再会、そして……


「グリ──フォン……!?」


「グリフォンだと!? あれは聖ガウルプス山からは基本出ることのない神獣だぞ!? いったいなぜ──」

「何かが起こる前触れか、それとも──」


 グリフォン。

 思い出されるくるみ色と飴色が混在する大きな翼。


「確か10年程前グリフォンが現れた際に対応したのは、グレイル隊だったな?」

 先生がグレイル隊長へと確認すると、彼は顔を強張らせてから頷いた。

「はい。闇堕ちグリフォンに遭遇し、俺も騎士達も太刀打ちできなかったところ、当時のシルヴァ・クロスフォード騎士団長がグリフォンを正気に戻し、グリフォンは聖ガウルプス山へと帰って行きました」


 あぁそうか。

 記憶が消された状態だから、私がグレイル隊長の怪我を治したりっていう云々は消去されて補正されてるんだ。

 あの時急いでいて治しきれなかった傷跡は、今もグレイル隊長の頬にくっきりと残っている。


「そうか、父上が……。その時のグリフォンの可能性もあるな」


 グリフォンの数は少なく、レイヴンが言ったように基本彼らの寝ぐらであるセイレの西に位置する聖ガウルプス山から出ることはない。

 ここに降りて来ると言うことは、過去の時のように我を失った状態か、もしくは人に何か伝えたいことがあるか……。

 そう考えるとあのグリフォンの可能性は高い。


「よし、マーサ・カリスト隊長は4番隊を連れて再び任務に戻れ。5番隊ガレル・ボーロ隊長、フロル・セリアは、騎士たちに警戒態勢を取らせろ。残りのここにいる騎士は私と王城へ」

 先生の号令に、マーサ隊長、ガレル隊長、そしてフロルさんは、各々の持ち場へと走っていった。


「私も行きます」

 行かなければならない。

 あの時、シルヴァ様とグリフォンに対峙した私だから。

 私が言うと、先生は眉間の皺を深くしてから「君はここで待っていなさい」と厳しい口調で言った。

「っ……」

 危険だ、と言いたいのだろう。

 でもここで引き下がるわけには行かない。


「いやです!!」

「グリフォンは強い。山から降りて来た理由も不確かな現状では、何が起こるかわからん。危険だ」

「確かめたいことがあるんです!!」

「!!」

 私の身を案じて反対する先生。

 それでもなお私が先生のアイスブルーを力強く見上げれば、眉間にさらに深い渓谷を作り、少ししてから先生はため息を一つつき口を開いた。


「……わかった。無茶はするな」

「はい!!」






 ──全員に風魔法付与を施し、一気に騎士団本部を駆け抜けしばらく奥に進むと大きな城が姿を現した。

 私たちはその城の裏手に回ると、1番隊の騎士達が巨体を取り囲んで剣を向けているところだった。


「──あんたたち、無事!?」

 レオンティウス様が自隊の騎士たちに声をかけると、彼らはホッとしたようにこちらを振り返った。

「は、はい!! こちらを攻撃する様子もなく、硬直状態で……」


 グリフォンはSSS級魔法生物の超希少種であり、鬼神様が従わせていたことから鬼神様の使いとも言われる神獣。

 迂闊に手を出すことはできない。

 相手が攻撃でもしてくれば別だろうが、騎士たちが動かないと言うことは、グリフォンに戦う意思はないということなのだろう。


 私たちが状況を確認していると、それはくるりと向きを変え、私たちを──私を、その鋭い黄金の眼でとらえた。


 あぁ……やっぱりあの子だ。

 あの時施したものがある。

 別れ際、光魔法を施した際についた首元の桜の花びらマーク。

 薄れてはいるけれど、間違いない。

 私がつけたものだ。



 私は一歩ずつ、ゆっくりとその高貴な双翼の獣に足を進めた。


「お、おいヒメ!! あぶない!! 下がれ!!」


 レイヴンの制止を無視して、私はなおもその子に近づいていく。

 そしてたどり着いたその大きな胸に、そっと右手で触れた。


「お久しぶりです。私のこと、覚えていますか?」

 私が静かに尋ねると、グリフォンはぐるぐると喉を鳴らして答えてくれた。

 どうやら私のことを覚えてくれているみたい。

 本当に、賢い生き物だ。


 ふと見れば、大きなそのくちばしから何かがぷらんとぶら下がっていることに気づいた。

「あれは……?」

 よく目を凝らしてみると、金色のチェーンで繋がった2つの丸い宝玉のようだった。

 マント留め……?

 それは私たちのマントを止めている宝玉付きのマント留めだ。


「なぜ……」

「え?」

「なぜグリフォンが……それを……」

 震えるような動揺を含んだ声が私の背後からグリフォンに向けられた。


「先生……?」

 驚きに見開かれたアイスブルーは、グリフォンのくちばしにぶら下がるマント留めへと注がれている。


「あのマント留めを知ってるんですか?」

 私の問いかけに、美しい顔をぐしゃりと歪めてから、先生は私を見て言った。



「あれは……あのマント留めは──父上のものだ──……」



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