学園旅行〜この距離のままで〜
「大丈夫か?」
「ご迷惑をおかけしまして……」
海沿いに戻る頃には私も少しだけ冷静さを取り戻し、瞳の熱も引いてきた。
「だいぶ目の違和感も無くなって来たので、もう大丈夫ですよ。ほら」
そう言って自分の目を見せるようにジオルド君を見上げる。
あれ、ジオルド君、また背伸びた?
成長期か。
いいなぁ。
若さよのう……。
なんて、16歳らしからぬことを考えてしまう。
「はぁ……。それより、お前の心は大丈夫かって聞いてるんだよ、バカ」
「バッ……!! お義姉様に向かってバカって!!」
「僕が兄だからな、バカ」
バカが多い……!!
でも、心配してくれてるんだよね、この自称義兄は。
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
うん、嘘、大丈夫じゃない。
全然。
HP40ぐらいしか残ってないわ、今。
「……気にするなと言うのは、あまりに無責任だが、兄上があんなの相手にするわけがない」
そうなんだけどなぁ……。
「でも、今までだったら一蹴してますよね? 秒殺っていうか……」
触れられる前に避けるしそもそも近づくことすら許さない。
なのに……。
「それは僕も気になった。明らかに兄上の様子は変だ。お前と視線を合わせようとしないし、戦いの後お前を抱き留めた時も、動揺して落とすし」
え、あれ動揺してたんだ。
嫌がらせじゃなくて?
「お前、兄上に何やらかしたんだ?」
「なんで私がやらかす前提なんですか!?」
解せぬ。
「日頃の行いだろ」
「失敬な!! どっちかというと、最近やらかしてたのは先生ですからね!?」
私、無実。
「兄上が? ……まさか……お前達すでに……」
「付き合ってないですから!! ただちょっとキスマーク付けられただけで──ぁ……」
「……キス……マーク?」
あぁこれはあれか。
キスマークとはなんぞ? ってなって、私が説明しなきゃいけないパターンか。
先生の義弟だもんね、ありうるわ。
純粋培養クロスフォード家。
「だからあれほど兄上だって男だから気をつけろと……!! ……待てよ? お前、それで付き合ってない……だと?」
「あれ? キスマークって何か知ってるんですか?」
「知っとるわバカ!!」
まじか。
あれはクロスフォード家だからとかじゃなく、先生が極端に女性に興味がなさすぎて純粋培養になったからなのか。
「はぁ……。身内のそんな話聞きたくはないが、本当、お前達どんな関係なんだ?」
あぁ、頭抱えちゃった、お兄ちゃん。
「教師と生徒。師匠と弟子。元婚約者候補」
いずれも恋人とは程遠い関係。
「……いい加減くっつけ」
「いや無理ですって。くっつくって、好き同士のためにある言葉ですよ? 私はともかく、先生は私のこと、保護者としての好きだと思いますし、そもそも好きなのかどうかも怪しいです」
今の先生の態度は特に、好きって態度じゃないし。
「お前……」
「それに、これでいいんです」
「は?」
「いつか、先生は他の人とくっつくし、私だって誰と婚約させられるかわからないでしょう? なら、このまま、この距離のままでいい」
私は視線を浜辺へと移す。
婚約者同士で海を眺める生徒達も多い。
羨ましいけど、私は多分ダメだ。
それに慣れたら、今後辛くてたまらなくなるもの。
「……お前──」
「おーいヒメー、ジオルドー!!」
あ、アステルの声。
「皆戻って来たみたいですね」
私は無理矢理話を終わらせると、皆に向かって手を振った。
「──楽しみましょう、ジオルド君。今しかできない、学園旅行」
私は薄く笑ってから、肉を持って帰って来た皆の方へと足を向けた。
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