あぁ素晴らしき推し活!!戦いの始まり!!


「姫君、あなたからも何か言葉を──」

「私!?」

 あいにく私はそんな大勢の前で語るというスキルなんぞ持ち合わせていない。

 生まれはセイレでも育ちはシャイな日本人として育ったのだ。

 語るは背中で、だ。

 さてどうしたものか……。

 突き刺さる期待の眼差しが痛い。


「あー……、えっと、あ、そうだ。忘れてました!! 一つお知らせが……」

 場に合わない至って普段通りの間の抜けた私の言葉に、少しばかりざわついて、そして──

「クロスフォード先生を推し隊!! カモォォォォオン!!」


 ──ざわめきが大きくなった。


 私の叫び声に反応して、森の奥から列をなして現れるベアラビ集団。

 突然の討伐対象の登場に騒然とする場。


 そんな声も気にすることなく、ベアラビたちは騎士達が整列するすぐ隣に綺麗に整列し、壇上の私を見上げ指示を待つ。


「皆さん、紹介しますね。クロスフォード先生を推し隊の、ベアラビ軍団です!!」

「妙な軍団を作るなバカ娘!!」

「えーいいじゃないですか!! 皆、日々の私の熱い推し活に心打たれて、ちゃんと更生し、今では立派な先生の応援隊なんですよ」

「それは更生じゃない。洗脳というんだバカ娘……」

「えぇっ!? そんなことないですよ!? 日々の推し活に心打たれた者がいれば、たとえ昨日の敵であろうとも仲間になる。素晴らしい活動です!!」


 目の前で繰り広げられる言い合いに、さっきまでざわついていた声がしんと静まり、唖然として私たちを見守る騎士や生徒達。


 頬を引き攣らせ否定する鬼の騎士団長。

 そんな彼に推し活を説く姫君。

 国の最重要人物二人の言い合いに、張り詰めていた緊張がほぐれてきたところで先生が「ゴホン」とひとつ咳払いをする。


「で、姫君。そのベアラビ軍団について説明を」

「はい。えー……まず初めに……ベアラビ軍団!! シリル・クロスフォード騎士団長に敬意を表して──敬礼!!」


 私が号令をかけると足を揃えピシッと背筋を伸ばし、壇上の先生に向かってベアラビ達は敬礼をした。


「怖ぇ……」

「推し活と言う名の、カルト集団ね……」

「レイヴン!! レオンティウス様!! 聞こえてますよ!! ゴホンッ。彼らですが、このセイレの危機に自分たちも役に立ちたいと申し出てくれました」


 それは今朝早くのこと。

 森の生物達の様子を見にいくと、彼らがやってきたのだ。

 自分たちも協力させて欲しいと。


「種族も違いますし、今まで彼らは私たちの討伐対象であり、私達は彼らの捕食対象でもありました。でも今は違う。皆さんはわかっているはずです。彼らが、私たちを見ても襲わなくなっていたのを」


「そりゃお前の推し活を恐れてだろ……」

 聞こえてますよアステル。


「彼らは推し活を通して先生の素晴らしさを知り、人の心を知り、歩み寄ることを決めたのです!!」


 あぁ素晴らしき推し活!!


「この国は私たち皆の国です。大切な人が笑い、泣き、怒り、共に生きる国です。この国に住む私たち、そして魔物、手を取り合ってこの国を守りましょう!!」


 私がそう語りかけると、騎士達、生徒達、ベアラビ達の歓声が大きく上がった。

 そして私は、大きく息を吸って──。


『人はなぜ争うのだろうと鳥は問う

 答えは風に攫われたまま戻りはしない

 

 紡ぐ言葉は絡まり 誰かを傷つけて

 それでも解ける日はすぐそこに


 ぬかるんだ足元も 一人じゃないから怖くない

 青は青のままでそこに存在する《ある》ように

 私は私で生きていくから

 空を 見上げて』


 王族だけが使える歌の魔法。

 歌に乗せた魔法は強さを増して彼らの頭上に降り注ぐ。


 防御力向上。

 足には風魔法付与をして素早く移動ができるように。

 そして何より、彼ら一人一人にとって命を守る幸運が訪れるように。


「セイレに──光あれ!!」


 さぁ。


 戦いの始まりだ──!!

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