傷を消し去る者
二番隊の魔術師達が水魔法や氷魔法でなんとか消そうとするも、強力な炎魔法に対してこちらは力が弱く消し去ることができない。
それどころか周りの木々によって燃え広がり、範囲を広げる炎。
「っはぁっ……」
「ヒメ!?」
トラウマとはなんて厄介なものなんだろう。
やらねばならないことがあるのに。
立ち止まってる暇はないのに。
手も足も、まるで自分のものではなくなったかのように動いてくれない。
それでも──やらなきゃ……!!
私が目の前を見据え胸を押さえながら立ち上がろうとしたその時。
「これに纏わりつく
低く澄んだ声が、炎の中に広がった。
と同時に、びゅおぉぉぉと吹き荒ぶ強い雪風。
その威力にたちまち燃え盛っていた炎は白い煙を上げながら小さくなり、やがて消えた。
「大丈夫か?」
声のする頭上を見上げると、そこには美しい飴色の大きな翼を持った神獣グリフォン。
そしてその背から降り立ったのは、グローリアスで指揮を取っているはずの、騎士団長シリル・クロスフォード先生その人だった。
「先生……!!」
「シリル!! あんた……!!」
「なんで……」
「グローリアスに到達させぬまま敵を薙ぎ倒していく者達がいるのでな。指示だけ出して、あとはジゼル先生に任せてきた」
まじか。
確かに一人残らず倒しながら進んではいたけれど。
にしても何でグリフォン?
「あの、グリフォンはどうして……?」
シルヴァ様の葬儀の後、巣に帰っていったはず。
「知らん。こちらに向かおうとグローリアスを出たら、こいつがいた」
えぇ……。
何とも雑な説明に、私は先生の傍に降り立っておとなしくしているグリフォンに視線を向けた。
そして伝わってくる、グリフォンの言葉。
「あなたも……助けてくれるの?」
私の問いかけに、グリフォンが「キュイィィィィン!!」と鳴いた。
「ありがとう……!!」
人も獣も種族を超えて。
出会うことは、関わりを持つということは、決して無駄なことなんて何一つないんだ。
「私も、前を向いていかなきゃ、ですね」
私はゆっくりと立ち上がると、目の前に際限なく集まる敵を睨みつけ、再び剣を構えた。
「レオンティウス、一番隊を率いて先を急げ。ここは私と、グリフォンで何とかする」
先生がレオンティウス様に指示を出すと、レオンティウス様は真剣な顔をして頷いた。
「わかったわ。ありがと、シリル。一番隊、二番隊!!! 突っ切れぇぇぇぇええっ!!」
レオンティウス様の命令に、声をあげて再び足を走らせる一番隊の騎士達、そして二番隊の魔術師達。
残ったのは私と、先生と、グリフォン。
大公のところへ行かないと……!!
でも……先生を置いていくわけには行かない……!!
速攻で片付けるしか──。
「君も行け」
へ?
一瞬何を先生が言っていたのか分からず惚けた顔で先生を見上げると、先生はもう一度、「君も、行きなさい」と言った。
「でも!!」
「私がここで死ぬことはない。そうだろうだろう?」
「!!」
確かにそうだ。
だけどもし、先生がやられてしまったら……?
「私は、君の力を信じている。君も、私を信じろ」
「!!」
未来は変わってるかもしれない。
でもきっと、先生なら──。
信じないと。私も。先生を。
「……すぐに、終わらせます……!!」
「あぁ。……レオンティウスを、頼む」
ピシピシと音を立てて、氷の壁が城壁のようにグローリアス周辺を囲い込んだ。
まるでここから先は通さないとでも言うかのように。
私は先生に強く頷くと、また大地を蹴り、風に乗って先へ飛んだ。
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