学園旅行〜断ち切る思い〜



 テントに戻って、「流石に遅いわ!!」と案の定クレアのお説教を受けた私は、大急ぎで船上レストランに行く支度をする。


 ドレスコードはないものの、少しばかりいつもよりオシャレに。

 アイスブルーのワンピースを着て、髪は編み上げハーフアップにして、前に先生がくれたローズクォーツで作られた2対の桜の髪飾りを結び目に並べて飾った。

 私の、大切な大切な宝物だ。


「お待たせしました!!」

 準備を終えて部屋からで得ると、すでにクレアとメルヴィは準備をして椅子に座って談笑しているところだった。


「メルヴィ、そのグレーのワンピース、とてもよく似合ってますね。ラウルの色じゃないですか!!」

「ありがとうございます、ヒメ。えぇ。ラウル様がプレゼントしてくださって……」


 光沢のあるグレーのチュールが重なったワンピースがとても上品で、落ち着いたメルヴィにぴったりだ。

 自分の瞳の色の服をプレゼントするだなんて、ラウル、意外とやるわね……!!

 さすがグローリアスの癒し系ラブラブ眼鏡カップル……!!

 だけど今はそのラブラブ具合が傷心中の私の心にグサリと響くわ……!!

 ……良いなぁ。


「あれ、クレアもワンピース姿なんて珍しいですね」

 私服もハーフパンツなどのパンツ姿が多いクレアだけど、今日は深い緑色のシンプルなワンピースを着ていて、とても新鮮に見える。

 装飾は一切ないけれど、それがまたクレアらしくてよく似合うわ。


「お母さんが、船上レストランに行くならこのぐらい着て行きなさい、って寮に送ってきてくれたのよ。でもなんか……スースーする、っていうか、へんな感じだわ」

 不服そうに指でスカートの裾を摘んでピラピラしてみせるクレア。

 可愛いけどなぁ。


「ヒメはクロスフォード先生の目の色ね?」

 ニヤニヤしながら私の上から下まで舐めるように眺めるクレア。

 まるで若いカップルを冷やかすおじさんの如き視線に、私は思わず後ずさる。


「きょ、今日だけ!! 今日だけです!! もう……今日で思いをバッサリ断ち切ろうと思うので……」


「は?」

「え?」

 私の宣言に、メルヴィとクレアが眉を潜めて固まってしまった。


「あんた、それでいいの?」

「昨日は、クロスフォード先生以外を好きになるのは無理だって言ってましたのに?」

 クレアが私の両肩を掴んで私の身体を揺らして、メルヴィも私に詰め寄る。


「……私が他の誰かを好きになる必要はないんです。他の人を好きにならないのと、先生への想いを断ち切るのは同じではないですから。少しずつ距離を取っていかないといけないんです。だから今日だけ。未練がましく思うのを許してください」


 この色も。

 この髪飾りも。

 思いを断ち切ると同時に封印してしまおう。


「ヒメ……あんたそれでいいの?」

「……えぇ」

 

 もっと苦しくなる前に。

 後戻りできなくなる前に。

 私が、私のすべきことだけに集中できるように。


「さ、行きましょう。船上レストランへ──」


 私はまだ何か言いたげなクレアとメルヴィの手を取って、テントから出て船着場へと向かった。

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