騎士団長の命令


 グローリアス学園前の広大な園庭。

 夏には青々としていた芝生は茶色に薄らぎ、冷たい風がぴゅうと吹く。


 セイレの騎士たち、グローリアス学園の生徒・教師達が集まり、壇上の私達を見上げる。

 姫君、騎士団長や隊長達、それに学園長、大司教様が壇上で揃う仰々しさに緊張感はあるものの、ここから見える彼らの顔を見て私は安堵した。


 皆、適度な緊張感はありながらも、表情がこわばっているものはいない。

 誰一人として、諦めてなどいない。

 目に強い光を宿した彼らは、紛れもなくこの国を担う者達だ。

 本当に、良い表情になった。

 彼らの顔をぐるりと見渡してから、先生が一歩前へと進み出た。


「……変わらん顔ぶれだ」

 ぽつりと柔らかい声が静かに言葉を紡いだ。


「ここで共に学んだ者。私の師であった者。幼い頃からの友人。教え子、同僚。そして──……」

 言葉を止め、隣に立つ私へ視線をよこす。

 綺麗なアイスブルーの瞳と視線が交わると、わずかに優しく頬を緩め、先生はまた群衆へと視線を移した。


「そんな君達を戦いの場へ送り出す私が言えることではないのかもしれない。だが──。──ただ……生きろ。どんな形でもいい。必ず帰れ。自分が生きることを一番に考えろ。愛する者達の元へ、必ず生きて帰ること。この命令だけは、必ず守れ」


 先生の言葉にざわめく騎士や生徒、教師達。

 きっとこれが、先生のたった一つの思いなのだ。

 先生は不器用だから、“君たちが大切だから……、生きてて欲しいから、あえて厳しくしているのだ”とは言わない。


 ただ冷静に、冷徹に、淡々と指導するのだ。

 生き残る術を──。

 本当は誰よりも優しくて熱い人。

 そんなところに私はきっと惹かれたのだろう。


 グローリアス学園は、先生にとっても思い出の詰まった学び舎で、ここにはそこで共に過ごした人たちだっている。

 平然としているようでも、心が痛まないわけはないんだ。

 だってこの戦争は──本物なんだから……。

 

 誰よりも優しい鬼の騎士団長の命令に、騎士も生徒も教師も皆、胸に手を当て、了解の意を示した。

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