学園旅行〜うちの推しが可愛すぎてつらい〜


「んんっ……」

「……気が付いたか?」

「!?」


 低い声が背中で響いて、その聞き覚えのありすぎる声に、一瞬にして意識が浮上する。

 な……なっ……。

 なんで私、先生の腕の中にいるの!?

 記憶を……記憶を取り戻せ私!!

 確か、寝苦しくて少しだけ海に浸かろうと海岸に出て……、先生が海に落ちて……助けて……洞窟に……。

 そうか、私、あのまま気を失って……。


「あ……あの、これは……」

 羽織った黒マントで先生が後ろから私を一緒に包み込むように抱きしめたまま座っているという体制に、あらためて火照ってくる身体。

「っこ、これは……君の身体が……冷え切っていたから。その……温めておこうと……」

「そ、そう、ですか。お、お手数おかけしました……」


「……」

「……」


 会話が続かない!!

 ぎこちない!!

 意識が戻っても座りバックハグから話してくれない先生に、私は身体をカチンコチンに硬直させたまま、言葉を探す。


「──カンザキ」

 先に言葉を見つけたのは先生だった。

「あらためて、助けてくれたこと、感謝する」

「あ……いえ、無事でよかった……です」

 だからそろそろ離してくれて良いんですよ先生!!

 嬉しいけど!! 幸せだけど!!

 マントの中で私と先生の体温が混ざり合って、じんわりと暖かい。

 先生が生きているという安心感で私は満たされていく。

 でも心臓が持ちそうにない!!


「だがなぜあの時間に海に?」

 しかも水着まで着用して……と、ため息混じりにたずねる先生に、私は「眠れなくて」と返す。


「浅瀬でだけ海水に使って涼もうとしていたら、何かを熱心に読んでる先生を見つけて……。先生、泳げないのに無茶しないでください」

「あぁ。すまな──……まて。なんで君が、私が泳げないことを知っている?」


 ぁ……。

 まずった!!

 シルヴァ様に先生の弱点を教えてもらったの、言ってないんだった!!


「え……えっと……それは……」

 何か、何か良い誤魔化し方は……!!

 私は必死に視線を泳がせながら考えるも、良い案が浮かぶはずもなく……。


 ギュッ……。

 逃げられないようにするためか、先生はさらに強く私を最後から抱きすくめると、耳元で「それは……?」と囁くように続きを問うた。

 熱い吐息が耳に直接かかり、身体がさらに熱を持つ。

 いやぁー!! 耳が犯される!!

 耳元でその美声は反則です先生!!


「っ……し、シルヴァ様が教えてくれましたぁっ!!」

 耐えきれなくなった私は先生にあっけなく白状してしまった。

「父上が?……そうか。あの過去に行った際に……。はぁ……何をやってくれたんだ父上は……」


「あ、あの……?」

「いや、良い。……この事、他の者には?」

 聞かれて私は首を横にブンブンと振りいなを示した。

「そうか。……なら、そのまま秘密にしていてくれ」

「は、はい!! もちろんです!!」


  私が返事をしながら首だけ振り返って先生を見上げると──……。


「……!?」

「…………見るな」


 真っ赤な顔の先生が、すぐそこにいた──。


 ……あぁ……。


 うちの推しが可愛すぎて辛い。

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