シルヴァ・クロスフォードの行方


「あれは……あのマント留めは──父上のものだ──……」


「シルヴァ様……の……?」


 え、ちょっと待って。

 どういうこと?

 なんでグリフォンが……シルヴァ様のマント留めを……?


 シルヴァ様が身につけていたものなら、ご遺体と一緒にクロスフォード家に……。


「先生──シルヴァ様をお墓に埋葬する際、マント留めは入れなかったんですか?」


 マント留めは親族が受け継いだりもするが、先生もジオルド君も受け継いではいない。

 シルヴァ様の魔力が込められたアクアマリンは、彼だけが持つ特別なマント留めだ。

 彼らが持っていないとなると、お墓に入れているというのが1番有力だけれど、グリフォンが持っているということは紛失していたか、どこかでこの子と遭遇した際に託していたか……。

 それとも──。


 冷たい汗が首筋を伝う。


「……父上の遺体は……見つかっていない」


「──!?」


 見つかって……ない……?


「それはどういう……」

「城の巡回中現れた魔物との戦闘中、魔王と対峙した父上は、圧倒的な魔王の力になす術がなかったそうだ。このままでは全滅するというときになって、父上は騎士たちを一斉転移で転移させた。自分1人を残して……。そして騎士たちが応援を引き連れ戻ったときには……すでに父上はいなかった。残されていたのは、致死量に値するほどの血の海だけ──。魔物によってあと形もなく殺されたものとして、死亡確認となった……」


「そんな……」


 シルヴァ様はご遺体すら……残っていないの──?


 私の無意識の予知魔法であった乙女ゲーム【マメプリ】には、シルヴァ様の死についての詳細までは出てこなかった。

 魔王復活の際に亡くなったとしか。

 それがまさか、こんな……。


 あまりの凄惨な事実に、頭の機能が停止する。

 心臓がドクンドクンと波打ち、胸から強い痛みが伝わってくる。


 肝心なこともわからず何が予知魔法だ。

 制作サイドの……私の役立たず……!!


「グルルルル……」

 私がただ呆然と立ち尽くしていると、グリフォンが喉を鳴らしながら私の前へと頭を垂らした。

 そしてくちばしにぶら下がったマント留めを私に擦り付けるように差し出す。

「……ありがとう」

 私がそれをくちばしからそっと受け取ると、グリフォンは「ギュゥゥゥウン!!」とひと鳴きして応えた。


 アクアマリンから伝わってくる微かな魔力は、間違いなくシルヴァ様のもの。

 よく見れば、石の中にはクロスフォード家の紋章も浮かんでいる。


「先生これ──」

 私は先生にそれを手渡すと、先生はじっと宝玉を見つめたのち、苦しげな表情を浮かべ「間違いない。父上のものだ……」と絞り出すように口にした。


 間違いない、ということはやっぱりグリフォンになんらかの形でシルヴァ様が託したか、拾ったかしたのだ。

 そしてそれを、この子は届けにきた──。


「グリフォンさん、もしかして、シルヴァ様の……シルヴァ様の居場所を知ってるの?」


 それは一つの可能性。

 シルヴァ様が自分の存在を知らせるため、グリフォンを使ったとしたら──。

 そんな一つの可能性という名の希望を、私ははやる気持ちを抑えながらも目の前の気高き獣へと問いかけた。

 すると頭を下ろしていたグリフォンは、ぐんっと勢いよく顔を上げ、大きな声で空に向かって「ギュイィィン!!」と鳴いた。


「いや、ギュイーンじゃわかんねぇよ」

「そうねぇ、獣人族を連れてくるぐらいじゃないと、流石に言葉はわからな──「知ってる……」──え?」


 レオンティウス様の言葉に紛れてつぶやいたことで、彼らの視線が私へと集中する。


「君は、グリフォンの言葉がわかるのか?」

「はい。なんとなく……」

 頭に響いてくるこれは朧げだけれど、おそらくグリフォンのものだと思う。

 頼りない返事にも関わらず、先生は「そうか、わかった」と言いながらこくんと頷いた。


「グリフォン。父上のいる場所を教えてもらえないだろうか」

 大きなグリフォンの黄金の眼を見上げ先生がたずねると、グリフォンはまた「ギュイィィィィィィン!!」と声を上げた。


「え──?」


 頭の中に伝わってきたグリフォンの言葉に、私は言葉を失う。

 そんな。

 まさか。


「なんだ? グリフォンは何と言っている?」

 私に詰め寄る先生に、私は半ば放心状態になりながらも、口を開けた。


「ここに──いる……と……」


「!?」


 刹那、シルヴァ様の宝玉から光が溢れ、辺り一面が真白い光に包まれた──。

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