この村で出会って
キラキラとした光の粒子が神殿を覆い、やがて神殿全体を覆い尽くしたところで光は神殿に吸い込まれるようにして吸着していく。
「これでよしっ」
結界がしっかりと馴染んだのを確認してから、私はパンパンっと手を叩いた。
セレーネさんの部屋を後にした私は、大司教様や他の神官たちのお手伝いで、各地の神殿へと結界を強化して回っている。
いざと言うとき、最寄りの神殿が人々の避難場所になる。
敵意を持った人物を跳ね飛ばすように、強固な守りと施して行かなくてはならない。
私とクレアは、馴染みがあるこのクロスフォード領のコルト村の担当だ。
神殿に守りをかけ終わったら、次は村全体に歩いて守りを施していく。
にしても……。
「……見られている……」
いつもなら声をかけてくれる村の皆さんがものすごい遠巻きに私を見ている。
それも仕方がない。
昨日の今日で、私が姫君だと言うことはセイレ全土に広まってしまったのだから。
「まぁ、あんた一応、一応、姫君だもんね」
「まごうことなき姫君ぞ!?」
何一応って!?
「……でも……変わらないものもあれば、変わっていくものもあるのは当然なのに、いざそうなると、やっぱり寂しいですね」
皆が皆、クレア達のようには行かない。
わかっていても、その寂しさになれることはまだできなさそうだ。
「良いのよ、あんたはあんたのままでいれば。あんたは、望む通りの王になれば良いんだから」
ぽん、とクレアの手が私の方に落ちる。
あぁそうだった。
私は王位を継ぐと決意はしたけれど、私は私らしい王になると決めたじゃないか。
『立派な王を目指さなくても良い。あなたらしい王になりなさい。そして、あなたらしく、国を導いてほしい。ロイドのように……。破天荒で変態で変人な国王が存在したんだ。どんな王が存在しても違和感はないはずだ』
そう言って笑ってくれた人がいたから──。
「……そうでした。うん、私らしく、で、良いんですよね」
私はそう呟くと、大きく息を吸って──。
「ご町内の皆さぁぁぁぁぁぁん!!」
「は!? 何!? 何やってんの!?」
道ゆく人々がざわざわと私を見ていく。
遠巻きに見ていた人々もなんだなんだと耳を澄ませる。
「このたび!! 王位を継ぐことになりました!! ヒメ・カンザキ・ヴァス・セイレです!! 緊張状態が続いていて、心配なこともあると思いますが、私が必ず、皆さんを……そして皆さんの大切な人を守ってみせます!! だから……私を信じて、ついてきてくださぁぁぁぁぁい!!!!」
まるで選挙演説のような私の叫びを呆然と見守る村の皆さん。
どや。
これが私らしい王族ぞ!!
ドヤ顔で隣のクレアに視線を移せば、クレアは顔を真っ赤にして羞恥に耐えていた。
「あんた……馬鹿なの!?」
「馬鹿です!! これが私です!! これが、皆さんがこれまで見てきた私であり、この国の──このセイレの王になる人間です!!」
私は私だ。
これからも、これまでも。
全部が私なんだから。
胸を張っていればいい。
「はぁ……全く。あんたって本当……」
呆れたように、でも柔らかい眼差しで笑うクレアに私も笑顔を返せば、ぽつりぽつりと私のところに声が届き出す。
「やっぱりヒメちゃんはヒメちゃんね」
「ちょっと、あぁいや、かなり立場は変わっても、人間性はかわらねぇもんだな」
「姫君ー!! 俺らも頑張るから、セイレを頼むぞー!!」
声が一つ、二つと重なり出して、それは大きな歓声となって私へと届いた。
これが、私が5年間ここで築いてきたもの。
私が神崎ヒメとして生きてきた証。
それから私たちは、村の皆と会話を楽しみながらも村を一周し、守りをかけていった。
そして──。
「ここ……」
「……」
私たちの目の前には、一つのもう使われていない古びた井戸。
そう、あの日、私たちが攫われた場所へと続いていた井戸だ。
あちら側からもこちら側からも通れないよう、レイヴンがしっかりと魔法をかけてくれていて、今はもう使われていない。
「あの日、あんたが助けてくれたから、私は今無事でいられてる。あんたが私を庇って1人で拷問を受け続けた時のこと、私、今でも時々思い出すの。もしあんたがいなかったら、私はきっと、壊れてしまっていただろうなって」
「クレア……」
【マメプリ】では1週間拷問を受け続けたクレアは心を壊し、声を失った。
その未来が変えられたことは、私の大きな成果だと言えるだろう。
「あんたが命をかけて私を守ってくれた時、思ったの。私も、あんたを助けられるくらい強くなりたいって。ねぇヒメ。あんたが何者でも、何歳でも関係ない。私、あんたに出会えてよかった。あの日、私に出会ってくれてありがとうヒメ」
空色の少し吊り気味の瞳が優しく細められる。
私は唇をキュッと引き結ぶと、クレアにぎゅっと抱きついた。
「私も、あなたに会えて、あなたの運命を変えることができて、よかった。クレア。ありがとう」
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