迷子予備軍です
先生と並んで、誰もいないグローリアス学園校内を歩く。
「皆、大丈夫でしょうか……」
信じている、とはいえ、やっぱり心配ではある。
クレア達は残る選択を早々にしていたけれど、他のクラスメイト達は一度家に帰って話をしたり、寮で一人考えたりそれぞれの思いを胸に過ごしているのだろう。
明日には答えを出さねばならないのだ。
1日で答えを出すには重すぎる選択。
集中攻撃に合うであろうここに残ってグローリアスを守るか。
自領に戻って避難をし、そこで領民たちを守るか。
もっとたくさん時間を与えてあげられないのが申し訳ない。
「……大丈夫だ。彼らは約一年、ここで学び、様々な体験を経て成長した。一年ではやらない防御壁の魔法や実戦授業も重ね、食らいついてきただろう。彼らなら大丈夫だ。自分で考え、自分で答えを出すはずだ」
先生は真っ直ぐに前を見つめて歩きながら、表情も声の抑揚も変えることなく言葉を紡ぐ。
無愛想で、言葉も足らなくて冷たい人だと勘違いされやすい先生だけれど、やっぱり先生は“先生”だ。
多分騎士団長よりも、護衛騎士よりも、公爵よりも、何よりも先生に向いている。
だってこんなにも、生徒を信じてくれているのだから。
私はたまらなくなって、足を前に進め加速し、先生の背に抱きつ──ガシッ!! ──こうとしたけれど、くるりと身体の向きを変えた先生の手によって頭を鷲掴みされることとなった。
「なんでぇぇぇ!? 後ろも目ついてるんですか!?」
せっかく抱きつくチャンスだと思ったのに!!
「気配でわかる。それに、君のやりそうなことは大体わかるようになった。無闇矢鱈に異性に抱きつこうとするものではない」
「無闇矢鱈にじゃないですよ!! 先生にしかしません!!」
「あぁ、そうしておけ。まぁ、させんがな」
「くぅぅっ!!」
可愛げがない!!
でもそんな先生が好きだ!!
カツカツカツカツ──!!
私たちがそんなやりとりをしていると、硬い足音が奥の方から聞こえてきた。
どこか焦ったように聞こえるそれは、段々と大きくなって──。
「ヒメ!! こんなところにいたのね!!」
息を切らせながら走ってきたのはレオンティウス様。
いつも涼やかな表有情はそこにはなく真剣な表情で、いつもは綺麗に整えられたプラチナブロンドの髪を乱しながら私に駆け寄る。
「どうしたレオンティウス」
「何かあったんですか?」
いつもと違う様子のレオンティウス様に尋ねると、彼は息を整えることもせず焦ったように声を上げた。
「どうもこうも……!! 城に──城に貴族達が押しかけてきてるのよ!!」
「貴族達が!?」
「とにかく、城に来て!!」
私は先生と視線を合わせ頷き合うと、レオンティウス様に付いて城へと走った。
──城に近づくに連れざわめきが大きくなっていく。
しばらく走り続けてようやく見えてきた城門の前には、たくさんの人だかりが見られる。
よく見れば、パーティで見たことのある顔ぶればかりで、全て貴族であることがわかる。
おそらく戦争について、だろう。
昨夜の集会の様子は、全てセイレ各地の空で放映されていて、一斉に周知がなされたことで一気に不安と疑問を持ったもの達が押し寄せてきたのだろう。
簡単には王族と会うことのできない国民よりも、貴族は登城を許されているのだから、当然といえば当然の行動だ。
「!! ヒメ・カンザキ嬢……いや、姫君……!!」
私たちに気づいたっ一人が声を上げ、たちまち貴族の群れに囲まれてしまった。
「昨日の放映のことでお話が!!」
「セイレはどうなってしまうのでしょうか!?」
「国王陛下は……、王妃様はどのようにするおつもりで……!?」
矢継ぎ早に飛び交う質問に苦笑いを浮かべてから、私は右手を上げてそれらを制す。
「とりあえずみなさん、中でお話しましょ?」
確かこういう時一気に人が集められそうなホールがあったはず。
謁見の間、というのだったか。
そう言って私は城門に手をかざすと、門は1人でにゆっくりと開かれた。
「さ、どうぞ」
ゾロゾロと大人達を引き連れて城門を潜り進む。
そこで私は、はたと気づく。
「先生──」
「何だ」
「謁見の間って、どこですか?」
「……」
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