学園旅行〜先生とデートです!!〜


「あ、あの、先生!! どこに──?」

 ひたすら腕を引かれ、やってきたのはカストラ村の市場の中心。

 朝から商人たちの声が飛び交い活気付いている。


「……考えていなかった……」

 ……時々先生はポンコツになります。

 でもそこが可愛い……!! うちの推し最高!!


「突然連れ出してすまない。……半日、レイヴンに見回りを代わってもらった。その……君の時間を、半日もらえないだろうか?」

 む、難しそうな表情のままだけれど、これってデートのお誘い!?

 どうしよう、嬉しすぎる……!!


「えっと……よ、よろしくお願いします……!!」

「あぁ。……ありがとう」

 柔らかい表情の先生に一層波打つ私の鼓動。尊死する……!!

「あ、でも、どこに行きましょう?」

 特に予定を決めていたわけでもないのよね。


「君は行きたいところはないのか?」

「行きたいところ……ぁ、ちょっとだけお土産もの見たいです!! レオンティウス様やフォース学園長にもお土産買って帰りたいですし」

 

 今私たちがここにいる間も、レオンティウス様たち騎士団は忙しく活発化した魔物を退治して回ってるんだもんね。

 フォース学園長も、私の王位継承やらグレミアとのことやらで忙しそうにしてるし。

 何か癒しになるものを買っていってあげたい。

 ついでにジャンとセスターの二人をお借りしているお礼として、グレイル隊長にも。


「わかった。なら、そこの土産物屋でも見るか」

「はい!!」


 大きな総合の土産物屋に二人揃って入ると、すでに中でお土産物を選んでいた生徒達が、私たちに気づくや否や、ギョッとした表情でこちらを凝視した。

 それもそうよね。

 あのシリル・クロスフォード先生が女生徒と土産物屋に、だなんて、誰も予想していなかったことだろう。


「やりましたね!! 先生!! 注目の的ですよ!!」

「……嬉しくない」

 頭を抱えながらも、距離を取ることなく私のそばにいてくれる先生に、顔が緩むのを止められない。


「ふふ。さて、レオンティウス様のお土産は何が良いでしょうか? やっぱり口紅とかスキンケアセットとか、香水とかですかねぇ? それともカストラ村の綺麗なお花モチーフのハイヒールとか?」

「君はレオンティウスをなんだと思っているんだ?」

「麗しのオネエです」

「……」


 そういえば私、レオンティウス様のこと、よく知らない。

 記憶の中の小さい頃はオネエ言葉じゃなかったのに、なんで今オネエなんだろう、とか。休日何してるんだろう、とか、趣味とか。

 ゲームでもそこらへんは触れられてこなかったし、面倒見が良いオネエキャラとして、ヒロインであるクレアが悩んでいたら助けてくれるんだけど、私生活は謎のままなのよね。


「……私、レオンティウス様のこと、何も知らなかった。……従兄妹なのに……」

「カンザキ……。──これから知っていけばいいだろう。君たちにはこれからまだ時間はたくさんあるんだ。……とりあえず、レオンティウスに女装趣味はない」

 無いの!?


「そして、おそらく男は恋愛対象ではない」

「エェッ!? あ、でもそっか。確か初恋の女の子が忘れられないって……」

 前にすごく切なげな表情で言ってたの、覚えてる。

 よっぽど大切な子だったんだなぁ。

「あぁ。その話を知っていたのか。では相手のことは?」

「え? いえ、そこまでは……」

「ならそのまま知らなくていい」


 えぇー!?

 そこまで話しておいて!?

 そんなもったいぶること!?


「何か香りのする茶葉でも買っていったらどうだ? カストラ村は、様々な種類の茶葉の産地でもある。リラックス効果のあるものや、疲労回復の効果があるものもあるだろう」

「茶葉……それいいですね!!」

 少しでもゆっくりしてほしいもんね。



 茶葉が並ぶ棚を見てみると、たくさんの種類の茶葉のサンプルが瓶に入って並んでいた。

 コーナーに書かれた文字を読んで、私は首を傾げる。

「【魔法茶葉】?」

 普通の茶葉とは違うのかな?

「魔法を付与してある茶葉だ。大きな治癒効果などがあるわけではないが、実際に気持ちを楽にさせたり、身体を温めたりと、様々な効能が期待できる」


 なるほど。

 ちょっと効果の高い漢方みたいなものなのかな?


「へぇ……じゃぁ、リラックス効果のあるものを──あ、これなんてどうでしょう!! 【モロゾ草の茶葉】ですって!!」

 あんな高い山にまで取りにいったのか。すごいな。

「モロ……!? あ、あぁいや、……いい、とは思うが、今それはやめてくれ」

 先生の頬がほんのり赤い。どうしたんだろう、先生。

 モロゾ山に思い入れでもあるのかしら?


「こっちの【オレン】の茶葉の方が良いのではないか? リラックス効果の他にも疲労回復が付与されているようだ」


 先生が上の方の棚から取ってくれた小瓶を受け取って蓋を開けてみると、柑橘系のようなすっきりとした香りが鼻を通り抜けた。


「わぁ……これ、良いですね!! 疲労回復なんてピッタリだし、うん、これにします!!」

 【オレン】という植物は、その柑橘系の香りの通り、みかんのようなオレンジ色の実をつける植物で、名前が違うけど、味も見た目も大体みかんと同じ感じだ。

 【オレン】って、多分オレンジが語源よね?

 これも異世界転移者である前国王が作り出したのかしら。


「フォース学園長には、こっちの眼精疲労回復の【ドムの茶葉】にしようかな。目がどうのって言ってたし」

「あれは老眼だろう」

「……」


 エルフって老眼になるの!?


「い、良いんですっ!! こういうのは気持ちですからっ!! えーっと、グレイル隊長には……あ、この人形にしようかな」

 目に止まったのは、木彫りコーナーに置いてある民族人形。

 上半身裸のおじさんが、筋肉をムキッとひけらかし、ポーズと決めている。

 なんでもこのカストラ村の守り神なんだそうだ。


「君はグレイルに何か恨みでもあるのか?」

 ある。

 いまだに先生の学生時代のお宝を入手できないし、この間なんて、いいところまでいったのに、卑怯な手で負かされたし。


「えーっと、あとは……騎士団の皆さんにお菓子でも買って帰ろうかな。皆さん、お疲れでしょうし」

 魔物の出も活発化している中、毎日ひたすらに討伐を頑張ってくれているんだもんね。

「騎士団へは私がすでに買っておいた。彼らも、日々戦いに明け暮れているし疲れも溜まっているだろうからな」

 さすが先生……!!

 厳しくて無愛想だけど、なんだかんだ面倒見が良くて部下想いなんだよね。

 うん、好き。


「じゃぁ、私、これお会計してきますね!!」

「あぁ。──……」


 レオンティウス様にフォース学園長、ついでにグレイル隊長、喜んでくれると良いなぁ。


 特にグレイル隊長。

 私の思い(恨み)を受け取ってもらわねば……!!


 待ってなさい!! グレイル隊長ーっ!!

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