騎士が皆を守るなら、私は騎士を守る


 ザシュッ──!!

「いっちょあがりですっ!!」

 ドシン!! と大きな音と地響きを立てて【オーク】が前方へと倒れる。


「で? 何でお前は冬でもねぇのにマフラー装備してんの?」

 セスターが果てた【オーク】一体を小箱ホールに収納しながら、不審そうに私を横目で見る。


 ほっといてくれ。

 夏から秋へと変わる、まだ暑さの残るこの季節。

 そんな中私は、黒色のマフラーを巻いてセスターとジャンとともに魔物討伐のためコルト村の森へとやってきた。

 今日はグレイル隊長は、各隊長、騎士団長、フォース学園長、大司教様が集まる大会議があるから、私たち3人での討伐を言い渡されたというわけだ。


「ファッションです。最新の」

「勝手に最新ファッション塗り替えんな!!」

 チッ。

 さすがに騎士団のファッションリーダーであるジャンの目は誤魔化せないか。

「ちょっと虫に刺されたので、マフラーで隠しているだけですよ」

 大きな虫2匹ほどにね。

「は? 虫?」

「えぇ。2匹ほど出まして」

 W騎士団長という虫ですが。

「いや、虫刺されの薬でも塗ってろよ。わざわざくそあういのにマフラーなんて巻かなくても」

「そーそー。キスマークがついてるわけでもあるまいし」


 ギクッ!!


「……」

「……」

「……」


 しまった。

 つい視線を逸らしてしまった。

 これじゃ肯定しているようなもんじゃない!?

「お、お前、まさか……」

「本当に……キスマーク!?」

 2人の視線は、自然とは私の首筋に──。

「ち、違っ!! これは虫刺されであって、決して先生がつけたわけじゃないですからね!?」


 ぁ────。



「先生って……」

「クロスフォード騎士団長!? お前らやっぱりそういう関係だったのか!?」

 嘘のつけない私の性格ぅぅぅぅううっ!!


「え、えっと、決してそういう仲というわけでは……」

「はぁ!? そういう仲じゃないのにキスマークつけられたのか!?」

「ていうかあの人、そういう知識あったのか……」

 ないです。

 私がレクチャーしました。

 とは口が裂けても言えない。


「んー、まぁ、お前が嫌じゃないならいいけどさ。俺らとしては、お前の一途すぎる気持ち知ってるから、騎士団長と結ばれてほしいしな」

「そーそー。ま、お前の気持ちをいいことに騎士団長が無理矢理やったとかなら、俺らも抗議するけどさ。嫌じゃねぇならおめでとうだろ」


 よかったな、と私の頭をくしゃくしゃと撫でるジャン。

「ジャン……セスター……」

 この2人はなんだかんだいつも私の気持ちを1番に考えてくれる。

 兄のような、友のような。

 そんな2人を戦争になんてやりたくない。

 絶対に戦争回避させないと。


「ていうかお前、明後日から学園旅行じゃなかった?」

「それまでに消えると良いな、それ」

「!!」

 いやほんとだよ!!

 水着にマフラーは無いわ!!

 変態臭半端ない。

「一応、朝には少し薄くなってましたけど……」

 完全に消えてくれるだろうか?

「ま、大丈夫じゃね? あ、俺とセスターも行くから、よろしくな」

「へ!?」

 なぜ2人が?


「あ、もしかして、素行が悪いから学園で一からやり直せって?」

「んなわけあるか!!」

「俺たち、これでも任務には真面目だからな」

 うん、知ってる。

 5年前から2人が努力を重ねていることは。

 だからこその今の隊長補佐の地位があるんだもんね。

 あの頃はまだ準騎士だったのに。

 2人の努力あってこその、このスピード出世だ。

「お前たちが行くカストラ村な、魔法が使えねぇんだよ」

「え、まじ?」

「まじまじ。ってことは?」

 …………ぁ……。



「うちの担任が無能化する!!!!」

 魔術師長レイヴンの強みが失われる場所……!!


「無能って……。ま、でも魔術師長なら剣もそこそこいけるはずだ。今は剣や体術よりも魔法に頼ってる部分あるだろ? だから、魔法無しの生活を体験する、っていうのも目的らしいぞ」

 確かにこの世界、特にセイレは魔法に頼りきっている部分が多い。

 治療にしてもそうだけど、移動だって転移魔法や風魔法をマスターしたらそっちに頼り切りになる。

 魔法なしの力を養うには、魔法が使えない場所に行くのが1番だろう。

 なるほど、新手の修行みたいなものか。


「じゃぁ2人は、そのための護衛みたいな感じですか」

「そゆこと」

「戦争の話も出て来てるからな。生徒にも力をつけて欲しいんだろ」

 ……戦争……。


「……ジャンとセスターも……戦争になったら戦うんです……よね?」

 それが騎士だもんね。

 わかってるけど、何だかやるせない。

「ま、そりゃな」

「んな顔すんなって、俺たち騎士団が、お前らを守ってやるからさ。そのために、毎日騎士団長や副騎士団長の鬼の特訓にも耐えてるんだから」

 沈む私の表情とは対照的に、明るくあっけらかんと笑う2人に、私は唇をキュッと噛みしめる。

 そんなかっこいいこと言われたら、“戦わずに逃げて”なんて言えないじゃない。

 決意を持った騎士に、それは言えないから──……。


「なら、私が騎士を守ります」

 騎士が一般人や生徒を守るなら、その騎士は王が守る。

 騎士も、この国の一部だから。


「ハハッ。お前ならやりそうだわ」

「あぁ、なんてったって、【グローーリアスの脳筋】だもんな」

「ちょ!! その二つ名は廃止にしてください!!」

「ハハハハッ!!」


 いつまでもこんなふうに、バカ言って笑いっていられますように。


 私はそう願わずにはいられなかった。

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