マローの想い


 村へ守りの魔法を施していく作業もひと段落ついて、クレアの実家のパン屋さんでパンとジュースをいただいてひと休み。

 さすがにたくさん魔力を使ったので疲れてしまった。

 あぁでもやっぱり相変わらずここのパンは美味しい……‼︎

 もっちりしててでもふわふわしてて、最高……‼︎

 幸せを噛み締めながら私がパンをもふもふと咀嚼していると、突然テーブルの上に影が落ちた。


「あー……ヒメ、ちょっといいか?」

 緊張した面持ちで私の前に現れたのは、学園にいるはずのマローだ。

「? どうしたんですか?」

 いつも爽やかな笑顔が強張って顔は真っ赤。

 熱でもあるのかしら?

「いや、ちょっと話がな」

「話、ですか?」

 話の前に病院行った方がいいんじゃないかってくらい顔が赤いんだけど。

「行ってきなさいよ。ここの守りももう終わったんだし、私も父さん達と少し話したら学園に戻るから。マロー、骨は拾ってやるわ」

 骨?

「わかりました。じゃぁ、おじさん達によろしくです。いきましょう、マロー」

「あ、あぁ」


 マローはまだ転移魔法を使うことができない為、2人一緒に天馬が引く馬車へと乗り込むと、馬車はふわりと宙に浮かび、グローリアス学園を目指し飛び立った。

「ふふ。マローと2人で馬車に乗るのなんて、初めてですね」

「あぁ……そう、だな。もう一年近く一緒にいるのにな」

 そういえば、レイヴンとメルヴィに会いに行った時が天馬馬車初体験だったんだよね。

 あの時は魔法の世界なのに何で箒とかデッキブラシで空飛ばないの!? って理解できなかったけど、快適なんだよね、天馬馬車って。


「それで、私に何の話だったんですか? どこか守りを強化したい場所でも? それともまた魔物が出ましたか?」

 ここ最近はグレミア公国からのオーク流出が少ない。

 多分オークをひとまとめに留めておいて、侵略の際にオークを一気に投入してくるつもりだろうと先生は言っていたけれど、それでもオークは出るし、他の魔物だって動きが活発化している。

 まだ闇落ち魔物にはなっていないものの、明らかに戦争による負のエネルギーが増加して、魔物も凶暴化し始めているのがわかる。


「あ、い、いや。そんな物騒な話じゃなくて、ね。えっと……」

 いつもとは違って歯切れの悪い物言いのマローに首を傾げて言葉を待つと、マローは一度ふぅー、と深く息を吐いてから、何か決意をしたかのようなしっかりとした眼差しで私をまっすぐ見つめた。


「ヒメ。突然でごめん。俺……、俺は、ヒメ・カンザキのことが好きです。ずっと、前から」

「ごめんなさい!! ぁ……」

 つい条件反射で即答してしまったぁぁぁあ!!

「あ、あの、ま、マロー? えっと、ご、ごめんなさ……、あ、いえ、違、いや、違うじゃないんですが、えっと……」

「ハハッ。いいんだよ、ヒメ。とりあえず落ち着けって」

 混乱していったい何が言いたいのかわからなくなってしまった私に、さっきまで顔を強張らせていたマローが吹き出した。

 あぁ、いつものマローの爽やかな笑顔だ。


「最初から答えはわかってたからさ。お前はずっと、クロスフォード先生一筋なんだから」

「うぅ……」

 確かにそうだけど。そうだけど……!!

 普段から先生先生言っておいて今更だけど、こうも自分の思いを把握されていることを面と向かって言われるとものすごく恥ずかしいものがある。

「わかってたけど、今しか気持ち伝えるチャンスはないだろうなって思ってさ。言わずにもやもやしてるよりも、言ってスッキリして、戦いに集中したかったんだ。ほら、もしかしたら最後になるかもしれないしさ」

「っ!! そういうフラグ立てないでください!!」

 最後になるかもしれないから、とか、死亡フラグじゃん!?

 せっかく闇落ちフラグ折ったのに、今度は死亡フラグ立てるとか本当やめてほしい。

 私の中でマローはもうただの攻略キャラなんかじゃない。

 1人の、私の大切な友人なんだから。


「最後だなんて、言わないで。私はまた、マローや皆と一緒にカナリア祭まわりたいです。一緒にお買い物だって行きたいです。カフェでお茶したりしたいです。皆で楽しくおしゃべりしながら、楽しいことたくさんしたいです。その皆の中にマローがいない未来なんて、私は嫌です」


 きっとこれから王位を継げば、気軽に一緒に遊びに行ったりすることは難しくなる。

 でも、立場が変わっても、変わらない友情をくれたのはマロー達だ。

 彼らがそう言ってくれたから、私はきっと、時間を作って彼らに会いに行くだろう。そんな時、マローがいないなんて嫌だ。

 誰1人欠けていて欲しくない。

 欠けさせるわけにはいかない。


「ヒメ……。うん、そうだな。ごめん。最後じゃない。これからも一緒に思い出を作っていくんだもんな」

「なんかそれも死亡フラグみたいで嫌です」

「え!? えーっと……、うん、まぁ、とりあえず、死ぬ気で生きるから、これからもよろしく、な?」

 はにかみながらもそう言って手を差し出したマローのそれを、私はふにゃりと笑ってからぎゅっと握った。


「はい、こちらこそです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る