
「……」
「……」
重苦しい空気が部屋いっぱいに充満する。
レオンティウス様は甦らせて欲しくないのだろうか?
「あの、レオンティウス、様?」
「あんたの父母を殺したのが……あの子でも?」
「!!」
エリーゼが……国王と……王妃を……?
ドクン。ドクン。
大きく、そしてずっしりと重く、心臓が跳ねる。
目の前を見れば自分でも言うつもりがなかったのだろう、驚いたように自身の口を手で覆うレオンティウス様の姿が、その信憑性を表していた。
「あの……どういう──」
「っ、ごめん、今のは忘れ──」
「忘れられるわけない!!」
「っ……」
今更聞かなかったことにはできない。
だって私の心臓は、こんなにもその続きを待っている。
「……わかった。……話してあげる。
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