心強い味方達


「──王と王妃──私の父母は……17年前、私が3歳の時に亡くなりました──」


「!?」

 皆、与えられた真実に言葉をなくし、その真実を知るレイヴン、レオンティウス様、先生だけは、苦々しい表情で視線を伏せる。


「まさかそんな……。17年もの間舞踏会も開かれなかったのは……、王族が姿すら現さなかったのは……」

「はい。この世に、存在しなかったから──」


 ごくり、と息を呑む音が聞こえ、メルヴィが「ヒメ……」と震える唇から私の名前を溢した。

「ずっと、私には記憶がありませんでした。あの日、父母が死んだ日のこと。自分がここで生まれたということ自体。父母は死の間際、私を別の世界に逃したので……」

「逃した!? って……その言い方じゃまるで……」

「はい。父母は、何者かに殺されました」

「!!」

「なっ……は、はは、まさかそんな……あの王族が……」

 誰もがそう思うほどに、王族の力は強大なのだろう。

 強大だからこそ、この国は平和だったのだから。


「はい。ですから魔王の手のものかという話になっているようですが、目撃者の記憶を辿ってもその部分だけが見えなかったそうです。そして私は、20歳まで別の世界で、神崎ヒメとして生きてきて、ある日突然、目覚めたら、この世界に帰還していました──10歳の姿で。あの事件の際にまだ三歳と幼かったことと、見たもののショックからか、あの日から前の記憶が私にはあまりないんです。でも昨夜、夢を見ました。あの日の……。あの日私は、婚約者候補であるシリル・クロスフォード様に初めて会うことができて、浮かれていました」


 そう言って先生を見上げると、まさか自分の名が出るとは思っていなかったらしい先生が、驚きの表情で私を見下ろした。

 その珍しく感情をこぼした先生に僅かに微笑んんでから、私は続ける。


「和やかに父と結婚についての話をしていた──その時、誰かがここ、謁見の間に現れたんです。そこでの記憶は途切れ途切れでしたが、父は親しげに話をしていたことら魔王の手のものではなく、父のよく知る人物だと思うんです」

「!! それは本当か!?」


 私の発言に声をあげる先生。

 レイヴンも言葉を失い、レオンティウス様はこれでもかというほどに目を見開いて、若干顔色が青白くなった。


「はい。夢の中でそれを私は見た──はずなのに、覚えていなくて……。ただ、とてつもなく衝撃を覚えたのは覚えています。だからきっと、私も知っている人物……」

「知っている、人物……」

 それが誰なのか、頭の中に靄がかかっているように酷く朧げだけれど。


「ですが、今はその犯人をどうこう考えるのはやめようと思います。ただ、その真実を、ここにいる皆さんにだけは知っていてほしかった。私のことを、知っていてほしかったんです」


 今まで何も言えなかった。

 皆を騙し続けた。

 だけど戦いが始まる前に、ここにいる皆にだけは、話しておきたかったのだ。

 私の知る真実を。


「グレミア公国は、王族がいないと疑念を持ち、そして私の存在を知ってもなお、女であるからと侮ってかかっています。これを機に、セイレを攻め落とすことができると。でも、絶対にそんなことはさせません。私が……私が絶対に誰も殺させない。だから皆、私を信じて、力を貸していただけませんか?」


 この戦い、きっと私だけが立ち回るのでは皆を救うことはできない。

 協力者が必要になる。

 私を信じて動いてくれる協力者が。

 絶対に、この手からこぼれ落としたくない。

 誰一人として。


「……当たり前でしょ?」

 ピンと張り詰めた空気が漂う謁見の間で、呆れたような声が空気を割った。


「──クレア」

「ヒメ、話してくれてありがとう。一人でずっと抱えて、重たかったよね」

「っ……」

 歩み寄り、そっと私の右手に触れるクレアの手の温もりが伝わってくる。

 すると、左手に、また別の温もりが触れた。


「その重いものを、私たちにも少しずつ分けてくださいな。私は、私達は、あなたがどんな立場であっても、どんな年齢であっても、いつだってあなたの味方なのですから」

「メルヴィ……」


 メルヴィの言葉に、マローやラウル、アステルにジオルド君、グレイル隊長、ジャン、セスター、フロルさん、そしてセレーネさんが力強く頷き、レイヴンやレオンティウス様が微笑み、先生が見守るように私を見つめる。


 あぁ、だめだ、涙腺が緩んでくる。

「皆……ありがとう……」

 負けるわけにはいかない戦いで張り詰めていた心が少しほぐれるのを感じて、私は皆に向けてふにゃりと笑った。

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