学園旅行〜交わらない視線〜
流石に疲れた……!!
魔石加工ってあんなにハードなのね。
ただでさえ高価な石を砕くという作業で緊張感に満ちてるのに、磨いて形成するにもかなりの集中力と神経を使う。
あ〜〜頭痛いっ!!
疲れた〜〜!!
でも達成感に満ちてる!!
パルテ先生の指導のおかげで、想像以上の出来に仕上がった魔石達に満足しながら、私は一人工房の外に出る。
来た時は朝で太陽も登りきっていなかったというのに、すでに外はオレンジ色に染まっていた。
ずいぶん長い間魔石加工やってたのね。
一応途中でパルテ先生にクレア達への伝言を頼んだけど、流石に遅いって怒られちゃうだろうなぁ。
急いで帰って船上パーティの支度しないと!!
クレア達が待つテントへの帰り道。
加工した魔石が入った箱を腕に抱えて、一人カストラ村を見回りながら歩く。
夕方の市場が夕食を買い求める客で溢れかえって、活気のいい声が飛び交っている。
皆楽しそう。
商売をしている人も、買い物をしている人も。
この人達皆、セイレの──私が守るべき国民、なんだよね。
この旅行から帰ったら、
そうしたら一気に、周辺諸国との局面は動き出すはず。
頑張らないと。
皆の笑顔を守るためにも。
長い坂道を下ってもうすぐ浜辺だ、というところで──。
「!!」
──見たくないものが視界に入ってしまった。
夕焼けに染まる村を二人で並んで歩く──先生とラティスさん。
先生はいつもの無表情だけれど、ラティスさんは相変わらず先生にくっついて一人で喋ってるみたい。
おいガイド、働け。
大丈夫、大丈夫よヒメ。
先生離れするんでしょ?
なら、こんなことで動揺してちゃだめ。
「スーーーーハァーーーー」
私は一度大きく深呼吸してから、二人の横を知らぬ顔で通り過ぎ──ようとしたところで──。
「あら? あなた……」
「……どうも」
ラティスさんがめざとく私を見つけ、声をかけてきた。
「どうしたの? 一人で。迷子?」
「いえ、さっきまで残って魔石加工をしていたので」
あぁ、愛想悪いな、私。
「あんな大変な魔石加工をこんな時間まで一人で? もう皆とっくに遊びに行ってるのに? あなた、変わってるわね」
少し小馬鹿にしたような物言いに、私は眉を顰める。
「どうしても作りたいものがありましたので。では私はこれで──」
我ながら感じ悪いとは思うけれど、これ以上関わると私の方に限界が来そうだ。
そう言ってから今度こそ二人の横を通り過ぎようと足を進めた。
が……。
「待ってって。一人で残ってまで何作ってたの? 見せて見せて!!」
「!! やめて──きゃぁっ!!」
無邪気に私の箱を奪い取って開けてみるラティスさんに、私は声をあげて箱を奪い返そうと手を伸ばすも、勢い余って地面に倒れ込んでしまった。
「!! カンザキ!!」
我に帰った先生が私に駆け寄って支え起こしてくれる。
「ラティス殿。それを返しなさい」
「え〜? 良いじゃない、少しくらい」
「返せ」
有無を言わせない、低く圧のかかった声にビクリと身体を揺らして、ラティスさんは「わ、わかったわよぉ」と渋々私に箱を返した。
よかった……。
「先生、ありがとうござ──」
「私はもうしばらくここを見回る。君は早く戻りなさい」
私と目が合うよりも先に、先生はすばやく背を向けると、そのまま人混みの中へと歩いていってしまった。
「あ、待ってください、シリル様ぁ〜!!」
ラティスさんもそれに続いて走っていく。
いやガイドの仕事しろ。
はぁ……。
もう……本当、わかんない。
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