VSシリル


「……はぁ……わかった。なら──全力で行かせてもらう」


 先生の目が変わった。

 本気の目だ。

 私相手でも一切手を抜かない、若干大人気ないほどの本気の目。


 ────良い──!!


 私の力を信頼してくれているのがわかる。

 5年間、先生が育ててくれた、私の力を。

 私も、その信頼に応えたい。


 私が愛刀を構えると、先生も同じように細長い自身の剣を正面に構えた。

 驚くほど隙がない。


 しん……、と鎮まり、ピン──と張り詰める空気。

 これが私たちの、いつもの本気の戦いだ。

 気を抜いたらすぐにやられてしまう。


 跪きたくなるほどの重い圧力が場を支配する。

 しばらく剣を構え合い、それが限界まで高まった瞬間──。


「はぁぁぁぁっ!!」


 私は風魔法を纏わせたままの足で大地を蹴り、一気に加速しながら正面から先生に向かっていく。


「っ……!!」


 キィィィィン──!!


 振り下ろした白銀の一打は一瞬にして受け止められ、そのまま払い除けられてしまった。


 細身の剣にも関わらずこんなにも力強い剣払い……。

 やっぱり先生はすごい……!! 好き……!!

 感動している間にも、今度は先生が私の方へと踏み込む──!!


 鋭い光を放ったそれは、私の目の前を真一文字に掠めた。

「あっぶな……!!」

 危うく前髪無くすところだった……!!

 戴冠式を前髪無しで迎えて大勢の前に晒されるとか、なんの罰ゲーム!?

 先生、なんてえげつないことを……!!


「おいシリル、おまえ、仮にも女子に手加減ねぇな……」

「バカを言え。手加減すれば私がやられる。それだけこれは──成長した」


 レイヴンと先生が話している間に、私は崩しかけた体勢を整えてから、土魔法で地面から再び植物を出現させると先生に向かって長く丈夫な蔦を伸ばし出した。

 迫り来る蔦を綺麗に払い除けながらも着実に距離を詰めてくる先生に、私は地を蹴り一気に宙へ舞い上がる。

 そのまま先生に手のひらを向けると、宙に浮いた状態から先生に向けて滝のような高圧力の水を噴射させた──!!


 マーサ隊長に向けたような水鉄砲なんて生易しいものでは先生には敵わない。

 もちろんこの滝水攻撃だって、先生にとっては同じようなものなのだろうけれど……私にだって考えがある。


 案の定、先生が迫り来る滝水に向けて余裕の表情で氷魔法を放つと、一瞬にして私の滝水は太く分厚い氷の柱になってしまった。

 だけどこれも計算済みだ。

 本命はこれから……!!


「そうなりますよ──ね!!」


 次の瞬間、私は刀に炎魔法を纏わせると、滝水の成れの果てを一気に突きながら先生の方へと突き進んだ──!!


 ジュゥゥゥ……。


 大きな音を立てながら炎と氷がぶつかり合い、氷が白い蒸気となって消えていく。


「くっ……前が……!!」


 蒸気で私の姿を見失った先生は、私がくるであろう方向へと剣先を向けた──けれど──。


「こっちです」

「っ……!!」



 ザンッ──……!!


 風が蒸気を吹き飛ばし、訓練場が一気にクリアになると、私たちの姿が互いの目に映し出された。


 先生の背後で私が先生の首スレスレに刀身をつけ、先生もすぐに私に気づいたようで咄嗟の判断で体制を変え、私の首元へと剣を添えていた。

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