学園旅行〜ラティスの告白〜
「どうにか岸までだどりつくことができましたね!!」
「あぁ。……ありがとう」
カナヅチな先生も可愛くて好きだ……!!
「どういたしまして。さ、早くテントに帰りましょ!! 皆が起きる前に。先生と生徒が朝帰りだなんて、倫理的によろしくないですもんね!!」
「……倫理的……。君からそんな言葉が聞けるとは思わなかった」
胡散臭そうな目で私を見る先生。
失敬な!!
「私、ちゃんと色々
頬を膨らませながら先生をジロリと見ると、先生は少しだけ表情を緩ませてから「あぁ、わかっている」と私の頭を撫でた。
「〜〜っ!!」
何このご褒美!!
だ、だめだ、このままじゃズルズルとここに長居してしまいそう。
「せ、先生、私、行きますね!!」
名残惜しいけれど自分のテントの方へと足を踏み出す。
「──カンザキ」
「?」
「きちんとシャワーを浴びて、暖まるように」
パパン!!
なんだか小さい子どもへの扱いのようで、やっぱりさっきまでのことは夢だったんじゃないかと思えてきた。
「それと──」
私がその扱いにむくれながらまたテントに向かおうとすると、先生の腕が再び私の身体を絡め取った。
「もう、その格好は禁止だ。君が私の身体を他の者に見せたくないのと同じように、私もまた、君のその姿を見せたくないと思っていることを、忘れないように」
それだけ言うと、先生は私に背を向け、隣の先生たちのテントへと静かに入っていった。
「〜〜〜っ!! やっぱり先生はずるいです……!!」
海水によって冷えた身体をシャワーで温めてから、テント内のリビングで紅茶を飲んでいるうちに、メルヴィとクレアがのそのそと起きてきた。
「あら、早いわね、ヒメ」
「眠れませんでしたの?」
備え付けの木製の椅子に座りながら、心配そうな視線をよこす二人。
寝不足なのは寝不足だけれど、その原因は二人が心配するようなことではない。
多分二人は、先生を諦める宣言をした私のことを心配してくれているんだよね。
「メルヴィ、クレア、ご心配をおかけしました。私、もう少し先生を思っていようと思います。……その、昨日は、色々ありがとう」
皆が、私と先生二人で話す機会をくれたから、私は諦めずに済んだんだよね。
「何があったかよくわからないけど、スッキリしてるみたいでよかったわ」
「えぇ。クロスフォード先生一筋のヒメが、やっぱりヒメらしいですもの」
3人笑い合って、私たちはテントの外でジオルド君たちと合流し、皆揃って朝食へと向かった。
──美味しい朝食の焼き立てパンを食べた後は、いよいよ最後の自由行動!!
「さて、どこに──」
「カンザキ」
皆で今日の予定を決めているところに、先生が姿を現した。
朝までずっと一緒だったのに、会えるたびに心が沸き立つ。
「先生!! いつ見ても素敵です!! マイエンジェル先生です!!」
「……それはいいから、少しいいか? 今日の自由行動だが──」
「シリル様!!」
先生が何かを言いかけてすぐに、甲高い声がそれを遮った。
ラティスさん……。
そして当然のように先生の腕に手を伸ばし──。
「……」
「!? な、なんで避けるんですかぁ!?」
腕を絡めようとしたラティスさんを、なんと先生は華麗に避けたのだ!!
先生、私の言ったこと覚えてくれてるんだ……!!
「……」
「もぉっ。あ、そうだシリル様、私、お話があるんですけどぉ、少しついてきていただけませんかぁ?」
話……だと……!?
これはきっとあれだ。
告白の呼び出しってやつだ……!!
「……わかった」
行くの!?
「やった!! じゃぁついてきてくださいっ」
「……カンザキ、少し待っていなさい」
先生は言うと、私たちに背を向けラティスさんの後についていってしまった。
えー……気になる……。
「行くわよ」
「エェッ!?」
私の腕を引っ張り後を追おうとするクレア。
「ですわね。こっそり付いて行ってみましょう」
メルヴィまで!?
「あんたも気になるでしょ? なら行く!!」
「ちょ、クレア!!」
私はクレアに引きずられるようにして、こっそりと先生たちの後をついていった。
──辿り着いたのは、私たちのテントとは反対側の端っこの岩に囲まれたスペース。
岩陰からこっそりと覗く7つの頭。
「な、なぁ、良いのか? こんなことして……」
「良いんだよ!! 俺も気になる!!」
「ははは……バレたら終わりですね」
「兄上……すみません……!!」
マローとアステル、ラウルにジオルド君まで……。
見つかったら殺られるやつ……!!
でも、やっぱり気になる私は、息を潜めて様子を伺う。
「シリル様……。私、シリル様のこと好きになっちゃったんです!!私も一緒に連れて帰ってください!!」
「なっ──むぐっ!!」
「ばか!! 気づかれちゃうでしょ!!」
思わず声が飛び出しかけた私の口を、クレアが慌てて塞ぐ。
あ、危なかった……。
クレアが塞いでくれなかったら危うくバレるところだった……!!
隣を見ればジオルド君も私と同じようにアステルに口を塞がれている。
アステル、ナイス……!!
「すまないが、私は女性に興味はない」
先生、それ誤解を招くから!!
ただでさえ先生、男が好きって疑惑かかってるんですよ!?
「え……まさか、そっちの気がある人……?」
ほらこうなる!!
「違う!! 私は男にも女にもそう言う対象としての興味はない!!」
「えぇ!? ちょ、私、こんなに良い身体してるのに!?」
胸を強調させるなぁっ!!
うちの先生になんてもん見せつけんの!?
「だから、興味がないと言っているだろう。レイヴンと一緒にするな」
瞬殺されたラティスさんの色気。
レイヴンの扱いよ……!!
「私の心は、昔からただ一人のものだ。それ以外に女性は必要ない」
「!!」
ただ一人……それって──私? それとも──。
「話がそれだけなら、私は失礼する」
「え、ちょ、シリル様!?」
先生は踵を返すと、ラティスさんをそのままに、私たちの方へと足を進める。
「やば!! こっち来るぞ!!」
急いで逃げようとするも、すでに手遅れ。
私の頭は先生の大きな手によってガシッと鷲掴みにされ、捕獲された。
この扱い、幼女期ぶりな気がする。
「カンザキ、いくぞ」
「へ?」
まるで最初から私たちがのぞいていたことを知っていたかのように、至って普通に淡々と言う先生。
「聖女、これを借りるぞ。昼には返す」
そう言って先生は、私の手を掴むとどこかへと私を連れ去っていった。
え、私だけお説教コース!?
「ごゆっくり〜」
クレアァァァァ!!
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