タスカからの連絡


 キラリラリン、キラリラリン──。

 そんなメルヘンな音楽が脳内に響いて、私は目を覚ました。

 何この脳内直通の音楽!?

 音の出どころを辿ると鏡台の上にあるタスカさんからもらったコンパクトのようだった。


「もしかして連絡?」

 私はすぐにベッドから飛び起きると、コンパクトを手に取って開いた。

「おっ!! 起きてたか、えらいえらい」

 そこに映るのは私のキュートな顔──ではなく、ワイルドな美丈夫の顔だった。

「起きてたか、じゃねーですよ!! 起こされたんですよ、妙にメルヘンな音楽に!! なんですかあの脳内直通型の音楽!!」

 耳じゃない。

 脳なんだ。

 あれで起きない方がおかしい。


「あぁあれな。他の人間にゃ気づかれないように持ち主にしかわからないように作ってあるからな。脳に直接音楽流すようにしてる」

 やめてくれ。

 こんなのいつでもどこでも流されたら発狂する。

「……そこは改善の余地があると思います」

「ははは……あー……まぁ、それはおいおいってことで……」

 すぐにでも改善してほしい。


「で? 連絡がきたっていうことは、大公の方に話したんですか?」

「あぁ。取り次ぎがなかなかできずに遅くなっちまった。悪いな」

 取り次ぎを後回しにされる騎士団長って……。

 よっぽど信頼に偏りがあるのね。


「大公の様子だが、まぁ半信半疑ってとこだな。信用するには俺への信用も、安心材料も足りねぇ。が、無下むげにするには危険な案件すぎる。何せ膨大な力を持つセイレ王族の話だからな。ひとまず様子を見ようとしてる、ってところだ」


 まあそうよね。

 もともとセイレを手に入れたい大公からすると、わざわざ信用のない騎士団長の話を鵜呑みにして侵略を断念するよりは、戦争賛成の魔術師団と一気に攻め込んで自分のものにしちゃいたいわよね。

 大公も馬鹿じゃない、か。


「とまぁ、こんな感じだから、そっちで周知が進んでこっちにも話が届いた時に大公がどう出るか……。また何かあったら連絡するわ」

「わかりました。ありがとうございます。でも次はこんな早朝に連絡するのはやめてくださいね。こんな時間に起きてるの、ご老人かうちの先生くらいなんで」

 なんてったって今、朝の四時だからね。

 もう2時間は寝てられる時間だから。

 ちなみに先生はこの時間からたいてい活動を開始していることが多い。


「わかったわかった。ん? なんか俺がつけた痕、まだうっすら残ってねぇ? 俺の計算では今日はもう消えてる頃合いだったんだが……あんま強くしなかったし……」


 あぁ……。

 痕ね。

 タスカさんは手加減してくれたようだけど、不慣れな先生が上書きしたからか、手加減なしでくっきり咲いてしまったキスマーク。

 まだうっすら残ってるんだよね……。


「気にしないでください。大きな虫その2に噛まれただけなので」

「は? ……あぁそういうことか……。へぇ、あの誰に何を言われても靡かない堅物男がねぇ……。そうか、ロリコンだったか」

「先生呼んできましょうか?」

「ヤメロ殺サレル」

 タスカさんの表情が凍りつく。

 本気の先生は多分怖い。

 本気でなくとも怖いんだから。

「じゃぁ私はもう一眠りしますので、また何かあれば連絡してください」

「あぁ。じゃ、またな、姫さん」

 ウインク一つ飛ばしてから、コンパクトの通信は切れた。

 ……なんか、朝からドッと疲れた。

 もう一回寝よう。

 いや、その前に──。


 私は重たい身体に鞭打って、隣の部屋を軽く叩く。

「先生、起きてますか?」と小さく尋ねると、「入れ」と短い返事が返ってきた。

 やっぱり起きてた!!

「失礼します。おはようございます、先生」

「あぁ、おはよう」

 すでに身支度を整え机に向かう先生の姿。

 この仕事人間め!!

 そんな先生も好き!!

「珍しいな。この時間に君が起きてくるのは」

「あ、はい。タスカさんに起こされまして」

 私が言うとピクリと眉を動かし反応する先生。

 そんなに嫌か、タスカさん。

 まぁ正反対のタイプだもんね、先生とタスカさん。


「で、やつは何と?」

「はい。やっぱり大公も半信半疑みたいです。ひとまずこちらの様子を伺う、とのことで。あとは国民への周知が進んでグレミア公国に話が行ったあとどうなるか……ですね」

「……そうか。やはりな」

 先生もそれは想定内だったようで、ふぅ、と軽く息を吐いてから頷いた。

「国民への周知だが、学園旅行から帰った翌日、筆頭公爵家であるクロスフォード家の当主である私と、大賢者であるフォース学園長、そして大司教の3人により、王城にて発表が行われることになった」

「王城で?」

「あぁ。国民には解放されんが、その様子はセイレ上空に中継として映し出される予定だ。王城からの方が今も王城は機能しているというアピールにもなる。許可をいただけますか? 姫君プリンシア?」


 ぐはぁっ!!

 何そのいきなりの主従感!!

 萌え……!!

「もちろんです。よろしくお願いします」

「あぁ」

「じゃ、私はもう一眠りしてくるので、起きて来なかったら起こしにきてくださいね、王子様の目覚めのキスで」

「そのまま一生眠っていろ」

 あうっ!!

 この辛辣な返し……!!

 やっぱり好き!!


 ニヤつく頬もそのままに自室に戻ると、私はまた先生の抱き枕を抱きしめて眠りについた。


 そして案の定、時間に起きてくることができなかった私は、ドアを壊さんばかりの先生のノック音によって叩き起こされることになるのだった。

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